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2018年1月1日施行「不正競争防止法」の商業賄賂条項を考察する

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2018年6月13日

概要:
「中華人民共和国不正競争防止法(2017年改正)」が2018年1月1日から施行された。
今回の改正で、商業賄賂の収受主体、商業賄賂の目的の範囲、商業賄賂の処罰基準などが調整された。本稿では、新・旧法令を比較しながら、商業賄賂に関する条項の変更箇所を考察する。

本文:

「中華人民共和国不正競争防止法(2017年改正)」が2018年1月1日から施行されている。本稿では、今回の改正による商業賄賂に係わる法令上の変化を簡潔に分析する。その他の改正内容については、「LeeZhao Newsletters_Issue 556_20171031-20171106_cn&jp」を参照されたい。

紙幅の都合上、旧「不正競争防止法」を以下「旧法」と称し、改正後の「不正競争防止法」を以下「新法」と称し、「商業賄賂行為禁止に関する国家工商行政管理局による暫定規定」(国家工商行政管理局令第60号)を以下「暫定規定」と称する。

まずは下表にて、新・旧法令の変更箇所をそれぞれ比較してみる。

旧法 「暫定規定」 新法
第八条 事業者は、商品を販売し又は購入するために、財物又はその他手段を利用して賄賂行為を行ってはならない。帳簿外で密かに相手方組織又は個人に対してリベートを支払った場合、贈賄として処罰する。相手方組織又は個人が帳簿外で密かにリベートを受け取った場合、収賄として処罰する。
……
第四条 いかなる組織又は個人も商品の販売又は購入時、賄賂を受け取ったり、又は賄賂を要求してはならない。 第七条 事業者は、取引の機会又は競争の優位性を追求するために、財物又はその他手段を利用して、下記の組織又は個人に対して賄賂行為を行ってはならない。
(一)取引相手の従業員。
(二)取引相手から委託を受けて、関連する業務を取り扱う組織又は個人。
(三)職権又は影響力を利用して取引に影響を及ぼす組織又は個人。

……
事業者の従業員が賄賂行為を行った場合は、事業者の行為として認定しなければならない。但し、当該従業員の行為が事業者の取引の機会又は競争の優位性の追求と無関係であることを証明する証拠を事業者が有する場合を除く。
第二十二条 事業者が、商品を販売し又は購入するために、財物又はその他手段を利用して賄賂行為を行い、犯罪を構成した場合、法に依拠し刑事責任を追及する。犯罪を構成しない場合、監督検査部門は情状に応じて、一万元以上二十万元以下の過料に処し、違法所得がある場合、没収することができる。 第十九条 事業者が本法第七条規定に違反し他人に賄賂行為を行った場合、監督検査部門が違法所得を没収し、十万元以上三百万元以下の過料に処する。情状が深刻な場合、営業許可証を取り消す。

新法を旧法と比較してみると、以下の事項が調整されていることがわかる。

1.商業賄賂の収受主体が再検討され、調整された

商業賄賂の提供主体と収受主体について、旧法では「組織又は個人」及び「相手方組織又は個人」といったやや漠然とした言い方がされているだけであり、立法の次元での曖昧さから、実践では、取引相手が適格な収受主体となり得るのかどうかなどをめぐって論争が生じ、地方ごとの法執行及び司法実務上の対応が完全には一致していないかった。

一方、新法では今回、収受主体の再検討が行われ、最終的に3つのタイプに集約された。取引相手は商業賄賂の収受主体から明確に除外された。これに関連し、以下の点に注意を払う必要がある。
●2016年に工商部門が罰した、有名な自動車タイヤメーカー数社の商業賄賂事案(「LeeZhao Newsletters_Issue 510_20161101-20161107」、「LeeZhao Newsletters_Issue 534_20170503-20170508」で分析した)を例に挙げると、タイヤメーカーから取次販売店に支払われる販売奨励金について、リベート算定基準が明示されていなければ、いずれも商業賄賂として認定された。このような販売奨励金の支払いが適法であるのかどうかについては、これまでは不正な利益の追求、競争相手の排斥といった目的によるものであるのかどうかという視点から大きな論争が生じていた。
●一方、新法によれば、取次販売店は取引相手であるため、商業賄賂の法定の収受主体としては挙げられておらず、係る行為(リベートの算定基準が明示されているかどうかを問わない)は、新法の下では原則として商業賄賂として調査処分を受けないことになる。これは、従来の商業賄賂の認定方法を覆すものであることは間違いない。
●類似する状況として、サプライヤーが量販店、スーパーに「商品陳列場所特設料金」を支払うことなども含まれる。このような行為も原則として、商業賄賂としては調査処分を受けないことになるが、その適法性については今後その他法令を踏まえて判断していく必要があろう(例えば、サプライヤーが量販店、スーパーに対して支払う「商品陳列場所特設料金」の適法性は、「小売店・供給業者公平取引管理弁法」などを踏まえて判断していく必要がある)。
●取引相手が商業賄賂の収受主体から除外されたことは、商業賄賂の本質に適合するものであると考えられる。通常、贈賄者(事業者)が収賄者に対して財物などを提供する目的は、「他人」(取引相手)の利益と引き換えに、贈賄者が不正な利益を得られるよう収賄者に求めることである。従って、収賄者は当然ながら、事業者と取引相手以外の第三者であり、取引相手は利益を犠牲にされた被害者であり、商業賄賂の収受主体ではないはずである。

このほか、取引の双方当事者以外に、取引に実質的な影響をもたらし得る第三者が法令上、商業賄賂の収受主体として明確にされている。現在、法執行及び司法実践においても、通常、当該第三者を商業賄賂の収受主体として認定しているが、法令上の明確な根拠がなかったことから、新法では法律条文の中に正式に組み入れている。

2.商業賄賂の目的の範囲が拡大された

旧法では、商業賄賂の目的の範囲に含まれるのは「商品の販売又は購入」だけであったが、新法ではこれ以外にも、「取引の機会又は競争の優位性を追求する」ことも商業範囲の目的の範囲に含まれている。勿論、新法でのこのような表現は今回、初めて出てきたわけではなく、中央政府の商業賄賂監視指導チームが2007年5月28日に公布した「商業賄賂管理個別作業において政策の境界線を正確に把握することに関する意見」においても、すでに似たような言い方がされていた(「商業賄賂とは商業活動において公平競争の原則に違反し、財物又はその他利益を与え、収受するなどの手段により、取引機会又はその他経済利益を供与し又は取得する行為である」)。

3.従業員による贈賄は事業者の行為として推定されることになった

従業員による行為は、その効果と利益は最終的に事業者によって継承されることから、新法において従業員の贈賄行為が事業者の行為として推定されることになった考え方には合理性がある。

同時に、新法では事業者に抗弁権も残している。即ち、当該従業員の行為が事業者の取引の機会又は競争の優位性の追求と無関係であることを証明する証拠を事業者が有する場合、推定は成立しないとしている。「当該従業員の行為が事業者の取引の機会又は競争の優位性の追求と無関係であることを証明する証拠を有する場合」について、国家工商行政管理総局の関係職員の見解によれば、「事業者が合法且つ合理的な措置をすでに制定し、有効な措置を講じて監督管理を行っており、従業員による賄賂行為を放置し又は実質的に放置してはならないこと」であるとしている。事業者内部におけるコンプライアンス管理に対する要求がこれまでに以上に高まっていることは確かである。企業は商業賄賂防止制度の制定、コンプライアンス研修の実施、社内通報窓口の設置、内部の関係部署・スタッフ及び外部のサプライヤーに商業賄賂行為を行わないとする誓約書を提出させるなど、多方面で措置を講じ証拠を残しておくようにするとよい。

4.処罰基準が引き上げられた

贈賄行為に対する処罰について、新法では過料の罰則基準が旧法よりも大幅に引き上げられている。このほか、新法では「営業許可証取消」といった処罰措置も追加されており、情状が深刻な贈賄者は市場から締め出されるといった厳しい処罰に直面することになる

(里兆法律事務所が2018年1月4日付で作成)

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