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ログイン2014年3月31日
様々な問題が混在し、社会の矛盾が深刻であることが、中国の将来の発展に暗い影を落としている。これについて、中国の新指導部は就任以来、全面的な改革により問題を乗り越え、中国の更なる飛躍を促進すると幾度も表明している。中国共産党第十八期中央委員会第三回全体会議において2013年11月12日に審議可決された「改革の全面推進に伴う若干の重大問題に関する中国共産党中央の決定」(以下「決定」という)は、今次改革の方針と目標を全面的、多角的に示している。労働改革については、「決定」第(43)、(44)、(45)条に個別の説明があり、筆者は現行制度に照らして、企業の雇用と関連性の高い以下の問題について選択分析を行った。
就業差別の撲滅
「決定」は、「人員募集雇用制度を規範化し、都市農村部、業界、身分、性別などの平等な就業に影響を及ぼす一切の制度上の障害および就業差別を取り除く」ことを提起している。表面上では、「決定」は2008年から施行されている「就業促進法」第三章「公平就業」の就業差別禁止に関する規定[1]を改めて強調しているだけに見えるが、この度就業差別禁止の内容を強調することは、中国が就業差別禁止における法執行への注力を強化する意思の表れと思われる。これまで、「就業促進法」で全面的に就業差別禁止に関する内容を定めているにもかかわらず、常に法執行への注力は弱く、特に政府部門自らの人員募集において就業差別問題に直面した場合は尚更であった。
法執行への注力が強化される場合、企業は今後人員募集の際に、就業差別問題の回避に一層の注意を払わなければならない。具体的には、企業は人員募集広告、採用条件、採用通知などの公開文書において、戸籍、性別、民族、種族、宗教信仰などの制限および伝染病キャリアの採用拒否などが表れることのないように留意する必要がある。法律で制限を加えることができると明確に定められている分野を除き、企業がある職務において人員募集に制限を加える必要があると判断した場合、リスクを低減するため、人員募集文書において制限を加える理由をできる限り適切に明記することが望ましい。
段階的な定年年齢の延長
「決定」は、「段階的な定年年齢の延長に関する政策の研究制定」を求めている。段階的な定年年齢の延長とは、現時点での理解では、徐々に、緩やかな定年年齢の延長を指しており、例えば定年年齢の1年延長に2年間をかけるものとし、1年目は定年年齢を半年延長し、2年目は更に半年延長する方法で進めていく。段階的に定年年齢を延長する政策は現行の定年制度に抵触する部分が少なく、最終的に定年延長の効果を得ることが可能となる。
中国版年金である養老金には「過去の借金」[2]があるため、現在、支払い上の大きな問題を抱えている。中国社会科学院が以前発布した「中国養老金発展報告2012」のデータでは、中国の養老保険個人口座の空帳簿は[3]2007年に1兆元の大台を突破した後、急速に進み2011年には2兆元を突破し、時間の推移と共に「養老金不足」は継続的に拡大している。
定年年齢の延長は第一として「養老金不足」の対策として提案されたもので、世に出て討論されて久しく、世論からみれば、本対策は大衆の支持をほとんど得られていないようであるが、「決定」の要求では、今後、本政策の実施は不可避のものとしている。無論、定年年齢の延長に頼るだけでは「養老金不足」の問題を抜本的に解決することは不可能であり、将来的には政府が追加投入するなどして「過去の借金」を解決する必要があると思われる。
定年年齢の延長が企業の雇用に与えると思われる影響は、主に以下の通りである。
1. 企業の規則制度で定年年齢を定めている場合、新たな法令または政策に応じて随時変更する必要がある。
2. 企業が無期労働契約を締結している従業員の実際の勤務年数は延長し、社会保険料の納付年数も長くなる。このため、企業は無期労働契約を締結する対象を確定する際に慎重を期す必要があり、企業が残留を望む重要な人材でなければ、できる限り回避する。
3. 将来的に高年齢の従業員が現れることになり、当該人員の年次有給休暇はより長く、疾病の確率も高くなるため、業務効率は往年に及ばず、企業が直面する管理上の困難はより大きいものとなる。このため、企業は高年齢従業員が全従業員に占める割合を適度に抑制し、その業務を適度に手配、調整する必要がある。
賃金制度の整備
「決定」は、「労働報酬における初回分配比重の引上げ、賃金決定と正常な昇給システムの構築、最低賃金と賃金支払い保障制度の整備、企業賃金団体交渉制度の整備」を定めている。これらの内容は実際には早くから政府より機会のある毎または関連文書を通じて提起されており、全体としては、これらの内容が現在策定中の「賃金条例」の指導思想となることが予想される。
これより判断するに、最低賃金の継続的な引上げは一つの趨勢になると思われ、企業の労務コストは引き上げを余儀なくされる。また、将来的には賃金改革の重点は賃金団体交渉制度に集中することが予想され、政府は企業と従業員の賃金団体交渉を促進することで、従業員が企業との交渉を通じて賃金水準を引き上げることを計画的に期待しているようである。このため、企業は賃金団体交渉関連規定の公布に十分に注意し、適時に研究する必要があり、自らも賃金団体交渉に関する方案および経験をより多く把握するように努めるのがよいであろう。
社会保険料率の適時適度な引下げ
「決定」は、「社会保険料率の適時適度な引下げ」を示している。これは企業と従業員にとって、確かに重大で利のある政策である。
中国が現在設定している社会保険の料率は、国際的に高い水準であるが、中国の大衆に対する実際の社会保険の支出は決して突出したものではない。このため、「高い料率、低い保障」が一部大衆の現行社会保険制度に対する見方となっている。上海を例に挙げれば、2013年の5項目の社会保険[4]に関し、企業と従業員が負担する料率の和は賃金の45.5%[5]であり、その他の地区についても、社会保険の料率はこれと大差はない。社会保険以外にも、中国には強制項目である住宅積立金があり、企業と従業員から徴収しているが、料率は一般的に5%から12%の間である(上海は現在7%)。これら二つの料率を合わせると従業員賃金の50%を超える。
高い水準にある社会保険と住宅積立金の料率は、従業員の手取りを直接圧迫し、企業の労務コストを高めるものであり、企業と従業員のいずれにも重くのしかかっている。「決定」の「社会保険料率の適時適度な引下げ」に関する政策は、企業と従業員の負担軽減への支援策であり、これにより、企業の労務コストは軽減され、従業員の手取りは増加するであろう。企業のコストを抑えることは企業の発展を促すこととなり、従業員の手取り賃金の増加は消費を促進するため、最終的には経済にプラスとなり、政府、企業および従業員の三方良しという状況の実現を期待できる。
以上をまとめると、「決定」は中国の今後数年間の労働改革の方針を明確にしたが、これらの改革方針は中国の立法、行政部門などの各種レベルの法律、法規、規則などの制定を通じて実施する必要がある。よって、関連改革が企業にとって利となるか害となるかにかかわらず、いずれも段階的に進むものと思われる。このため、企業は関連立法動向に十分注意し、事前に各種対応準備を整えておくことが望ましい。
備考:
関連法令については、下記のURLをクリックしてください。
「改革の全面推進に伴う若干の重大問題に関する中国共産党中央の決定」
http://cpc.people.com.cn/n/2013/1115/c64094-23559163.html
「中華人民共和国就業促進法」(2008年1月1日施行)
http://www.gov.cn/flfg/2007-08/31/content_732597.htm
(里兆法律事務所が2013年12月2日付で作成)
[1]「就業促進法」第三章の関連条文で明確にされた規定:労働者は法に則り平等就業および職業選択の自由の権利を享受する。労働者の就業については、民族、種族、性別、宗教信仰などの違いによる差別を受けない。国は婦女が男子と平等に働く権利を享受することを保障する。農村部の労働者が都市部で就業する場合は都市部の労働者と平等な労働権利を享受し、農村部労働者の都市部での就労に対し差別的制限を設けてはならない。使用者が人員を募集使用する際、伝染病キャリアであることを理由に採用を拒否してはならない等。
[2]「過去の借金」が形成された主な原因は、一つには、養老保険改革前に中国で採用されていたのは、企業が納付して政府が支払う「現在納付されたものを現在の支払いに充てる」制度であったが、改革後の新制度では、企業と従業員が共同で納付し、口座は社会プールと個人口座を組み合わせたものとなっており、改革前に定年となった者、勤務年数を重ねていた従業員に対し、政府は当人のために個人口座を開設したものの、当人は養老保険料を納付していないため、実際の資金は存在せず、政府もそれに対し資金を注入しなかったにも係わらず前記の従業員に養老金の支給が行われたため、借金を形成することとなった。もう一つには、中国は社会プールと個人口座に対し混合管理の財務制度を実施しており、時には定年従業員の養老金支払い問題を解決するために、政府が在職従業員個人口座の資金を直接流用し、長期にわたり、個人口座資金を借りて社会プール資金の不足を補ったために、借金を形成することとなった。
[3]「空帳簿」とは、社会保険口座の中で、一部の個人口座について資金金額が記載されているのもかかわらず、実際の資金がない、または実際の資金が記載されている金額に達していないことを指し、それが形成された主な原因は前脚注で説明した内容である。
[4]養老保険、医療保険、生育保険、労災保険および失業保険である。
[5]URL:http://www.12333sh.gov.cn/200912333/2009xxgk/ztxx/201309/t20130913_1151916.shtml
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