中国の従来の税法規定(現在、上海地区を除き、中国のその他の地区では尚も当該規定を執行している)により、サービス業企業が営む各サービス業務(輸出サービスを含む)には増値税ではなく、営業税が課されていたため、輸出時税金還付は発生しなかった(中国は、増値税に対してのみ輸出時税金還付措置を執行する)。
中国では、サービス業を対象にした営業税から増値税への一本化の試行作業を既にスタートしている。「営業税から増値税への一本化試行方案」、「上海市で交通運輸業および一部の現代サービス業の営業税から増値税への一本化試行を展開することについての通知」などの規定により、上海市は2012年1月1日より、交通運輸業および一部の現代サービス業の営業税から増値税への一本化の試行を本格的に展開しており、今後は試行地区および業種範囲が更に拡大されることが予想される。
上述の「営業税から増値税への一本化試行」の基本政策に基づき、試行地区の組織および個人(以下「試行サービス提供者」という)が2つの輸出サービス業務(現時点では、当該2つの輸出サービス業務のみに限定する)を提供する際に適用される増値税優遇措置を確実に実施することを目的として、2011年12月29日に、財政部、国家税務総局が、「課税サービスに増値税ゼロ税率と免税措置を適用することについての通知」を公布し、2012年4月5日に、国家税務総局が「営業税から増値税への一本化試行地区に適用される増値税ゼロ税率課税サービスの税金免除・控除・還付管理弁法(暫定)」を公布している。
現法律規定、政府部門とやり取りした意見などと併せ、試行サービス提供者が2つの輸出サービスを提供する際の増値税優遇措置について、下表の通り簡潔に説明する。
(一)提供する2つの輸出サービスの画定
概要
簡潔な説明
国際運輸サービス
「国際運輸サービス」の詳細は以下の通りである。
1.国内で旅客または貨物を輸送し出国する。
2.国外で旅客または貨物を輸送し入国する。
3.国外で旅客または貨物を輸送する。
ご注意頂きたいこととして、上述の「出国」、「入国」、「国外で」の「国」とは大陸地区(「香港・マカオ・台湾」を除く)の「国境」という意味であり、中国「税関特殊監督管理区域」などの「関税領域」を出入りすることは、「国際運輸サービス」に該当せず、本文で検討している増値税優遇措置を享受できない。
国外の組織に提供する研究開発サービス、設計サービス
「国外の組織に提供する研究開発サービス、設計サービス」の詳細は以下の通りである。
1.研究開発サービスとは、新技術、新製品、新工程または新素材およびそのシステムの研究と試験開発を行う作業のことを指す。
2.設計サービスとは、プラン、企画、構想を視覚、文字などの形で伝える作業のことを指す。具体的には工業設計、造形設計、アパレル設計、環境設計、グラフィックデザイン、包装設計、アニメーションデザイン、展示設計、ウェブデザイン、機械設計、工事設計、クリエイティブ・プランニングなどが含まれる。
ご注意頂きたいこととして、中国「税関特殊監督管理区域」内の主体に研究開発サービス、設計サービスを提供する場合、本文で検討する増値税優遇措置を享受できない。
(二)増値税優遇措置の享受方法
区分
簡潔な説明
小規模納税者
増値税「徴収免除」という方法が適用され、即ち、当該取引段階(2つの輸出サービスを対外的に提供する)では、増値税の徴収が免除される。
一般納税者
増値税「税金免除・控除・還付」という方法を実行し、このうち、税金還付率は、相応する国内販売サービスで使用されている課税税率とするが、別途規定がある場合は除く(現時点までにおいては、「別途規定がある」という状況はない)。
上述の「税金免除・控除・還付」の計算金額=2つの輸出サービスの課税価格(通常は外貨建ての収入金額)×為替レート×税金還付率。
注意事項:
1.「税金免除・控除・還付」金額の計算はやや複雑であり、比較的多くの要素を考慮する必要があるが、全体的に見て、上述の「税金免除・控除・還付」の意味は以下の通りである。
①「免除」:当該取引段階において、増値税の徴収が免除される。
②「控除」:上述の「税金免除・控除・還付」計算金額は、法定の基準に基づき、国内販売サービス、貨物の販売税額から控除することができる。
③「還付」:「税金免除・控除・還付」により控除し切れていない部分は、理論的に言えば、税金還付または次期に繰越して控除するよう要求することができる。
2.上述の「税金還付率」は国内で提供した係るサービスの増値税税率である。具体的には以下の通りである。
①「国際運輸サービス」の現税率は11%である。
②「国外の組織に提供する研究開発サービス、設計サービス」の現税率は6%である。
ご注意頂きたいこととして、試行サービス提供者が上述の増値税「税金免除・控除・還付」の優遇措置を享受するには、主管税務機関にて輸出時税金還付(免除)認定手続きを行わなければならない。
係る輸出時税金還付(免除)認定手続きの際に提供する必要がある重要資料は、下表の通りである。
タイプ
重要資料
国際運輸サービス
それぞれのタイプの国際運輸サービスが上述の増値税優遇措置を享受するための前提は以下の通りである。
1.水路国際運輸:「国際船舶運輸経営許可証」を提供する必要がある。
2.航空国際運輸:「公共航空運輸企業経営許可証」を提供し、経営範囲に「国際航空旅客貨物郵便物運輸業務」が含まれている必要がある。
3.陸路国際運輸:「道路運輸経営許可証」と「国際自動車運輸通行許可証」を提供し、「道路運輸経営許可証」の経営範囲に「国際運輸」が含まれている必要がある。
国外の企業に提供する研究開発サービス、設計サービス
国外の企業に提供する研究開発サービス、設計サービスが上述の増値税優遇措置を享受するためには、「技術輸出契約登記証」(以下「登記証」という)の提出が前提となる。
注意事項:
1.「技術輸出入管理条例」、「技術輸出入契約登記管理弁法」などの規定により、実質的に「技術輸出」に該当する契約は、法に照らし登記手続きを行なった後にはじめて「登記証」を取得することができる。当該政府手続きは、各地の商務部門が取扱い、例えば、上海地区については、上海市商務委員会の「技術輸出契約登記取扱の手引き」を参照するとよい。
2.本文で検討している増値税優遇措置を享受できる研究開発サービス、設計サービスについて、「技術」関連でなければならないとの明確な規定は中国税法になく、現税法規定の一部の研究開発サービス、設計サービス(例えば、展示設計、クリエイティブプランニングなど)は実質的には、技術的内容を恐らく含んでいない(または明確に含んでいない)。
当該部分のサービスの契約は理論的には、「登記証」の取得手続きができない。にも関わらず、上述の増値税「税金免除・控除・還付」優遇措置を享受したい場合には、この「登記証」の提供が必須となることから、矛盾する点がある。
3.現時点では、営業税から増値税への一本化は未だ試行の駆け出し段階にあるため、上述の矛盾点について、法律上および政府の実務面でまだ明確な解決策がない。実際に取り進めて行き、また試行地区と業種範囲が更に拡大されるにつれて、今後明確にされるであろうと思われる。
従い、増値税「税金免除・控除・還付」優遇措置を享受するのに必要となる「登記証」を問題無く取得することができるよう、試行サービス提供者が契約の締結段階において、契約内容(実質)、表現(形式)などの面で極力、「技術」的内容を示すようにし、また手続き段階においては、商務主管部門との意思疎通をしっかり行なっておくようお勧めする。
理論的には、「登記証」を取り扱う商務主管部門は契約に「技術的」内容が含まれているかなどについての実質的審査を行うが、現在実務上、表現(形式)上「技術」的特徴を有している契約の場合、手続きが問題なく行われ、「登記証」を取得できる可能性は比較的高い。
勿論、ご注意頂きたいこととして、上述の「便法的な」やり方での「登記証」の取得手続きを行うことは適法性の面では、理論上、一定の瑕疵があると思われる。
この点を考慮し、筆者の把握する限りでは、現在、実務においては、増値税「税金免除・控除・還付」優遇措置を当分断念することを決めている外商投資企業もある。
以上から、係る税収優遇の待遇を受け、税負担が軽減されるよう、試行サービス提供者が2つの輸出サービスを提供するにあたっては、実際の業務上の必要と併せ、法に照らし増値税優遇措置の認定手続きを行うようにするとよい。
(2012年6月8日里兆法律事務所 作成)