<税務・会計>
中国税務ここがポイント(2)中国の外商投資企業の企業所得税制
永岡稔
前回は、中国における外商投資企業等の企業所得税制の大枠についてお伝えしました。今回はその続きで、保税区の外商投資企業所得税の優遇政策およびその手続きについて、更に詳しく解説して行きます。
.保税区の優遇税制(外高橋保税区)
日本企業が多く進出する地域の一つとして、保税区があります。保税区では、各種貿易、輸出加工、倉庫、輸送、商品の展示等、金融等の業種が特に奨励され、特に上海の外高橋保税区は、中国の華東地区に進出する際の足掛かりとして、日系企業が数多く進出しています。ここでは、外資系企業は製造業はもとより貿易型企業・倉庫型企業等のサービス業も設立が可能であり、特に貿易型企業は登録資本20万ドルで設立可能となっていますので、 日本の中小企業にとっても使い勝手の良い形態となっています。
この外高橋保税区における企業所得税制は、少々複雑となっておりますので、過去5年間に適用されている法令通達等につき、順を追って説明して参ります。また、保税区においては、増値税の優遇税制も企業所得税の優遇税制とセットで公布されていますので、増値税の優遇税制についてもついでに解説を加えます。
1.「上海外高橋保税区条例」(1997年1月1日より施行)
まず、外高橋保税区全般の制度について規定している「上海外高橋保税区条例」においては、生産型企業の企業所得税率は15%で、経営期間が10年以上の場合に課税所得の発生した年から2年間は免税、その後3年間は15%の税率が半分(7.5%)(同条例第41条)。
貿易・倉庫型の非生産型企業は、同じく税率15%で、経営期間が10年以上の場合に課税所得の発生した年から1年間は免税、その後2年間は15%の税率が半分(7.5%)(同条例第42条)。地方税については、生産型・非生産型の何れもが課税されない事となっています。
増値税の優遇措置については、これ以前の「浦東新区第9次5ヵ年計画期間の財政支援における、外高橋保税区の経済発展の若干の意見」(1996年1月1日より施行)において、納付増値税額の4分の1を還付する事が定められていましたが、「上海外高橋保税区条例」には特に規定されておらず、保税区と海外との取引、及び保税区内の取引においては、増値税は課税されない、保税区内から保税区外に移送される貨物については、増値税等を課税する、保税区を通じて輸出される貨物については、国家規定に基づき増値税の還付が行われる、の旨が規定されているのみです(従って「浦東新区第9次〜」の4分の1還付が継続適用されていました)。
尚、保税区外と保税区内の取引については、交易市場を通じてのみ増値税インボイスのやり取りが可能である事から、保税区内の外資企業は、交易市場に加入しこれを行う事となっています。
2.「浦東新区第10次5ヵ年計画期間の財政支援における、外高橋保税区の経済発展の若干の意見」(2001年1月1日から2005年12月31日までの間で適用)
生産型企業以外の貿易・倉庫・商品展示・特定のリース業行企業においては、前述の優遇措置は、次の「浦東新区第10次5ヵ年計画期間の財政支援における、外高橋保税区の経済発展の若干の意見」に規定する通りに改められます。この「意見」のポイントは、免税・減税の形ではなく、政府からの補助金方式で実質的な優遇税制を執行する事です。
主要業種毎の具体的内容は、下記の通りです(一部省略)。
【貿易型企業】
(1) 2001年1月1日以降に設立され、保税商品を交易市場内で取り扱い、年間輸出入貿易額が総貿易額の15%以上となる企業については、増値税については付加価値増加分の3%を補助する。企業所得税については、2年間は課税所得の14%を補助、その後3年間は課税所得の5%を補助する。
(2) 2000年12月31日までに設立され、保税商品を交易市場内で取り扱い、年間輸出入貿易額が総貿易額の15%以上となる企業については、増値税については付加価値増加分の3%を補助する。企業所得税については、課税所得の5%を補助する。
【倉庫型企業】
2年間は実現営業収入の5%、それ以後はその半分(2.5%)を補助する。
【商品の展示会等】
主催者・・・営業収入の5%、課税所得の14%を補助する。
参加者・・・付加価値増加分の2%、課税所得の7%を補助する。
【加工業務】
2001年1月1日以降設立に設立された企業は、2年間は課税所得の14%を補助、それ以後はその半分(7%)を補助する。
【保税区内不動産(建物)の販売・リース】
営業収入の5%を補助する。
【リース業務】
2001年1月1日以降設立に設立された企業で、登録資本が1,000米ドル以上で設備のリースを行う場合、1年間は営業収入の5%を補助、その後2年間はその半分(2.5%)を補助する。
(注:前記の「意見」中にある「課税所得」という用語は、中国語の原文中では「利潤総額」となっており、通常の訳だと「税引前利益」を意味しますが、実務上は「課税所得」として処理されています)
3.浦東新区財政局通達
更に、浦東新区財政局通達「浦府(2002)113号」によりますと、2001年第4四半期分からは、生産型企業以外に適用される上記の各補助金の補助割合で、課税所得を基準として補助金を計算している企業に対する補助金の割合を、を一律半分にする事となりました。従って、例えば新規設立の適用対象の貿易型企業においては、2年間は課税所得の7%、その後3年間は課税所得の2.5%が補助される事となります。
これは、中国がWTOに加盟した後で発表されましたので、補助金政策の見直しの観点から実施されたものと考えます。
この補助金の適用も、2005年12月31日が期限となっていますので、これ以後同様の優遇政策が享受できるかは今のところ不明です。これまでの経緯から見て、補助金を期待しないスタンスであるのが良いと存じます。
.外高橋保税区の補助金の申請手順
「浦東新区第10次5ヵ年計画〜」で定める補助金は、自動的に下りて来るものではなく、各企業で申請が必要となります。
1.補助金受給資格の申請
(1) 補助金受給資格があることを証明する書類等(例:営業許可証、増値税発票等)、及び受給資格申請書を準備して指定窓口に持参し、申請資料の入ったCD-ROMを受け取ります。
(2) CD-ROMをセットして、税務局のHPから、「浦東新区第10次5ヵ年計画期間の財政支援における、外高橋保税区の経済発展企業資格確認申請表」をフロッピーディスクにダウンロードし、かつそこに必要情報を入力した上で、当該用紙を出力します。
(3) 営業許可証・税務登記証・会社定款及びその他要請される資料のコピーを各一部づつ準備し、前掲の資料及びフロッピーディスクと共に指定窓口に提出します。
(4) 指定窓口は、保税区管理委員会のロビー(月曜日−木曜日、AM9:00-11:30)で、随時受付となっています。
(5) 申請用資料提出後、大体10日以内に手続が終了し、補助金申請の資格証書たる「資格核准通知書」を受領します
2.補助金受給の申請
(1) 指定期間中に、「資格核准通知書」を持って、指定窓口で補助金申請資料を受領し、書面で補助金申請を行います。
(2) 同時に、企業の基本データを記入した「企?基本情况表」及びその他要請される資料を、同様のデータが入ったフロッピーディスクと共に、指定窓口に提出します。
(3) 指定期間は、付加価値増加額及び営業収入に基づき補助金が計算される場合は、毎四半期毎(4月20日−5月20日、7月20日−8月20日、10月20日−11月20日、次年度1月20日−2月20日)です(申請補助金額が少ない場合には、次回若しくは年度でまとめて申請する事が可能ですが、申請年度を跨ぐことは出来ません)、それ以外の企業所得税等に関する補助金は、外資企業の場合は、5月20日−6月20日、となります。
(4) 補助金申請後、大体2ヶ月程度で補助金が交付されます。
(2004年4月記・3,292字)
上海邁伊茲諮詢有限公司
税理士 永岡稔