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中国:迫られる外国投資受け入れの構造改善

中国ビジネスレポート 投資環境
馬 成三

馬 成三

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2005年7月29日

<投資環境>

中国:迫られる外国投資受け入れの構造改善

馬 成三

 WTO加盟(2001年末)前後から諸外国・地域の対中直接投資は急増し、2004年には実行金額ベースで606億ドルと、初めて600億ドル台に上った(商務省統計)。2004年末現在、対中直接投資は累計で認可件数約51万件、契約金額1兆966億ドル、実行金額5621億ドルとなっているが、うちWTO加盟後の3年間(2002〜04年)の金額だけで(実行ベース)これまでの累計の約3割にあたる1659億ドルに達し、年平均で553億ドルを計上している。

 外国投資に関する規制緩和の進展を背景に、対中投資の構造にもいくつかの変化がみられる。多国籍企業の対中投資の本格化、中国国内市場をターゲットにする投資へのシフトとサービス分野への投資の拡大などがそれである。なかでも多国籍企業の対中進出の本格化は注目すべきものがある。

 商務省によると、2004年末現在、全世界上位500社製造業企業のうち、日米欧の代表的企業を中心に、450社以上は中国に進出し、中国で30以上の地域本部と約700の技術開発センターを設けている。技術力が高く、世界範囲で販売のネットワークを持つ多国籍企業の対中進出の拡大は、中国の外国直接投資受け入れの質を高める上で意義が大きい。

 しかし、全体的にみれば、「質の向上」を含め、中国の外国直接投資受け入れは多くの「構造問題」を抱えているのが現状である。中共16期3中全会(2003年10月)は、今後の対外開放の進め方として、「積極的・合理的な外資導入」という方針を打ち出したが、その課題の一つに外資導入の「構造調整」を挙げている。

「資金」より「先進的技術」や「高級人材」を導入

 中国政府が目指す外資導入の「質の向上」には多くの内容が含まれているが、「資金」より「先進的技術」や「近代的管理方法」、国際ビジネスのルールを熟知したり、高い技術を持ったりする「高級人材」を導入することをより重視すべきだとの発想転換が注目される。

 上記の発想転換を求める背景には、中国の外資導入を巡る国内経済環境の変化がある。国内貯蓄や外貨準備の不足だった1980年代には、中国の外資導入は「資金の導入」に重点を置いていたが、国内貯蓄と外貨準備の増大に伴い、「資金」より「先進的技術」や「近代的管理方法」、「高級人材」への需要が強まっているのである。

 中国経済が高成長を続け、世界輸出におけるプレゼンスが急上昇しているなか、「中国脅威論」も登場しているが、しかし、中国の製品輸出、中でもハイテク製品輸出は主に外資系企業に支えられているだけでなく、中国企業は技術、重要部品と機械設備においても外国企業への依存を高めている。

 近年、中国は「世界の工場」と呼ばれるようになったが、日本やドイツなどの「世界の工場」と比べて、中国はまだ「世界の加工基地」にとどまっているのが実状である。これを前にして、政府系のシンクタンクを含む政府関係者からは、中国が本当の意味での「世界の工場」に変身させるには海外からの技術導入とその消化・吸収に力を入れなければならないとの指摘が増えている。

 過去20数年間、中国企業は海外から多くの技術を導入してきたが、「短期利益追求」という企業のスタンスもあって、その重点を、生産ラインを含む機械設備の導入に置いていたのが実情である。1980年代と1990年代における中国の技術導入において、機械設備など「ハードウエア」が占める割合は8割以上に達し、特許権やコンサルタントなど「ソフトウエア」のそれは2割も満たないといわれている。

 高度成長を経験した日本や韓国と違って、中国企業は導入技術の消化・吸収の面において、「努力不足」の問題も深刻である。近年、中国政府は国内企業の技術革新を奨励する姿勢を明確に打ち出し、導入技術の消化・吸収・革新と技術水準の向上を強調しているのも、技術力不足を含む国際競争力の諸問題への危機感から来ているものとみられる。

業種別選択の強化

 外資導入の「質の向上」を図る上で今ひとつの重要内容は、業種的にはハイテク企業、近代的サービス業、近代的農業と環境保護関係産業を重点導入分野とし、資源・エネルギー多消費型産業や環境汚染産業の導入を制限することである。

 なかでも多国籍企業の誘致や加工貿易のレベルアップが特に重要視されている。中共16期3中全会は「多国籍企業が高水準の技術、高付加価値の加工製造工程、研究機構を中国に移転するように誘導し、加工貿易のレベルアップと高度化を図る」という目標を明確に示している。

 質を問わない外資導入は、環境破壊や資源・土地の浪費など多くの問題をもたらしているが、その背景の一つに各地方政府間の外資誘致を巡る過当競争がある。耕地の減少と環境破壊の進行につながる開発区の乱立、土地使用料の過度低減、減免税措置の乱用など地方独自の優遇策の乱発がその端的表れである。

 これらの問題を前にして、中国政府は外資導入の「質を向上」を図るべく、開発区に対する整理と統廃合をはじめ、相次いで対策を採り始めている。国土資源省によると、2004年1年間、全国で6866か所の開発区を割り出し、全体の7割にあたる4813か所が統廃合され、それにより圧縮された用地は開発区総面積の65%にあたる2万4900平方キロメートルに達している。また資源・エネルギー多消費または汚染の多い製品を対象に、加工貿易の停止、税還付率の引き下げ、輸出暫定関税率の引き上げなどの措置も採られている。

 この過程で地方政府の動きも注目される。2005年6月、電力や土地供給の不足が進んでいる上海市は外資導入に関する量的評価基準を廃止し、現代的サービスや先進的製造業への投資誘致に関する目標を定めることなど、量的拡大より質の向上を重視する姿勢を明確にした。同市の目標では、2007年までに外国直接投資受け入れに占める現代的サービス業の比率を48%に、製造業への投資に占める先進的製造業の比率を70%に段階的に引き上げることとなっている。

 内陸部を含む他の地方にも、加工貿易に関する投資プロジェクトを制限するといった動きが出ているが、その背景には輸出税戻し制度(輸出品に対する付加価値税などの還付)の調整もあるとみられる。これまで中国の輸出税戻しの財源は中央財政による全額負担となっていたが、2004年以降の改革で地方政府が4分の1を負担するようになり、税負担の増大に悩まされる一部の地方政府は加工貿易に関する投資プロジェクトの制限に乗り出したのである。

内陸部と東北地区への投資の奨励

 中国の直接投資受け入れの構造調整における三つ目の課題は、内陸部(特に西部)と東北地区への外国投資誘致の拡大である。これまでの中国の直接投資受け入れは、地域的には華南地区、華東地区と環渤海地区からなる沿海部に集中しているという特徴がある。2000〜04年の間、対中投資全体に占める内陸部のシェアは小幅ながら上昇したものの、沿海部に集中するという構図は変わっておらず、なかでも華東地区と環渤海地区への集中度がむしろ高まっている。

 商務省の統計によると、対中投資に占める華東地区と環渤海地区のシェアは、実行金額ベースでそれぞれ2000年の27.5%と21.0%から2004年の34.6%と31.4%へと上昇した。1990年代までに対中投資の3〜4割を占めていた広東省のシェアは、2004年には2割を下回る16.5%に低下したものの、依然として内陸部(中西部)の合計(13.5%)より高い数字を示している。

 なかでも中国政府が重要視している多国籍企業の投資において、華東地区、環渤海地区と華南地区がより大きなシェアを占めていることは、商務省国際貿易経済協力研究院の調査で分かった。同調査によると、多国籍企業の投資先として、華東地区、環渤海地区と華南地区はそれぞれ47%、22%と21%を占めているのに対して、内陸部(中西部)のシェアは8%にとどまっている。

 1990年代後半以降、地域間のアンバランスを解消し、各地域の協調的発展を図るため、中国政府は相次いで「西部大開発」(1999年)や「東北旧工業基地の振興」(2003年)を提起したが、これらの地域への外国投資の拡大を振興策のポイントの一つに位置づけている。

 中共16期3中全会は、「外資が密集し、内外連携が行なわれ、牽引力の強いいくつかの成長地帯を新たに形成することを目指す」ことや、「西部大開発の積極推進、中部地域の総合的な優位の発揮、中西部地域の改革発展の加速化への支援、東北地方等の旧工業基地の振興」などをうたっている。

 内陸部、なかでも西部への外国投資を拡大するため、中国政府は西部で設立された外資系企業(奨励類)への減免税適用期間の延長や、沿海部外資系企業による内陸部への再投資の奨励、西部各省(自治区)が独自指定した奨励類への優遇措置の適用など措置を導入している。

 2002年3月に公布された「外国投資方向指導に関する規定」と「外国企業投資産業指導目録」は、「西部大開発戦略の実施と西部の優勢産業の発展に利する投資」を「奨励類」に追加し、2004年8月には「中西部地域における外国投資企業向けの優位性を持つ産業目録」も公布された。

 対外開放の拡大、なかでも外国投資の誘致は、東北旧工業基地を振興するための重要方策ともされている。国務院は2005年6月に「東北旧工業基地のさらなる対外開放の促進に関する実施意見」(案)を制定し、なかには重点産業と重点企業の改造への外国投資の活用、サービス貿易分野の対外開放の推進、地域経済協力への積極的参加、インフラ建設の強化などが含まれている。

 東北地区がインフラや人材などの面で内陸部より進んでいるため、日本を含む諸外国の企業は関心を寄せる可能性が高いとみられる。中国政府が「地理的優位性の活用、地域経済協力への主動的参加と国際市場の積極的開拓を提唱しているが、日本や韓国、ロシアなど北東アジア諸国・地域を念頭に置いているものとみられる。

 近年、中国政府が西部大開発や東北振興を推進するため、これらの地域への投資を奨励する姿勢を示したが、奨励対象とされているのは、外資企業だけでなく、東部沿海地区を中心に国内企業も含むことが注目される。この動向からは、外資受け入れの「質の向上」と、内陸部や東北地区への投資拡大という構造改善における二つの課題を同時に解決しようという政府の狙いがうかがえる。

(05年7月記・4,283字)
静岡文化芸術大学
文化政策学部教授馬成三

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