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中国リスクマネジマント(7) 労働組合(工会)について

中国ビジネスレポート 労務・人材
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2006年4月26日

<投資環境>

これだけは知っておきたい! 中国リスクマネジマント(7)

 

前回、日本から総経理として赴任した場合に直面する通訳、会計、労務管理の総論について述べましたが、今回は労務管理におけるリスクマネジメントをテーマ別に考えてみたいと思います。 

「中国人」の特徴である‐「集団主義では無く個人主義」、「面子を重視」「権利意識が強い」「公私のけじめが薄い」−から「中国の労務管理」について考えてみましたが、そのから浮き上がる中国人労務管理のキーワードは、「成果主義(働けば働くほどお金が儲かる)」「契約書の重視(公私混同罰則を含む細かいことまで文書で規程をする)」「透明性のある人事考課と処遇」の3点が重要となります。

しかし、親日の地域である大連開発区で昨年9月はじめ、東芝から始まって、三菱電機、イトキンと3社で立て続けにストライキが発生しています。今回は、労働争議と関連のある労働組合(工会)について見てみたいと思います。

 

1 「結社の自由」のない中国社会

中国は「階級のない社会」であるために、労使の階級対立を前提とした先進国と同じような労働組合は存在しません。したがって、未許可の職場放棄やストライキは違法であり、刑事罰の対象になります。また、「結社の自由」が中国では認められていないために、工会法で認められた「工会」以外の自主的な労働組合は違法となります。日本で認められているような街頭でのデモやビラ配りも処罰の対象です。このような行為は、中国では「労働秩序を乱す行為」として処罰されます。

 

2 日本の労働組合との違い

工会法で認められた「工会」の役割は、日本の労働組合の役割とは異なり、従業員間の親睦、学習の機会提供、生産性向上のための支援、転職のための再教育などを通じて、従業員の福祉の向上に貢献することが基本的な役割となります。日本の会社組織でいう人事部福祉課の役割のようなイメージで捉えたほうが実態に近いといえます。

 

3「工会」の労働争議時の役割

中国では「労働争議」の調停方法は労働争議処理条例により決められており、その調停に「工会」は重要な役割を負っています。「労働争議」が発生した場合には、社内に「労働争議調停委員会」が設置されます。

委員長には、工会の主席が就任し、企業と従業員の調停を行う第三者としての役割を果たします。即ち、「工会」は「労働争議」の処理のための仲介者であり、日本の労働組合というよりも、労務管理の重要なパートナーと言えます。

 

かつて、日系製造企業が業績連動型のボーナス制度に移行する方針を発表したところ、3,200名の従業員がストライキを行い工場の操業停止に追い込まれました事件がありました。従業員側の言い分では「会社側の決定には事前の相談も無く雇用条件の変更をするのは不合理である」というものでした。「工会」があれば、従業員に事前の説明があるのですが、この企業には「工会」は無く、労務管理のパイプに「工会」を使わなかったことが多きな原因だった様です。この点からも、「工会」の積極的な活用を考慮した労務管理も重要と言えます。

 

以上、労働組合の観点から「中国の労務管理」について考えてみましたが、一人っ子政策の影響が出つつある現在の中国での労務管理はこれだけでは不十分です。

最近、中国従業員の本音を探るために中国で満足度アンケートをとり、ストライキなどの原因を特定し、労務管理上のリスクマネジマントを請け負うことが増えています。

ストライキなどの原因を探ると、極端な場合、社員食堂のメニューが一品他の工場より少ない、出身省が異なりいじめにあっているが上司に言っても取り合ってくれないなど日本人から見ると非常に子供的な回答が返ってきます。

これらのアンケート結果を見るにつけ思われることは、採用時点での選択眼が重要だということです。今度は、採用に関する注意事項を見ていきたいと思います。

 

1 労働関連法

中国には労働問題の基本法である「労働法」以外にも、「外国投資企業労働管理規定」「集団契約規定」「労働促進法」「失業保険条例」「労働契約法」「労働監督検査条例」など様々な労働規約、規定、通達などがあります。労務管理には、その解釈も重要ながら各雇用場所における地域差、実情にたいする理解と対応が重要になります。

 

2 「人治国家」の色合いが濃い人事関連

労務全般に言えることですが、中国では、「人治国家」の性格が、個人主義、家族愛、仲間意識などに遺憾なく発揮され、地域保護主義に結びついています。したがって、現地行政機関との折衝が重要であることから、地域の実情に詳しい中国人の労務担当者の確保以外にも、地域の弁護士の確保、労務コンサルタントの確保が必要です。

 

3 採用時の注意

採用にあたって重要な事は、先ずは、自社の採用目標、人材スペックを明確にする事が重要です。これがはっきりしていないと結局良い人材を取ることはできません。また、採用時には、中国人の労務担当者を同席させ、その労務担当者が理解できるよう人材スペックも具体的な資格(日本語一級など)などで採用の基準を明確にしておくことが重要です。日本の本社の基準を持ち込むという安易な方法は絶対に避けるべきでしょう。

 

4.   募集方法

募集は人材紹介業者を利用するのが一般的です。その他、新聞、人材情報雑誌、政府主催の人材市場の活用なども可能です。人材紹介業者利用のメリットは、成功報酬型であること、細かな求人条件を提示する事ができる点です。

 

5.   採用試験の注意

採用試験で重要な点に「作文」の試験を課すことが有効です。中国では非識字者が多いからです。地方に行けば行くほどその傾向が顕著になりますので、注意が必要です。また、従業員が採用時に提出した書類に虚偽のある事があります。「黒子」といわれる小学校に入れない子どもの存在(一人っ子政策の弊害ですが)が背景にあるようです。

 

6.   人事の定着化

また、採用後、優秀な従業員の定着率を図るためにも、賃金体系の明確化、実力主義、実績重視の賃金体系を事前に設計しておく必要があります。採用面接の時に即時に返答が出来ないようですと、良い人材は採用できません。

 

以上採用上のリスクマネジメントを考えて見ましたが、次に、現地の従業員を採用するにあたっての雇用契約上の注意事項を述べてみたいと思います。日系企業の中には、雇用を口頭、電話などで済ませている方もいらっしゃるようですが、199511日に施行された「労働法」により、労働契約を書面で締結することを義務付けており、中国の雇用は原則期間雇用であることが決められています。

                                        

かつて国有企業全盛の時代の中国の雇用は「鉄飯碗」「鉄椅子」「鉄工賃」の「3鉄」が原則でした。「鉄飯碗」は壊れない、即ち食いはぐれない、「鉄椅子」も壊れない、即ち一度登った地位は決して下がらない、「鉄工賃」は崩れない、即ち一度上がった賃金は決して下がらない、というのが特徴でした。この概念を壊したのが、199511日に施行された「労働法」です。旧来の労務概念を壊した点と外資にもその遵守を拡大させた点に特徴があります。

この「労働法」に基づいた雇用契約書作成上の記載事項での諸注意は、以下の点です。

 

(1)  試用期間

「労働法」では、6ヶ月以内と規定されています。一般的に一年契約の場合には3ヶ月の試用期間が多いようです。試用期間中は、不適格とみなした場合には、30日の予告期間及び経済的補償なしに労働契約を解除する事が可能です。したがって、雇用主には有利かつ重要な記載事項になります。

 

(2)  労働契約期間

期間の契約を忘れた場合には、男性で満60歳、女性は満50歳まで、解雇事由が発生しない限り解雇はできなくなります。したがって、期間の契約は大変重要です。また、10年以上の連続勤務の後は、企業側が拒否しない場合には、終身雇用となりますので、企業側としては、契約更新時に注意が必要となります。

 

(3)  職務内容

企業側の事情で職務内容が変更する可能性を明記すべきです。そうしないと配置転換を従業員から拒否されても文句を言えないことがあります。

 

(4)  就労時間

現在は週40時間制(一日8時間)が採用されていますが、工場労働者には、総合労働時間計算性を適用して、一日2交代で一日12時間の労働を実施する事も可能です。

 

(5)  給与

金額とともに、その金額が手取りなのかを明示する必要があります。法定福利費の個人負担分や個人所得税まで、金額に入っていると思われ、思わぬ出費と問題が発生します。

 

(6)  労働契約の排除

懲戒解雇事由を数多く明記すべきでしょう。日本では考えられないような事由もあるようです。

 

(7)  秘密保持

特にホワイトカラーが対象ですが、「企業機密」を明記し、違反者には民事のみならず刑事告発も辞さないことを明らかにする必要があります。また、特別な研修を受けさせても直ぐに転職をしてしまう可能性がある場合には、少なくても3年間は拘束、または、違約金の規定を設けるということも可能です。

 

中国の労務管理で重要な事は文書による明確さです。また、教育格差も多い中国ですから単純で明快であることが非常に重要です。その例として、「罰金細則」を作成することも重要ですが、例えば「みだりにしゃべったり、大声で喧嘩をしない」「トランプ・将棋をしない」「許可無く会社の宿舎に泊まらない」などを明記して、規程を守らない場合には1回発見されるごとに10元の罰金を科すというような、日本では小学生に言うような内容を明確に記載する事が重要です。

(2006年4月記・3,841字)
コンサルビューション・代表
高原 彦二郎

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