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輸出差止措置への対応

中国ビジネスレポート 知的財産
王 倩

王 倩

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2015年7月14日

―抜け駆け登録商標における被害実例―

中国の知的財産権の権利者は、「税関法」、「知的財産権税関保護条例」に基づき、税関に対して、権利侵害疑義輸出貨物の差し止めを請求することができます。模倣品取り締まりの一環として、日本企業もこの制度を頻繁に利用してきましたが、税関側としては、中国登録商標の権利者から輸出差し止めの請求が出され、かつ、担保も提供された場合、たとえ「抜け駆け登録商標」が絡んでいたとしても、とりあえず、差し止め措置が取られます。

今回は、抜け駆け登録商標の権利者が厦門税関において、輸出差止措置を提起した事例をご紹介します。

日本のA社は長年A商標製品を日本で製造販売してきましたが、数年前に中国のメーカーによるOEM生産を開始しました。このOEM商品は、中国国内で販売せず、全品日本に輸出してきました。二年前から中国国内販売も考え始め、中国で商標出願しようと調べたところ、A商標はすでに中国のB社に登録されていることがわかりました。実は以前、A社はB社に関係製品の輸出手続きの代行を、数回にわたり依頼していました。B社はその時すでにこっそりとA社に内緒で中国商標局に商標の出願をして、その権利を付与されていました。これはいわゆる「抜け駆け登録商標」の問題になります。A社はB社と中国の登録商標に関し、何度か交渉をしてきましたが、相手に提示された条件はあまりにも厳しいため、交渉は不成立のままです。やがて、B社の申し立てによって、日本のA社から受けた日本へ輸出するOEM商品貨物は、厦門税関で差し止めをされてしまった、という事態が発生しました。

差止措置が取られた場合、日本のA社側または輸出貨物の荷送人が取らなければならない対応策として、まず、厦門税関に対し、「①日本に輸出する目的のみに製造し、中国の国内販売はしていない。②輸出先の日本では関連登録商標を有する(または日本の権利者に使用許諾されている)。③中国の商標権利者はもともと中国OEM生産における取引相手であり、抜け駆け商標登録をしている。」旨の書面説明を行い、かつ日本の商標登録証明書面、日本商標の使用許諾契約書(公証・認証済み)、以前B社と取引関係にあったなどの証拠資料を添付して税関に提出する必要があります。税関は、「抜け駆け登録商標」が絡んでいると認識した場合、自ら行政処分を下さずに、その後裁判所の命令を仰ぐ、という方針をとる傾向があります。つまり、税関は、商標侵害あるかどうか判断できないとして、20営業日以内に中国裁判所の保全手続きに関する裁定書を受けていないことを前提に、差止措置を解除して、貨物を通関させることになります。

この場合、B社の目的は、税関差止め措置を行うことを通して、A社に圧力をかけ、自分の望んだ金額で、中国登録商標をA社に譲渡するというところにあります。ただし、税関差止め措置後、B社が提訴しないなら、税関は一定の期間経過後、差し止め措置を解除します。実はもしB社が提訴したとしても、裁判で勝てる公算はそう高くないと言えます。各地の裁判所の判断基準にばらつきが見られますが、海外輸出型のOEM生産は、中国での商標使用に当たらない判決例は結構出ています。また、今回のように、中国登録商標の権利者が明らかに抜け駆け商標出願をしたケースでは、A社が中国国内においてB社に対し商標侵害していないと判断される可能性がもっと高くなります。従い、B社にとって提訴することはかならずしも得策とは言えません。

結局、今回B社は提訴に踏み切りませんでしたが、この抜け駆け登録商標問題が解決しない限り、A社の中国に於ける事業展開に大きな支障をきたすことに変わりはありません。これから、中国で新しい商標を起用することに決意するか、または、登録商標を取り戻すかの選択をしなければなりません。

B社のA商標は、登録して5年未満の場合であれば、この問題を徹底的に解決するために、B社はA社の商標を抜け駆け出願した、という理由で、商標評審委員会に商標取消請求ができます。過去に抜け駆け登録商標を取り戻した実例はありますが、実際には多大な時間的、金銭的コストがかかりますし、すべての商標が取り戻せるとは限りません。また、商標の取消裁判が最終的に確定されるまで、B社は中国のA商標の権利者であるという現実を認めざるを得ないので、A社は中国国内でA商標を使用してはいけないことになります。

中国商標法は、商標登録の先願主義を採用している以上、抜け駆け登録商標問題が中国事業展開に与える影響は非常に大きい為、これから中国でビジネスを始める、または拡大する際には、中国商標登録問題をまずクリアにする必要があります。

以上

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