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【中国深読みコラム】第32回~中国の水道事情~

中国ビジネスレポート マーケティング
松本 健三

松本 健三

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2016年7月1日

 今年の梅雨は九州地方で連日の豪雨の一方、東京の飲料水源地である関東北部では雨が降らず夏の渇水が予想されています。中国では日本の梅雨はないと思われがちですが、華東地区ではあります。上海市気象台は6月19日、梅雨入り宣言をしました。例年二十四節気で「小暑」に当たる7月10日前後まで続きます。
中国では華北(北京、天津)地区で水道代が高く、南に行くに従って水道料金が下がります。これを「南水北調」と云いますが、今月は中国の上下水道事情を解説します。

 今年6月18日から続いた大雨の影響を受け揚子江の流域などで洪水や土砂崩れが相次いで発生、22日までに42人が死亡、25人が行方不明となり、中国政府は約46万人を避難させ救助活動を行っている、と中国のテレビや新聞では報道されています。被害が出ているのは浙江、安徽、江西、湖北、四川、貴州、雲南省など10の省・自治区・直轄市。約6,800 棟の建物が倒壊、農作物にも被害が出ており経済的損失は計96億7千万元(約1,530億円)に上ると伝えています。
堤防が決壊
(揚子江中流に位置する江西省翻陽県では湖の堤防が決壊(6月22日、新華社)

 古来、中国では治山治水は為政者の最大のテーマで、三大河川(華北の黄河、華中の淮河、華南の長江)のうち、特に黄河の治水は、治黄と呼ばれ最も古い歴史を有しています。司馬遷の史記には、帝尭(ギョウ)の時に洪水が止まらなかったので、鯀(コン)に治水を行わせたが9年経っても成果が上がらず罷免され、その子の禹(ウ)が事業を引き継ぎ、河水の分水により治水を成功させ、その功績により夏王朝(紀元前2070年頃~紀元前1600年頃)の始祖「文命」皇帝になったと記されています。この夏王朝を起源とする華夏族が漢民族を構成する主体であり、現在の中国人となりました。ですから今でも、中国の統治者=国務院(政府)の総理は、地方で洪水が発生すると、まず一番に駆けつけ現地で指揮を執る、という慣例になっています。
 
 現代では世界最大の三峡ダムを始め各地に治水用のダム(兼水力発電所)ができましたが、これを浄水場で濾過して送られてくる水道水の値段はいくらでしょうか?上海市内の場合、現在の価格は1トン=1,000リットル当り3.45元(約57円)です。中国の場合、水道水は硬水で飲料に適しませんので、家庭や事務所では20リットル入りの飲料ボトルが20元(約330円)程度で買われています。1トンの価格に換算すると1,000元(約16,500円)です。水道水に較べると実に290倍の価格になります。
 更に、コンビニで500mLのボトル水を3元(約50円)で買うと1トン6,000元(約10万円)となり、水道水の1,740倍の価格になります。これが本当の水商売の語源に近い暴利です。

 中国の水資源量は国土の大きさに起因して世界第5位と豊富ですが、人口も世界1位と多いので一人当たりでは世界10位です。
<世界の水資源量(10億m3)/一人当たり>
(1)ブラジル:8,233/27,551m3(3位)
(2)ロシア:4,508/30,169m3 (2位)
(3)アメリカ:3,069/9,044m3 (4位)
(4)カナダ:2,902/89,082m3(1位)
(5)中国:2,840/2,130m3 (10位)
(日本14位:430/3,364m3、(6位)
(出典:国土交通省水資源部データ)

 水道事業はどこの国も極めて公共性の高いインフラ分野なので地方政府が経営していますが、中国でも水源は所在地の政府、上下水道は地方政府、又は地方政府傘下の投資会社が運営しています。中国全国の上水事業者は約1,500社(下水事業が300社で一部重複)で国有企業と外資を含む民間企業が併存しており、フランスのVeolia社とSuez社が全国4位と15位の中国水事業上位にランクされています。日系では2010年に三井物産がシンガポールのハイフラックス社と合弁でGalaxy NewSpring社(中国名:凱発新泉水務)を設立、中国全土で上下水・リサイクル水事業の開発、操業、運用管理を行っています。

 上下水道の普及率は上水道については、都市部で90%超、農村部でも70%超に達しており、更なる普及の余地は限定的と見られ、一方下水道については都市部では80%超ですが、農村部では30%程度と極めて低く今後の普及余地が残されています。
 最後に中国で水道料金が一番高い都市と一番安い都市をご紹介します。中国では料金設定が各地方政府の裁量に委ねられていることから、水道料金は地域毎に大きく異なります。水道料金は用途によって生活用、工業用に分けられ、各々の料金についても地方政府が決定します。主な都市の生活用水道料金(上下水道代金)は以下の通りです。

(出典:中国水網。元/1トン。高い順)
(1)5元:北京
(2)4.9元:天津
(3)4.2元:長春
(4)3.84元:成都
(5)3.7元:重慶
(6)3.45元:上海、昆明
(7)3.3元:石家庄
(8)3.2元:寧波、深セン、ハルピン
(9)3.1元:大連、蘇州
(10)3.05元:済南
(11)3元:フフホト
(12)2.98元:南京
(13)2.9元:西安
(14)2.88元:広州
(15)2.8元:太原、アモイ
(16)2.7元:貴陽
(17)2.65元:南寧
(18)2.55元:福州、蘭州
(19)2.5元:青島、銀川
(20)2.4元:瀋陽、海口
(21)2.35元:南昌
(22)2.32元:武漢
(23)2.28元:長沙
(24)2.25元:鄭州
(25)2.14元:合肥
(26)2.12元:西寧
(27)1.85元:杭州
(28)1.36元:ウルムチ
(29)1元:ラサ

 これを見ると北方が高く、南方が安いことが読み取れ、また水源や河口流域に近い都市の価格が相対的に安いことが理解できます。
 新中国建国当初の1952年に毛沢東は「南方は水が多いが、北方は水が少ない。できるのであれば、南方の水を借りればよい」と大胆な構想を発表し、以後50年に亘り研究され、2002年に当時の朱鎔基首相により「南水北調」プロジェクトとして、第10次5カ年計画(2001~2005年)に総投資額約5,000億元(約8兆円)が予算化され実行されました。長年の華北地域の水不足は解消されましたが、コストの高い貴重な水となっています。

以上

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