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アジアでビジネスリフォームが始まる-自動車産業の「自由貿易圏」対応-

中国ビジネスレポート 各業界事情
旧ビジネス解説記事

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2003年7月15日

<各業界事情>
アジアでビジネスリフォームが始まる
−自動車産業の「自由貿易圏」対応−

アジア・マーケット・レビュー 2003年7月1日号掲載記事)

自由貿易圏(FTA)の出現は、アジアの自動車生産地図をどう塗り替えるのか。AFTA(ASEAN自由貿易圏)と日本、中国とASEAN、さらには日韓中、豪州も合めた広域環太平洋地域など、将来に可能性のあるFTAの組み合わせはいくつかある。そのなかで、日本の自動車産業はどう立ち回るのか。ASEAN市場での最大勢力というだけでなく、出遅れた中国でも大きな影響力を持つに到ったいま、日本の自動車メーカーでは新たな将来構想を模索する動きが始まっている。中国からASEANを経て豪州に至るまでの広大な地域でのビジネスリフォームである。各国・各地域の保護貿易主義や産業政策に振り回されることなく、今後は世界市場でビジネスを展開する企業として、それぞれの路線を歩むことになるわけだが、過去に莫大な投資をしてきた日本の自動車メーカーは、どういう将来像を描いているのだろうか。

台湾から対岸の中国へ

日産自動車と東風汽車集団、日中のナンバーツー同士が手を結ひ、6月7日に東風汽車有限公司が設立された。この直前、5月20日に台湾でパートナー関係にある裕隆汽車と日産が新裕隆を設立し、旧裕隆は台湾での車両製造のみを扱う会社となったが、そのステップを経て日産と東風が合弁会社を設立した意味は大きい。新裕隆は、中国で東風汽車有限公司が製造する日産モデルのマーケティング、部品購買、さらには中国向け仕様の開発にまでかかわる。つまり、裕隆汽車は台湾企業の枠を超えるということだ。

台湾は中国本土よりモータリゼーション(社会の自動車化)の歴史は古く、裕隆汽車はことしで創立50周年を迎える。日産との関係も44年と長い。しかし、裕隆の危惧は『台湾市場の頭打ち』にあった。日産と東風が中国政府の意向も聞きながら包括的提携の話し合いをする中で、日産の古い友人である裕隆の立場も重視された。その結果が、裕隆を中国・台湾での日産のパートナーへと発展させる決定だった。裕隆側の関係者は「これで台湾と中国の政治的関係がどうなろうとも、新裕隆は飛躍できる」と語っている。

台湾の自動車業界は、三菱自動車工業が15.4%を出資する中華汽車が年産約10万台でトップ、2位はトヨタ/日野合計56.4%を出資し経営権を握る国瑞汽車、裕隆は3位につける。以下、産福特六和(フォード・リーホ=フォード/マツダが70%出資)、三陽工業(本田技研が13.5%出資)と続く。この5社はそれぞれ年産能力が10万台を上回っており、台湾のITバブルが弾けてからは生産台数の低迷に悩んでいる。台湾の自動車市場そのものも、今後は代替中心と見られている。

裕隆同様に、中華汽車も中国本土への影響力を強めつつある。福建省の東南汽車に対し50%を出資することから、東南汽車の事業内容への関与が増えてきた。

広州本田汽車は三陽工業系のサプライヤーからも部品を購入している。中国南部の沿岸地帯に展開する自動車工場は、すでに台湾と密接な関係にあり、その流れは台湾進出している日本の自動車メーカーが作ったと言っていい。。

GMとフォードの豪州戦略

台湾よりも成熟した自動車市場である豪州は、92年に日産が撤退したことで自動車生産はGM、フォード、トヨタ、三菱の4社に集約された。自動車普及率は1.55人に1台と高く、人口も2,000万人弱であることから、台湾以上に代替中心の成熟市場である。今後の動向としては、段階的に引き下げられてきた輸入車関税が05年に現在の15%から10%へと移行することから、輸入車市場の拡大が見込まれている。すでに輸入されているタイからのピヅクアップ・トラック以外にも、中国製セダンの輸入などが見込まれる。

他のアジア諸国とオーストラリアの関係では、GMが現地法人のGMホールデン社からASEANと中国へのエンジン輸出を拡大させる。当初の計画よりプログラムは増え、投資額も7億ドルまで増額となる見込みだ。上海GMが生産追加する中型セダンにも、ホールデン製のエンジンが搭載されることが決まった。また、フォードもオーストラリア・フォード社を広域アジアでの生産販売活動のなかで有効活用する方向を検討している。

もちろん、トヨタと三菱も「ASEAN、中国、台湾と豪州の関係」については検討を行っているが、具体的なプログラムはまだ開始されていない。緊急を要する課題がないからだろうか。完成車の輸出については、トヨタが「カムリ」をタイ向けに出荷し、三菱は「ディアマンテ」を北米に輸出するなど、徐々にビジネスの領域を広げつつある。

GMホールデンの関係者は、筆者の取材に対して「日本の自動車メーカーはアジア大洋州地域にあまりにも多くのプロジェクトを持ちすぎている。何らかの交通整理、スクラップ・アンド・ビルドが必要な時期に来ている」と語ったが、実際、交通整理し切れない部分も出てくるだろう。東南アジアにこれだけの生産拠点を展開していることを、GMやフォードは「歴史的な背景を考慮しても、明らかに重複投資だ」と指摘する。逆に、GMはタイとインドネシアの拠点を最大限に活用し、フォードは台湾とタイ(マツダとの合弁)でASEANをカバーするという集中生産計画だ。

しかし、GMやフォードがASEANでの生産・販売を増やすには、日本の盟友の協力が不可欠である。GMはいすゞ、スズキ、富士重工、フォードはマツダを、それぞれ活用する。GM系ではオペル(ドイツ)の車種がタイで生産されているが、売れ筋の小型セダンや1tピックアヅプはGM独自商品がない。現地の日系企業からの部品調達も含めて、必ずしも集中生産の欧米勢が効率的とはいい切れない状況がASEANにはある。過去の投資を回収しながら、現在の設備をムダにしないためにはどうしたらいいか、トヨタと三菱が結論を出すまでにはもう少し時間がかかるだろう。

ASEANの出資比率増加傾向

その一方で、ASEANの日系自動車工場はAFTA体制をにらんだ交通整理に入った。これまで各国政府の自動車政策に沿った展開を行ってきたが、AFTA体制下でいよいよ完成車の域内関税が0〜5%に引き下げられることから、地域ごとの生産分が明確になる。そこで、製造部門を分離して子会社化するケースが増えてきた。トヨタはインドネシアの現地法人から販売部門を切り離し、年内に出資比率を95%まで引き上げる予定。同様の方向は、各社が計画または検討している。

ホンダは製造と販売の一体化を進めている。タイ、フィリピン、インドネシアに続いてマレーシアの現地法人を子会社化した。「生産システムをホンダ標準に切り替え、販売とアフターサービスまでを含めたホンダ・ウェイの展開」がねらいだ。ホンダのグローバル生産ネットワークにASEAN4工場を組み込み、その先には中国の輸出専用工場との連携がある。

過去、ASEANに展開する日系自動車メーカーは、遅々として進まない資本自由化や政府主導の車種政策を批判しながらも、忍耐強く付き合ってきた。その関係が精算されるわけだが、年産規模5〜6万台、あるいは10万台という規模は、生産集中が進んだとしても中途半端なものだ。資本注入して経営の主導権を握ったとしても、規模に見合ったコスト体質を完成させるには購買の見直しも必要になってくる。その点で注目されるのが、トヨタの情報システム更新だ。

トヨタが扱うすべての自動車部品には、製造メーカー、設計年次、購入価格、対応車種などがわかる固有のコード番号が振り当てられている。これを全世界の生産拠点およぴ協力部晶メーカーが共有できるシステム作りを現在進めている。設計図面の英語化と設計につかうコンピューター・ソフトウェアの統一はすでに完了しており、新しい部品コード・システムが稼働すれば海外工場での部品購買、設計変更から開発分担などがスムーズに行えるようになる。

タイヘの開発拠点設置は、トヨタをはじめ日産、ホンダ、三菱。いすゞなど各社が実施または計画しており、グローバル商品をべ一スにASEAN域内車種への改造を行う際には、日本はまったく関わる必要がなくなる。この分野は、欧米勢が逆立ちしてもかなわない部分だ。

日本文化圏へのプロセス

それと商品。タイのピックアップのように、優遇税制に支援されて販売を伸ばしてきた車種をどう発展させるかの将来計画が、ASEAN内生産拠点の稼働率を高めるのには必要になる。集中生産するにしても、それぞれの国、地域になにを振り分け、どういうプラットホーム(車両の基本骨格)を使い、将来展開のオプションをどこまで用意するかの決断は難しい。しかも、中国までを視野に入れなければならない。

たとえば、日産自動車は、中国の鄭州日産に中国国内のフレーム方式車種(ピックアヅプとSUV)を集中させている。これは東風汽車有限公司で生産される日産車6車種とは違うラインナップであり、将来、中国からのSUV輸出は充分に考えられる。また、自社でのSUV生産を止めてしまったいすゞは、タイエ場で生産しているピックアップをべ一スにSUVを開発・製造する計画を進めているが、インドネシアで生産中の多目的ワゴンとの棲み分けと生産分担については未定。インドネシア分をタイに移管する可能性は否定できない。

自動車に限って言えば、北米と中米はアメリカ文化圏、南米には欧州勢が割って入ったが、全体で見れば米国圏と言える。太平洋を隔てた反対側は、日本がしっかりとイニシアチブを握る「日本文化圏」になれるだろうか。日本メーカー各社の最終目標はそこにあるのだが、どういうプロセスでそれを達成するのかという青写真は、まだ見えてこない。

(ジャーナリスト・牧野茂雄)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

アジア・マーケット・レヴューは企業活動という実践面からアジア地域の全産業をレポート。日本・アジア・世界の各視点から、種々のテーマにアプローチしたアジア地域専門の情報紙です。毎号中国関連記事も多数掲載されます。

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