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会社の借金に対し、出資期限が到来していない株主はどのような責任を負うことになるのか?

中国ビジネスレポート 法務
丁志龍

丁志龍

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2023年6月16日

―「会社法(改正草案)」の視点から「株主の出資に対する期限の利益喪失」に関する経緯と立法の変化を考察する

2022年12月30日、中国人民代表大会公式サイトが「中華人民共和国会社法(改正草案)(第二回審議案)」(「草案第二回審議案」)を公布し、パブリックコメントを募集した。「草案第一回審議案」と比較し、「草案第二回審議案」は株主の出資責任の強化、コーポレートガバナンスの整備、董事の責任に関する規定の整備、上場企業ガバナンスの強化を含む4つの方面からの改正が行われようとしている。

株主の出資責任を強化する背景の下で、「草案第二回審議案」には「株主の出資に対する期限の利益喪失」に関する規定もさらに明確にしている。本文では「株主の出資に対する期限の利益喪失」に関する経緯及び立法の変化を分析する。

一、「法定資本金制」から「授権資本金制」へ

中国の会社法で最も早くから採用されていたのは「資本金確定原則」であり、「法定資本金制」の道を歩みながら、登録資本金については「実際の出資払込制」[1]が求められていた。このパターンのもとでは、会社の登録資本金に関する信用を完全に確保することができ、会社の債権者の利益を保護するうえで有利なのは明らかだが、会社の事業者としての参入ハードルを引き上げてしまい、市場の活性化においては不利であった。

そのため、2005年に「会社法」が改正された際、「法定資本金制」は適度に緩和され、「出資の分割払込」[2]という手法が採用された。出資を分割して払込むことは、会社はその登録資本金の一部が払込まれることで成立できることを意味し、登録資本金に対する規制はある程度緩和された。しかし、根本的には「法定資本金制」の呪縛から完全に抜け出したわけではなかった。「初回の最低出資額」および「その残りの出資額の出資期限」に関する規定は、まだ会社の資金調達活動における柔軟性を抑え込んでいた。

このような背景のもとで、2013年12月、「会社法」は会社の資本金制度に対して重大な改革を行い、国際的に流行している「授権資本金制」を採用し、登録資本金の引受登記制度を実施した。すなわち、会社設立時の全株主(発起人)の初回出資比率を制限することなく、会社株主(発起人)が出資を払込期限を定めずに、会社の事業者参入規制を大幅に緩和し、参入ハードルを引き下げることで、国民の投資と産業の振興にさらに有利となり、市場を活性化した。

二、「授権資本金制」に対する必要な改正

「会社法」の関連規定によると、会社は企業法人であり、独立した法人財産を有し、法人財産権を有している。会社はそのすべての財産をもって会社の債務に対し責任を負い、株主はその引受けた出資額/株式を限度として会社に対して責任を負うことになる。

そのため、「授権資本金制」の導入、「登録資本金の引受制度」の貫徹は、投資者にいくつかの認識上の誤りを生じさせやすい。例えば、出資期限を長めに設定すれば、引受けた出資額が多少高くとも、実際には自身が必ずしも本当に払込む義務を負うとは限らない等である。

そこで、多くの投資者は登録資本金の「引受」の権利を乱用し、財力や出資の意思がないにもかかわらず、次々と登録資本金上の「メガ会社」を設立し、出資期限を無限に引き延ばそうと企んだ(例えば、払込期限を100年に設定するなどである)。登録資本金への信頼から、このような会社と取引を行ってしまうと、債権紛争が発生した際、債権者の利益の保護に深刻な影響が及んでしまう。「授権資本金制」に対しての修正として、法律上、「株主の出資に対する期限の利益喪失」の状況について規定を行う必要がある。

三、「株主の出資に対する期限の利益喪失」に関する立法の変化

「登録資本金の引受制」の実施は、法律上、株主に出資方面における「期限の利益」を付与するものである。もしも株主の出資期限の利益をみだりに「喪失」させることができてしまうと、「登録資本金の引受制」を根本的に破壊することとなり、「授権資本金制」から再び「法定資本金制」へと逆行してしまうおそれがある。そのため、「株主の出資に対する期限の利益喪失」の適用には慎重な姿勢を取らなければならない。

今回の「会社法」改正前において、法律では「株主の出資に対する期限の利益喪失」と明記されている状況は、主に2通りである。

1.「企業破産法」(2007年6月1日施行)第35条:人民法院が破産の申立を受理した後、債務者の出資者がいまだ出資義務を完全に履行していないとき、管財人は当該出資者に対し、引き受けた出資額を払込むよう求めなければならず、このとき出資期限の制限は受けないものとする

2.「『中華人民共和国会社法』を適用する若干問題に関する最高人民法院による規定(2)」(2021年1月1日施行)第22条:会社が解散する場合は、株主の払込を終えていない出資も清算財産としなければならない。株主の払込を終えていない出資には、期日が到来しても払込んでいない出資額、及び会社法第26条及び第81条の規定に従い分割して払い込む場合の払込期限が到来していない部分の出資額含む。会社の資産が債務の弁済に不足し、出資額を払込んでいない株主、及び会社設立時のその他の株主又は発起人が出資額を払込んでいない範囲内で会社債務に対して連帯弁済責任を負うべきだと債権者が主張した場合は、人民法院はこれを支持しなければならない。

上記の2つの状況は、いずれも「会社終了」の状況を指している。これも理解しやすいものであり、結局は会社そのものが消失しようとしているときに、株主の出資の「期限の利益」を守り続けても、なんら実質的な意味はないからである。

しかし、会社の正常な経営期間において、すなわち「会社終了ではない」場合にも、上記の「株主の出資に対する期限の利益喪失」を同様に適用できるかどうかについては、司法実務上、大きく意見が分かれており、具体的には以下の通りである。

1.法律の規定という次元から見てみると、「『中華人民共和国会社法』を適用する若干問題に関する最高人民法院による規定(3)」(2021年1月1日施行)第13条では、会社の債権者が、出資義務を履行していない又は完全には履行していない株主に対し、出資額の元金と利息の範囲内で会社の債務が弁済できていない部分について補足賠償責任を負うよう求めた場合、人民法院はこれを支持しなければならない、と定めている。また、「民事執行過程において当事者を変更し、追加するうえでの若干問題に関する最高人民法院による規定」(2016年12月1日施行)第17条では、「被申立人としての営利法人が、その資産が効力のある法律文書により確定された債務を弁済するに足りず、これについて執行申立人が出資を払込んでいない又は完全には払込んでいない株主、出資者、又は会社法の規定に基づき当該出資に対し連帯責任を負うことになる発起人を被執行人として変更し、追加したうえで、出資を払込んでいない範囲で法に依拠して責任を負うよう申し立てた場合、人民法院はこれを支持しなければならない」と定めている。この2つの規定はいずれも「会社終了ではない」状況をいうものである

2.しかし、法律条項の中で「出資義務を履行しておらず又は完全には履行していない」、「出資を払込んでいない又は完全には払込んでいない」に関する内容が、「払込期限が到来していない出資」という状況を網羅できるかどうか、司法実務においては、異なった見方も存在し、多くの案件において同じ事案であっても異なる判決が生じることになり、司法混乱がある程度生じている。

3.また、「『全国人民法院民商事審判作業会議紀要』の印刷配布に関する最高人民法院による通知」(「九民紀要」。2019年11月8日施行)では次のように言及されている。即ち、登録資本金の引受制の下では、株主は法に依拠して期限の利益を享受している。債権者が、会社が期日の到来した債務を弁済できないことを理由に、出資期限が到来していない株主に対し出資を払込んでいない範囲内で会社が弁済できない債務に対し補足賠償責任を負うよう求めた場合、人民法院はこれを支持しない。しかし、下記の状況は除外とする。

(1)会社が被執行人となった案件において、人民法院は執行措置を尽くしたが、執行できる資産がなく、すでに破産事由を具備しているが、破産を申立ていない場合

(2)会社債務が発生した後、会社の株主(総)会が決議又はその他の方法で株主の出資期限を延長した場合。

「九民紀要」の姿勢は、法律で明確に規定がなされる前においては、「株主の出資に対する期限の利益喪失」の適用に対し非常に慎重に扱わなければならず、債権者保護という名目で、株主が法に基づき享受する「出資期限の利益」を容易く否定してはならない、というものである。また、「九民紀要」から新たに追加された2通りの「株主の出資に対する期限の利益喪失」の状況を見る限り、前者は、実質的には「会社終了」時の株主の出資に対する期限の利益喪失に関する規定を受け継ぐものであり、後者については、「債権者取消権」の理論の基盤を有するものであり、論争が起こることもない。

「九民紀要」自体、法律規定でなければ、司法解釈でもなく、直接に司法裁判の根拠とすることができるわけではなく、かつ学界において「株主の出資に対する期限の利益喪失」に関する論争も消えていないことを考慮すると、立法の次元からさらに明確にすることで、論争を止めなければならない。これも今回の会社法改正において、この問題に言及なされなければならない所以である

「草案第一回審議案」では、「株主の出資に対する期限の利益喪失」を容認する旨が明確にされているにもかかわらず、一定の制限が設けられている。「草案第一回審議案」第48条の規定によると、会社は期日が到来した債務を弁済できず、かつ弁済能力が明らかに不足している場合、会社又は債権者は、出資を引受けているが払込期限が到来していない株主に対し出資を繰り上げて払込むよう求める権利がある、とされている。

「企業破産法」の関連規定を踏まえると、「会社は期日が到来した債務を弁済できず」、さらに「弁済能力が明らかに不足している」こと、それ自体が会社破産の原因である。当然ながら、「企業破産法」で定める「出資に対する期限の利益喪失」において、最終的に利益を得るのは債権者全体であるが、「草案第一回審議案」が保護するのは特定の債権者である。この点で、両者にはやはり違いがある。

また、「弁済能力が明らかに不足している[3]」という規定についても、債権者に相対的に重い立証責任を負わせているのは明らかであり、司法実務における多くの案件の状況がよりよく適用されないおそれががある。

最新の「草案第二回審議案」は「草案第一回審議案」の束縛を解いた。その第53条の規定によると、会社は期日が到来した債務を弁済できない場合、会社又は期日が到来した債権の債権者は、出資を引受けているが払込期限が到来していない株主に対し出資を繰り上げ払込むよう求める権利がある。「草案第二回審議案」の上記内容が最終的に可決される場合、「会社終了ではない」場合も同様に「株主の出資に対する期限の利益喪失」の主旨が適用されることを意味する。すなわち、「出資の引受制」を維持した上で、株主の出資責任を強化した。会社が借金を背負った場合、出資期限が到来していない株主たちは引受けた出資の「期限の利益」を享受することはできなくなり、債権者の要求に応じて出資を繰り上げて払込み、債務を弁済しなければならない。

(作者:里兆法律事務所 丁志龍、董紅軍)

 

[1] 「会社法」(1994年7月1日施行)

第23条:有限責任会社の登録資本金は、会社登録機関に登記した全株主が実際に払込む出資額とする。

[2] 「会社法(2005年改正)」(2006年1月1日施行)

第26条:有限責任会社の登録資本金は、会社登録機関に登記した全株主の引受けた出資額とする。会社の全株主の初回出資額は、登録資本金の20%を下回ってはならず、また法に定める登録資本金最低限度額を下回ってはならないものとし、その残りの部分は株主が会社成立日から2年以内に全額払込まなければならない。その中で、投資会社は5年以内に全額を払込めばよい。

[3] 「『中華人民共和国企業破産法』を適用する若干問題に関する最高人民法院による規定(1)」(2011年9月26日施行)

第4条:債務者の帳簿上の資産が負債より多いが、下記のいずれかの状況が存在している場合、人民法院はその弁済能力が明らかに不足していると認定しなければならない。

(一)資金が深刻に不足し又は資産が現金化できないなどの原因で、債務を弁済できない場合。

(二)法定代表者の所在が不明であり、かつ資産を管理する他の人員がおらず、債務を弁済できない場合。

(三)人民法院の強制執行を経て、債務を弁済できない場合。

(四)長期にわたって赤字が続き、かつ経営の赤字転換が困難であり、債務を弁済できない場合。

(五)債務者の返済能力喪失を引き起こす他の状況。

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