こんにちわ、ゲストさん

ログイン

外商投資企業をめぐる紛争事件に関する裁判基準の最新動向(四)

中国ビジネスレポート 法務
劉 新宇

劉 新宇

無料

2010年10月25日

記事概要

「外商投資企業紛争事件の審理に係る若干の問題に関する規定(一)」が諮問稿を経て本規定として8月16日から施行された。今回は、両者(諮問稿と本規定)の主要な相異点を整理・概説するものとしたい。【3,686字】

「外商投資企業紛争事件の審理に係る若干の問題に関する規定(一)」の正式公布

最高人民法院は、2009年11月23日に「外商投資企業紛争事件の審理に係る若干の問題に関する規定(一)(諮問稿)」(以下、「諮問稿」という)を公布し、社会各界から意見や提案を募集したが、外商投資企業をめぐる紛争事件、特に各関係法令の差異などに起因して多発する解決困難な事件に統一的な裁判基準を提供するこの規定がいつ正式に公布・施行されるのか、多くの期待、関心が寄せられていた。このような状況の下 、2010年8月5日に、ようやく「外商投資企業紛争事件の審理に係る若干の問題に関する規定(一)」(以下、「本規定」という)が正式に公布され、8月16日より施行となった。

前3回は、「諮問稿」の主要な論点を取りまとめ、出資者の優先購買権、匿名投資、出資持分質権設定契約の効力などの問題を中心に概説した。「本規定」は、19の条文で構成されていた「諮問稿」の主要規定を基本的に維持しているが、寄せられた意見を踏まえて「諮問稿」の規定を明確化、厳密化しつつ新たな内容を加えたり、逆に一部の規定を削除して、最終的に24条からなる規定となった。「諮問稿」と「本規定」との比較検討は、外商投資企業紛争の審理に関する裁判基準を把握するのに有意義と考えられることから、今回は、両者の主要な相異点を整理・概説するものとしたい。

1.外商投資企業の設立、変更等の過程で締結された契約が必要な認可を得ていない場合におけるその効力(「諮問稿」1条、「本規定」1条、2条)

「本規定」は、「諮問稿」と同じく、必要な認可を得ていない契約は効力が発生していない旨を定めるほか、「当事者が当該契約の無効を確認することを請求したとき、人民法院は、これを認めない」と明確に定め、あくまでその効力が未発生なのであって、無効ではない旨を強調している。また、認可未取得を理由とする契約効力未発生の法的効果について、「本規定」は、「契約における当事者の認可取得義務に関する条項、その認可取得義務のために設けられた関連条項の効力に影響を与えない」との規定を新設した。

なお、「本規定」は、「諮問稿」を踏襲して、外商投資企業の関連事項に関する補充協議書が認可取得済みの契約に対し重大又は実質的な変更を生じさせない限り、認可未取得を理由とする契約効力未発生を認定しない旨を定める。その一方で、この「重大又は実質的な変更」の内容につき、「諮問稿」に定められていた「審査認可機関の管轄を越える住所の変更」を削除し、その基準を若干拡張した。

2.名義変更登記を要件とする出資、合作条件の提供に関する契約違反の処理(「諮問稿」3条、「本規定」4条)

「本規定」によると、①目的物が既に外商投資企業に引き渡され、現に使用されていること、②名義変更登記手続の履行義務を負う当事者が、人民法院が定める合理的な期間内に登記を完了したこと、という2要件が充足されている限り、人民法院は、その当事者が出資又は合作条件の提供義務を履行したものと認定しなければならず、また、外商投資企業その他の出資者が証拠に基づき名義変更登記の遅延による損害賠償を請求したときは、人民法院は、この請求を認めるが、これと異なり、当事者が出資義務の未履行を理由に出資者の権利、利益を取得するべきでないと主張したときは、人民法院は、これを認めない、と定められている。この点に関する「諮問稿」の規定は曖昧なものであったが、これと比較して、事件処理の基準がより明確化された。

3.外商投資企業の出資持分譲渡契約に関する認可取得をめぐる紛争の処理(「諮問稿」4~7条、「本規定」5~10条)

外商投資企業の出資持分譲渡契約が締結、成立したにもかかわらず、譲渡側、外商投資企業が認可取得の義務を履行しない場合における紛争の処理について、「本規定」は、「諮問稿」4条に付された意見2を含め、その関連規定の趣旨を受け入れつつも条文の簡潔化を図った一方で、「諮問稿」6条のような重複する規定を削除した。また、同様の場合において、譲受側が当該義務の履行を要求するのではなく、直ちに契約の解除、譲渡代金の返還、実際に生じた損害の賠償を請求したときは、人民法院がこの請求を認める旨の規定も新たに導入した。

他方、譲受側による契約違反について、「本規定」8条は、「外商投資企業の出資持分譲渡契約において譲受側が譲渡代金を支払った後に初めて譲渡側が認可取得手続を行うものと約定したにもかかわらず、譲受側が出資持分の譲渡代金を支払わず、かつ、譲渡側の催告を受けても合理的な期間内にこれを履行しなかったときは、譲渡側は、契約を解除することができ、遅延履行によって実際に発生した損害の賠償を請求したときは、人民法院は、この請求を認めなければならない」との規定を定めた。さらに、「本規定」10条は、外商投資企業の出資持分譲渡契約が締結された後、譲受側が外商投資企業の経営に現に関与し、かつ、収益を得ているにもかかわらず、契約が認可を得ていない場合における紛争の処理に関する規定も新設している。

4.外商投資企業の出資持分が出資者以外の第三者に譲渡される場合におけるその他の出資者の同意権、優先購買権(「諮問稿」8条、「本規定」11~12条)
 
その他の出資者の優先購買権について、「諮問稿」は、その他の出資者が外商投資企業の契約、定款、又は法律、行政法規に定める期間内に権利主張をしなければ、その優先購買権が保護されないとの規定のみを定めていた。これに対し、「本規定」は、権利主張の期間を「その他の出資者が出資持分譲渡契約の締結を知り又はこれを知りうるべき日から1年以内」と明確に定めた。

また、「本規定」は、その他の出資者の同意権に関する規定を追加し、「外商投資企業の出資者の一方が出資持分の全部又は一部を出資者以外の第三者に譲渡する場合には、その他の出資者の同意を得なければならず、その他の出資者が同意をしていないことを理由に出資持分譲渡契約の取消を要求したときは、人民法院は、これを認めなければならない」と明確に定めると同時に、その除外事由も列挙した。

5.匿名投資に起因する紛争の解決(「諮問稿」10~14条、「本規定」14~19条)

「諮問稿」14条は、注目を集める匿名投資をめぐる法律関係の処理に関する関連規定を定めており、本連載の第2回目でこれを中心に論じたが、「本規定」は、この規定を踏襲しなかった。
「諮問稿」、「本規定」のいずれも、当事者間で匿名投資が約定された場合において、実際の投資者が自己の出資者としての地位を確認すること、又は出資者名義を変更することを求めたとしても、人民法院はこの主張を認めない旨を定めている。しかし、その除外事由について、「諮問稿」は、「その実際の投資者が一審の法廷弁論終了前に認可機関から自己を出資者へと変更する認可を取得したときは、その限りでない」と定めていたのに対し、「本規定」は、①実際の投資者が実際に投資したこと、②名義上の出資者以外の出資者が実際の出資者の出資者としての身分を認めていること、③人民法院又は当事者が訴訟期間において、実際の投資者を出資者へと変更することについて認可機関の同意を得たこと、これらの3要件を全て充足して初めて、実際の投資者の主張を認める旨を定め、若干の厳格化を図った。

なお、実際の投資者と名義上の出資者との間における匿名投資契約が無効と認定された場合の法的効果について、「本規定」は、その18条、19条、20条において、「諮問稿」より詳細な規定を定めている。

6.その他(「諮問稿」15条、17条の削除)

虚偽文書などの不正な手段をもって行われた認可申請の処理について、「本規定」は、そのような手段を用いた認可取得により、原出資者の出資者としての地位を喪失させた場合に関する「諮問稿」16条の規定を基本的に維持したが、不正手段を用いて出資者としての地位を取得したことにより、その他の当事者が相応の出資者としての地位を取得しえない結果をもたらした場合に関する「諮問稿」15条の規定は踏襲しなかった。なお、「諮問稿」17条は、2つ以上の外国投資者が外商投資企業を共同設立した場合における法適用に関する規定を定めていたが、「本規定」は、この規定も定めないものとした。

以上、「諮問稿」から「本規定」へと発展する過程における主要な変更点を概説したが、外商投資企業にとって重要な法令である「本規定」の内容を把握し、その実務的な運用や残された問題点などを検討することは、極めて重要な意味をもつであろう。なお、報道によると、その名称にも示されているとおり、「本規定」は、外商投資企業紛争事件の審理に関する司法解釈(一)にすぎず、最高人民法院は、外商投資企業の解散、清算などをめぐる紛争事件の審理に関する司法解釈(二)を起草する準備もしているという。こちらの動向にも、常にご注意いただきたい。

(3,686字)

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ