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適法であっても合理的でなければならない。就業規則の制定におけるテクニック

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2013年3月8日

就業規則は必ず適法性を具備していなければならないことは周知のとおりであるが、適法性さえあれば、複雑な従業員関係を規範に合うように片付けることができるのだろうか。それだけでは、おそらく必ずしも願うようにはならないかもしれず、実際のところ、近年、就業規則の合理性が原因となり発生した諸々の労使紛争は少なくない。従来の労使紛争における一般的な係争点とは異なり、従業員は必ずしも適法性の視点から本題に切り込んでくるのではなく、直接に合理性という視点から疑義を抱き、それにより従来は甚だ軽視されていた従業員関係のマネジメントの重要な課題である「就業規則は適法性という礎のもと合理性の均衡を如何に保つのか」という問題が浮上した。

適法性は礎である
「労働契約法」が施行されて以来、就業規則の適法性についての要求は人々の心に深く浸透し、制定手順が適法であることや、内容が適法であることは根本的な要求である。

1. 制定手順が適法であること
「労働契約法」第4条では、制定手順について詳細に説明がなされているが、規則制度については二つの大きな分類に分けており、一つは「労働報酬、就業時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員研修、労働紀律および労働出来高管理など労働者の利益に直接に密接に係る規則制度または重大事項」であり、もう一つはこれと反対に、労働者の利益とは直接に密接に係らないものである。一つ目の分類に該当するものに対しては、制定手順は非常に厳しく、必ず「民主的手順」+「公示手順」を履行しなければならないとしているが、二つ目の分類に該当する部分についてはその要求がない。

就業規則は、従業員関係の大要であり、主に「労働報酬、就業時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員研修、労働紀律」に関係する内容を定めており、「労働者の利益に直接に密接に係る」規則制度に該当し、制定時には「民主的手順」+「公示手順」を履行しなければならない。

会社の立場から見た場合、二つの手順、とりわけ「民主的手順」を履行することは、やや煩瑣な作業であるが、就業規則の有効性を保つための重要な前提であり、逃れることはできない。「民主的手順」の要求は「二つのステップを踏む」ことであり、第一ステップは「従業員代表大会または全従業員で検討すること」、第二ステップは「労働組合または従業員代表と平等に協議すること」である。「公示手順」は主に全従業員に対する公示(公示欄に貼付、ウェブサイトでの公表など)または従業員に内容を見せ署名させるなどの方式を通じて実施することができる。

2. 内容が適法であること
「労働紛争案件審理に適用する法律に関する若干事項についての最高人民法院による解釈(一)」第19条では、内容が適法であることについて、「国の法律、行政法規および政策規定に違反しないこと」という解釈をしている。これは主に、就業時間、休憩休暇、残業代、最低給与、解雇保護、経済補償金、女子従業員の特別な保護、労災処理などの労働法規に関する規定に違反しないことを意味する。就業規則に「残業をしても残業代を支払わない」、「年次有給休暇を与えない」、「労災については一律責任を負わない」などの規定が設置された場合、違法であるために無効となるのは明らかである。


合理性とはある種のテクニックでもある
従業員が就業規則の一部の規定が不合理であると判断した場合、彼らは「厳しすぎる」という言葉を使用して形容したがるが、ならば、どの程度の規定になると「厳しすぎる」という評価がなされるのだろうか?従業員の立場から見ての基準なのか、それとも会社の立場から見ての基準なのか、それともその他の基準なのか。これらの問題は、つまりは合理性の基準を如何に確定するのかという問題に行当たるかと思われる。

ただし、適法性とは異なり、合理性には明確且つ統一化した基準があるわけではなく、それ自体が会社の具体的な状況と併せて、総合的に分析し、判断する必要のあるものである。勿論、これらの総合的な分析と判断は単に当てもなく行うのではなく、筆者の経験によれば、やはりよりどころとなる重要な「手掛かり」を指針にすることができる。ひょっとしたら、これらの「手掛かり」を通じて、ぼんやりとした合理性の中から、会社の就業規則の具体的な状況に適した合理的な基準を見つけられるかもしれない。これは合理性というテクニックを運用するところである。

1. 手掛かりその一:類似の法律基準を参照する
基準がないということは、我々にとって参考にできる基準が何もないことを意味するわけではなく、我々が就業規則の規定に類似する法律基準を探し当てることができれば、これをもって合理性の参照とすることができる。法律とは最低限度のモラルであり、法律の規定自体が全体として合理性を体現することができるものであり(勿論、それは絶対とは言い切れないが)、したがって、就業規則の規定に類似する法律基準をその合理性を判断するための参照とすることができ、就業規則の規定と類似する法律基準とが一致性を有しまたはそれほど大差ない場合、それのもつ合理性を推論することができる。

従業員にとって最もよく目に付く質疑の対象である就業規則中の経済的制裁(罰金)を例にとると、ある会社の就業規則で「遅刻1回につき、給与から50元の罰金を差し引く経済的制裁を与える」(仮にこの会社の平均給与はひと月3,000元とする)と定めていた場合、この規定は合理的と言えるだろうか?

まず簡単に計算し、平均してみると、この会社の従業員の1日あたりの給与は約3,000元/21.75日=138元となり、1時間あたりの給与は約138元/8時間=17元となる。遅刻1回の罰金金額は1日あたりの給与の36%(50元/138元)を占め、1時間あたりの給与の294%(50元/17元)を占め、半時間の給与の約588%(50元/(17元/2))を占める。

毎回の罰金の幅について、法律では強行規定がないため、我々は参照できる類似する法律基準を探してみることができる。通常、罰金の意味合いをもつ経済的制裁は、多くが基準の2倍の制裁幅を採用しており、「労働契約法」にて設定されている会社が書面の労働契約を締結すべきだが締結しなかった場合の制裁(二倍の給与)および会社が労働契約を違法に解除しまたは終了した場合に支払う賠償金(経済補償金を二倍に計算)などはそのようになっている。

遅刻で罰金を科す場合、何をもって基準とするのが適切か。筆者の理解では、遅刻によりもたらされる直接の損害は、就業時間の一部分が欠勤となることであり、それならば、欠勤となった就業時間の給与を基準とするのがより適切であると考えられ、そのように、かりに毎回の遅刻を半時間の欠勤として処理するならば、罰金の合理的な基準もおおよそ半時間の給与の200%となる。この基準をもとに考えれば、先ほどの例に定められた遅刻時の罰金方案(半時間分の給与の約588%)は、合理性に欠ける疑いがある。

2. 手掛かりその二:ルール違反と処罰との匹敵性
違法・ルール違反行為については、「過失、危害をもって処罰を確定する」というのが最も原始的な公平性、合理性である。経済的制裁においてもその通りであり、労働制裁方面でもまたその通りである。無断欠勤を例にとると、無断欠勤を何日したら解雇とするのが合理的だろうか?危害性という視点から着手し分析すると、無断欠勤日数が労働契約の正常な履行に危害をもたらしたならば、その時点で解雇処分すれば、充分な合理性がある。無断欠勤が1日であった場合、それはもしかしたら、偶然の、比較的軽微なものであり、深刻な解雇処分とするには至らないかもしれないが、もしも無断欠勤を連続して3日以上し、または無断欠勤を合計5日以上したということであれば、それはもう単なる偶然とはいえず、どうみても労働契約の正常な履行に危害をもたらすのは目に見えている。そのような状況下では解雇処分とするのは、「ルール違反と処罰との匹敵性」という基本規則を体現でき、合理性を有する。また、会社が違えば、無断欠勤に対する許容も異なり、筆者は多くの会社の就業規則を見てきたが、多くが連続した無断欠勤および累計した無断欠勤という2通りの無断欠勤の形式を解雇条件として設定しているが、会社の具体的な状況が異なるため、日数に対する規定も必ずしも同じではなく、その範囲はおおよそ連続した無断欠勤であれば3日から5日、累計した無断欠勤ならば5日から7日までの間である。

3. 手掛かりその三:社会一般の認知に適合すること
社会一般の認知とは、正常な社会環境のもとでの正常な生活リズム、平均した労働強度および労働効率、公序良俗に適合する行為方式などをいう。一般的にいえば、社会一般の認知に違背する規定は、合理性をもつことは難しい。たとえば、「トイレ時間が5分を超えない」、「昼食時間が10分を超えない」といった規定は、人間の「自然の規則、正常なニーズ」に違反しているため、合理的とはいえない。トイレ時間を例にとると、当人では制御できず、「お腹を下した」場合、時間はもっと長くなるであろうし、トイレ時間などについて、通常は、時間面での制限を行うのは好ましくない。トイレに立つことを通じてサボタージュするような現象については、その他の方法をもって規範化するのがよい。

適法性、合理性とは、就業規則の二つの次元における基準であり、複雑な従業員関係を処理する過程では、如何に適法性という礎のもと、合理性の均衡を保つかがより重要となる。会社が上手く合理性を把握でき、人に優しい管理制度を制定することができるならば、労使紛争を回避する最善の方案になるかもしれない。以上、就業規則の適法性と合理性に対する認識と思考であるが、ご参考にしていただければと思う。

(2013年2月6日 里兆法律事務所作成)

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