中国で董事および高級管理職に就く外国籍人員は、他の外国籍従業員と同じく、法に則り中国において個人所得税を納付しなければならない。また、場合によっては外国籍の董事および高級管理職の税負担はより重いものとなる。本文では外国籍董事および高級管理職の中国における個人関連税務の法的根拠、職位の定義、主要原則、分類計算などの見地から、外国籍董事および高級管理職が中国において個人所得税をどのように計算し納付するかの問題について簡潔に分析する。
(一) 法的根拠について
中国の「個人所得税法」および「個人所得税法実施条例」の他にも、中国国家税務総局は主として個別規定を制定する方式で、徐々に外国籍董事および高級管理職の中国における個人税務に関する法的根拠を確定、完備させつつある。主な個別規定を以下の表にまとめた。
【表一】
規定名称
概要説明
1. 「中国国内に住所を持たない個人の取得した賃金所得に伴う納税義務の問題に関する通知」(国税発 [1994]148号)
– 主として、外国籍董事および高級管理職の中国における個人所得税の納付に関する一般原則、ならびに国内、国外所得の区分方法などを規定した。
2. 「中国国内に住所を持たない個人の個人所得税の計算納付に伴う若干具体問題に関する通知」(国税函発 [1995]125号)
– 主として、外国籍董事および高級管理職が実際に中国国内、国外で働いた時間の判定、ならびに国内で働いた時間が一ヶ月に満たない場合の税額計算方法などを規定した。
3. 「中国国内に住所を持たない個人の租税協定および個人所得税法の実施に伴う若干問題に関する通知」(国税発 [2004]97号)
– 主として、外国籍董事および高級管理職の納税義務の判定と実際に働いた期間に関する時間基準、ならびに納税義務者毎の具体的な税額計算公式などを規定した。
4. 「中国国内で董事または高級管理職に就き住所を持たない個人の個人所得税の計算に適用する公式に関する回答」(国税函[2007]946号)
- 主として、元の規定の具体的な税額計算公式における不完全、不明確な点について、納税義務者毎の具体的な税額計算公式などを改めて規定した。
(二) 職位の定義について
中国の「会社法」および前述の各種税収規定に照らせば、本文において個人所得税を計算納付する外国籍董事および高級管理職の職位の定義は以下のとおりとする。
【表二(1)】
職位
概要説明
1. 外国籍董事
– 中国国内に設立された企業(外商投資企業を含む)は通常、董事会を意思決定機関として設立する必要があり、董事会構成員たる董事(外国籍董事を含む)は通常、企業の株主が任命派遣しまたは選任する。
2. 外国籍高級管理職
– 通常では中国国内の企業で高級管理職の任に就く外国籍人員を指し、具体的には会社の正・副総経理、各職能部門の総責任者、総監およびその他の類似職務の人員(たとえば、財務、販売など会社の重要部門の総責任者)を含む。
– 実際には、上記定義にはある程度の幅と不明確性が存在し、中国各地域において、現地の情況に合わせた更なる定義付けを行うことになる。たとえば、上海地区における外国籍高級管理職は、現在のところ中国国内企業の正・副総経理の任に就く外国籍人員に限られている(これは税法上の高級管理職に関する定義であり、会社法、労働法上の高級管理職の定義とは異なる)。
なお、中国が各国、各地区と締結した租税協定における「董事費条項」には、通常以下の二つの状況が含まれる。
【表二(2)】
状況
相手国
税額計算方法の区分
1. 「董事費条項」に高級管理職を含むことを明記している。
– 例:カナダ、ノルウェー、スウェーデン、タイなど。
– 外国籍高級管理職と外国籍董事の税額計算方式は完全に同じである。
2. 「董事費条項」に高級管理職を含むことを明記していない。
– 例:日本、アメリカ、シンガポール、中国香港およびマカオなど。
– 以下の状況においては、外国籍高級管理職と外国籍董事の税額計算方式は完全に同じである。外国籍高級管理職が董事職を兼務する場合、および外国籍高級管理職は名目上董事職を兼務していないが、実質的に董事の権益を得ているまたは董事の職責を履行している場合。
– その他の状況*においては、外国籍高級管理職と外国籍従業員の税額計算方式は同じである。
付注:上記【表二(2)】のとおりの区分はあるが、便宜上、本文では外国籍高級管理職と外国籍董事をひとくくりの主体(すなわち、外国籍董事および高級管理職)として分析を行う。また、上記【表二(2)】の「*」の状況に該当する場合は、一般外国籍従業員の税額計算方式に照らして計算することになる。
(三) 主要原則について
中国で董事および高級管理職に就く外国籍人員の個人所得税を計算する場合、主として以下の表にまとめた原則に留意する必要がある。
【表三】
主要原則
概要説明
1. 納税義務の区分
– 外国籍董事および高級管理職の中国における住所の有無ならびに中国滞在期間に応じて、外国籍董事および高級管理職は異なる納税義務を負う。
2. 2項目の所得の区分
– 国内所得:実際に中国国内で働いた期間に取得した賃金報酬であり、支払元の主体が中国国内または国外であるかを問わず、全て中国国内を源泉とする所得に該当する。
– 国外所得:実際に中国国外で働いた期間に取得した賃金報酬であり、支払元の主体が中国国内または国外であるかを問わず、全て中国国外を源泉とする所得に該当する。
3. 2項目の期間の区分
– 中国での納税義務を判断する期間:入国、出国、海外と往来しまたは複数回往復した当日は、いずれも一日として中国における滞在日数を計算する。
– 実際に中国において働いた期間:入国、出国、海外と往来しまたは複数回往復した当日は、いずれも半日として中国において働いた日数を計算する。
4. 税額を全体で計算した上での区分
– 国内、国外所得については、中国の法定徴税範囲に該当するかを問わず、個人の全ての所得(国内、国外所得を含む)に基づき個人所得税を計算した上で、徴収、不徴収、徴収免除の割合、および当月実際に中国において働いた日数の割合などの個々の状況に区分して、個人所得税の税額を計算、調整、確定する。
(四) 分類計算について
外国籍董事および高級管理職の中国における住所の有無および中国滞在期間に応じて、通常以下の5つの状況に分けられる。
【表四(1)】
状況
概要説明
①
– 中国に住所を持つ場合。外国籍董事および高級管理職が中国に住所を持つ場合とは、税務上、不動産の使用、所有権を有することを指すのではなく、通常は中国の戸籍を有することを指す(中国は二重国籍を認めていないため、実質的には既に非外国籍人員である)。
②
– 中国に住所なく、滞在期間が5年を超えている状況で、6年目より満1年滞在した場合。中国に住所なく、滞在期間が5年を超えている状況で6年目よりという期間計算基準は厳格であり、連続した5納税年度(中国の納税年度は暦の年度と同じであり、以下同様とする)におけるいずれの年も、中国滞在満1年の基準(1納税年度において、一時的な出国が1回30日を超えず、または複数回の出国の累計が90日を超えない)を満たしており、かつ6年目以後(6年目を含む)のいずれの年も中国滞在満1年の基準を満たすことを指す。
③
– 中国に住所なく、滞在期間が1年以上5年未満の場合。すなわち、中国に住所なく、1納税年度において中国滞在満1年の基準を満たすことを指す。
④
– 中国に住所なく、連続した滞在期間が90日(租税協定の期間は183日)以上1年未満の場合。
⑤
– 中国に住所なく、連続した滞在期間が90日(租税協定の期間は183日)未満の場合。
上表の状況を確定してから、国内、国外所得の区分、および支払主体の区分を行ったうえで、個々に納税義務を確定する必要がある。具体的には以下のとおりである。
【表四(2)】
状況 |
中国国内所得 |
中国国外所得 |
A:国内の主体が支払う
B:国外の主体が支払う
C:国内の主体が支払う
D:国外の主体が支払う
①
○
○
○
○
②
○
○
○
○
③
○
○
○
×
④
○
○
○*
×
⑤
○
×
○*
×
付注:【表四(2)】における「○」は「課税」を意味し、「×」は免税を意味する。また、④と⑤の「*」は、外国籍董事および高級管理職と一般外国籍人員との中国における納税義務の最大の違いであり、すなわち外国籍董事および高級管理職は課税、一般外国籍人員は免税となる。
上記納税義務を確定したうえで、以下の計算公式に基づいて具体的な計算を行う。便宜上、本文では外国籍董事および高級管理職と一般外国籍人員とで計算公式を分けている。
【表四(3)】
状況
具体的な計算公式
①
– 外国籍董事および高級管理職と一般外国籍人員の計算公式は同じ:
納税額=[(A+B+C+D)-費用控除基準]×適用税率-速算控除額
②
– 外国籍董事および高級管理職と一般外国籍人員の計算公式は同じ:
納税額={[(A+B+C+D)-費用控除基準]×適用税率-速算控除額}×[1-(B+D)÷(A+B+C+D)×(当月の国外で働いた日数÷当月の日数)]
③
– 外国籍董事および高級管理職の計算公式:
納税額={[(A+B+C+D)-費用控除基準]×適用税率-速算控除額}×[1-(B+D)÷(A+B+C+D)×(当月の国外で働いた日数÷当月の日数)]
– 一般外国籍人員の計算公式:
④
納税額={[(A+B+C+D)-費用控除基準]×適用税率-速算控除額}×(当月の国内で働いた日数÷当月の日数)
⑤
– 外国籍董事および高級管理職の計算公式:
納税額={[(A+B+C+D)- 費用控除基準]×適用税率-速算控除額}×(A+C)÷(A+B+C+D)
– 一般外国籍人員の計算公式:
納税額={[(A+B+C+D)- 費用控除基準]×適用税率-速算控除額}×(A+C)÷(A+B+C+D)×(当月の国内で働いた日数÷当月の日数)
付注:【表四(3)】の各項計算公式におけるA、B、C、Dの指す意味は【表四(2)】を参照のこと。目下、中国の外国籍人員に対する法定の「費用控除基準」は4,800人民元である。
中国で董事および高級管理職に就く外国籍人員は、中国における個人所得税の納税額を計算する際に、一般外国籍人員の場合と類似するところも、異なるところもあるため個人所得税の過払い、不足払い、遺漏などが生じないよう、中国法で定められた要求に従って計算、納付することに留意しなければならない。
(2012年12月 里兆法律事務所作成)