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中国の対米巨額貿易黒字の見方

中国ビジネスレポート 金融・貿易
馬 成三

馬 成三

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2007年6月26日

記事概要

中米国交樹立(1979年)以来、特に1990年代以降、中米貿易は急拡大を見せている。中国税関によると、1990年に118億ドルだった中米貿易総額(輸出入合計)が、2006年には2,627に拡大し、中国貿易総額に占める対米貿易のシェアも1990年の10%から2006年の約16%へと上昇した。

新しいページ 1中国の対米出超の拡大と中米統計の差

 

中米国交樹立(1979年)以来、特に1990年代以降、中米貿易は急拡大を見せている。中国税関によると、1990年に118億ドルだった中米貿易総額(輸出入合計)が、2006年には2,627に拡大し、中国貿易総額に占める対米貿易のシェアも1990年の10%から2006年の約16%へと上昇した。中国にとって、米国は2004年より日本を抜き、EUに次ぐ貿易相手国となっている(香港経由分を入れると、米国は実際中国の最大貿易パートナー)。

なかでも中国の対米輸出の増加は目覚しいものがあった。1990年時点で中国の輸出市場として、米国は香港、日本とEC(欧州共同体)に次ぐ第4位にとどまっていたが、2000年より中国の最大輸出市場に浮上し、2006年には対米輸出が中国輸出全体の21%を占めている。

中米貿易が急拡大しているなか、幾つかの難題にも遭遇した。うち最も注目されているのは中米貿易不均衡、つまり中国の対米出超(米国の対中入超)の拡大にほかならない。中国税関統計によると、中米貿易において中国側が1993年から出超に転じ、且つ出超幅が拡大し続けている。1993年に63億ドルだった対米出超は、2000年に約300億ドルに拡大し、2006年には1,443億ドルと、中国貿易黒字全体(1,775億ドル)の8割以上を占めている。

他方、米国商務省の統計では、米国側は1980年代半ばから対中入超が生じ、1990年に100億ドル程度だったそれが2000年に838億ドルに拡大し、2006年には2326億ドルと米国の貿易赤字の約3割(28.4%)を占めている。

 

表1  米中両国の統計からみる米中貿易バランスの推移(単位:億ドル)

  中国側の統計 米国側の統計
1990 -14.4 -104.1
1995 85.9 -338.1
2000 297.4 -838.1
2001 280.8 -831.0
2002 427.2 -1030.6
2003 586.1 -1240.7
2004 802.7 -1619.4
2005 1,141.7 -2,015.4
2006 1,442.6 -2,325.5
2007 347.1 -569.5

 注:2007年は1~3月。

資料:中国税関統計と米商務省貿易統計(通関ベース、季節調整前)。

 

長い間、対米出超国として日本は最大のシェアを示し続けていたが、2000年より日本の地位は中国に取って代わられ、2006年には米国の対中赤字幅は、対日のそれ(884億ドル)の2.6倍に相当するようになった。

中国の対米出超(米国の対中入超)は中米双方の統計に示されているが、両方の統計には大きな差がみられる(2006年には両方の差は約893億ドル)。この差をもたらした原因の一つに、統計基準の問題がある。輸出額と輸入額を統計する際、それぞれ本船渡し価格(FOB価格)と運賃保険料込み価格(CIF価格)を利用するため、中国側の統計より米国統計での輸出額が低く、輸入額が高く算出されたのである。

今ひとつの原因は、香港経由の中継貿易への扱いである。米国側の統計では香港からの中継輸入が全部中国の輸出に計上されているのに対して、香港経由の対中輸出が対中輸出として扱われていない。実際、香港の対米中継輸出の製品には他の国・地域の製品が多く含まれている。つまり上記の諸要因で中米貿易の不均衡は誇張されているのである。

 

「Made in China」よりも「Made in Asia」が多い中国の対米輸出

 

中国の対米貿易黒字の拡大は、諸外国・地域、なかでも東アジア諸国・地域の中国大陸への産業移転によるところが大きい。対米輸出を含む中国の輸出を企業主体別にみると、外資系企業の割合が際立って高い。2006年の数字を取ってみると、同年中国の輸出全体に占める外資系企業輸出の比率は約6割、貿易黒字額に占める外資系企業の比率も5割を超えている(表2)。これに対して、国有企業や私営企業を含む中国資本企業の貿易黒字額は貿易黒字全体の半分以下(うち国有企業は赤字)にとどまっているのである。

中国の外国直接投資受入れの7割が、日本、アジアNIES(新興工業国・地域)とASEANを含む東アジア諸国・地域から来ている。長い間、日本、韓国、台湾など東アジア諸国・地域は対米貿易で巨額な黒字を抱えたが、その対米輸出製品の生産を中国大陸にシフトしたことで、中国大陸の対米貿易黒字となったのである。中国が東アジアにおける加工基地となっている現状を踏まえて、研究者の間では中国の対米輸出製品(組み立て用の部品を含む)を、「Made in China」よりも「Made in Asia」と見なすべきだとの見方もある。

東アジア諸国・地域が生産拠点を中国に移しただけでなく、部品などを中国に輸出し、その加工製品を米国に輸出するといったケースも多くみられる。中国税関統計によると、2006年における中国の対米貿易は1,443億ドルの黒字を出した一方、日本、韓国、台湾との貿易には1,358億ドルの赤字が記録された。

米国側の統計によると、2000~06年の間、米国の対中貿易赤字は大幅に拡大し、米国の貿易赤字全体に占める同シェアが19.2%から28.4%へと上昇したのに対して、対アジアNIESの赤字は56%も減少し、米国の貿易赤字全体に占める同シェアも6.1%から1.4%に低下した。

米国の対中貿易赤字は米国企業の対中進出とも関係している。米国系企業が中国で生産した製品の大半は、中国市場で販売されているが、中国での現地生産により、同製品の対中輸出を減少させているのである。また米国の対中投資のうち、付加価値の低い製品を中心に米国に逆輸入しているケースもある。

 

表2 中国:アジア圏の対米輸出基地(単位:億ドル)

  貿易収支尻 相手国・地域別 企業形態別
米国 日本 韓国 台湾 国有 外資系 その他
2003年 255 586 -147 -230 -404 -45 84 215
2004年 321 803 -208 -344 -512 -229 140 408
2005年 1,019 1,142 -165 -417 -581 -284 567 736
2006年 1,775 1,443 -241 -453 -664 -339 912 1,202

注:外資系企業には香港・マカオ、台湾出資企業を含む。

資料:中国税関統計。

 

米国の対中不満と中国の対応

 

米国の対中貿易赤字を拡大させた要因の一つとして、中国の対米輸入(米国の対中輸出)が少ないことを挙げた論者もいるが、しかし、1990年代以降の米国輸出を市場別にみると、最も高い伸び率を示したのは、対中輸出にほかならなかった。米国商務省の統計によると、2000~06年の間、米国の輸出全体は32.7%しか伸びなかったのに対して、対中輸出は3.4倍にも拡大し、米国の輸出全体に占める対中輸出の比率も2000年の2.1(1990年は1.2%)から2006年には5.3%へと急上昇した。

1990年時点で、米国の輸出市場として、中国はカナダ、日本、メキシコ、英国、ドイツ、フランス、オランダはもちろん、アジアNIESと呼ばれる韓国、台湾、シンガポールと香港よりも低い順位にランクされていた。しかし、2006年には中国は米国の輸出市場としてカナダ、メキシコと日本に次ぐ第4位に浮上し、香港経由分を入れると、米国の対中輸出は実際対日輸出を超えている(今年度内にも対中国大陸輸出だけで対日輸出を超える可能性がある)。

しかし、中国の対米輸入は対米輸出をはるかに下回っていることも事実である。2006年に前者は後者の3割にとどまっていることが、中国側の統計にも示されている。また中国の輸出先として、米国は最大のシェアを占めているのに対して、同輸入先としては日本、EU、韓国、ASEANと台湾に次ぐ第6位にランクされていることも不自然である。

米国の対中貿易赤字の拡大を背景に、米国政府、議会及び労働団体の対中批判は高まっている。米国側は中国の市場開放の不十分や、人民元レートの硬直化(元安の維持)などに対して強い不満を表明している。これに対して、中国政府は米国への買い付けミッションの派遣や人民元レートの弾力化(漸進的な元切り上げ)などの措置をとってきているが、根本的な解決にはまだ至っていないのが現状である。

中国政府は、廉価で高品質の中国製品の対米輸出は米国の消費者に大きなメリットをもたらしたことや、中国の対米輸出を含む、国際分業に基づく中米貿易の拡大は米国産業構造の高付加価値化に利することなどをアピールしている一方、輸出依存型からの脱却など経済成長方式の転換も強調している。

中国側からみれば、米国は中国の対米出超を非難すると同時に、ハイテク製品などの対中輸出を制限しているところに矛盾がある。中国政府は、高い視野で中米貿易不均衡問題の解決を強調していると同時に、ハイテク製品輸出管理における対中差別の撤廃も求めている。

今年(2007年)に入ってから、中国政府は米国製品の輸入促進や、輸出税還付率の引き下げなど輸出抑制措置を取ってきているが、対米出超の削減にはどの程度の効果が出るかはまだ不明である。一方、昨年米中間選挙で自由貿易反対の立場を取っている議員の多い民主党が上下両院の過半数を掌握し、ブッシュ政権に圧力を強めている。

中米の経済構造などから見て、中米貿易における中国側の出超が長期に渡って存在していくだろうとの見方が多い。もし米国国内での貿易保護主義勢力が台頭し、中国側が人民元レートの切り上げ幅の拡大や輸出税還付率の再引き上げなど輸出規制の強化に乗り出したら、日系企業を含む対中進出の外資系企業の経営にも大きな影響を及ぼしかねない。(2007年6月記 3,514字)

 

 

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