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従業員のコンプライアンス問題(利益相反、利益移転、業務上横領)の対処と処理

中国ビジネスレポート 労務・人材
郭 蔚

郭 蔚

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2019年9月6日

従業員は雇用主(又は「会社」)が発展していくうえで無視できない重要な役割を担っている。しかしながら、ひとたび会社が発展して大きくなると、会社の従業員が私利私欲にとらわれて不正行為を働いたりすることもしばしば発生する。雇用主の利益を守り、従業員によるコンプライアンス問題の発生を効果的に防止するためには、雇用主はこのような問題に対し、意識的に策略をめぐらせて処理しなければならない。そのためには、雇用主は、よく見られる従業員によるコンプライアンス問題をよく理解し、且つ対処手順を熟知したうえで、これらによってもたらされるマイナスの影響を効果的に防ぎ、迅速に処理し、引き下げるようにしなければならない。

一、従業員によるコンプライアンス問題の典型パターン

従業員によるコンプライアンス問題にはさまざまなパターンがあり、例えば、従業員がサプライヤーと結託し、架空取引を行ったり、虚偽の経費精算をしたりするなどである。実践においては、利益相反、利益移転、業務上横領という3パターンが比較的よく見られるものであり、これらの従業員によるコンプライアンス問題について、以下の通り簡潔に紹介する。

1.利益相反

中国法上では、「利益相反」について明確には定義されておらず、通常、「利益相反」とは、従業員としての立場又は業務上の職責から、従業員の個人利益と雇用主の利益が互いに相反していることをいうと考えられている。一般的に雇用主は、就業規則の中で利益相反を構成する状況をについて明確に定めている。利益相反のよくあるケースとして、次のものがある。
(1)従業員が自己の名義又はその親族の名義をもって会社を設立し、雇用主と取引を行うもの。
(2)従業員が自己の名義、親族の名義をもって別途会社を設立し、雇用主と同じ又は類似した業務を扱うもの。

利益相反は、必ずしも会社の利益を損なうとは限らず、例えば、従業員はサプライヤーとの特別な関係を利用し、会社のために相対的に低い見積価格を獲得するよう努めることもあり得る。とはいえ現実には、利益相反はしばしば腐敗を生み出すことから、雇用主は通常、利益相反の存在そのものを可能な限り避けたいと考えるはずである。

2.利益移転

中国法上では、「利益移転」について明確に定義されておらず、通常、「利益移転」とは、会社の従業員が不法な手段により、会社に帰属の資産又は利益を個人に移転する行為をいうと考えられており、通常、第三者を経由して行われる。実践において、利益移転のよくあるケースには以下のものがある。
(1)従業員はより多くのビジネスチャンスの提供を条件として、サプライヤーから提供される財物又はその他の利益を受け取るというもの。
(2)従業員が自己の実質的に支配している会社と雇用主との間で架空取引を行い、又は市場価格を上回る価格で取引を行うことで、不正な利益を自己のものにするというもの。

3.業務上横領

業務上横領とは、雇用主の職員が職務上の便宜を利用して、本組織に帰属する財物を不法に着服する行為をいう。金額が大きくなれば、犯罪になり得る。実践において、業務上横領のよくあるケースとしては、以下のものがある。
(1)従業員が発票を濫用して経費を精算し、又は架空の発票をもって経費を精算するというもの。
(2)従業員が職務上の便宜を利用し、会社の資産を転売するというもの。

なお、利益相反、利益移転、業務上横領がそれぞれ指しているケースは異なるが、これらの分類は厳密な法的分類ではないことから、この3パターンの問題は一部が重なり合っているものもある。例えば、利益移転に列挙してい第(2)番目のケースは、それ自身利益相反に該当し、且つ業務上横領の要件も満たしている。

二、従業員によるコンプライアンス問題の対処にあたって

従業員によるコンプライアンス問題を対処するには、雇用主が日常の経営活動において、係る措置(即ち、事前の対処)をしっかりと実施しながら、雇用主がひとたび従業員コンプライアンス問題を発見した後は、迅速かつ効果的にそれを処理し(即ち、事中の対処)、同時に、当該問題に伴うマイナスの影響を最低限に抑止するための措置(即ち、事後の対処)を講じることが求められる。本件について、筆者からは雇用主に対し、以下の通り助言したい。

1.事前の対処
(1)会社の就業規則を整備しておくこと。会社の就業規則は従業員コンプライアンス問題を処理する上での重要な根拠となる。雇用主は就業規則において利益相反、利益移転といった問題について明らかに定めてかなければならない。実務上、従業員に「利益相反が存在しない」ことについての誓約書の提出を求め、利益相反に該当する状況が生じた場合には速やかに会社へ報告するよう従業員に求めている雇用主もある。
(2)従業員に関する情報の収集を整備すること。従業員コンプライアンス問題を処理するうえで、信頼できる従業員の背景情報は大きな役割を果たす。これについて、雇用主は従業員の入社時に、関係情報の提供(例えば、従業員の履歴書、家族構成の情報、連絡先住所など)を従業員に求めるのがよい。
(3)通報ホットラインを設置すること。内部通報は、雇用主が従業員のコンプライアンス問題を発見するための重要なルートである。例えば、通報メールボックス又は通報ホットラインを設置するなど、便利で効率的な通報ルートを用意しておくのがよい。

2.事中の対処
(1)迅速かつ効果的に処理すること。初期の調査、証拠収集を経て、係る従業員にコンプライアンス問題がある(以下「対象従業員」という)ことを確認できた場合、対象従業員があらかじめこれを察して口裏を合わせ、又は関連する証拠資料を隠滅するなどということがないよう、雇用主は可能な限り迅速に処理しなければならない。
(2)証拠を固めておくこと。初期の調査、証拠収集及び対象従業員との面談において、注意して証拠を固めていく必要がある。これには例えば、録音、重要なメールデータのバックアップ、業務用パソコンの回収といった方法が考えられる。
(3)労働法上のリスクに注意すること。雇用主が対象従業員と労働関係を解除することを決定した場合は、当該従業員の反則行為がすでに労働法規又は就業規則に定める解雇条件を満たしており、係る証拠の裏付けがあるように注意しておかなければならない。また、手続としては、相手方に解雇通知書を送付する以外に、事前に労働組合に通知を行うという手順も踏んでおかなければならない。

3.事後の対処
(1)対象従業員の責任を追及すること。対象従業員に対し、労働法に基づく処分を行うほか、雇用主は協議や交渉、民事訴訟などの方式により、雇用主にもたらした経済的損失を賠償するよう対象従業員に要求することも可能である。犯罪を構成する場合、刑事告訴を通じて、対象従業員の刑事責任を追及することができる。
(2)関係するサプライヤーの処理。もしも従業員コンプライアンス問題にサプライヤーも関係しており、利益移転を証明できる明確な証拠がない場合、係る契約における義務の履行をみだりに中止することなく、契約の約定に基づいて係る処理方法を選択すべきである。
(3)対象従業員のその後の行動に注意を払うこと。対象従業員の特定の事情に基づき、当該従業員のその後の行動に適度に注意を払う必要がある。もしも当該従業員が過激な行動をとり、又は対外的に不適切な言論をまき散らすようなことがあれば、雇用主は速やかに対処しなければならない。

三、従業員コンプライアンス問題に対処するための手順

従業員コンプライアンス問題の対処について概ね把握したうえで、事中の対処として、筆者は実務上の経験を踏まえ、一般的な取扱手順をまとめた。このような問題を迅速かつ効果的に処理できるよう、雇用主はこれをもとに、自社の実情を踏まえて整理するとよい。従業員のコンプライアンス問題を発見した場合、通常、次の手順を踏まえて処理する。

1.初期調査、証拠収集

潜在的な従業員コンプライアンス問題を発見した場合、雇用主は秘密保持を確保できるうえで、小範囲で調査及び証拠収集を始める必要がある。この場合、雇用主は外部の専門機関を起用して、手がかりをもとに証拠を調査、収集し、固めていくのもよい。

初期調査、証拠収集を通じて、事案の概観を概ねに把握し、今回の事案に係る主体の範囲、注目すべき重要なポイントなどを判断することができる。初期調査及び証拠収集を通しても確認できず、又は確認が待たれる事実関係については、後述する「対象従業員との面談」などの段階において個別に確認するとよい。

2.対象従業員との面談

対象従業員と面談する前に、雇用主は必要な準備作業を行わなければならない。それには、対象従業員の基本情報(家庭環境、仕事のパフォーマンス、健康状況、精神状態など)を把握し、相応の事前措置を講じる(警備員の現場での待機要否など)。

対象従業員と面談する過程において、事案の事実関係について話すほか、以下のこともしっかりと行っておくのがよい。
従業員に就業規則違反の疑いがあること及びその結果を対象従業員に明確に伝えること。
面談内容をしっかり記録し、対象従業員のサインを求めておくこと。
面談の全過程を録音しておくこと。

対象従業員との面談が終わった後、必要に応じて、雇用主は会社の物品(入退出カード、業務用携帯電話、業務用パソコンなど)を返却し、業務を一時中するよう対象従業員に求めるようにし、対象従業員は必要な私物だけを持って会社を離れることができ、会社からのさらなる指示を待つしかない。

3.しかるべき措置とは

初期調査の結果及び面談の状況を踏まえ、雇用主は就業規則などの規則制度に基づいて関係者に対し処分の決定(例えば、出勤停止・停職、労働契約解除など)を下すとともに、必要な労働法上の手順を踏むことができる。刑事犯罪を構成する場合は、雇用主から公安機関に通報するとよい。

つまり、従業員コンプライアンス問題を完全に撲滅することはできないが、雇用主はこのような問題を重要視し、積極的にしかるべき措置を講じることで、効果的に防止し、迅速に対処し、利益及び声価が損なわれることを最大限抑えることができる。また、定期的に社内コンプライアンス研修を実施することも、従業員のコンプライアンス問題を効果的に抑止するための長期的な措置であると言える。

(里兆法律事務所が2019年4月4日付で作成)

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