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定年の段階的引き上げに関する新規定の考察と使用者の対処法について

中国ビジネスレポート 法務
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董 紅軍

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2025年2月27日

【概要】

2025年1月1日から、中国は法定定年退職年齢の段階的引き上げに関する新規定を正式に実施する。それ以降、法定定年退職年齢は画一的に処理されることはなくなり、使用者の人事管理に新たな挑戦をもたらすことになる。今回の新規定を通しての調整により、法定定年退職年齢の段階的引き上げ、定年退職の弾力的前倒し、定年退職の弾力的引き延ばしに十分に注意を払う必要がある。

【本文】

2024年9月13日、全国人民代表大会常務委員会は「法定定退職年齢の引き上げを段階的に実施することに関する決定」を採択し、「法定定年退職年齢の段階的引き上げに関する国務院による弁法」(以下、「定年退職の引き上げ弁法」と略称する)を承認した。当該弁法は2025年1月1日から実施される。

「定年退職の引き上げ弁法」は計9条あり、その内容は、法定定年退職年齢の段階的引き上げ、基本養老保険の最低納付年数の段階的引き上げ、弾力的定年退職の実施、法定定年退職年齢を過ぎた労働者の権益保障、失業保険金の受給年数の延長、特別な職種などの定年退職時期の前倒し等である。本文は、法定定年退職年齢の段階的引き上げ、弾力的定年退職、新規定が使用者の人的資源管理に与える影響という3つの方面に重点を置いて考察する。

一、法定定年退職年齢の段階的引き上げ

2025年1月1日から法定定年退職目標年齢の引き上げを実施する日までを新規定への移行期間とし、労働者に対し動態的な段階的法定定年退職年齢基準を実施し、従業員は性別とポジションにより3つのタイプに分けられる。

1.男性従業員

1965年1月以前に出生した男性従業員については、その法定定年退職年齢は影響を受けず、依然60歳のままとなる。
1976年9月及びそれ以降に出生した男性従業員については、63歳の法定定年退職年齢を適用する。
1965年1月から1976年9月までに出生した男性従業員については、4か月ごとに1か月延長する基準を実施し、最長で63歳まで、3年の延長となる。

2.管理技術職に従事する女性従業員

1970年1月以前に出生したこのタイプの女性従業員については、その法定定年退職年齢は影響を受けず、依然55歳のままとなる。
1981年9月及びそれ以降に出生したこのタイプの女性従業員については、58歳の法定定年退職年齢を適用する。
1970年1月から1981年9月までに出生したこのタイプの女性従業員については、4か月ごとに1か月延長する基準を実施し、最長で58歳まで、3年の延長となる。

3.非管理技術職に従事する女性従業員

1975年1月以前に出生したこのタイプの女性従業員については、その法定定年退職年齢は影響を受けず、依然50歳のままとなる。
1984年11月及びそれ以降に出生したこのタイプの女性従業員については、55歳の法定定年退職年齢を適用する。
1975年1月から1984年11月までに出生したこのタイプの女性従業員については、2か月ごとに1か月延長する基準を実施し、最長で55歳まで、5年の延長となる。

二、弾力的定年退職

1.弾力的定年退職は、定年退職の弾力的前倒しと弾力的引き延ばしに分けられる

1)定年退職の弾力的前倒し: 従業員が最低納付年数(2030年までに定年退職する場合は、養老保険の最低納付年数は依然15年のままとなる)に達した場合、定年退職の弾力的前倒しを自由意思で選択できるが、前倒し期間は最長で3年を超えてはならず、且つ定年退職年齢は従来の法定定年退職年齢(女性従業員は50歳、55歳、男性従業員は60歳)を下回ってはならない。
2)定年退職の弾力的引き延ばし:従業員が法定定年退職年齢に達し、勤務先と従業員が協議を経て合意した場合は、定年退職の弾力的な引き延ばしを選択することができるが、引き延ばし期間は最長3年を超えてはならない。即ち、男性従業員は最長で66歳にまで引き延ばし定年退職することができ、女性従業員は55歳、58歳という新たな法定定年退職年齢に基づき、最長で58歳、61歳にまで引き延ばし定年退職することができる。

2.弾力的定年退職制度が実施手配される中で、「前・中・後」という3つの定年退職年齢基準が生じる

1)「中基準ライン」:「定年退職の引き上げ弁法」に基づく従業員個人の状況ごとの具体的な法定定年退職年齢である。
2)「前基準ライン」:従業員が定年退職の前倒しを自由意思で選択する場合、現行の法定定年退職年齢(即ち、男性従業員60歳、管理技術職女性従業員55歳、非管理技術職女性従業員50歳)が「法定最低定年退職年齢」となる。
3)「後基準ライン」:使用者と従業員が協議を経て合意し、定年退職の引き延ばしを決定する場合、従業員個人ごとの具体的な法定定年退職年齢が3年プラスされ、それが「法定最高定年退職年齢」である。簡潔に言うならば、法定定年退職目標年齢の引き上げが正式に実施された後、「法定最高定年退職年齢」は男性従業員66歳、管理技術職女性従業員61歳、非管理技術職女性従業員58歳となる。それまでの移行期間中は、従業員個人ごとに適用される段階的な法定定年退職年齢に基づき計算し、確定していく必要がある。

3.弾力的な定年退職政策のもと、使用者の意思と従業員の意思は相反する可能性がある

実際には以下の状況が生じる可能性がある。
1)従業員は定年退職を前倒したいが、使用者は法定定年退職年齢に従い定年退職させたい。この場合、選択権は従業員にあり、使用者は従業員が満足する待遇を提供することで、従業員に留任又は再雇用に応じてもらうようにするしかない。
2)使用者は従業員の定年退職を前倒ししたいが、従業員は法定定年退職年齢に従い定年退職したい。この場合、選択権は従業員にあり、使用者は協議し又は一定の補償を支払うことにより、従業員が定年退職の前倒しに応じてくれるようにするしかない。
3)従業員は法定定年退職年齢に従い定年退職したいが、使用者はその定年退職を引き延ばしたい。この場合、選択権は従業員にあり、使用者は従業員が満足する待遇を提供することで、従業員に留任又は再雇用に応じてもらうようにするしかない。
4)使用者は法定定年退職年齢に従い定年退職させたいが、従業員は定年退職を引き延ばしたい。この場合、選択権は使用者にあり、使用者は従業員の要求を拒否することも、従業員と労働条件と待遇について別途協議することもできる。

三、新規定が使用者の人的資源管理に与える影響

1.求人募集及び採用の段階別管理

1)使用者は、高齢従業員を求人募集、採用する際に、従業員に適用される法定定年退職年齢に関心を払い、適切な労働又は労務関係を構築しなければならない。
2)法定定年退職年齢に達しておらず、定年退職を前倒ししてもいない従業員に対しては、労働契約を締結し、労働関係を構築しなければならない。
3)定年退職手続きを行った従業員に対しては、現在の司法実践における主流の観点に準じて労務関係を構築しなければならない。しかし、労務関係の下での「基本権益」の適用については、関係する法律法規と司法実践において更に明確化されていく必要がある。
4)法定定年退職年齢を過ぎているが、定年退職手続きを行っていない従業員に対しては、具体的な状況(定年退職手続きを行っなていない原因を含む)を総合的に評価し、今後の関係する法律法規と司法実践においてさらに明確化されていくことを受け、適用される法律関係を確定しなければならない。

2.日常のマネジメント段階における全体的調整

1)従業員の定年退職年齢の到達時点に注意を払う
新規定が実施された後、従業員ごとに法定定年退職年齢が異なるため、使用者は新規定に基づき従業員の定年退職の時期到達時点を遅滞なく点検し管理し、係る管理行為又は決定を行う際には、従業員に適用する法定定年退職年齢及びその影響に特に注意を払う必要がある。

2)使用者の雇用に関する書類を調整する
使用者の規則制度において、定年退職の前倒し又は引き延ばしの条件、業務の引き継ぎ、事前通知、損害賠償などの定年退職の前倒し又は引き延ばしに関する事項を明確にし、従業員の定年退職の流れのためのガイドラインを提供する。また、新規定に関係する状況に対し、契約書又は確認書のテンプレートを予め用意しておく。

3)定年退職時期到達時点での留任状況を遅滞なく確認する
使用者は、既に手続きを行った定年退職の引き延ばし(及び締結された留任契約)が「定年退職引上弁法」に違反する状況が存在していないかどうかを遅滞なく確認し、現地の人的資源社会保障部門と遅滞なく相談し、係る留任契約を廃棄、更新、修正する必要があるかどうかを確認しておくとよい。

3.従業員の退職段階ではリスク防止制御に注意する

1)15+5従業員に対する解雇保護
「労働契約法」第42条第(5)項の規定によると、使用者は、本組織で満15年勤続し、且つ法定定年退職年齢までの期間が5年に満たない従業員(即ち、「15+5従業員」)については、業務に堪えることができないこと、医療期間が満了した後に業務に就くことができないこと、客観的状況に重大な変化が生じたこと、経済的解雇を理由に、一方的に従業員との労働契約を解除してはならないとされている。そのため、使用者が上記の理由をもって、従業員との労働契約を一方的に解除したい場合、従業員に適用される法定定年退職年齢を確認し、且つ従業員が当該「解雇保護」が適用される15+5従業員に該当するかどうかを確定しなければならない。

2)労働契約の終了に関する事項
新規定が実施された後、使用者は新規定の下で従業員に適用される法定定年退職年齢だけでなく、従業員の従来の法定定年退職年齢にも注意を払わなければならない。
●新規定の法定定年退職年齢に達していない従業員に対し、もしもその従業員が定年退職の前倒しを自由意思で選択する場合、会社は定年退職の前倒しの条件(即ち、最低納付年数に達していること、前倒し期間が3年を超えないこと、年齢は従来の法定定年退職年齢を下回ってはならないこと)を満たすかどうかを確認し、条件を満たす従業員の定年退職手続きに遅滞なく協力しなければならない。
●新規定の法定定年退職年齢に達した従業員に対し、会社は原則としてその従業員の定年退職手続きに遅滞なく協力しなければならない。
●新規定の法定定年退職年齢に達した従業員に対し、協議を経て、双方が定年退職の引き延ばしに合意した場合、会社は従業員と定年退職の引き延ばしに関する契約を締結し、定年退職の引き延ばしと雇用継続に関する双方の意思を確定しておき、そして約定された定年退職の引き延ばし年齢に達した際に、定年退職手続きに遅滞なく協力できるようにしておくとよい。

法定定年退職年齢の段階的引き上げという政策の実施は、使用者の雇用管理上、多くの挑戦と新たな要求をもたらすことになる。使用者は政策の細則に注意を払い、新規定が使用者にもたらす潜在的な法的リスクを防止しなければならない。

(作者:里兆法律事務所 董紅軍、山月)

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