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税関自主開示制度の整備、改善点、及び企業へのアドバイス

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2020年6月15日

■「税務違反行為を自主開示した場合の取扱いに関する公告」を簡潔に考察する

税関自主開示制度は、企業の自律性を促し、ビジネス環境を最適化することを目的として設けられたものだが、同制度に関する法令はいずれも原則的な規定であった。税関総署が2019年10月17日に公布し施行した「税務違反行為を自主開示した場合の取扱いに関する公告」(以下「『公告』」という)は、自主開示制度を整備した。本稿では、「公告」内容を踏まえながら、自主開示制度について、法的視点から簡潔に分析する。

一、自主開示制度の概略

2016年10月1日に施行された「中華人民共和国税関査察条例」(以下「『査察条例』」という)の第26条は、自主開示制度について最初の規定を行った。つまり、輸出入貨物と直接に関係のある企業、組織が税関監督管理規定に違反した自身の行為を税関に自主的に報告し、税関の処理を受け入れる場合、軽きに従い行政処罰し、又は行政処罰を軽減するとしていた。-このときは、軽きに従い処罰し、又は処罰を軽減することだけが定められた。

その後、2016年11月1日に施行された「『中華人民共和国税関査察条例』実施弁法」(以下「『実施弁法』」という)第27条では、自主的に開示を行った輸出入企業、組織については、税関監督管理規定の違反であれば、軽きに従い行政処罰し、又は行政処罰を軽減しなければならず、違法行為が軽微であり、且つ適時に是正し、危害の影響をもたらしていない場合、行政処罰は行わない。自主的に開示し、且つ税金を追納した輸出入企業、組織に対し、税関は滞納金を減額し、又は免除することができる。-軽きに従い処罰し、又は処罰を軽減するほか、処罰を行わないという規定が追加された。


二、自主開示制度の執行過程における問題

上述した法律規定は、自主開示制度について原則的な規定を行っているだけであり、自主開示の具体的な手順や、軽きに従い処罰し、処罰を軽減すること、処罰を行わないこと(以下、これらを「政策の恩恵」という)の法令執行基準等については、明確に定められているわけではなく、、実際の運用上、十分に執行されるのは難しい。主には以下の点においてである。

1.企業としては、どのように開示すべきなのかがわからない。まず、対象が明確でない。企業はどこの税関に開示すべきなのか、それは、企業所在地にある税関なのか、それとも、もとの税金徴収地の税関なのか、又は輸出入税関なのか、どこの税関でもよいのか、統一した基準がない。次に、税関の部門は煩雑であり、具体的にどの部門に対し、自主開示するのかもはっきりとしていない。そして、企業はどのルートを通じて開示を行うのか、手渡しか、郵送又は電子窓口で取り扱うのかなどもも明らかにされていない。

2.企業は開示した後の法的影響が予測できない。「査察条例」も、「実施弁法」も、いずれも政策の恩恵について原則的に規定しているだけであり、具体的にどのような状況下で政策の恩恵を受けることができるのかが具体的に定められていないことから、企業としては、係る法的影響を予測することが難しい。

3.企業は、信用格下げになるのかどうが予測できない。もしも企業の信用が格下げされ、信用喪失企業となった場合、税関は同企業に対して極めて厳しい監督管理措置を講じ、輸出入企業の経営に重大な影響が生じことを意味している。輸出入企業であれば、税関から政策の恩恵(過料の減額)を受けることよりも、自身の税関信用が格下げされるかどうかに一層の関心を注ぐのは言うまでもない。2018年11月27日に施行されている税関総署公告2018年第178号「『中華人民共和国税関企業信用管理弁法』実施の関係事項に関する公告」では、企業が自主的に開示し、且つ税関から警告又は50万元以下の過料に処される行為は、税関が企業の信用状况を認定する上での記録としないことを初めて明確にした。


三、「公告」による自主開示制度の整備

上述のような執行過程における問題に鑑み、税関総署は「公告」を公布することで、自主開示制度について、主にいくつかの方面からの整備を行った。

1.処罰しない事由を明確に規定した。即ち、(一)税務違反行為が発生した日から3か月以内にに税関に自主的に開示し、危害の影響を自主的に解消したとき。(二)税務違反行為が発生した日から3か月が経過してから、税関に自主的に開示し、納税漏れ、納税額不足分の納税額に占める割合が10%以下、又は納税漏れ、納税額不足分が50万人民元以下であり、且つ危害の影響を自主的に解消した場合。

なお、以下の点について注意しなければならない。
●「公告」及び「税関行政処罰実施条例」の規定によれば、税務違反行為とは、税関による税金徴収に影響を与える、税関監督管理規定に違反する行為をいう。税務違反行為には通常、輸入貨物税則番号の不実申告、輸入貨物を事実より低い価格で申告すること、減免税設備の他用途への転用、加工貿易保税物資の数量不足、納税漏れを生じさせ得るるその他行為が含まれる。
●その他「税務」に係わらない、税関監督管理に違反する行為(例えば、税関統計の正確性に影響を及ぼす行為、国家許認可証書の管理に影響する行為、税関統計及び税関監督管理の秩序に影響する行為、取り扱う税関監督管理貨物/保税貨物が正当な理由なく数量不足すること、加工貿易単位あたり使用量の不実申告、及び国家による輸出入が禁止・制限される貨物に関する規定に違反する行為(例えば、密輸行為)等には「公告」は適用されない。

2.企業が政策の恩恵を受けるには3か月が節目となり、税務違反行為が発生した日から3か月以内に自主的に開示する場合、納税漏れ、納税額の不足分について制限はないが、3か月が経過した後での自主的に開示の場合、納税漏れ、納税額の不足分が納税額に占める割合は10%以下であるか、又は50万元以下であることが明確になった。

なお、「公告」では、発生日の定義が定められていない。違反行為は各形態ごとに構成要件がそれぞれ異なるため、違反行為が成立する認定基準も異なる可能性がある。法理上の通説では、違反行為の実施日ではなく、「違反行為が発生した日」を違反行為の成立した日であると認識されている。但し、税関監督管理に違反する行為は、その実施日と成立日が同一日である可能性もある。例えば、税関に申告を行った日から、企業は税金を納付する法定義務を負い、もしも納税漏れ、納税額の不足が発生した場合、税関に申告を行った日(実施日)が違反行為が発生日となる。

3.自主開示の手順が詳細化された。企業による自主開示では、帳簿、ドキュメントを税関に提出しなければならないという「実施弁法」の規定をもとに、「公告」では「自主開示基準表」の記入も企業に求めている。また「公告」では、開示を受理する税関についても、もとの税金徴収地の税関又は企業所在地にある税関であると明確に定めている。

4.立件調査を行う期間中は、税関信用等級を調整しないことを明確にした。「公告」は税関総署公告2018年第178号「『中華人民共和国税関企業信用管理弁法』実施の関連事項に関する公告」の規定と整合性が保たれており、自主開示により生じる警告又は50万元以下の過料に処する行政処罰は、税関信用認証基準における「企業の法令遵守」基準の採点において不利な影響が生じることはないことについて改めて言及した。
なお、2018年11月27日に施行された「中華人民共和国税関企業信用管理弁法」では、認証企業が税関監督管理規定に違反する嫌疑で立件調査された場合、税関は係る管理措置の適用を一時的中止することができると定めているが、「公告」では、認証企業が税務違反行為を自主的に開示した場合、税関による立件調査期間中は、当該企業に対して適用される管理措置を中止することはない、としている。


四、「公告」では明らかにされていない箇所

「公告」では自主開示制度を整備しているが、以下の事項にも注意を払う必要がある。

1.企業による自主開示手続き完了のマイルストーンが明確ではない。現時点では、税関が企業による自主開示を受理する際の取扱ガイドラインがまだないため、企業が税関に報告さえすれば自主開示手続きが完了したことになるのか、それとも税関に受理してもらわないと(例えば、税関から発行される受理証明書を取得するなど)手続が完了したことにならないのか、現時点ではまだ明確な規定がない。企業が自主開示手続きを完了したことを示すマイルストーンは、3か月という期間の節目の確定に直接関わってくることから、とても重要である。企業自らの利益を守るという視点から見るならば、税関に報告を行ったことの証拠をしっかりと保管しておくのがよい。

2.連続し又は継続状態にある違反行為は、政策の恩恵を受けられるのか。税関による行政処罰判例から見た場合、過去の違反行為をりやすくするために、税関は一部の税務違反行為を連続し又は継続した状態が存在すると認定することが考えられる。よって、税務違反行為の発生日は、かなり前のある時点となり、連続し又は継続した状態にある違反行為がある場合、政策の恩恵を受けられない可能性が高い。不実な申告行為を例にとると、1通の通関書類だけに関わるものではなく、長期にわたる一貫した手法となっている可能性がある。1通の通関書類だけであるならば、政策の恩恵が受けられるかもしれないが、連続し又は継続した状態の存在する違反行為であると認定されてしまうと、政策の恩恵を受けるのは難しい。


五、企業による自主開示についてのアドバイス

政策の恩恵を十分に受けることができるよう、筆者からのアドバイスは以下の通りである。

1.定期的に再点検する体制を構築すること。「公告」の早期開示を奨励する理念に基づき、企業は、定期的な企業内部での税関業務全面点検制度を構築し、早期に(なるべく3か月以内に)再点検を完了させ、存在し得る問題を見つけられるようにするとよい。

2.リスク評価体制を構築すること。それには以下のものが含まれる。
●自主開示の有効性を評価すること。評価を通じて、企業の違反行為に関する情報が税関に把握されていたり、又はすでに査察等に通知されるといった自主開示と認定されなくなる状況が存在していないかどうかを確認する。
●開示行為が完全で真実であるかどうかを評価すること。もしも企業が係る状況を事実通りに報告しておらず、虚偽、主観上の故意がある状況が存在する場合、自主開示としてみなされなくなるだけではなく、密輸取締部門の介入といった深刻な事態になってしまうおそれがある。そのため、開示においては慎重に取り扱い、開示事項の完全性と真実性が保証されるようにしておく必要がある。
●自主的に開示しようとしている違反行為の性質を評価すること。例えば、政策の恩恵を受けられない「税務」に係わらない違反行為に該当しないかどうか、又は連続し又は継続した状態の存在する違反行為であると認定される恐れがないかどうか等である。

なお、連続し又は継続した状態の存在する違反行為を自主的に開示する自体、企業にリスクをもたらす恐れがある。つまり、企業が最終的に政策の恩恵を受けるという目的を達成することが難しいどころか、反対に、違法行為の情報を税関に自主的に提供することで、かえって企業が処罰されるリスクを高めてしまいかねない。このとき、企業は自主的に開示することで高まる処罰されるリスクと、自主的な開示により受けられる可能性のある政策の恩恵とを天秤にかけ判断するという問題に直面する。もっとも、企業において厳格なコンプライアンス制度及び社内の是正責任追及規則があるならば、ためらうことなく自主的に開示することを選ぶであろう。


終わりに

「公告」により自主開示制度が詳細化し整備されたことは、輸出入企業、組織にとっては、政策の恩恵であり、当該政策の恩恵を十分に受けられるよう、企業は係る法律法規を真剣に研究し、コンプライアンス作業を徹底するのが望ましい。

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