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ECにおける不正商号問題と対応策

中国ビジネスレポート 知的財産
王 倩

王 倩

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2011年12月26日

「アリババ」など中国の電子商取引のサイトを開くと、有名企業の商号に似せた紛らわしい商号を少なからず目にする。「Panasonic Air Conditioner Industry (HK) international Ltd」、「日立電気集団有限公司」、「香港三洋国際集団有限公司」などはその典型例だ。

以下、不正商号の権利侵害の実態に照らし合わせながら、電子商取引における不正商号を幾つかのタイプに分類し、類型ごとに法的分析を行う。また同時に、被害企業の法的救済と対応策についても考えていきたい。

1.電子商取引における商号タダ乗り問題におけるICPの責任

現在のところ、インターネットにおける不当商号問題についての明確な法律規定はないが、「侵権責任法」の一般帰責原則と他の種類のインターネットにおける知財紛争規定に基づき(最高人民法院「インターネット著作権紛争案件の審理の法律適用の若干問題の解釈」)、知財侵害案件において、ICP(インターネット・コンテンツ・プロバイダー)は過失責任を負うことになっている。すなわち、ICPが証拠つきの警告を受取り、ユーザーの侵害行為を知りながら、侵害内容に対処しない場合などは、過失があるとして共同侵害責任を負うことになる。ICPが処理要請に応じてくれない場合は、ICPだけを訴えることも考えられる。

中国のB2Bサイトの最大手はアリババという会社である。アリババの知財問題対応については以下の通りである。

業者がアリババに登録する場合、まず、自社の関係情報を提出する。最初に会社の名称を記入することになるが、記入注意欄には「工商局に登録した名称を記入してください。商号の無い個人経営者は個人経営ライセンスに登録した名称を記入して、個人経営と付記してください。例えば:氏名(個人経営)」と記してある。「誠信通」というアリババの有料会員は、営業許可証をスキャンまたはファックスで送付し、アリババの認証を得た後、電子商取引を開始することができる。

業者が真実でない資料を提供した疑いがある場合、アリババは業者のIDを中止または停止することができる。資料中に他人の権利を侵害した内容がある場合、アリババは資料を削除する権限がある(アリババのサービス条項第5条)。業者の提供する資料が第三者の物権、著作権・特許権・商標権・商業秘密又はその他の知的財産権、名誉権を侵害した場合、アリババ社はその会員資格を中止または終止することができ、情報を削除することもできる(アリババのサービス条項第5条第3項、第11条)。従って、業者による不当な会社名の使用が発見された場合、アリババは当該情報を削除しても契約不履行の責任を負わない。

現在、アリババの知財保護システムにおける、類型的に受理される知財侵害の苦情申立てには、商標権侵害、専利権侵害(発明特許、実用新案権、意匠権)、著作権が含まれており(参照)、不正商号に関する申立てには、個別に対応してくれる。

過去に、ある業者が虚偽の営業許可証をアリババに提出して「誠信通」会員となったのが知られ、商号が侵害された会社によりアリババが訴えられたケースがあった。最終的に、アリババは調停に応じて賠償金を支払うに至った(「広州美妍化粧品有限公司VS.アリババ企業名称権侵害案件」)。このような経緯もあり、現在、アリババの知財侵害問題の対応は、他のICPと比べてしっかりしており、苦情申立てへの速やかな対応が期待できる。

2、不正商号に対する法的の対応策

(1)類似商号が中国国内で既に登記されているケース

相手の商号が自社の先行商号と抵触するのであれば、先行商号権(企業名称専用権)を主張し、法的救済を求めることができる。

商号権は「パリ条約」に挙げられた知的財産権のひとつであり、中国国外企業の商号権も国際条約、協定書などによって保護を受ける(「パリ条約」第8条、最高人民法院「不正競争民事案件を審理することに関する法律適用の若干問題の解釈」第6条)。ただし、その中国国外企業はすでに中国でビジネスを行っているという前提が必要である。

行政ルートの法的救済としては、「企業名称登記管理規定」、「企業名称登記管理実施弁法」に基づき、不当商号の工商登記を行った機関、またはその上級の工商登記機関に、不当企業名称登録の変更を要請することが考えられる。「企業名称登記管理規定」、「企業名称登記管理実施弁法」によれば、会社名は、登記機関の所轄区域内の同業他社の会社名と同一又は類似してはならないものとされている。既に登記された企業であっても、前記の規定に違反した場合、不当商号を変更すべきである。

また、司法ルートの法的救済においては、「反不正当競争法」第2条を基に提訴することも考えられる。公に広く知られた企業の商号と同一又は類似する文字を自社商号として登録・使用し、公衆の誤認を引き起こしやすい商号は、「反不正当競争法」第2条の不正競争行為の一般規定が適用され、不正競争行為と認定される可能性があるからだ。また、「反不正当競争法」第5条第(3)項(「勝手に他人の企業名称又は氏名を使用して公衆に当該他人の商品であると誤認させること」)に基づいた提訴も考えられる(最高人民法院「登録商標、企業名称と既得権利の抵触の民事訴訟案件の審理の若干問題に関する規定」第2条)。司法実務上、企業の略称についても、一定の市場知名度を備え、公に広く知られた場合、企業の商号と見なされ、不正当競争法上の保護を受けられる(最高人民法院「目下の経済情勢下で大局的視野に立つ知財審判の若干問題の意見」第10条)。

訴訟を通じた当該企業名称の変更請求又は使用停止請求は、基本的に相手の不正商号が登記されてから5年以内でなければならない。ただし、相手方が悪意の行為である場合は、5年という制限を受けない。

商号抵触の問題について、行政処理を経ずに直接訴訟提起できるかという問題に関し、1998年に最高人民法院「全国部分法院知識審判業務座談会紀要」が、知財抵触問題は先に行政部門に取消請求を提起しなければならないと定めたが、その後公布された国家工商管理総局の法令「企業名称登記管理実施弁法」では、企業名称に関する紛争は、工商部門に申し立てることもできれば、また、直接法院に提訴することもできるとした。だが、その後も、企業名称を変更するよう求めた訴訟上の請求に対し、まずは行政機関にその処理を申立てるべきである旨の法院判決が出されたこともある。現在、最高人民法院は、司法解釈の形で、商標侵害又は不正競争に関する権利抵触案件は、行政処理を前置条件とせず、また、行政処理に付された場合でも、本案訴訟を中止しないことを明らかにしている(最高人民法院「登録商標、企業名称と既得権利の抵触の民事訴訟案件の審理の若干問題に関する規定」第1条)。また、相手が当該不正商号をすでに自社商標として登録をし、この登録商標をもって抗弁した場合でも、法院は審理を中止または訴訟を却下しないとしている。

(2)類似商号が自社の先行商標権に抵触しているケース

ここで強調したいのは、既得権利の保護は知的財産権の原則だということである。従って、どちらの権利が先か判定することは非常に重要な問題となる。この場合、商号については会社の設立日(企業名称の仮認可を取得した日ではない)、登録商標については登録日(出願日ではない)を基準に判断される。

①工商登記部門に不正競争を理由に企業名称の変更を求める

他人の登録商標と同一又は類似する文字を企業名称の商号として使い、混同を引き起こす恐れがある場合、商標権者は工商登記部門に変更請求を提出することができる。ただし、この請求は、相手の企業名称の登録日から5年以内に提出する必要がある。相手の悪意を証明できる場合は5年の制限を受けない。欺瞞又は誤解を生じさせた場合、「企業名称登記管理規定」第9条第(2)項と第5条に基づき是正が行われ、時間の制限を受けない。商標商号抵触における欺瞞または誤解とは、「著名商標認定と保護規定」第13条によると、著名商標を企業名称として登録したケースを指すと理解される。

②不正競争を理由に民事訴訟を提起する

他人の登録商標と同一又は類似する文字を自社の商号とし、混同を引き起こす可能性がある場合、不正競争行為であると主張することが可能である(「企業名称登記管理規定」第9条第(2)号と第5条、「商標法実施条例」第53条、「反不正競争法」第2条)。

北京高院の審判実務によると、商標権と企業名称が抵触した場合、商標権者が企業名称登録して5年以内に提訴しない場合は保護されない。ただし、悪意で他人の著名商標を企業名称として登録した場合は5年の制限を受けない。

最高人民法院は「張小泉はさみ案件」に対する回答において、「比較的に知名度が高い登録商標」の場合、企業名称の使用は市場の混同を引き起こすことが避けられないのであれば、企業名称の使用停止または変更を命じる判決を下すべきであり、また、著名商標の文字を使用した商号について、混同基準ではなく、「客観的希釈化」という基準を採用することができると回答している。

③登録商標専用権侵害を主張する

他人の登録商標と同一または類似する文字を商号として使用し、その上、故意に商号だけを目立たせて、公衆に誤認を引起す可能性のある場合は、登録商標権侵害となる可能性がある(「商標法」第52条第(5)号、「最高人民法院商標民事紛争案件の法律適用に関する若干問題の解釈」第1条)。

商号を「目立たせて」使用するとは、広告・宣伝・包装において、商号を際立たせて使用し、行政区画を表す文字(所在地の地名)と「有限公司」などの組織形態を表す文字を省略することを指す。例えば、看板、内装、商品包装紙などにおいて、他人の登録商標と同一または類似する商号を単独で使用する、または商号部分の文字のみ別の色を用いる、字体を変える、拡大するなどである。

商号が先行登録商標権に抵触しているのを発見したなら、相手方の企業名称が規範に沿って使用されている場合は不当競争を主張して損害賠償などを求め、相手方が企業名称の使用規範から外れている場合は、商標権侵害を主張することができる。ただし、電子商取引の場合、サイト側の制限もあり、商号だけを目立つようにして使用するケースは少なく、殆どの不正商号問題は商標権侵害ではなく、不正競争に当たる。

かつては企業名称の使用停止又は企業名称の使用方式と範囲を制限する判決ができるかどうかについて、法院でも議論があり、判例も一致していなかった。現在、最高人民法院は一連の講話と司法解釈を通じ、企業名称の使用停止、規範使用を直接判決することができると明確にしたただし、相手の悪意を証明できない限り、企業名称の登記が5年を過ぎた場合は、使用停止と企業名称変更の請求は認められない。

(3)相手方が中国国外で不正商号を登録している場合または中国国外の不正商号企業から使用許諾を得たうえで不正商号を使用しているケース

海外商号の不正登録で一番目立っているのが、いわゆる「香港商号」問題である。香港では、希望する会社名が既存の会社名と少しでも異なっていれば、会社登録できるようになっている。このような海外登録の類似商号は、中国の電子商取引サイトにもかなり存在している。

企業名称の許諾に関し、国家工商行政管理総局は、商号は、一種の人格権に属し、企業が他人に自社の企業名称の使用を許諾してはならないという見解を示し、他人に商号を使用させることを禁じいる。他社に許諾する場合、違法行為として、行政処罰が加えられる(「企業名称登記管理規定」第26条、「国家工商行政管理総局企業名称の許諾使用に関する問題の回答」)。

また、海外企業が自社の会社名を中国で使用する際、会社名の中国国内での商号使用行為が登録商標の侵害または不正競争行為とみなされた場合、中国国外では合法的に登録されているにもかかわらず、違法行為と認定される。

(4)未登録の偽会社名を使い、商号権・商標権を侵害(商号詐称)しているケース

この場合の行政責任は次の通りである。未登録の会社名を使い、生産・経営を行った場合の行政責任として、経営活動の停止が命じられ、違法収入を没収または二千元以上、二万元以下の過料が科される。情状が厳重な場合、両方の行政罰を同時に科すことができる(「企業名称登記管理規定」第26条)。また、すでに登録された他人の会社名を勝手に使用し、その商号権を侵害する行為をした場合、侵害行為の停止を命じ、違法収入を没収した上、五千元以上、五万元以下の過料を科すと定められている(「企業名称登記管理規定」第27条)。

他人の工場名、工場住所に偽装した場合、製品を没収し、製品価値以下の過料を科し、違法収入がある場合、合わせて没収する。情状が厳重な場合、経営ランセンスを取り上げるという規定もある(「製品品質法」第53条)。

偽の会社名を使用するということは非常に悪質な行為であり、おそらくまともな業者ではない。詐欺まがいの行為もする会社である可能性が高い。工商部門と品質監督局に通報して、偽物の行政取締りを合わせて実行することがより効果的といえる。粗悪な偽物も作っている可能性もある、あわせて取り締まってもらうことが望ましい。

ネット上の侵害実態として、「反不正当競争法」第5条第(3)項を適用して、経営者に不正競争による損害賠償責任を追及することも可能である。損失が計算できない場合、賠償額は侵害者が侵害期間において獲得された利益とされる。先行する商号権の侵害訴訟において、商号は知名であることは要求されない。

3.まとめ

従来は、不正商号があっても、それを発見し、販売者を確認し、流通している商品や宣伝広告などの内容を入手するまで、かなりの時間や手間がかかった。電子商取引の場合は、容易に不正商号の登録状況や使用状況の確認ができる。普段から、こまめに電子商取引サイトをチェックする、あるいは、インターネットのサーチ・エンジンを使い、不正商号ウオッチングを定時的に行い、問題商号の把握に努めるようお勧めする。問題商号見つけたら、自社商品との混同を防ぐよう、ICPに申立てをし、速やかに対応するのが得策である。不正商号登録の取消を望む場合、登記から5年以内に請求するよう心がけたい。また、自社の社名(商号)を保護し、他社の商標権の抜け駆け登録を阻止するため、企業は、商号だけではなく、商号の略称、公式の中国語訳以外の他の翻訳名、愛称などを登録商標出願することを検討する必要があるだろう。

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