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価格独占にかかわる紛争事例―価格独占行為防止暫定規定はどう機能するか

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2003年7月31日

<法務>
価格独占にかかわる紛争事例
−価格独占行為防止暫定規定はどう機能するか−

梶田幸雄

はじめに

「価格独占行為防止暫定規定」(中国語は、「制止価格壟断行為暫定規定」である)が2003年6月18日に公布され、同年11月1日から施行される。

1998年12月のWTO貿易政策と競争政策に関する作業部会報告書は、「国際貿易における自由貿易政策と国内における競争政策(民営化政策・規制緩和政策・独占禁止政策)が相互に密接な関係を持っており、両者の有機的な結合による国の内外における自由競争の促進が世界の国々、とくに開発途上国の自由競争を促進し、経済効率を高め経済成長を最大限に促進するとし、内外における競争促進が国内産業にある種の打撃を与える場合があるとしても、競争促進に反する保護貿易主義や競争抑制策をとるべきではない」としている 。そこで中国は、上記の趣旨の重要性、今後の産業発展に対するプラス効果が認識され、競争法の制定を急いでいたところである。ここに競争法の制定に先立ち、「価格独占行為防止暫定規定」が制定された。

以下、(1)価格独占行為防止暫定規定の内容を概観し、(2)過去の中国における価格独占行為事例および存在する争点を指摘し、(3)将来の課題および外資系企業に対する影響如何について検討する。

1 価格独占行為防止暫定規定の主な内容

「価格独占行為防止暫定規定」は全16条からなり、国家発展改革委員会が解釈権をもつ。

この規定における価格独占行為とは、経営者が談合して、または市場における支配的地位を乱用して、市場価格を操作することである(規定第2条)。経営者の談合には、(1)価格の統一決定、維持または変更、(2)生産または供給の規制による価格操作、(3)入札または競売における価格操作などがある(第4条)。経営者の市場における支配的地位の乱用には、(1)販売店に対する再販価格の強制(第5条)、(2)不当利得行為(第6条)、(3)不当廉売またはリベート、補助金交付などによる実質的廉売(第7条)などがある。また、政府は、経営者に価格決定権があることを確認し、不当に価格決定に介入してはならないともした(第12条)。


2 過去の価格独占行為事例および争点

(1) 過去のカルテル事例

中国のカラーテレビ生産量の75%を占める有力家電メーカー9社(康佳、TCL、創維、楽華、海信、厦華、金星、熊猫、西湖)が2000年6月に深框でテレビ業界団体、「中国彩電企業峰会」を設立した。この中国彩電企業峰会の会合でカラーテレビの販売価格カルテルが約束された。25インチ・テレビの最低価格を1,050元(1元=約13円)にするというものであった。カルテル前は、これが各社ともにほぼ700元まで値下げされていたものである。同時に7月1日から工場の一斉休止などの生産調整も実施された。例えば、業界2位のシェアをもつ康佳は、1999年は100万台以上あった生産量を2000年は90万台に抑制する約束をした 。

家電メーカー9社によるカルテルが結ばれた理由は、カラーテレビ業界は、競争激化の中で市場が飽和状態になり、需要が伸び悩み、販売不振に陥り、経営に苦しんでいたからである。1999年のカラーテレビ生産台数は前年比21.9%増の4,262万台にのぼったが、販売は3,000万台前後(国内需要は2,800万台)にとどまり、1,000万台以上が在庫になった。1998年の都市住民のカラーTV保有台数は、100世帯当たり105.43台になっていた。2000年に入っても各社は販売拡大のため、激しい値引き競争をしていた。この中で市場確保のため各社間で価格競争が激化し、収益が悪化していたのである。

上記カルテルについて、当時政府は、9社による価格維持を容認した。この理由は、(1)過当競争による経営体力の低下で、研究・開発面などで国際競争力が弱まることを恐れ、また、(2)家電製品の価格低下は部品などの国有メーカーの経営悪化や2年以上続くデフレを助長しかねないとの懸念を持ったからである。さらに、(3)この9社は、各地域の重要産業であり、国有資産の投入もあるところ、仮に当該企業の合併や倒産が生じたら各方面に大きな影響をもたらすだろうとの判断も政府のカルテル容認の理由になったようである。

(2) 現時点では不明の判断・適用基準

「価格独占行為防止暫定規定」は、上記のようなケースのどのような影響を及ぼすことになるのか。価格独占行為といえるか否かの判断は、現時点においては明確に示されておらず、国家発展改革委員会の判断に委ねられることになる。上記のケースでは、四川長虹電子、およびソニー、松下、東芝、フィリップスなど外資企業も参加していない。今回の「価格独占行為防止暫定規定」によっても、このことをもってカルテルには当たらないと判断されるのか否かは判然としない。

「価格独占行為防止暫定規定」は、正常な生産経営秩序を乱し、その他経営者もしくは消費者の合法的権益を損ない、または社会公共の利益を損なう行為に対して適用される(第2条)。また、市場における支配的地位とは、経営者の市場占有状態が代替製品および新規競争者の市場参入の難易度により判断される(第3条)。如何なる行為がこれに相当するのかは、今後の適用を見ないことには明らかにならないといえる。

(3) 関連法規との異同

中国には、「価格法」(1997年12月29日公布、1998年5月1日施行)および「価格違法行為行政処罰規定」(1999年8月1日公布、同日施行)が存在する。この中で経営者の価格行為に関しては、自由に制定できると同時に不正な価格行為の禁止も定められている。「反不正当競争法」(1993年9月2日公布、1993年12月1日施行)においても、例えば、抱合せ販売および不合理な取引条件の付加、談合行為などが禁止されている。これらの法律の規定と「価格独占行為防止暫定規定」との間に同語反復の規定も見られる。これら法律の規定との異同は何かということも争点となる。


3 今後の課題および外資系企業への影響

「価格独占行為防止暫定規定」によっても残る課題とは何か 。

第一に、(1)中央政府レベルにおいては、国内産業、とりわけ赤字の国有企業を保護するための規制が行われるのではないかということである。

第二に、(2)地方レベルでは、依然として地方保護主義がなくならないのではないかということである。中国の外資導入は、初期においては地域性経済発展戦略であった。このために中央政府は基本原則となる法令の立法を行い、具体的な外資導入に係る政策法規は地方政府に任せていた。このことは、外資企業の誘致に関しては、地方性の法規が主導的な役割を果たしてきていたことを示すものである。このため、政府の組織および権力(国内法の整備)に関して、地方保護主義が根強いのではないかという懸念がある。

第一の争点に関しては、例えば最近、次のような事実があった。中国国家郵政局が2001年の米国での炭疽菌事件を受け、「国家安全」を口実に国際宅配便の規制強化に乗り出した 。国家郵政局は2001年末から2002年3月にかけて営業中の各社に対して改めて郵政局で所定の手続をするよう求めた。今後、業務の対象は郵便物1件あたり500グラムを超えるものに限り、価格は郵政局の料金より高く設定することとしている。中国の国際郵便物は、日本のOCS、米国のDHL、UPSなど外資系の合弁企業が市場の3分の2を占める。郵政局の市場占有率は年々下がっていた。そこで、米国で炭疽菌事件を口実に上記の規制を発布したのではないかと考えられている。

第二の争点に関しては、例えば、次のような事実がある。自動車やオートバイに対する地方ごとのナンバープレート発給問題がある。交通渋滞による排気ガスの発生を抑制することを理由に、地方ごとにナンバープレートを発給し、他省・市所属の自動車やオートバイの通行を規制している。実際上は、地方保護主義であると考えられる。

以上、要するに価格自由化では解決できない問題が存在し、この問題のほうが外国企業にとってはより深刻であるということである。

まとめ

経済協力開発機構(OECD)は、2002年3月に『China in the World Economy:The Domestic Policy Challenges』を発表した 。この中で、中国は国内の産業間および地域間格差が拡大しており、資源の効率的利用を図るためには、市場の流動性を阻害する要因を排除することが必要で、このために公正な競争環境を形成する法制度の整備などが不可欠であると述べられている。

このために真に必要な法律は、競争法である。「価格独占行為防止暫定規定」は、競争法の一部を構成するものであるといえる。2001年7月に中央大学比較法研究所が主催したAPEC競争法シンポジウムの席上、中国社会科学院法学研究所の王暁華氏により草案が示された 。そして、この草案は2002年2月26日に改正がなされている 。

競争法においては、価格独占の問題のほかに(1)企業結合規制(企業結合の概念、合併の申請、禁止される合併条件、特別な合併の認可)、(2)行政上の独占(地域独占または特定分野における独占、購入強制、提携強制を含む、様々な形態の行政上の独占)などについても規定されることになる。この競争法が制定・施行されてはじめて、中国市場における行政独占の排除、外資の市場参入に対する規制緩和が確保されるようになると期待される。

(03年7月14日記・3,908字)
日本経営システム研究所主幹研究員
梶田幸雄

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