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ログイン2014年1月31日
【確定判決】
判決時間:2013年8月1日午前
最終審の裁判所:上海市高級人民法院
当事者:
・原審原告(控訴人):B社
・原審被告(被控訴人): A社
判決内容:
・上海市第一中級人民法院のなした一審判決を退ける。(一審の開廷審理および判決状況は、第285期、第298期の「里兆法律情報」をご参照のこと)
・A社は独占を構成すると認定し、B社の経済的損失53万元を賠償する旨の判決を言い渡した。
・B社のその他の訴訟請求を棄却した。
【背景を振り返る】
取引の背景:
・B社は、A社の北京地区における縫合器および縫合糸製品販売業務の代理店であり、双方は15年にも及ぶ提携関係にあり、代理販売契約は1年ごとの更新であった。
・2008年1月、A社はB社と「2008年代理販売契約」(以下「代理販売契約」という)および付属文書を締結し、B社はA社指定の区域でその縫合糸部門の製品を販売し、この間、B社はA社規定の価格を下回る価格で製品を販売してはならない旨を取り決めた。
・2008年7月、A社は、B社が価格を無断で引き下げたことを理由に、同社の北京甲病院、乙病院での代理販売権を取消し、同年9月には縫合糸製品、吻合器製品の供給を完全に停止した。2009年、A社は以後、B社と代理販売契約を更新しなかった。
【第一審を振り返る】
・2010年8月11日、B社は代理販売契約に最低再販価格を制限する条項が含まれており、独占の疑いがあることを理由に、A社を上海市第一中級人民法院に提訴し、経済的損失1400万元あまりを賠償するよう請求した。
・2012年5月18日、上海市第一中級人民法院は一審判決で、B社の挙証では、代理販売契約における最低再販価格を制限する条項によって「競争の排除、制限」という危害がもたらされたことを証明するに足りず、「独占禁止法」規定の独占協定を構成するとは認定できないとし、故に同社の訴訟請求を棄却した。
・B社はこれを不服とし、2012年5月28日に上海市高級人民法院に控訴した。
【二審(最終審)の焦点】
二審の過程で、上海市高級人民法院は前後して3回の開廷審理を行い、B社とA社はそれぞれ、対外経済貿易大学の?氏、上海財経大学の譚氏の2名の国内で有名な経済専門家に法廷で専門家としての意見を出すよう依頼した。双方は法廷で本案件の以下、焦点となっている6つの大きな問題について激しく弁論し、裁判所は審理を経て逐一判断した。具体的には以下の通りである。
Q1:本案件には「独占禁止法」が適用されるか。
A:「独占禁止法」が適用される。代理販売契約は「独占禁止法」実施前(「独占禁止法」は2008年8月1日に実施された)に締結されたが、その履行は「独占禁止法」の実施後まで続いており、故に本案件に「独占禁止法」が適用されるべきだと判断した。
Q2:B社は原告としての主体資格があるか。
A:B社は本案件訴訟の適格な原告である。先ず、独占協定の当事者は独占行為の参与者、実施者に成ることができ、また独占協定の被害者にも成ることができることから、B社は「独占禁止法」に定める独占行為により損失を被った主体の範囲に属する。次に、独占協定の当事者は受身的に独占協定を受け入れただけであって、独占行為の実施者ではない可能性もあり、当事者が契約内容は「独占禁止法」に違反するかどうかについて提訴することが認められるべきであり、これについては「独占行為により生じた民事紛争案件の審理における法律応用若干事項に関する最高人民法院による規定」でも、各種の契約当事者が契約条項について独占訴訟を提訴することの根拠を直接規定している。
Q3:独占協定は競争排除・制限効果を有することを構成要件としているか。
A:縦方向の独占協定は競争の排除・制限効果を必要条件としている。
Q4:挙証責任はどのように分配するか。
A:法律法規および司法解釈で明確な規定がない場合、「主張した側が挙証する」という一般的訴訟原則に従い、本案件での最低再販価格制限協議書が競争の排除・制限効果を有するかどうかについて、原告に証明責任がある。
Q5:本案件における最低再販価格制限協議書は独占協定を構成するか。
A:本案件における最低再販価格制限協議書は独占協定を構成する。最低再販価格制限協議書の経済的効果については、関係市場における競争は充分か、被告の市場における地位は強大かどうか、被告が最低再販価格を制限するに至った動機、最低再販価格制限による競争効果といった4つの方面から分析し評価することができる。本案件では、医療用縫合糸の市場競争は充分ではなく、A社の市場における地位はとても強大であり、A社による最低再販価格制限動機は価格競争の回避であり、その競争制限効果は顕著であったが、競争促進効果は顕著ではなかった。
Q6:B社の損失賠償の計算はどのように行うか。
A:B社の損失範囲は、2008年の同社の縫合糸製品売上減少により減少した正常利益(裁判所は事情を斟酌して、B社が支持される2008年度の縫合糸製品の利益損失は53万元であると確定した)に限定され、計算時は同業種のその他のブランドの販売価格、税負担などの要素を総合して考慮する必要がある。B社が主張したその他の損失は、事実上の根拠と法的根拠に欠けるとして、支持しなかった。
【案件価値および筆者コメント】
案件価値:
・中国初の縦方向の独占協定訴訟案件。
・中国「独占禁止法」実施5年目にして初めて原告が最終審で勝訴を勝ち取った独占禁止案件である。
・中国で初めて「再販価格制限によって独占を構成した」ことが司法判決で確認された案件である。
筆者コメント:
・本案件は将来、中国の独占禁止案件をめぐる司法実践に重要な影響を与えると思われる。中国は「判例法」主義の国家ではなく、原則的には、裁判所が今後、本案件に類似する案件を審理する際、本案件に拘束されることはないが、上海市高級人民法院が本案件で出した見解、とりわけ「関係市場」、「市場における地位」、「行為の動機」、「競争効果」の4つの要素に基づき、係る協議書の経済的効果を考えるという分析方法は、将来、裁判所が係る協議書は独占協定を構成するかどうかを判断する際に参考にする上で重要な意義を有する。
・本案件のもう一つの特色として、訴訟の双方当事者はいずれも経済の専門家を法廷審理に参加させ、裁判所も審理過程で2名の専門家の意見を充分に考慮していることから、将来、企業が独占禁止などの案件に関係したときには、専門家に参加させて、専門家としての権威ある意見を通じて、自己の見解をもっと有力に証明することも検討するとよい。
・独占禁止案件の行政法執行の面では、2013年2月、貴州省物価局、四川省発展・改革委員会はC社、D社のそれぞれに対して、2.47億、2.02億元の罰金通知書を発行した。両部門はC社、D社が代理店から第三者への最低販売価格を制限し、最低価格を実施しなかった代理店を処罰したことは、代理店と白酒販売価格の縦方向の独占協定に合意しかつこれを実施するものであり、「独占禁止法」第十四条の規定に違反し、市場競争を排除・制限し、消費者の利益を損なうものであると認識している。両部門はこれをもとに処罰し、罰金は前年度の案件に係る売上高の1%とした。(詳細は、第333期「里兆法律情報」をご参照のこと)
・実践において、一部の企業は製品価格を維持し、悪質な競争を防止するために、代理店と再販価格を固定もしくは制限する旨の協議書を締結するというマーケティング戦略を採用することは現在でも広く見られている。しかし上述の司法判例、および行政処罰案件は、本案件に類似する再販価格制限行為が存在する企業にとって警告的意味があり、本案件に類似する再販価格制限行為もしくは「エッジボール」行為がある企業は係るマーケティング戦略の法的リスクを見直し、適宜調整することをお勧めする。
【法令のURL】
「独占禁止法」の係る条文:
・第十三条第二項:本法に言う独占協定とは、競争を排除し、制限する協議、決定またはその他の共同行為をいう。
・第十四条:事業者が取引相手と次に掲げる独占協定を締結することを禁止する。
(一) 第三者への商品の再販価格を固定すること。
(二) 第三者への商品の再販最低価格を限定すること。
(三) 国務院の独占禁止法執行機関が認定するその他の独占協定。
・第五十条:事業者が独占行為を実施し、他人に損失を与えたときは、法に基づき民事責任を負う。
【独占禁止の年代記】
2013年8月、A社が代理店の再販価格を限定したことについて、裁判所は最終審で独占を構成すると認定した。
2013年7月、ベルギーのE社に対して、適法性調査を行なった。
2013年7月、F社に対して市場における支配地位濫用の疑いで独占禁止調査を行なった。
2013年7月、上海某業種協会およびG社などの関係黄金店が独占調査を受けた。
2013年7月、H社などの60社の国内、多国籍薬品企業がコスト調査を受けた。
2013年7月、I社、J社、K社などの国内外の粉ミルク業者が独占禁止調査を受けた。
2013年2月、C社、D社が独占禁止で4.49億元の罰金に処された。
2013年1月、L社など6社の海外企業が液晶パネルの価格独占で3.53億元の罰金に処された。
2011年11月、山東の2社の医薬企業が独占疑いで700万元の罰金に処された。
2011年11月、中国両通信会社に対して、独占禁止調査を行なった。
2011年8月、規則違反の料金徴収を行なったとして各銀行を罰し、M銀行が180万元の罰金に処された。
2011年5月、N社が値上げ情報を流布し市場秩序を乱したとして、200万元の罰金通知書を発行された。
2009年3月、商務部がO社による中国P社買収を禁止した。
(里兆法律事務所が2013年8月2日付けで作成)
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