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董事、監事、高級管理職者の法的責任について

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2018年12月17日

董事、監事、高級管理職者(※1)(以下「董事・監事・高級管理職」という)が会社に対して忠実義務及び勤勉義務を負うと定められる。即ち、董事・監事・高級管理職が職務を執行する際には、忠実信用の原則に従い、会社の資産及び業務について善良な管理者の注意義務を尽くしなければならない。このように規定する原因は、実際には会社のガバナンス体制において、董事・監事・高級管理職が株主の資産及び会社業務の管理受託者であり、管理受託者の立場により、会社に対し忠実義務及び勤勉義務を尽くすことが求められるためである。

「会社法」、「破産法」、「証券法」などの法律・法規の規定では、董事・監事・高級管理職が会社の監督者・管理陣として、その尽くすべき忠実・勤勉義務に違反した場合、相応の法的責任を負わなければならないとされている。また、高級管理職が労働法律法規及び社内規則制度に違反した場合、労働法上の責任も負わなければならない。

一、董事・監事・高級管理職の民事責任

「会社法」、「破産法」などの法律規定では、董事・監事・高級管理職が会社、株主などの利益を損害した行為を行った場合、会社、株主に対して相応の責任を負わなければならないとされている。董事・監事・高級管理職の負うべき民事責任について、以下の通り簡潔に列挙する。

番号 法律法規 条項 内容
a 「会社法」 第21条(関連関係を利用して会社の利益を損う) 会社の支配株主、実質的支配者、董事、監事、高級管理職者はその関連関係の地位を利用して会社の利益を損なってはならない。前項の規定に違反して、会社に損失をもたらした場合、賠償責任を負わなければならない。
b 第149条(法律法規又は会社定款に違反する) 董事、監事、高級管理職者が会社の職務を執行するとき、法律、行政法規又は会社定款の規定に違反して、会社に損失をもたらした場合、賠償責任を負わなければならない。
c 「破産法」 第125条(破産責任) 企業の董事、監事又は高級管理職は、忠実義務、勤勉義務に違反したことにより、所属している企業を破産に至らしめたとき、法に従い民事責任を負う。
d 「証券法」 第47条(短期売買に伴う責任) 上場会社の董事、監事、高級管理職者、上場会社の株式を5パーセント以上保有する株主が、その保有する当該会社の株式を購入後6ヶ月以内に売却した場合、又は売却後6ヶ月以内に再度購入した場合、これにより得た収益は当該会社の所有に帰すものとし、会社の董事会は、その取得した収益を回収しなければならない。……会社の董事会が第一項の規定に従って執行しない場合、責任を負うべき董事は、法に従い連帯責任を負う。

董事・監事・高級管理職の上記の行為は、通常、会社及び会社の株主に損失をもたらすため、一般的には、董事・監事・高級管理職は会社及び会社の株主に対し、係る民事責任を負わなければならない。なお、特別な状況において、董事・監事・高級管理職の行為が原因で、会社、会社の株主以外の第三者に損失をもたらした場合も、係る民事責任を負わなければならない。例えば、以下の通りである。

番号 法律法規 条項 内容
a 「会社法」 第189条(清算組によりもたらされた損失) 清算組構成員は故意又は重大な過失により、会社又は債権者に損失をもたらした場合、賠償責任を負わなければならない(備考:「『中華人民共和国会社法』適用の若干問題に関する最高人民法院の規定(二)」第8条の規定に基づくと、法院は董事、監事、高級管理職者を清算組構成員として指定できる)。
b 「証券法」 第69条(投資者に対する責任) 発行者、上場会社が公告した、株式目論見書、社債募集方法……及びその他の情報開示資料に、虚偽記載及び誤解を生じさせるおそれのある記述又は重大な遺漏があり、これにより証券取引において投資者に損害を与えた場合、……発行者、上場会社の董事、監事、高級管理職者及びその他の直接責任者及び保証推薦人、元引受証券会社は、発行者、上場会社とともに連帯賠償責任を負わなければならない。但し、自己に過失がないことを証明できる場合はその限りではない……

董事・監事・高級管理職に上記の行為がある場合、会社の株主及び第三者が訴訟行為により、董事・監事・高級管理職に賠償請求を行うすることができる。「会社法」の規定では、以下の訴訟行為を行うことができる。

(a)株主の直接訴訟

株主が会社の投資者であり、自己の適法的な権益を守る権利を有する。従い、「会社法」第152条では、董事、高級管理職が法律、行政法規又は会社定款の規定に違反して、株主の利益を損なった場合、株主は人民法院に対して訴訟を提起することができると規定している。

第三者にとっては、関連法律規定に基づいて、董事・監事・高級管理職は賠償責任を負うべきである場合、第三者はこれをもって法院に訴訟を提起し、董事・監事・高級管理職に賠償責任を負うよう求めることができる。

(b)株主代表訴訟(株主間接訴訟)

通常、民事主体は自身の利益を守るために、(例えば、上記における会社の株主及び第三者は)自己の名義により権利を主張し、且つ訴訟を提起しなければならない。会社にとっては、会社の利益が損なわれた場合、会社が訴訟を提起しなければならない。但し、実践において、大株主が董事・監事・高級管理職を操縦して、会社が権利の行使を怠ったことにより、会社の利益が損害され、さらに中小株主の利益に害することを防止するために、中小株主を保護するための体制を設ける必要がある。具体的に言うと、このような保護体制により、会社の董事・監事・高級管理職が職務執行のとき、法律、行政法規又は会社定款の規定に違反し、会社に損失を与え、会社が提訴権の行使を怠った場合、条件を満たす株主は自己の名義により、法院に損害賠償請求訴訟を提起することができる。株主代表訴訟というのは、株主の所属する会社の法的救済請求権に基づくものであり、株主が会社を代表して一定の訴訟請求権を行使するが、その取得した利益又は判決の結果はいずれも会社が引き受け、株主はあくまでも株主という立場に基づいて会社の取得した利益を間接的に享有することである。よって、これを株主代表訴訟、又は株主間接訴訟という。

これについて、「会社法」第151条に規定がある。「会社法」第151条の規定によると、原則的には、(1)董事、高級管理職に会社の利益に反する行為がある場合、会社の株主は書面により監事又は監事会に人民法院への訴訟の提起を請求することができる。(2)監事又は監事会に会社の利益に反する行為がある場合、会社の株主は董事会又は執行董事に人民法院への訴訟の提起を請求することができる。(3)もし(1)、(2)において訴訟権利の行使を拒否し、又はこれを怠った場合、株主は自己の名義で人民法院に訴訟を提起し、会社の利益を守ることができる。

二、董事・監事・高級管理職の行政責任

董事・監事・高級管理職の行政上の法的責任が追及される行為は、通常、会社がなしたものではあるが、会社の法的人格は擬制されたものであるため、そのなした意思は往々にして直接責任者と関係がある。そのため、「会社法」を含む法律法規は、いずれも董事・監事・高級管理職の行政責任について規定している。

番号 法律法規 条項 内容
a 「会社法」 第202条(提供した財務会計などの資料における虚偽記載など) 会社が法に従い関連主管部門に提供した財務会計報告などの資料に虚偽記載又は重要事項の隠蔽があった場合、関連主管部門が直接責任のある主管人員及びその他の直接責任のある人員を3万元以上30万元以下の過料に処する。
b 第206条(清算組構成員の行政責任) 清算組が本法の規定に従って会社登記機関に清算報告書を送付せず、又は送付した清算報告書に重要な事実の隠蔽もしくは重大な遺漏があった場合、会社登記機関が是正を命じる。
清算組の構成員が職権を利用して私利のために不正行為をなし、違法所得の獲得をはかり、又は会社の財産を横領した場合、会社登記機関が会社財産の返還を命じ、違法所得を没収し、且つ違法所得の等額以上5倍以下の過料に処することができる。
c 「証券法」 第195条(短期売買に伴う行政責任) 上場会社の董事、監事、高級管理職者……が本法第四十七条の規定に違反して当該会社の株券を売買した場合、警告を与え、且つ3万元以上10万元以下の過料を併科することができる。
d 第202条(インサイダー取引) 組織がインサイダー取引を行った場合、さらに、直接責任を負う主管者及びその他の直接責任者に対して警告を与え、3万元以上30万元以下の過料を併科する。証券監督管理機構の職員がインサイダー取引を行った場合、重きに従い処罰する。

上述の規定以外、業務主管部門によって、会社の董事・監事・高級管理職の負うべき行政責任についてそれぞれ規定がある可能性があり、ここでは省略する。

三、董事・監事・高級管理職の刑事責任

董事・監事・高級管理職の主観意思及び行為の性質・深刻度によっては、「刑法」に規定する犯罪行為を構成することがある。そうであれば、董事・監事・高級管理職は係る刑事責任を負わなければならない。

番号 法律法規 条項 内容(※2)
a 「刑法」 第163条(商業賄賂罪) 会社、企業又はその他の組織の職員が、職務上の便宜を利用し、他人の財物を要求し、又は他人の財物を不法に収受し、他人のため利益をはかった場合、又は経済取引において、職務上の便宜を利用し、法律に違反し、各種名義のリベート、手数料を収受して個人の所有に帰属させた場合。
b 「刑法」 第165条(同類営業不法経営罪) 国有の会社又は企業の董事、マネージャーが、職務上の便宜を利用し、その在職する会社、企業と同類の事業を自ら経営し、又は他人のために経営して、不法な利益を取得した場合。
c 「刑法」 第166条(親族・友人のための不法営利罪) 国有の会社、企業、事業組織の職員が、職務上の便宜を利用して、当該組織の営利業務を自己の親族・友人に引き渡して経営をさせたとき、又は市場価格より明らかに高い価格で自己の親族・友人が経営管理する組織から商品を購入し、あるいは市場価格より明らかに低い価格で自己の親族・友人が経営管理する組織に対して商品を販売するとき、又は自己の親族・友人が経営管理する組織から不合格商品を購入したとき、国の利益に重大な損失を被らせた場合。
d 「刑法」 第169条(上場会社利益背信的損害罪) 上場会社の董事、監事、高級管理職者が会社に対する忠実義務に違背し、職務上の便宜を利用し、上場会社の利益に損害を与えた場合。
e 「刑法」 第271条(業務上横領罪) 会社、企業又はその他の組織の者が、職務上の便宜を利用し、当該組織の財物を自己の所有物として不法に占有した場合。
f 「刑法」 第272条(資金流用罪) 会社、企業又はその他の組織の従業員が、職務上の便宜を利用し、当該組織の資金を流用し、個人の使用に供し、又は他人に貸し付けた場合。

四、高級管理職の労働法上の責任

董事、監事の職務のみにつく場合、会社とは労働関係ではなく、委任関係であるため、労働に関連する法律、法規を適用しない。しかし、高級管理職を務めると同時に会社の職務にもつく場合には、労働関係に該当し、労働法律・法規を適用する。

番号 法律法規 条項 内容
a 「労働契約法」 第39条(紀律責任) 一般従業員と同じく、もし高級管理職は、会社の規則制度及び労働紀律に著しく違反した場合、重大な職務怠慢、不正利得行為により会社に重大な損害を与えた場合、他の会社と労働関係を確立し、当該会社の業務上の任務の完成に重大な影響を与え、又は会社から是正を求められたがこれを拒否した場合、詐欺、脅迫の手段を用いたことで労働契約が無効になった場合、法に従い刑事責任が追及されたなどの場合において、会社は経済補償金を支払うことなく、労働契約を解除することができる。
なお、一般従業員とは違い、高級管理職に上記の行為がある場合、会社が労働契約を解除するときに負う証明責任は、相対的に軽くなる。高級管理職が会社においてより高い地位を有する以上、より厳格的な責任を負うべきであるのはその原因である。
また、高級管理職が忠実義務を負うため、重大な忠実義務違反があった場合、一定の程度では、会社は労働契約を解除することができる。
b 「会社法」 第46条(高級管理職の解任) 董事会は会社の総経理、会社の副経理、財務責任者を解任する権利を有する。もし会社が高級管理職の在任期間のパフォーマンスに対し不満がある場合、董事会はその者を高級管理職の職務から解任することができる。なお、解任することは、労働契約を解除することを意味しない。解任した後、労働契約の解除に足りる根拠を揃えたまでは、他の職位に任命する必要がある。労働契約解除に足りる根拠がある場合、労働契約を解除することができる。

五、筆者の見解

上記の説明及びこれまでの実務取扱経験を踏まえれば、法律法規において董事・監事・高級管理職の責任について多くの制限を設けており、また、実践において、会社の董事・監事・高級管理職が不適切な行為により、相応の責任を負ってしまうケースも珍しいことではない。

よって、筆者としては、以下の通りアドバイスする。会社として、コンプライアンスに関連する教育・整備(会社の監督者・管理陣体系制度の構築・整備、コンプライアンス分野の研修・講座の実施を含む)を強化し、会社の監督者・管理陣のコンプライアンス意識を高める必要がある。同時に、会社が董事・監事・高級管理職のコンプライアンス違反行為により、責任を負う必要のある事態になった場合、弁護士などのプロなルートを通じて、最適な解決策を採用し、会社の損失を減少させることができる。

(※1)「会社法」第216条の規定によると、高級管理職とは、総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書及び会社定款に定めるその他の者を指す。
(※2)刑事責任の構成要件には金額基準なども含まれるが、ここでは省略する。

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