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中国版ナスダック市場が始動 ―中小・ベンチャーの資金調達を支援―

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2004年8月31日

<各業界事情>

中国版ナスダック市場が始動
―中小・ベンチャーの資金調達を支援―

アジア・マーケット・レビュー 2004年7月15日号掲載記事)

 「中国版ナスダック市場」が動き出した。中国の深セン証券取所でベンチャーなど中小企業を専門とする株取引が開始され、米国の店頭市場「ナスダック」と同様にベンチャー企業の上場窓口となる役目を担うと期待されている。中国では国営会杜や大手民間企業の株式市場の上場が優先され、中小・ベンチャー企業が株式市場から資金調達する道は事実上閉ざされていた。このため、中国政府は、中小・ベンチャー企業を対象とした専門的な取引所を開設することで、こうした企業の資金調達を支援し、中国経済の新たな牽引役になってもらうことを目指している。

 「これまで中国の株式市場をめぐっては、大手企業が中心的な役割をになってきた。しかし、大手企業の成長には限界があり、米マイクロソフトや日本のソニーのような次世代を担うベンチャー企業を発掘することで、海外から中国の株式市場に今後も投資資金が流入することを狙っている」(人手証券会杜幹部)とされている。 中国では、中小・ベンチャー企業の上場予備軍が2,000社以上もあると指摘されており、こうした企業が上場すれば、将来的にも中国に海外からの資金が継続的に流れ込むことになる。中国政府は今後、この中国版ナスダック市場の整備を進める一方、この取引所を将来的には深セン取引所と切り離し、深セン取引所と上海取引所を合併させるとみられている。しかし、中国の株式市場をめぐっては、証券会什や取引ルールの近代化などで多くの課題も抱えている。このため、アジア地域の証券取引所が連携して株式市場の活性化を進める機運も高まっており、アジア各国における証券取引所間の提携も進展しそうだ。

IPO停止という強硬措置

 中国版ナスダック市場の開設構想は、1990年代半ばから進められてきた。一時は中国国内の中業・ベンチャー企業を対象にして聞き取り調査を実施したほか、証券取引所への上場基準の具体的な緩和策なども検討したが、IT(情報通信技術)バブルの崩壊でこの構想は頓挫した。その後、しばらくは水面下で検討作業が進められたが、関係者の思惑が対立するなど、市場開設に向けた具体像は固まらなかった。この構想が動き出したのは、中国政府が2002年になって突然、深セン取引所におけるIPO(新規株式上場)を停止する措置に踏み切ったためだ。このIPO停止に伴い深セン取引所が失った税収は約10億元に達するとの見方もあり、財政面で大きな打撃を受けた。中国政府は、IPO停止の理由として「過度な株式取引バブルを一掃するため」などと説明しているが、証券市場関係者の間では「中国版ナスダック市場構想に協力しない深セン取引所を迫い詰めるために強硬措置に打って出た」という見方が有力視されている。
 1990年に設立された上海取弓1所に続き、深セン取引所は91年に開設された。香港に近く、金融業も盛んな広東省に証券取引所を設けることで広東省の有力企業や金融業の株式上場を期待し、資金調達を支援するのが目的だった。しかし、上海・浦東地区の発展にともない大手企業の株式上場は上海に集中する傾向をみせ、上海取引所に比べた深セン取引所の地位低下は明らかだった。このため、中国政府は深セン取引所を大幅に衣替えして中国版ナスダック市場に位置付けようとしたが、深セン取引所は総合証券取引所を志向するなど思惑の違いが鮮明になっていた。こうした対立の結果、2002年になって中国政府は深セン取引所におけるIPOを停止に踏み切った。IPO停止という強硬措置で深セン取引所の存在感はさらに低下し、2000年に514杜あった上場企業数は今年6月現在で496杜に減少した。株式時価総額をみると、2000年の約半分にまで落ち込んでいる。深セン取引所での上場を廃止した企業の中には、ITバブルの崩壊や過剰な多額の不良債権などで倒産に迫い込まれた企業もあるが、その多くは上海取引所に移っている。

上場第1号は飼料添加剤メーカー

 こうした中国政府の「圧力」で、深セン取引所は中小企業部門を今年6月に開設した。この新部門は、人民元建てA株市場の傘下に置かれ、中国政府が外国の証券会杜などに適用する「適格外国機関投資家制度」の資格を保有する海外の金融機関を通じて、海外の投資家もこの上場企業に投資することができる。上場基準や情報開示などの規定は、現在の深セン取引所が定める内容とほぼ同じだが、運用や管理体制などは独立しており、独自の株価指数なども公表する。「中国では中小企業の約8割が銀行からの融資を受けられない状況となっており、成長を目指す中小・ベンチャー企業の新たな.資金調達手段として注目を集めている」(大手証券会杜幹部)という。中国政府はこの上場基準などを今後、段階的に規制緩和していく方針であり、将来的には深セン取引所と完全に切り離して独立した取引所にするものとみられている。その段階で深セン取引所自体は上海取引所と合併し、上海取引所を中国全土を代表する証券取引所として位置付ける計画だ。中国版ナスダック市場を新興企業向け、上海取引所を大企業向けに差別化することで、海外からの投資資金を有効的に呼び込む一方、企業の設備投資資金の確保などを図る方針だ。
 この中国版ナスダック市場への上場第1号である化学工業品メーカーの新江新和成は、発行済み株式の約26%に相当する3,000万株を市場で売却する。発行価格は1株13.41元で、3億8,500万元を株式市場から調達する予定だ。飼料添加剤などを製造販売している同杜は、国家重点ハイテク企業にも指定されており、2003年の売上高は9億5,000万元、純利益は6,900万元の優良企業だ。第1号案件だけに失敗は許されず、「数ある侯補企業の中からとくに優良な会杜が選ばれた」(大手証券会杜幹部)という。中国版ナスダック市場への上場が可能な中業・ベンチャー企業は、中国国内に2,000杜程度はあるとされる。上場企業は順次、増やしていく計画だが、中国政府は既存の上海、深セン取引所に投資資金が流入しなくなることを恐れており、当面は50杜程度の上場にとどめる見通しだ。実際に中国の株式市場は、高い経済成長に比べて低水準にある。代表的な株価指数である上海総合株価指数は玩在、2001年6月に記録した過去最高値に比べて20%以上安い水準だ。これは中国政府がインフレ懸念などから金融引き締めに乗り出すとの観測が強まり、最近の株価が軟調傾向を示しているためでもあるが、年率8%という高い経済成長と比較して株価はかなり低い水準にあるのは否定できない。

日本市場で中国企業が上場

 上海や深セン取引所に上場しているのは、大手の国営企業がほとんどであり、政府が保有する株式割合が高いだけに市場に流通している株式は少なく、流動性に乏しいことが海外投資家の購入意欲を減退させている。また、こうした国営企業は相対的に成長性が低く、投資家の成長期待に応えられる余地が小さいことも株価水準の低迷につながっている。日本では中国株取引は新たな投資商品として注目されているが、中国国内の投資家などは以前のような活発な株取引をみせておらず、「とくに国内の個人投資家の株離れが目立つ」(大手紹介者幹部)と指摘されている。さらに中国企業の情報開示に対する姿勢にも問題がある。中国の上場企業は最近になって四半期業績の開示に向けた準備を始めているが、まだ半期ごとの開示が大半だ。中国政府は欧米並みの情報開示を求めているが、財務や決算などに携わる人員が不足していることもあり、不正会計の防止や経営に重大な影響を与える情報の適時開示などに問題も指摘されている。
 こうした中で、日本版ナスダック市場を目指している東証マザーズに中国企業が上場することが決まった。新興・ベンチャー向けの東華マザーズは、新たな上場侯補企業としてアジア企業の誘致を進めており、中国国営の新華杜通信傘下にある経済情報サービス会杜「新華財経」が年内にも上場する。1999年に設立された同社は、新華社グループが持つ中国国内企業2,000杜の財務情報や信用格付け、株価や債券の指数などの経済データを提供しており、最近では欧米のニュース配信会杜を買収するなど事業を拡大させている。日本国内での事業拡大に必要な資金を獲得するため、日本の株式市場への上場を決めた。同杜は米ナスダックと香港証券取引所からも誘致を受けていたが、日本での事業展開をにらんで知名度を高めるためには、日本国内での上場が得策と判断した。東証はバブル崩壊後、世界の株式市場における存在感が低下し、東証外国部の上場企業はピークだった1991年の4分の1に激減している。このため、東証は中国との連携で今後も中国企業の上場に意欲をみせており、中国版ナスダック市場にノウハウ提供などで協力することも検討している。

(松尾泰介)

本記事は、アジア・マーケット・レヴュー掲載記事です。

アジア・マーケット・レヴューは企業活動という実践面からアジア地域の全産業をレポート。日本・アジア・世界の各視点から、種々のテーマにアプローチしたアジア地域専門の情報紙です。毎号中国関連記事も多数掲載されます。

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