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自動車リコールをめぐる中国の賠償問題

中国ビジネスレポート 法務
劉 新宇

劉 新宇

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2010年6月18日

記事概要

現在、リコールをめぐる立法動向として、「欠陥製品リコール管理条例」の制定作業が進められており、国家品質監督検査検疫総局の担当者によれば、2010年中にも公布・施行される見込みとのことである。本稿では自動車リコールをめぐる中国の賠償問題を解説する。【2,558字】

「私が出勤できなかった間の給料、いったい誰が補填してくれるの?」-北京のあるドライバーは、リコールの対象となった愛車を指差して、ため息をついた。

報道によると、最近、ある日本の自動車会社は、中国国内において自社製造自動車のリコール修理を行った。もっとも、訪問修理、代行車の手配、手付金返還、経済的損失の補填など一連の補償を受けることができたのは、浙江省の顧客のみであった。このように地方ごとに異なる対応について、特に補償を受けられない地域のドライバーから疑問・不満の声が上がった。

今回のリコールに関して、浙江省と他の地方とで、どうしてこのような対応の差異が生じたのであろうか。

国家品質監督検査検疫総局が2004年に他の3機関と共同制定した「欠陥自動車製品リコール管理規定」(以下、「リコール管理規定」という)は、その第3条において、自動車製品の生産(輸入)者は、その生産(輸入)した自動車製品に欠陥があったときは、リコールの義務を負い、また、その欠陥を除去するための費用、必要な輸送費を負担する旨を定めている。

この「リコール管理規定」は、全国人民代表大会及び常務委員会、国務院等が定めた法律、行政法規ではなく、単なる部門規則にとどまるため、中国法体系におけるその位置づけはそれほど高くない。最高人民法院の「裁判文書における法律法規等規範性法律文書の適用に関する規定」によると、民事裁判は、法律、法律解釈、司法解釈を根拠としなければならず、また、適用すべき行政法規、地方法規、自治条例、単行条例もその直接的な根拠とすることができるが、それ以外の規範性文書は、当該事件における必要性に応じて、審査のうえ合法かつ有効と認められた場合に限り、説得力補強のための根拠とすることができる、とされている。

例えば、「リコール管理規定」3条は、リコールのため必要となった輸送費につき、生産者がこれを負担するものと定めているが、この「必要な輸送費」の意義は必ずしも明らかでない。ドライバーがリコール対象車を修理に出す過程で生じた燃料費が「必要な輸送費」に該当するか否かについては、意見の対立がある。そのような燃料費が「必要な輸送費」に含まれるとしても、中国法体系における「リコール管理規定」の位置づけゆえ、リコールにおいて生じた燃料費の支払を消費者がこの規定に基づいてメーカーに求めたとしても、裁判所がこれを認めるとは限らず、あくまで「リコール管理規定」は裁判における説得力補強の根拠にしかならない、との見解もある。

そこで、「民法通則」の損害賠償に関する規定が重要となるが、中国の損害賠償制度は、「補填原則」に則り、基本的に直接損失のみを賠償の対象としている。このことから、自動車メーカーがリコールにより製品の欠陥を修復除去すれば、その法的義務を果たしたこととなり、輸送費、燃料費、交通費、出勤不能であった期間の賃金などを負担する必要はない、と考えられている。

これに対し、「消費者権益保護法」は、国家の規定又は消費者との約定により修理(中国語:包修)、交換(中国語:包換)、返品(中国語:包退)の対象となる商品(いわゆる「三包商品」)については、修理、交換、返品が義務づけられ、修理保証期間内に2回の修理を行っても通常の使用に耐えないときは、交換・返品をしなければならず、消費者が修理、交換、返品を求める商品が大型であるときは、その輸送費など合理的な費用も負担しなければならない旨を定めている。

このように、「三包商品」と認められる商品であれば、その修理のみならず、輸送費、燃料費、交通費、出勤不能期間の賃金など合理的費用の負担も必要となる。しかし、「三包実施商品目録」によると、自動車はそのような商品に含まれないものとされている。したがって、リコール対象自動車につき、消費者が「消費者権益保護法」に基づいて賠償責任を請求しても、それが認められることは考えにくい。

以上のように、現段階の中国において、自動車のリコールがなされた場合における賠償について定めた法律、行政法規はまだ整備されていない。

ところが、浙江省「中華人民共和国消費者権益保護法実施弁法」は、大型の「三包」実施商品につき、訪問サービス、輸送の義務とともに、これを行わないときは、輸送費、出勤不能期間の賃金、宿泊代などの合理的費用を負担しなければならない旨を定めている。また、浙江省は、自動車を「三包商品」に含める独自の目録も制定した。これらは、中国において他に例のない立法である。

自動車リコールをめぐる対応が各地で異なるという冒頭で述べた現象は、中国各地方の立法が一律でなく、しかも浙江省のように国家の規定を超える法整備を進めた地方が存することに由来する。したがって、浙江省以外の顧客は、自動車メーカーに対して合理的な費用を要求する法的根拠が乏しく、実際に、浙江省以外の顧客がそのような費用を要求して訴訟を起こした事例は今のところ見受けられない。もっとも、自動車リコールが社会問題化した現在においては、裁判所が前出の「リコール管理規定」に照らし、また公平原則にも則って顧客の訴訟請求を認める可能性も考えられる。

このリコールの問題と関わる重要法令として、中国では、2010年7月1日より、「権利侵害責任法」(2009年12月26日公布)の施行が予定されている。同法46条は、流通後の製品に欠陥が発見されたときは、その製造者、販売者は、速やかに警告、リコール等の措置をとらなければならず、この措置を速やかに行わなかったため、あるいはその措置が不十分であったために損害が生じたときは、その権利侵害にかかる責任を負わなければならない旨を定める。同法は、中国全土で適用される普遍的な製品リコール制度を定めた法律であるが、リコールの対象となった欠陥に関する賠償については、明確な規定を設けていない。

現在、このリコールをめぐる立法動向として、「欠陥製品リコール管理条例」の制定作業が進められており、国家品質監督検査検疫総局の担当者によれば、2010年中にも公布・施行される見込みとのことである。この行政法規の公布・施行により、自動車リコール法制度がさらに整備されるものと期待される。

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