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ログイン2025年8月18日
概要
国務院が2025年3月23日に公布した「『中華人民共和国反外国制裁法』の実施規定」(以下「実施規定」という)は、報復措置の適用ルールを詳細化し、中国外部からの一方的な制裁への対応能力を強化することを目的としている。本文では、外資系企業が新しい規定を正確に理解し、戦略を柔軟に調整し直し、中国市場における安定した発展を維持するための一助となるよう、実施規定の主要条項を解説し、それが中国進出企業に与える影響を簡潔に分析し、外資系企業が自らどのような措置を講じて対応すべきかについて紹介する。
一、主要条項の解説
1.適用対象
「反外国制裁法」の規定を基にして、実施規定は以下の状況に対する報復措置の適用をさらに明確にしている。
(1)外国が国際法及び国際関係における基本原則に違反し、さまざまな口実又は自国の法律に基づき中国を封じ込め、抑圧し、中国の公民と組織に対し不当な制限措置をとり、中国の内政に干渉する行為を行った場合。例えば、ある国が貿易分野で中国に対し不合理な関税や制限措置を講じ、経済的手段を通じて中国を封じ込めようとする等。
(2)外国の政府、組織、個人が中国の主権、安全、発展の利益を脅かす行為を実施し、協力し又は支援した場合。例えば、ある外国の組織と個人が虚偽情報の流布及びサイバー攻撃等の手段を通じて、中国の国家の安全と安定を脅かそうとする等。
2.報復措置の種類及び内容
「反外国制裁法」では、国務院の関連省庁部門が講じることのできる4タイプの報復措置が明確に列挙されていた。今回の「実施規定」では、これらの措置についてさらに詳細な規定が設けられ、それぞれの措置の内容が具体的に説明されるとともに、タイブ別の報復措置を実行する機関が明確になった。
(1)出入国制限:ビザの発給拒否、入国禁止、ビザの取消し又は国外追放が含まれ、国務院の外交、国家移民管理等の関係省庁部門が担当し実施する。
(2)財産制限:中国国内にある動産、不動産及びその他の各種類の財産(現金、手形、銀行預金、有価証券、ファンドシェア、持分、知的財産権、売掛金等の財産及び財産権を含む)を差し押さえ、押収し、凍結すること。これらは国務院の公安、財政、自然資源、交通運輸、税関、市場監督管理、金融管理、知的財産権等の関係省庁部門がその職権に基づき実施する。
(3)取引及び協力の制限:中国国内の組織及び個人が、該当者と関連する取引や協力等の活動を行うことを禁止し又は制限すること。教育、科学技術、法律サービス、環境保護、経済貿易、文化、観光、衛生、スポーツ分野の活動が含まれるが、これらに限定されない。これらは国務院の教育、科学技術、司法行政、生態環境、商務、文化と観光、衛生健康、スポーツ行政等の関係省庁部門がその権限に基づき実施する。
(4)その他の必要な措置:中国に関連する輸出入活動を禁止し又は制限すること、中国国内での投資を禁止し又は制限すること、関連物資の輸出を禁止すること、データ及び個人情報の提供を禁止し又は制限すること、関連する個人に対し中国での就業許可、滞在又は居留資格を取り消し又は制限すること、罰金を科すことを含むが、これらに限定されない。
3.省庁部門間で連携した法執行メカニズム
国務院の外交、商務、発展改革、司法行政等の省庁部門は、報復措置作業の調整メカニズムを確立し、国務院の関係省庁部門間での連携協力と情報共有を強化する。例えば,ある国が中国企業の同国における投資に対し不合理な制限又は不当な取扱いを行った場合,商務部は当該国企業の中国での投資状況を審査し,発展改革委員会は当該国企業の中国での投資への影響を評価し,制限又は禁止措置を提案し,司法部はこれらの措置の合法性を確保するための法的支援を提供することができる。
4.行政処罰及び処理
(1)法に依拠し報復措置を実施しない組織又は個人に対しては、是正を命じ、政府調達、入札募集と入札、並びに関連貨物、技術の輸出入又は国際サービス貿易等の活動に従事することを禁止し又は制限し、海外からのデータ及び個人情報の受領又は海外への提供を禁止し又は制限し、出国や中国での滞在・居留等を禁止し又は制限する。
(2)不当な制限措置を実施し、又は実施に協力する組織又は個人に対しては、国務院の関係部門は、面談を行い、是正を命じ、対応する処理措置を講じる。
二、中国進出外資系企業への影響とコンプライアンス推奨措置
「実施規定」の施行後、中国における一部の外資企業は「二重のコンプライアンスのジレンマ」に直面する可能性がある。即ち、中国の法律に従う必要がある一方で、親会社の所在国の制裁要求にも対応しなければならない。例えば、外資企業の親会社が、本国が中国企業に課す輸出規制と制裁措置を遵守する必要があり、外資企業が親会社のコンプライアンス方針を厳格に実施し、当該中国企業への技術支援又は製品の提供を停止した場合、中国政府から、外国による不当な制限措置に協力していると見なされる可能性があり、中国の反外国制裁法及び実施規定に違反することになる。この場合、外国企業及びその親会社の中国における事業は制限され、法的処罰を受ける可能性もある。
これらに鑑み、中国進出外資系企業の参考に資するよう、以下のコンプライアンス推奨措置を紹介する。
1.一部の中国進出外資系企業には、親会社の規則や契約書のひな型をほぼそのまま使用する慣習があり、親会社のコンプライアンス方針を厳格に遵守すると、中国の報復措置を誘発するリスクがある。そのため、親会社のコンプライアンス方針が中国の報復法規に抵触しないかどうかを定期的に評価し、親会社のコンプライアンス部門と連携してバランスを取るメカニズムを構築し、親会社の方針を実施したことにより中国法律を違反してしまわないようにすることが推奨される。同時に、親会社からの契約書のひな型を見直し、外国による制裁の実施又は中国企業の制限に協力するとみなされる条項及びその他の不当な条項が含まれていないかどうかを確認し、中国法と外国法との抵触を解決する方法について明確に規定し、外国制裁に関するコンプライアンス条項を追加し、外国制裁の実施又は支援の疑いがある場合の契約当事者双方の責任の定義と法的結果を明確にしておくのがよい。
2.報復リストが随時更新されることにより、外資企業はサプライヤーや顧客についてリアルタイムでの審査を実施する必要がある。もし、サプライヤー、顧客、又はその株主が中国の報復リストに含まれていることが判明した場合、企業は直ちに取引を中止しなければならない。さもなければ、財産の凍結や取引制限等のリスクに直面する可能性がある。報復措置を実施することにより協力関係が中断される場合、企業は早期に法律顧問の助言を求め、取引中止による潜在的な法的責任を評価し、緊急対応計画を事前に準備しなければならない。
3.重大な国外関連プロジェクトを立ち上げる前に、企業は、とりわけクロスボーダー取引、国際的な法的紛争又は機微な分野(エネルギー、科学技術、国防等)に関わる可能性のあるプロジェクトについては、法律、政治、経済等の幾重もの次元から全面的なリスク評価を実施すべきである。進行中の重要かつ機微な海外投資プロジェクト並びに運営過程において国際的なサプライチェーンに強く依存する国内プロジェクトについては、国際的な政治と経済環境の変化に照らしながら、プロジェクトのコンプライアンスリスクを再評価すべきである。
4.実施規定の要求に基づき、外資系企業は、制裁対象へのデータ提供を防止するため、厳格なデータ及び個人情報の管理措置を講じるべきである。具体的な措置としては、ローカライズされたデータ保存の実施、定期的なデータセキュリティのコンプライアンス監査の実施、クロスボーダーデータ受領者とのコンプライアンス契約の締結、データ保護責任条項の明確化、中国の法律に違反しないようにすること等である。
5.社内では、報復措置に関する研修を定期的に実施し、従業員の報復措置の発動につながる行為(例えば、海外制裁調査への協力又は企業機密情報の漏洩等)への参与禁止を明確にする。同時に、法律事務所等のコンプライアンス専門機構と協力関係を構築し、報復措置に関する問題又は訴訟リスクに直面した際のタイムリーなコミュニケーションを確保するとともに、適法なコンプライアンス対応のための法的助言及び支援を得るようにする。 とりわけ、重大な国際投資、M&A、提携契約の締結等を伴うプロジェクトについては、プロジェクトに起因する法的リスクを回避できるよう、専門の弁護士を起用しコンプライアンス監査を実施するとよい。
(作者:里兆法律事務所 董紅軍、沈思明)
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