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ログイン2003年10月7日
<税務・会計>
中国の外商投資企業等に適用される会計法規(3)
〜減損会計〜
前回は、企業財務報告条例と企業会計制度(前編)を説明しました。現行の中国企業会計制度の主な特徴は、(1)国際会計基準に準拠、(2)時価主義会計−減損会計の導入、(3)キャッシュフロー会計の重視、(4)債務再編についての定義でした。今回はその中でも、決算期に重大な利益調整原因となる減損会計に焦点を当て、どの様な時にどんな基準で引当金を計上するのかを説明します。
減損会計とは、保有資産価額の実質価値が減少した際に、その減少部分を費用または損失として認識する会計処理を言います。即ち、中国でも以前は主に資産を売却した際に当該資産の含み損益が表面化し、そうでない場合は簿価表示されていましたが、改正後は期末において資産がそのまま残存している場合でも、重大な減損につきその見積額を引当計上する事となりました。計上された減損引当金は、実際に資産の減少事象が発現した時に、その引当金を取り崩す事となります。
減損会計処理例は下記の通りです。
内容
|
借方科目
|
金額
|
貸方科目
|
金額
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前期末の決算処理 貸倒引当金を計上 |
管理費用 −貸倒引当金繰入 |
2,000 | 貸倒引当金 | 2,000 |
半額回収不能となった時 | 貸倒引当金管理費用 −貸倒損失 |
2,000 3,000 |
売掛金 | 5,000 |
その後7,000元回収し たが残額は回収不能 |
銀行預金 | 7,000 | 売掛金管理費用 −貸倒損失 |
5,000 2,000 |
内容
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借方科目
|
金額
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貸方科目
|
金額
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前決算期末 | 営業外支出 −固定資産減損引当金繰入額 |
1,000 | 固定資産減損引当金 | 1,000 |
事故直後 | 減価償却累計額 固定資産減損引当金 固定資産整理勘定 |
2,000 1,000 7,000 |
車両 | 10,000 |
除却処分時 | 業外費用 −非常損失 |
7,000 | 固定資産整理勘定 | 7,000 |
減損引当金の対象となるものは、短期投資・委託貸付金・売掛債権・棚卸資産・長期投資・固定資産(建設仮勘定を含む)・無形資産、の7項目の資産損失です。
なお、短期投資とは各種株式債券で保有期間が1年以内のものを指し、委託貸付金とは、中国では企業が直接他の企業に貸付を行うことが禁じられている為、銀行を通じて他社等に貸付を行う際の処理科目です。
私たちが特に注意すべき事は、日本の感覚で決算を考えていると、期末に決算調整もしくは公認会計士の監査で、減損会計処理による思わぬ費用損失が計上されてしまい、当初の目論見どおりの損益を下回ってしまう可能性がある事です。特に、設立後年月が経過して固定資産の損耗が進んでいたり、不良在庫を抱えてしまった場合に多額の損失が計上されます。日本の中小企業ですと、決算期末に追加計上する項目は、期末の仕入売上、減価償却費、無形資産償却費、各種経過勘定項目(前払費用、前受費用、未収費用、未払費用)、貸倒処理、資産除却、棚卸損等々ですが、中国では前述7項目の資産減損予測も考慮に入れる必要があります。期末に慌てないためにも、日ごろから資産管理を強化し、現場担当者及び財務担当者に、定期的に資産減損状況を確認・報告してもらい、決算期末に予測される減損引当額を把握しておく事が肝要です。
もしも資産管理が十分にされてなく、経理担当者が旧来の会計処理しか行っていない場合は、法定監査時に資産減損程度が十分に把握されなくなり、監査報告書に限定意見等が表明されてしまいます。また、中国の会計事務所の中には、経理担当者が提出した決算資料にめくら判を押すところも有り、その様な会計事務所に代えて別の会計事務所に監査業務を委託した場合は、溜まっていた資産減損が一気に表面化してしまうことがあります。会社に減損対象資産額が多い場合には、スケジュールを立て適宜資産減損程度の確認を行って頂く必要があります。
では具体的に、どのような時にどれだけ減損引当金を計上するのでしょうか。科目毎の減損引当内容を下表にまとめてみました。
引当対象
条文番号 |
見 積 方 法 と 計 上 金 額
|
短期投資
52条 |
市場価格と原価を比較し、原価より低い金額を引き当てる。 投資類別毎、または個別投資項目毎に減損引当金を計上するが、個別投資の割合が比較的大きい場合(全短期投資の10%以上)については、個別引当を行う。 |
委託貸付金
52条 |
回収可能額と貸付元本を比較し元本より低い回収金額との差額を引当てる。 【回収可能額】 資産の純売上高と、当該資産の継続使用中若しくは使用壽命終了時の処分時に発生する予測将来キャッシュフローの現在価値割引額とを比較し、いずれか高い方の金額をいう。 |
売掛債権
53条 |
期末に貸倒予測額を各企業で決めたルールに基づき見積計上 |
棚卸資産 54条 |
正味実現可能価額と取得原価とを比較し、取得原価より低い正味実現可能価額との差額を引き当てる。 基本的に、各棚卸資産の種類別に上記比較を行うが、棚卸資産間で類似用途が有り、且つ同一地域で生産販売している製品と関連が有り、実際にこれら棚卸資産間で分別価値推定が困難な場合、これら棚卸資産を合算の上で減価と比較する事が出来る。 【正味実現可能価額】 正常な経営過程における売価から、商製品の販売に必要な費用を差引いた額。 【全部減損引当対象】(下記のうちいずれかに該当する場合) 1.腐敗・変質した資産 2. 期限切れでかつ譲渡不能の資産 3. 生産中止且つ利用価値・譲渡価値のない資産 4. その他、利用価値・譲渡価値のない十分な証拠のある資産 【その他の減損引当対象】(下記のうち1つ以上に該当する場合) 1.市場価値が下落し、且つ将来回復の可能性がない場合 2. 当該原材料を使用して生産された製品原価が製品売価を上回る場合 3.製品のモデルチェンジにより、既存原材料在庫が新製品に使用されず、またその原材料市場価格が帳簿価格を下回る場合 4.商品或いは役務が陳腐化したか、消費者の嗜好の変化により市場価格が下落した場合 5.その他、資産価値が事実上減少した事の十分な証拠がある場合。 |
長期投資
56〜58条 |
市場がある場合とない場合に分け、規定された方法による見積額が原価を下回る額を引き当てる。 【減損引当金計上を判断する兆候】 1.市場相場のある長期投資 (1) 市場相場が連続2年帳簿価格を下回る場合 (2) 当該投資取引が取引を停止して1年以上の場合 (3)投資先企業が重大な欠損を計上した期 (4) 投資先企業で連続2年欠損が発生した場合 (5) 投資先企業が整理・処分・清算或いはその他経営持続不能な兆候が生じた場合 2.市場相場のない長期投資 (1) 法令・政治環境の変化により投資先企業に巨額の欠損が生じる等の重大な影響が及ぶ場合等 (2) 投資先企業に提供した商品或いは役務が陳腐化したか、消費者の嗜好の変化により市場価格が下落し、投資先企業の財政状態が極めて悪化した場合 (3)投資先企業が属する業界の生産技術等に重大な変化が生じ、投資先企業の競争力が失われ、整理・処分・清算等の重大な事態が生じた場合 (4)その他投資先企業が既に経済的便益をもたらさない十分な証拠がある場合 |
固定資産
56条 |
回収可能額と取得原価を比較し、取得原価より低い回収可能額との差額を引当てる。 【全部減損引当対象】(下記のうちいずれかに該当する場合) 1.長期間無使用で、将来の使用可能性も譲渡価値もない資産 2. 技術の進歩により既に使用できない資産 3. 使用可能であるが大量の不良品を算出する可能性のある資産 4.毀損により使用価値及び譲渡価値のない資産 5. その他既に経済的便益をもたらさない十分な証拠がある資産 【その他の減損引当対象】 期末に各企業で決めたルールに基づき見積計上 【各企業で決めるべきルール(企業の財務会計規定等で定義)】 1.減損引当を計上する資産の範囲 2.その対象資産の減損度合に応じた引当率 3.その減損引当金額計算方法 |
建設仮勘定
65条 |
長期間建設を停止し、且つ今後3年以内に工事再開しない場合に、実質的に発生した減価を引き当てる。 |
無形資産
56、60、61条 |
回収可能額と取得原価を比較し、取得原価より低い回収可能額との差額を引当てる。 【全部減損引当対象】(下記のうちいずれかに該当する場合) 1.他の新技術に代替され、且つ使用可能性も譲渡価値もない資産 2. 法律による権利保護期間が経過し、且つ経済的便益をもたらさない資産 3.その他使用価値及び譲渡価値のないことが証明できる資産 【その他の減損引当対象】 1. 他の新技術に代替され、企業に経済的便益をもたらす能力に重大な不利が生じている資産。 2.市場価格が大幅に下落し、その価値が使用年数内に回復しないと予想される資産(下落時の期間に計上) 3. 法律による権利保護期間が経過したが、部分的に利用価値のある資産 4.その他事実上既に価値減損が発生したことを十分に証明できる資産 【各企業で決めるべきルール(企業の財務会計規定等で定義)】 1.減損引当を計上する資産の範囲 2.その対象資産の減損度合に応じた引当率 3.その減損引当金額計算方法 |
この表を見て頂くと分かる様に、部分減損引当につき各企業独自で自社の財務規定等に減損引当基準等のルール作りをする必要が出てきます。もしもこのルールを定めておらずに、任意で減損引当金繰入額を計上した場合、全部減損引当に該当するもの以外については、損金不算入(会計上は費用処理していても、企業所得税計算上は税務費用として認定されず、特に利益が出ている場合はその分余計に税額が増加する扱い)となりますので、まず自社で財務規定を作成し、次に管轄税務当局にこれを届けておく必要があります。
次回は、企業会計制度の説明の続きとして、中国独特の勘定科目について説明させて頂きます。
(03年8月28日記・4,419字)
上海邁伊茲諮詢有限公司
税理士 永岡稔
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