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ログイン2006年7月18日
1.急増する中国の技術導入
中国商務部によると、第10次5ヵ年計画期間(2001〜2005年)における中国の技術導入は、契約件数で3万5609件、契約金額で728億ドルに達し、第9次5ヵ年計画(3万2343件、約829億ドル)と比べると、それぞれ10.1%増と12.1%減となっている。
第10次5ヵ年計画期間の契約金額が第9次5ヵ年計画期間より減少したのは、技術導入に関する統計方法の変更によるものとみられる。つまり中国政府は2001年より技術移転を伴わないプラントや生産ラインの導入を技術導入に関する統計から除去したという新しい統計制度を導入したのである。もしこの要因を除けれ、第10次5ヵ年計画の契約金額もかなりの伸び率を達成できたと推定される。
同じ方法で統計された第10次5ヵ年計画期間中の各年度の技術導入は、契約件数と契約金額とも増加傾向をみせている。うち2005年には契約件数は前年比15.1%増の9902件、契約金額は同37.5%増の190.5億ドルに達し、両方とも過去最高の数字を記録した。
2006年に入ってから中国の技術導入は加速化している。商務省によると、2006年上半期の契約件数は5461件、契約金額は132億ドルと、前年同期より6割以上も増加した。この傾向からみれば、2006年通年の技術導入は、契約件数と契約金額の両方とも史上最高の水準になる見込みである。
中国の技術導入を業種別的にみると、1980年代初めから1990年代末にかけて、素材産業と機械・電子産業、軽工業・繊維産業、鉄鋼、化学などが重点となっていたが、21世紀に入ってから、鉄道輸送分野での技術導入が急増している。2005年には鉄道輸送分野の契約金額は29億ドルと、契約金額全体の約2割(19.6%)を占めている。その次に電子・通信設備製造(21億ドル、シェアは11%)と有色金属冶金・圧延加工(約20億ドル、シェアは10%)が続いている。
2006年上半期には鉄道輸送分野の契約金額は前年同期より8倍増の39.3億ドルに達し、前年通年の金額より10億ドルも多い数字となり、契約金額全体に占める割合も約3割に上昇した。電子・通信設備製造関係の契約金額も前年同期より1.5倍も増加し、契約金額全体の2割以上(21%)を占めている。
技術導入契約額を「設備費用」と「技術費用」との二つの部分に分けてみる場合、長い間、前者は後者より遥かに高いシェアを占めていた。例えば、改革開放直前の1978年には「技術費用」の比重は1.3%に過ぎなかったのに対して、「設備費用」は98.7%に達し、1980年代にも7割に及んでいた。
しかし、1990年代を通じて「技術費用」の比重が急上昇し、21世紀に入ってから、統計制度の調整もあって、「技術費用」は「設備費用」に比肩するか、それを超えるところまで拡大している。2005年には技術導入契約総額に占める「技術費用」の比重は62%と6割を超えている(2006年上半期の同比率も6割に達している)。
貿易黒字と外貨準備の拡大、人民元円切り上げへの圧力の増強などを背景に、政府部内では従来の「輸出重視」から「輸入重視」へと貿易政策の転換を行なうべきだとの意見が高まっている。実際、温家宝首相は今年3月の全人代における「政府活動報告」の中で、中国の貿易政策として、「輸入を適当に拡大し、先進的な技術、基幹設備や国内で不足している資源の輸入を拡大する」ことを挙げている。
中国税関によると、2006年上半期の中国の貿易黒字は614億ドルと、前年同期より約55%も増加し、うち6月の貿易黒字額が145億ドルに達し、月間ベースで過去最高を更新した。このような情勢から判断すれば、中国政府は従来以上に輸入の拡大、なかでも中国が必要としている技術及び関係設備の輸入の拡大を重視する可能性が高い。
2.技術導入の問題点
改革開放以降、特に1990年代に入ってから中国の技術導入は大きな成果を挙げた一方、幾つかの問題点も指摘されている。その一つは、導入の非効率である。中国の産業発展に特に必要な基礎素材や基礎部品に関する設備・技術より、一般的な加工設備・技術導入への偏重、地方自身の資源・技術条件を無視した技術・設備導入、同じ技術または同じレベルにある技術の「重複導入」がそれである。
なかでも導入技術に対する消化・吸収と自主技術の開発の不足が最も深刻視されている。戦後の日本やアジアNIESの技術導入が成功した理由の一つは、導入技術の消化・吸収に力を入れていたということにあるとよく指摘されているが、これに対して、中国は機械設備などの導入を偏重し、導入技術の消化・吸収を軽視するという傾向が強い。
中国政府は1981年11月の第5期全人大第4回会議で技術導入に関する基本方針として、「主に技術と自国の製造できない機械、重要設備を導入すべきで、設備のセット導入、重複導入、又は設備だけを導入して技術を導入しないことや、導入した後で消化・吸収の仕事をおろそかにすることなどを避けなければならない」(趙紫陽総理の政府活動報告)ことを打ち出したが、1980年代以降の推移を観察すれば、顕著な改善をほとんど見せていないのが実情である。
徐冠華・中国科学技術相によると、戦後の日本と1980年代の韓国の技術導入費用に対する消化・吸収費用の比率はそれぞれ1:5と1:8となっているのに対して、2004年の中国のそれは1:0.15にとどまっている(徐冠華「自主創新与技術引進」、2006年6月9日付け『人民日報』海外版)。
企業側からみれば、導入技術の消化・吸収を怠る原因の一つは、技術開発費用の不足にある。政府系シンクタンクの試算によると、先進国のGDPに占める研究開発費用の比率は平均で2.26%(うち米国は2.8%)に達しているのに対して、中国のそれは1.35%(2005年)にとどまっている。
また先進国とアジアNIESの研究開発費用の7割前後は企業の投入に占められているのに対して、中国の研究開発費用の中心は政府、特に中央政府の投入となっている。国家発展改革委員会によると、2001年の中国の研究開発費用において、国家と地方の投入は合計で68%(うち国家投入だけで58%)を占めており、企業投入の割合は22%に過ぎなかった。中国企業の多くは技術開発部門も新製品・新技術開発能力も持っていないのが現状である。
技術開発費用の不足は、中国技術の対外依存度の上昇をもたらした重要な原因とされている。中国科学技術省の統計によると、2005年現在、中国の技術の対外依存度は50%を超え、自前の知的所有権を持っている企業は全企業数の万分の3に過ぎない。そのため、中国企業の多くは余儀なく高い特許使用料を外国企業に払い続けなければならない。製品価格に占める特許使用料の比率からみると、携帯電話機は20%、コンピューターは30%、NC工作機械は20〜40%にそれぞれ達している。
3.導入技術の吸収・消化と自主技術開発の強調
2001年末の中国のWTO加盟は、中国の改革開放を新しい段階に導いた一方、中国の産業・企業がより厳しい国際競争にさらされることをも意味している。他方、改革開放以降、四半世紀以上も続いた高成長は、エネルギーなど資源供給の制約や環境問題も顕在化させている。これらを背景に、2003年10月に開催された中共16期3中全会は、新指導部の基本政策として、成長方式の転換や、環境との調和を含む「調和社会」の達成を提起した。
2006年2月、国務院は「国家中長期科学技術発展計画要綱」(2006〜2020年)を公布し、「世界の科学技術強国」を目指す戦略的目標とその措置を明確にしている。同計画要綱は「導入技術の消化・吸収及び改良の強化」を強調した上で、以下の諸施策を打ち出している。
(1)国の産業技術政策の充実・調整で導入技術の消化・吸収及び改良に力を入れ、自主技術の開発を奨励し、盲目的重複導入を規制すること。
(2)特別基金を設けて導入技術の消化・吸収・改良や重要技術設備の研究製造、重要産業の通用技術の研究開発を支援すること。
(3)資金投入の増加で企業を主体とする産学連携による技術の消化・吸収及び改良を支援すること。
(4)国による大型建設プロジェクトの実施を通じて、先進的技術を吸収・消化し、国の戦略的利益に関わる重要技術を攻略し、自前の知的財産権を持つ大型設備や基幹製品を開発することなど。
導入技術のレベルアップや盲目的導入・重複導入の規制を図るため、商務省や科学技術省は「技術導入奨励目録」を制定し、2006年6月に公布した。これによると、中国政府は情報、生物、新素材、エネルギー、環境分野の重要技術を導入することを奨励すると同時に、中国国内ですでに研究開発能力を持つ技術・設備の導入を制限し、エネルギー消耗が多く、汚染が発生しやすい、または遅れた技術・設備の導入を禁止することとなっている。
科学技術省などはまた2020年までにGDPに占める研究開発関係支出の割合を2.5%に、経済成長に対する技術進歩の寄与率を60%に引き上げ、外国技術に対する依存度を30%以下に引き下げ、中国人の発明による特許数(年間)が世界5位に入るといった目標も示している。2006年3月に採択された第11次5ヵ年計画(2006〜2010年)も、2010年までにGDPに占める研究開発関係支出の割合を2.0%に引き上げるとの目標を明記している。
4.新方針の実行で日本の対中技術輸出が促進されるか
対中技術供与先として、改革開放以前の10数か国・地域から21世紀初めの約100国・地域に拡大したが、EU、日本と米国を中心とする先進国は依然として主要な供与先となっている。第10次5ヵ年計画期間(2001〜05年)にはEU、米国と日本からの技術輸入は中国の技術導入全体の8割以上(契約金額ベース)を占めている。
なかでもEUからの技術導入が最も多く、2005年にはEUからの技術導入は契約金額で同年の導入契約総額の約半分(48%)にあたる91億ドルに達し、ドイツだけで50億ドルと、一つの国として最大の対中技術供与国に数えられている。
EUに次ぐ対中技術供与先は、日本(38.5億ドル、シェアは2割強)で、米国は第3位(契約金額で34億ドル、シェアで18%)となっている。しかし、第10次5ヵ年計画期間を通じてみる場合、EUは第1位(中国の技術導入契約額の約4割)、米国は第2位(同4分の1)、日本は第3位(同2割弱)にそれぞれランクされている(表を参照)。
2006年上半期にはEUは依然中国の最大の技術供与先としての地位を保っている。EUからの技術導入の契約金額は前年同期比45.7%増の56.2億ドルに達し、同期間の中国の技術導入契約金額の約43%を占めている。他方、日本は米国を超え、2番目の対中技術供与先に浮上した。同期間の日本からの技術導入契約金額は34億ドルと、米国のそれ(21億ドル)より13億ドルも多く、中国の技術導入契約金額に占める日本のシェアも米国のそれ(15.7%)より約10ポイント高い25.4%に上昇している。
中国政府が今後の技術導入の重点分野として、情報、生物、新素材、エネルギー、環境分野などを指定しているが、温家宝首相は今年3月の全人代で「省エネ・省資源型の製品」を奨励し、「省エネ・省資源を重点とする設備更新と技術改造を強力に推進する」ことを特に強調している。上記の諸分野、なかでも省エネや環境分野において、日本企業が強い競争力を持っているだけに、日本からの技術・設備導入はさらに拡大していくものと予想される。
表 第10次5ヵ年計画期間における中国の主な技術導入元(単位:契約額、億ドル)
|
EU |
米国 |
日本 |
日米欧小計 |
総額 |
2001年 |
44.7(49.2) |
18.2(20.0) |
11.3(12.4) |
74.2(81.6) |
90.9(100.0) |
2002年 |
50.5(29.0) |
70.1(40.3) |
29.8(17.1) |
150.4(86.4) |
173.9(100.0) |
2003年 |
33.8(25.1) |
32.7(24.3) |
35.2(26.1) |
101.7(75.5) |
134.5(100.0) |
2004年 |
55.1(45.2) |
29.2(21.1) |
29.4(21.2) |
113.7(87.5) |
138.6(100.0) |
2005年 |
90.7(47.6) |
34.0(17.8) |
38.5(20.2) |
163.2(85.6) |
190.5(100.0) |
2001-05年 |
274.1(37.6) |
184.1(25.3) |
144.1(19.8) |
602.3(82.7) |
728.4(100.0) |
2006年 |
56.2(42.5) |
20.8(15.7) |
33.6(25.4) |
110.6(83.8) |
132.0(100.0) |
注:第10次5ヵ年計画期間は2001〜2005年を指す。2006年は上半期の数字。
カッコ内は技術導入契約総額に占めるシェア(%)。
資料:中国商務省統計。
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