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インコタームズ®2010の主な変更における分析

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2012年9月26日


はじめに

「貿易取引条件とその解釈に関する国際規則2010」[1](アルファベットで「Incoterms®2010」と略称され、以下「インコタームズ®2010」という)は、2011年1月1日から実施され、貿易取引及び国内貨物取引にプラスの影響をもたらしつつある。多くの企業は、どちらかというと「貿易取引条件とその解釈に関する国際規則2000」(アルファベットで「Incoterms2000」と略称され、以下「インコタームズ2000」という)について詳しく、企業がインコタームズ®2010を理解しやすいよう、筆者は、インコタームズ®2010について、インコタームズ2000との違いを簡潔に分析する。

一、知的財産権保護の方面での違い

インコタームズ®2010では、はっきりとした登録商標マークが現れている。国際商業会議所は、国際商業会議所がその商標権と著作権を保護し、国際商業会議所の当初のインコタームズ規則の本文[2]だけが貿易契約に組み入れられる権威ある本文と見なされることができ、その正式な英語版か又は権限を付与された翻訳版かを問わず、いずれもインターネット上でインコタームズ®2010を複製する権限付与を行ってはならず、インコタームズ規則の全部または一部の翻訳又は係る出版物の複製ライセンスは、必ず関係する国際商業会議所の国家委員会から獲得しなければならないという声明を行っている。[3]
通常、インコタームズ®2010は、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(以下「条約」という)第2条第4項に定める「立法、行政又は司法的性質を有するオフィシャル文書」に該当し、「条約」の保護を受けると認識されているが、中国は「条約」の加盟国であり、「条約」の関係規定によると、インコタームズ®2010は中国の「著作権法」等の法律の保護を受けることになる[4]一方で、「INCOTERMS」は、すでに中国で商標登録を完了させており、同じように中国の「商標法」等の法律の保護を受ける。これをもって、国際商業会議所がインコタームズ®2010の知的財産権に対する保護を強調する背景のもと、国際商業会議所の声明に違反し、インコタームズ®2010の知的財産権を侵害する行為は、中国法律の厳しい処罰を実際に受ける可能性がより高まった。勿論、国際商業会議所が、インコタームズ®2010の知的財産権に対する保護を強化することは、インコタームズ®2010の適用を普及させることに必ずしも有利であるとは限らない。

二、貿易取引用語の使用面での変更

契約中にインコタームズ®2010を使用する場合、まず契約双方の当事者の状況及び契約で成し遂げたい目的に基づき、適切な貿易取引用語を選択する。契約中で貿易取引用語を引用する場合は、港湾又は場所を具体的に明記する必要があり、さもなければ、選択した貿易取引用語が実際にその役目を発揮するうえで支障がでるおそれがある。以下、インコタームズ®2010とインコタームズ2000との引用模範事例の違いについて表を通じて比較する。

用語引用模範事例 用語名称 港湾又は場所 INCOTERMSのマーク 例示 インコタームズ®2010 ○ 可能な限り具体的な場所を明記する ○ FCA
フランス、パリ、アルバート街38号
インコタームズ®2010 インコタームズ2000 ○ 港湾又は場所の名称を包括的に明記すればよい × FOB(上海)

備考:「○」は、明記すべき事項を意味し、「×」は明記不要な事項を意味する。

三、貿易取引用語の内容の主な変更

1.適用範囲の変更

インコタームズ®2010以前の規則は、実践においては、営業地が異なる国/地域にある当事者間で締結した輸出入貿易契約に主に適用し、輸出入許可証の取得、貨物の輸出入に必要となる税関手続きが、売買双方の重要な義務の1つであった。国内取引が発展するにつれ、売買双方は純粋な国内取引契約中でも貿易用語を使用し始めている。国際商業会議所は、インコタームズ2000は国内取引にも同様に適用することを否定はしていないが、INCOTERMSの適用範囲を更に強調するために、インコタームズ®2010は改正時に小見出しも相応に調整しており、新しい小見出しである「ICC rules for theuse of domestic and international trade terms」[5]を通じて、インコタームズ®2010は輸出入貿易契約だけに適用するのではなく、国内取引契約にも適用することを初めて正式に明確にした。
2.「本船の手すり」⇒「本船の船上」

FOB、CFR及びCIFという用語のもとでは、インコタームズ®2010は「本船の手すり」の規定を廃止し、「本船の手すりを越えた時点で納品が完成し、買主は本船の手すりを越えたときから貨物の滅失又は破損のリスクを負う」が、「売主が貨物を買主の指定する船上に置いた時点で納品が完了し、又は船積みされた貨物を取得する方式にて納品が完了し、貨物の滅失若しくは破損のリスクは貨物が本船の船上に引き渡された時点で移転し若しくは貨物を取得した時点で移転する」と改められた。インコタームズ2000を適用した際には、「本船の手すり」の認識について、終始、多くの意見が出されたが、認識が一致しなかったからこそ、売買双方の権利義務の画定が明確でなくなり、これにより売買当事者双方間の紛争がよく発生した。インコタームズ®2010では、売主は貨物を本船の船上に置く前の一切のリスクを負担する必要があることを強調し、売買当事者双方のリスクの画定が簡単かつ明確になった。
注意すべき事項としては、インコタームズ®2010には「本船の手すり」という概念はなく、売買当事者双方がリスクの移転を確定する際には、爾後、本船の手すりを越えたかどうかということについては考える必要はなくなった。売主が船積みする必要がある場合には、売主が貨物を本船の船上に置いた時から、貨物のリスクは移転することになる。実際には、売主のリスクは増大した。

3.輸送形態に関する事項

適用できる輸送形態ごとに、インコタームズ®2010は、従来の「EFCD」分類に基づく貿易取引用語をベースに、一部の用語を調整した後、「あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用」及び「海上および内陸水路輸送だけに適用」という2種類の用語に分けて説明を行っている[6]。用語を適用する輸送形態に変更が生じた状況について、下表に説明する。

用語名称\適用規則 インコタームズ®2010 インコタームズ2000 EXW あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用

明示していない DAT あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用

この用語はない DAP あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用 この用語はない DDP あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用

あらゆる輸送形態とだけ言及している


4.新たに追加された用語内容の簡潔な紹介

インコタームズ®2010では、DATとDAPという2つの用語を新たに追加し、インコタームズ2000におけるDAF、DES、DEQ及びDDUという4つの用語を代替した。新たに追加されたこの2つの用語は、「引渡し」に関する用語であり、貨物が引き渡し場所に輸送されるまでのすべての費用と貨物の破損、滅失のリスクは売主が負担するが、輸入通関手続きが必要な場合は、売主は、輸入通関手続きに必要となる費用は負担しない。以下具体的に説明する。

DAT DAP 適用する輸送形態 あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用 あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用 定義 ①DeliveredR2010at Terminal ターミナル持込渡し
②引渡し場所:指定された港湾又は目的地のターミナル
③引渡しのタイミング:輸送道具から荷卸して買主に引き渡した時点。 ①Deliveredat place 仕向地持込渡し
②引渡し場所:指定された目的地
③引渡しのタイミング:貨物を載せた輸送道具が指定された目的地に到達したが荷卸されていない。
リスクが移転するタイミング 売主が貨物を引渡し場所に輸送し、且つ引渡し場所において貨物を荷卸した後、買主に引渡した時点でリスクは買主に移転する。 売主が引き渡し場所で貨物を到達した輸送道具において荷卸の準備をする際に、リスクは買主に移転する。 売主の主な義務 ①貨物、商業インボイス及びその他エビデンスを引渡す。
②必要に応じて、輸出通関手続を行う義務を負う。
③費用を自己負担し輸送契約を締結する。
④保険手続に必要な情報を買主に提供する(必要がある場合)。
⑤輸送契約及び引渡し前における貨物に関する一切の費用、及び貨物の輸出通関に関係する一切の費用を負担する。但し、買主が支払うべきものについては除外する。
⑥必要な通知を買主に必ず行う。
⑦買主に荷受のエビデンスを提供し、これにより生じる費用を負担する。
⑧貨物の検査費用、荷積み前の強制検査費用、及び貨物梱包費用を支払う。
⑨買主に協力し、情報を提供し、且つ買主が協力し、情報を提供するための費用を負担する。 ①貨物を輸送道具に置き、引渡し場所にて荷卸の準備ができた時点で引渡しが完了する。
②上記第①項を除き、その他の義務は左側のDAT用語における①-⑨項の売主の義務に同じである。
買主の主な義務 ①貨物代金を支払う義務。
②輸入通関手続きを行う義務。
③保険手続に必要な情報を売主に提供する(必要がある場合)。
④貨物を引取る義務。
⑤引渡し時点からの貨物と関係する一切の費用、買主が輸入通関義務を履行せず、及び売主に遅滞なく通知しなかったことで売主が負担することになった予定外の費用及び輸入通関手続きを行うことについての費用を負担する。
⑥具体的な時間を決定し又は引渡し場所を指定する場合、必ず売主に通知しなければならない。
⑦貨物の荷積み前に発生する強制検査費用を支払う(輸出国が正式に強制して実施する検査を除く)。
⑧売主に協力し、情報を提供し、且つ売主が協力し、情報を提供するための費用を負担する。 ①荷受時に荷卸の義務を負わなければならない。
②上記第①項を除き、その他義務は左側のDAT用語における①-⑧項の買主の義務に同じである。
代替する用語 ①本用語はDEQに取って代わる。DEQは、港湾での引渡しに限定され、しかも海上および内陸水路輸送または複合一貫輸送形態にしか適用できない。
②本用語には、DEQの適用状況を含み、且つ範囲を拡大しており、あらゆる形態のターミナルでの引き渡しに適用される。 ①本用語は、DAF、DES及びDDUという3つの用語に取って代わる。
②本用語は、基本的に、上記3つの用語の適用状況をカバーしている。

以上、インコタームズ®2010の主な変更点について説明した。これら以外に、インコタームズ®2010にはその他の変更点も存在し、たとえば、インコタームズ®2010は、それぞれの貿易取引用語の前に、同用語を解釈するための基本原理として、使用手引を追加していること、電子通信にその他ドキュメントと同じ効力を付与していること、条項の内容も若干変更されていること、などである。

なお、インコタームズ®2010が発効したからといって、インコタームズ2000が有効ではなくなったことを意味するのではない。インコタームズ®2010が発効した後、当事者は自由意思にて、貿易契約中でインコタームズ2000又はそれ以前の貿易取引条件とその解釈に関する国際規則の適用を選択した場合、その約定は依然として有効である。但し、インコタームズ®2010は、インコタームズ2000をベースに、国際貿易の情勢に基づき最適化されたものであることから、現代貿易の実情により近づいており、売買当事者双方の権益をより公平に分配でき、売買当事者双方から一層受け入れられやすいものである。したがって、貿易取引又は国内取引においてインコタームズ®2010を適切に理解し、且つこれを積極的に適用することは、貿易競争における優位性を高め、当事者の権益を守るうえで有利である。

[1]本ウェブサイトのリンクは、購読者が本文を理解しやすいよう付け加えたものであり、リンク先のウェブサイトの内容の適法性、正確性については、責任を負わない。国際商業会議所がインコタームズ®2010について明確な知的財産権の要求を行っていることを踏まえ、購読者が必要と判断する場合は、正規のルートを通じて正式な本文を入手いただきたい。
[2]当初の規則の本文は、国際商業会議所が発行し又は国際商業会議所が発行を委任した関係規則の本文であると思われる。
[3]国内企業又は個人は、国際商業会議所中国国家委員会のオフィシャルウェブサイトを通じてIncoterms®2010の正式な本文を発注することができる。
[4]なお、Incoterms®2010は、国際慣例の1つであり、法の根源の1つに該当するものであり、中国では「著作権法」の保護は受けないはずだという認識も一部存在する。
[5]日本語でいうと、国際商業会議所の規則は、国内取引又は貿易取引に適用できる、というものである。
[6]そのうち、あらゆる輸送形態又は複数の輸送形態に適用する貿易取引用語には、EXW、FCA、CPT、CIP、DAT、DAP、DDPが含まれ、海上および内陸水路輸送だけに適用される貿易取引用語には、FAS、FOB、CFR、CIFが含まれる。

(里兆法律事務所が2012年3月11日付で作成)

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