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ログイン2010年10月27日
北京市高級人民法院の統計によると、近年、労働紛争が急増しています。また、その特徴として、和解の減少・二審判決の増加、法的手段以外の措置の駆使、労働紛争を起こす従業員の若年化などを取上げることができます。【2,699字】
Q.中国における近年の労働紛争にはどのような特徴があるのでしょうか。労働紛争を避けるためには、何に留意すべきでしょうか。
A.
1.近年の労働紛争の実態
(1)労働紛争が急増
北京市高級人民法院の統計によると、北京市で2008年に提起された一審労働紛争事件は15033件で、これは前年と比べると87.9%の上昇で、二審労働紛争事件も4129件と、前年比で32.1%の上昇となっています。2009年に提起された一審労働紛争事件は21935件で、前年比で45.9%の上昇、二審労働紛争事件も8094件で、これも前年比で96%の上昇となっています。また、2010年の1~7月の間に提起された一審労働紛争事件は15326件であり、2009年の同時期と比べ10.3%の上昇率で、二審労働紛争事件についても6326件で前年同時期と比べ39.7%の上昇と、年々増加傾向にあります。
2.近年の労働紛争の特徴
従来の労働紛争と比べ、近年の労働紛争には以下の新しい特徴も見受けられます。
(1)和解の減少・二審判決の増加
北京市最高人民法院のデーターによると、2009年の北京市第一中級人民法院における労働紛争事件の和解率は12.7%で、前年度と比べ6.3%減少しています。また、2010年の上半期の海淀区人民法院における労働紛争事件の和解率は13.03%に止まっています。一方、上述したとおり、2009年以降、二審判決の上昇率は一審判決のそれよりも高くなっています。
これらの変化から分かるように、当事者が一旦労働紛争を提起すると、安易に和解に応じず、また一審判決に満足せず、二審(日本の三審終審に対して中国では二審終審となる)まで徹底的に争うというのが最近の傾向です。
実際、弊所が某日系企業を代理したある事件では、従業員側が仲裁で完敗し、自らの請求が無謀であると知りながら、訴訟を提起し、これも一審で完敗したにもかかわらず上訴を行い、二審で再度完敗した、という事例があります。
(2)法的手段以外の措置の駆使
近年、労働紛争事件に関わる陳情苦情の申し立てが増加しつつあります。たとえば、2009年に北京市第二中級人民法院が受けた陳情苦情の申し立ての29%が、労働紛争事件に関わるものです。従業員が裁判に勝つために、事件管轄の裁判所またはその上級裁判所に陳情または苦情を申し立て、裁判官に圧力をかけたり、敗訴を予感した従業員が「殺してやる」「死んでやる」と裁判官を脅迫するケースも少なくありません。
実際、これも弊所が某日系企業を代理した実例ですが、従業員が裁判官に対して「自分に不利な判決を下した場合、裁判官の家の前で自殺する」と裁判官に脅しをかけたため、裁判官がなかなか判決を下す決心がつかず、法定の審理期間を大幅に延期した上、健康上の問題を理由に当該裁判官が担当から外れ、別の若い裁判官に担当が代わったというケースがありました。本実例では、その後、この代理の若い裁判官が公正に判断を行い、従業員に不利な判決を下しました。
(3)若者による労働紛争の増加
北京市第一中級人民法院が2009年に取り扱った労働紛争事件のうち、提訴する従業員の平均年齢は37歳と、2008年の39歳よりも若年化しています。また、35歳以下の労働者の占める割合が高く、2009年では全体の42.3%にも上っています。労働関係確立から労働紛争発生までの期間が短いというのも最近の特徴で、2009年度の労働紛争のうち、労働関係確立から3年未満のものは全体の69%を占めています。
3.近年の労働紛争の発生原因
(1)労働関連法令の変化
ここ数年、「労働契約法」(2008年1月1日施行)、「労働契約法実施条例」(2008年9月18日施行)、「労働争議調停仲裁法」(2008年5月1日施行)、「従業員年次有給休暇条例」(2008年1月1日施行)、「企業従業員年次有給休暇実施弁法」(2008年9月18日施行)など一連の法令が相次いで実施され、一般社会ではこれらの法令は従業員の保護を強化するものとして捉えられ、従業員の自己保護の権利意識が過剰に強まりました。
(2)仲裁訴訟費用の軽減
労働紛争の長期化の背景に、仲裁訴訟費用の軽減を取上げることができます。従来まで、労働紛争になる場合、労働争議仲裁委員会に納付すべき仲裁費用として少なくとも数百人民元を支払う必要がありましたが、2008年5月1日以降は、この仲裁費用が無料となりました(労働争議調停仲裁法29条)。一方、裁判所に納付すべき訴訟費用は、これまで係争金額に応じて異なっていましたが、2007年4月1日以降は一律10人民元になりました(訴訟費用納付弁法13条)。
(3)一人っ子政策の影響
中国では1970年代の後半からいわゆる「一人っ子政策」が実施され、現在の30歳以下の労働者のほとんどが一人っ子として、生れてから過剰に保護された環境で育てられた者が多く、社会の厳しい競争に慣れず、ストレスや不満を抱え易いことから、労働紛争を引き起こしやすいという特徴があります。
4.日本企業の対応方法
中国の労働関連法規、政策は変化が激しく、また、地方ごとに法規定が異なることが多くあるために、企業はこれらの変化および相違に柔軟に対応しないと、従業員の不満を招く可能性があります。このため、企業の人事担当者および法務担当者は、常に関連情報を収集し、最新の法規定に基づき労務管理を行う必要があります。
労働紛争がひとたび仲裁・訴訟手続に発展すると、仲裁で45日(60日まで延長可能)、1審判決は6か月(1年まで延長可能)、2審判決になるとさらに3か月(無期限延長可能)という時間を費やすことになります。以前と比べて仲裁・訴訟費用が軽減したことから、労働紛争が仲裁手続に入ってしまうと、訴訟にまで発展し、従業員側が2審判決まで粘り強く争うケースが実務では増加しており、それに伴い労働紛争が決着するまで優に1年を超える事案が増えています。また、仲裁・訴訟手続は、時間的な問題だけではなく、弁護士を起用すれば多額の弁護士費用も発生します。このため、費用対効果の面から、労働紛争を仲裁手続に発展してしまう前までに阻止することが重要です。
労使紛争は、企業にとっては避けることのできない課題です。企業は、企業に対する従業員側の意見に日頃から耳を傾け、日常的に従業員側と意見交換を行う必要があります。ストライキや暴動など多くの労働紛争は、従業員側の正当な意見が長期にわたって無視された場合に発生することが多いからです。
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