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信用喪失被執行人制度を考察する

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2017年2月9日

社会信用システムが構築されつつある大きな情勢もと、信用喪失被執行人制度は、2013年に確立して以来、工商、金融、公安など部門間の情報共有を段階的に実現させ、また一連の関連制度を通じて信用喪失被執行人に対する共同制裁や信用喪失被執行人への義務履行の督促などの方面で、より一層重要な役割を果たすことになる。

今年9月、国務院弁公室などの部門が「信用喪失被執行人に対する信用監督、警告及び制裁措置実施体制の構築加速化に関する意見」(以下、「新法令」という)を共同公布し、当該制度をさらに補充し整備した(その中の一部の内容は、これまで公布されてきた係る関連措置を統合し、復唱するものである)。本文では、補充整備後の信用喪失被執行人制度及び企業への助言という2つの方面から簡潔に紹介する。

一、補充し整備された後の信用喪失被執行人制度

最高人民法院は2013年に「信用喪失被執行人名簿情報の公布に関する若干規定」を公布し、信用喪失被執行人制度を確立し、発効済みの法律文書を履行しない被執行人(自然人、法人を含む)を信用喪失被執行人名簿(以下、「信用喪失名簿」という)に登載する方式により、その情報を公示することになった。その後、「被執行人の高額消費の制限に関する最高人民法院による若干の規定」、「信用喪失被執行人に対する共同制裁措置の実施に関する合作覚書」、「入札募集・入札活動で信用喪失被執行人に対する共同制裁措置の実施に関する通知」を相次いで公布し、信用喪失被執行人制度につき、さらに詳細化した規定を行った。この度、新法令が公布されたことを受け、補充・整備後の信用喪失被執行人制度について、以下の通り簡潔に紹介する。

項目 補充・整備後の信用喪失被執行人制度 筆者コメント
信用喪失被執行人名簿に登載する状況 1.虚偽の証拠、暴力、脅迫などの方法で、執行を妨害し、拒んだ場合。
2.虚偽の訴訟、虚偽の仲裁又は財産の隠匿、移転などの方法で執行を逃れた場合。
3.財産報告制度に違反した場合。
4.高額消費制限令に違反した場合。
5.被執行人が正当な理由なく執行和解協議の履行を拒んだ場合。
6.その他の履行能力があるにもかかわらず、発効済みの法律文書に定められた義務の履行を拒んだ場合。
新法令で当該部分についての追加内容はない。
「規定」によると、信用喪失名簿に登載する要件は2つある。(1)適用対象は被執行人である。(2)当該被執行人は履行能力があるにもかかわらず、義務の履行を拒んだ。原則上、上記2項目を満たしていれば、被執行人の信用喪失名簿への登載を裁判所に申し立てることができる。
なお、実践において、信用喪失名簿に加える要件に異なった解釈が生じないように、「規定」は被執行人の信用喪失の重い情状から軽い情状まで、5通りの状況を列挙している。末尾の第6番目の状況はすべての状況を網羅するための雑則である。
決定手順及び救済方式 被執行人の信用喪失名簿への登載は、執行申立人による申し立てによって決定することも、また裁判所が職権により決定することもできる。
裁判所は、被執行人を信用喪失名簿に登載する決定をなした場合、決定書を発行し、これを被執行人に送達するが、被執行人を信用喪失名簿に登載する前に、その者に対してリスク提示を行う必要がある(新たに追加された内容である)
被執行人は決定を受けた日から10日以内に異議を申し立てる必要があり、裁判所は異議申立を受けた日から3日以内に審査する(新たに追加された内容である)。被執行人が異議なく又は異議があってもその異議が成立しない場合、信用喪失名簿に登載されることになるが、被執行人が異議を申し立て、それが認められた場合、人民法院はこれを是正する決定をなす。
新法令では、この部分で被執行人に対するリスク提示を追加し、被執行人の異議申立期限を明確にした。
これは、信用喪失名簿に登載されることでの影響を被執行人に十分に把握させ、被執行人権利を守るものであり、また、被執行人に義務を速やかに履行するよう督促するものでもある。
信用喪失名簿に登載されることでの影響 政府調達、入札募集・入札、行政審査許可、政府の支援、融資・与信、市場参入、資格認定などの方面から、信用喪失被執行人に対し制裁を行う。具体的には、以下の内容が含まれる。
1.政府調達において、政府投資事業又は主に財政資金を使用する事業への参与を制限する。
2.入札募集・入札において、信用喪失名簿に登載された企業の入札、入札募集代理、入札者評価活動を制限する。
3.行政審査許可において、銀行間市場における債券発行をより厳格に審査し、薬品・食品安全業種に従事することをより厳格に審査する。
4.政府の支援おいして、政府の補助金又は政策支援を申請する際に制限がかかる。
5.融資・与信においてて、企業及びその法定代表者、主要責任者、実際の支配者、董事、監事、高級管理職が信用喪失被執行人である場合、銀行業務を取り扱う金融機関はより厳格な与信審査を行う必要がある。
6.市場参入において、薬・食品、不動産、金融などの業種への参入、債券と株券の発行、適格投資者の投資枠、持分奨励を制限する。
7.特定市場での取引の制限に関して、不動産、国有資産取引、国有林地・草原の使用において制限する。
8.資格認定において、税関認証企業になることを制限する。
9.栄誉において、企業又はその法定代表者、董事、監事及び高級管理職が信用喪失被執行人である場合、当該企業は「文明単位(品位のある組織)」、慈善活動表彰の被表彰候補者になってはならない。
10.高額消費の制限において、信用喪失名簿に登載された企業及びその法定代表人、主要責任者、実際の支配者による高額消費行為及び生活上・勤務上必須でない消費行為を制限する。
11.出国の制限において、信用喪失被執行人の出国を制限する。被執行人の法定代表者、実際の支配者に対する出国制限については、係る法令上、明確な規定はないが、実務では、裁判者が被執行人の法定代表者、実際の支配者に対し出国制限の措置を講じる。
12.日常の監督検査強化において、企業又はその法定代表者、実際の支配者、董事、監事及び高級管理職が信用喪失被執行人である場合、関連部門は日常の監督管理に力を入れ、無作為抽出検査の割合と頻度を引き上げる。
13.制裁を実施する過程において、裁判所は関連部門の協力を求め、信用喪失被執行人の身元情報、パスポート、安全生産許可審査許可などに関する情報を照会することができる。
新法令はこれまでの関連規定を取りまとめ、信用喪失被執行人に対する部門を跨いだ共同監督管理及び共同制裁メカニズムをより強調した。これによって、信用喪失被執行人制度の系統性を高め、運用面でも改善され、被執行人に対する圧力も一層高まった。
このため、企業は取引相手に対する信用力審査を強化するほかに、相手方が信用喪失名簿に登載されることによって企業に余計な損失がもたらされることのないようにしなければならない。また、相手方の内部高級管理職が信用喪失被執行人になった場合、その影響を受けないよう、それらに対する信用力審査も強化しなければならない。
信用喪失名簿からの削除 信用喪失被執行人が以下のいずれかの状況に合致する場合、裁判所は3日以内にその者の信用喪失名簿上の情報を非表示にし、又は撤回しなければならない(新たに追加された内容である)
1.発効済みの法律文書に定められた義務をすべて履行した場合。
2.執行申立人と執行和解協議を取り交わし、尚且つ執行申立人が履行の完了を確認した場合。
3.人民法院が法に依拠し、執行終了の決定を行った場合。
新法令では、裁判所が左記3つのいずれかの状況に合致する信用喪失被執行人を信用喪失名簿から削除する期限を明確にした。

二、企業への助言として

社会信用システムが構築されつつある大きな情勢のもとで行われた新法令の公布は、企業の内部管理の強化、当該制度の日常の商業活動にもたらす影響をより重視するように企業に示唆しているだけでなく、信用喪失被執行人に対し速やかに義務を履行するよう督促するものでもある。新法令の内容を踏まえると、企業に対しては、以下の通り助言しておきたい。

1.企業コンプライアンス管理を強化し、速やかに義務を履行すること。企業の日常の経営過程において、発効済みの法律文書に基づく義務の履行を重視し、信用喪失名簿に登載されてしまわぬよう注意しなければならない。万一、裁判所から信用喪失名簿に登載される決定がなされてしまった場合でも、やはり積極的に対処し、速やかに異議を申し立てることが望ましい。
2.その企業の法定代表者、董事、監事及び高級管理職の信用状況についての審査、定期的な確認に留意すること。新法令では、企業の法定代表者、董事などが信用喪失名簿に登載されることにより、その所属企業も一部の商業活動において制限を受けることが明確になっており、法定代表者、董事、監事及び高級管理職の委任派遣、任命、採用などにおいて、関係者の信用状況を評価項目に入れることが望ましい。また、必要に応じて、速やかに人員を交代させ、企業が高級管理職の信用喪失行為から影響を受けないようにするとよい。
3.取引相手(その高級管理職を含む)に対する信用力審査を強化し、定期的に確認すること。相手方が信用喪失被執行人名簿に登載されている場合、当該相手方との業務提携についてはさらなる慎重な検討が必要であろう。

(里兆法律事務所が2016年12月23日付で作成)

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