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中国「商標法」の大幅改正における多くの要点と注目点

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2014年4月10日

現行の「中華人民共和国商標法(2001年改正)」(以下、「商標法(2001年改正)」という)の実施過程における、商標登録の手順が煩雑であり、商標の権利確認までの所要時間が長過ぎ、馳名商標の濫用、商標の冒認出願および商標分野での不正競争の状況が深刻で、商標権侵害状況が効果的に抑止されていない、登録商標専用権保護を強化しなければならないなどの問題について、2013年8月30日の中国第十二期全国人民代表大会常務委員会第四次会議第三次審議で「『中華人民共和国商標法』の改正に関する決定」(以下、「新商標法」という)が可決、公布された。現行の「商標法」に対する三回目の改正[1]
であり、「新商標法」は2014年5月1日から施行される。企業の立場から見て理解しやすいよう、今次改正の要点および注目点を以下のとおり簡潔に整理しまとめた。

一、改正の要点

今次改正は「商標登録手順の効率化」の内容や、「商標権利実体保護」の内容等、計53ヶ所におよぶものである。その要点を下表にまとめた。

改正要点 「商標法(2001年改正)」 「新商標法」
登録商標の表示種類を拡大した[2] –   出願する商標は「目に見える表示」でなければならない。   –    単に「可視性」のみを強調することはせず、顕著な特徴、商品またはサービスの由来を識別する際の助けとなる可視性もしくは非可視性の標識(「音声」などの要素を含む)を備えてさえいれば、いずれも商標出願が可能である。
–    以上のとおりであるが、国家、軍歌などを使用した標識を商標とすることは禁じられている。
馳名商標の認定および使用の制度を整理し明確にした[3] 登録商標の表示種類を拡大した。     
–    馳名商標をどのように認定するかについては、関連制度の整備が不足している。
–    馳名商標の適用範囲についての規定が不明確であり、馳名商標が容易に濫用される。
–   馳名商標の認定は「個別認定、受動的保護」の原則を遵守する[4]
–   
実務における馳名商標認定の五つの手順(商標登録審査、商標紛争処理、商標権侵害事件の取締り、商標民事、行政事件の審理手順)を法律の形で明確にした。
–    他者の馳名商標を企業の商号に使用することを禁止する。
–   「馳名商標」の文字を商品、商品包装もしくは容器において、または広告宣伝に使用することを禁止し、違反した場合は10万元の罰金に処す。
冒認出願を禁止し、商標登録の信義誠実の原則を体現した[5]  –   代理人または代表者は授権を得ることなく自己の名義で被代理人または被代表者の商標を登録してはならないとのみ規定している。      –   代理人、代表者を除き、他に関連商標を他者が先行使用している(ただし、未登録)ことを知っていた場合は、その未登録商標を出願してはならないことを明確に規定した。
商標代理活動を規範化した[6] –   商標代理機構の代理活動について規範化されていない。 –   商標代理機構の代理活動における義務を規定した。それには信義誠実の原則の遵守、依頼者の商業秘密の守秘、商標の冒認出願の禁止などが含まれる。
–    商標代理機構の規則違反、違法行為に関する処罰を規定した。
 商標登録手順を簡素化した[7]。  –    一つの申請書では一分類の商品に関する一商標の登録申請のみができる。 –   一つの申請書で複数の分類の商品についての同一商標の登録申請ができる。
–    同時に、登録商標申請はデータグラム方式で行うことができる。
商標審査期限に関する規定を追加し、商標登録の異議制度を整備した[8] –   商標登録の審査期限を規定していない。
–    如何なる者も均しく初期査定の商標に対し異議を申し立てることができる。
–    商標登録の異議、再審査の処理期限を規定していない。
   –   出願のあった商標について、商標局は9ヶ月以内に審査を完了しなければならない。
–    事由の性質に応じて商標登録異議申立人を分ける。
–    商標登録の異議、再審査の処理期限を明確にし、異議の結果に応じて以後の救済方式を区分する。
商標の更新期間を調整した[9] –   
登録商標の存続期間満後も継続して使用する必要がある場合、期間満了前6ヶ月から満了の日までに更新の申請をしなければならない。
–   登録商標の存続期間満了後も継続して使用する必要がある場合、期間満了前12ヶ月から満了の日までに更新の申請をしなければならない。
商標使用許諾届出の対抗効力に関する規定を追加した[10]。   –   
他者への自己の登録商標の使用許諾については、商標許諾契約の届出手続を行わなければならないとのみ規定されており、届出行為の法的効力については規定されていない。
‐   他者への自己の登録商標の使用許諾について、当該許諾が届出されていない場合、善意の第三者に対抗することができない。
商標権の抹消および無効の制度を厳格に分けた[11] –   商標権の取得に瑕疵が存在する状況については、商標局が当該登録商標を抹消する。
–    登録商標が抹消された日から、以後当該商標の専用権は保護されない。
–   商標権の取得に瑕疵が存在する状況については、個々の状況別に、商標局または商標審査委員会(以下、「商評委」という)が当該登録商標の無効を宣告する。
–    無効が宣告された登録商標については、当該登録商標専用権は初めから存在しなかったものと見なされる。
商標使用に関する管理を整備した[12] –   商標使用とは「商品由来の識別に用いる行為」と規定し、商標法の意味における「商標使用」の概念を明確にした。
–   無断で登録商標、登録者名義、住所またはその他の登録事項を変更するという商標使用の不正行為に対し、工商部門による期限付の是正命令にもかかわらず是正を拒否した場合、商標局がその登録商標を抹消する。
–   登録商標がその使用を認められた商品、サービスの通称となった場合、如何なる者も商標局に対し当該登録商標の抹消を申し立てることができる。
商標専用権保護を強化し、初めて懲罰的賠償制度を定めた[13]。  –   「商標権侵害行為」の種類を追加した。
–    商標に関する抗弁権の合理的な使用を追加し、未登録商標の先使用権制度を明確にした[14]
–   賠償原則を明確にし、順を追って実際の損失、権利侵害所得、許諾料に照らした推算の順位で賠償を行う。損失が確定不能である場合、裁判所は最高で賠償300万人民元の裁量が可能である。
–    悪意の権利侵害に対しては最高で3倍の賠償に処することができる。
–    商標専用権者の立証負担などを軽減する。

二、改正の注目点

1.    商標登録手順の整備

「新商標法」は商標出願手順を簡素化し、「審査意見書」制度を復活させ[15]、商標局および商評委に対して商標権確認、権利授与に関する法定期限を設定したが(具体的には以下の図を参照のこと)、これは商標登録機関の手続効率を一層向上させ、関連当事者の商標案件の処理時間に関する予測可能性を高め、商標出願者の登録商標専用権取得の時間を短縮させることになる。

現在、一商標の出願から商標公報の発行に相当する「初期査定公告」掲載までは、およそ18ヶ月もしくはそれ以上の時間を必要とする。「新商標法」では初めて9ヶ月を商標登録審査の法定時間とし、審査周期を大幅に短縮した。

商標権の確認、取得の流れ:

原稿無題

備考:
1.   登録済みの商標について、関連当事者は「新商標法」第44、45、49、54条などの関連規定に基づき、登録商標無効宣告手順、抹消手順およびその再審査
手順を通じて、自身の合法権益を守ることができる。上記救済手順についても、「新商標法」は商標局および商評委の審査、再審査期限を明確に定めている。
2.   上記「9+3ヶ月」とは、通常状況下においては9ヶ月以内に審査、再審査手順を完了しなければならず、特段の状況下においては法定の審査許可を受けた上で
3ヶ月の延長ができることを指す。「12+6ヶ月」などの意味も同様である。

2.    商標登録異議制度の整備

特に着目すべき点として、実務おける問題に対し、手続の簡素化、効率化の目的から、今次改正において商標局の異議手順に実質的な変更が生じた。

1)    異議の理由に基づき異議申立人を分ける

登録商標に対し異議を提起する場合、異議を申し立てる主体を異議理由に照らして区分する。まず、先行権利者および利害関係者から提起される異議の理由は「相対的拒絶理由」[16]のみに限られる。一方で、如何なる者からも提起される異議の理由は「絶対的拒絶理由」[17]に限られる。上記新規定は「商標法(2001年改正)」で定めた「いずれの者も如何なる理由でも公告済みの商標に対し異議を申し立てることができる」との規定に取って代わるものである。本変更は登録商標異議申立案件数を減少させ、悪意の異議申立てが正常な商標出願に与える影響を緩和させるものと思われる。

2)   異議決定結果の違いに基づき再審査および無効宣告の二つの異なる救済方法を規定した

「新商標法」では商標局が商標異議申立てに対し審査の上で裁定を下す過程が削除され、商標局は異議に対し審査を行った上で登録の許可または不許可の決定を直接下すことができるようになった。商標局が異議不成立と判断し、登録を許可した場合、異議申立人は当該登録商標の無効宣告を請求できる。商標局が異議成立と判断し、登録を許可しなかった場合、被異議申立人は再審査を申し立てることができる。

上記の改正:
・商標の権利確認手順が簡素化されたことで、商標登録手続が後続の再審査および訴訟手続の完了後まで延長することがなくなり、異議を申し立てられた商標の速やかな権利確認に有利となり、商標出願者に有利である。

・ただし、異議申立人について言えば、その影響を計ることはできない。異議申立てが失敗に終わり、出願者が商標登録を受けた後、出願者は当該登録に基づいて商標権を行使することができるため、これは悪意の登録を何らかの理由により異議申し立てを通じて抑止できない状況において、たとえ真の商標所有者が直ちに無効の申立てを行ったとしても、悪意の登録者から権利侵害を申し立てられるリスクに直面することになる。本問題を如何にして解決するかについては、今後の更なる立法または裁判所の司法実務で明らかにされることを待つことになる。目下のところ、異議申立人は異議申立ての手順において異議の理由をよく説明
し、十分な証拠資料を提出することに留意するのが望ましい。

3.    登録商標専用権の保護に対する強化

1)    登録商標権侵害行為の種類を追加した

「新商標法」第57条第2項において「商標登録者の許可なく、同一種類の商品においてその登録商標と近似する商標を使用し、または類似商品においてその登録商標と同じもしくは近似する商標を使用して、容易に混同を招く」権利侵害行為を追加した。TRIPs協議の規定によれば、同一商品、役務における同一商標は、当然の混同に該当し、混同を証明する必要がない。同一商品、役務における近似する商標、または類似商品、役務における同一もしくは近似する商標については、混同を証明する必要がある。商標権侵害の判断において「混同の原則」の具体的な適用を明確にすることで、商標により商品の由来を区
別するという本質的な意義に回帰した。

「新商標法」第57条第6項は「商標法実施条例」第50条第2項の規定を吸収し、「故意に他者の商標専用権を侵害する行為に便宜を図る条件を提供し、他者の行う商標専用権侵害行為を幇助した場合」を明確に商標権侵害行為の範囲に加えて、権利侵害幇助の属性を一層明確にした。

2)    商標と企業の商号との問題を規制した

「新商標法」第58条は、他者の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称における商号に使用し、公衆を誤った方向へ誘導して、不正競争行為を構成した場合、「不正競争防止法」に照らして処理することを追加規定した。当該規定は「不正競争防止法」と相互に関連させ、商標と企業の商号との問題を解決した。ただし、実施の効果については、実践を通じて検証する必要がある。

3)    商標の合理的使用の原則を明確にした

「新商標法」第59条第3項は、「未登録であるが先行使用している商標」に対する保護を追加した。商標登録者の商標出願前に、他者が同一商品または類似商品において商標登録者より先んじて登録商標と同じもしくは近似し、一定の影響を及ぼす商標を使用していた場合、登録商標専用権者は当該使用者がかかる商標を継続使用することを禁止する権利を持たない。ただし、かかる「継続使用」は現行の使用範囲に制限されるものであり、登録商標専用権者はそれに対し適当な区別するための標識を付加するように要求することができる点に留意しなければならない。

4)    権利侵害行為に関する賠償制度


「新商標法」第63条は商標権侵害に関する賠償金額の方法と手順を定めた。①商標権利者が権利侵害を受けたために被った実際の損失に基づき確定する、②実際の損失が確定困難である場合は権利侵害者が権利侵害により得た利益に基づき確定する、③権利者の損失または権利侵害者の得た利益がいずれも確定困難である状況においては当該商標の許諾料の倍数に照らして合理的に確定する、④上記三つの方式のいずれでも確認困難である場合は300万人民元を上限とする法定賠償を適用する。なお、「商標法(2001年改正)」では、商標権利者は通常、上記①および②から一つを選択することができるのみである。

この他、「新商標法」第63条は、「権利者ができる限りの立証を行っており、権利侵害行為にかかわる帳簿、資料を権利侵害者が掌握している状況において」は、裁判所は権利侵害者に対し上記帳簿、資料の提供を命じることができ、権利侵害者が提供しない、または虚偽の帳簿、資料を提供した場合、裁判所は権利者の主張および提供された証拠を参考に賠償金額を判定することができるとの規定を追加した。当該規定は民事訴訟の実務における証拠妨害に関する制度を強化し、商標権利者の立証困難の問題をある程度解決した。

権利侵害賠償制度
要点 内容 評価
懲罰的賠償[18] ・情状が深刻な悪意の商標権侵害行為については、正常方法に基づき確定した金額の同額以上3倍以下の範囲で賠償金額を判定する。
・五年以内に二度以上の商標権侵害行為を行った場合については、工商部門は厳しく処罰する。
懲罰的賠償が初めて中国の知的財産権に関する法律領域に組み入れられた。
法定賠償  法定賠償金額の上限が「50万人民元」から「300万人民元」に引き上げられた。 経済発展の実情に適応して、より効果的に商標権侵害を抑止する。
未使用については賠償を認めない 登録商標専用権者が過去三年間に当該登録商標を実際に使用していたことを証明できず、権利侵害行為によりその他の損失を被ったことを証明できない場合、被申立人である権利侵害者は賠償責任を負わないものとする。   訴訟賠償請求のみを目的とした商標に関する申立ての数量を大幅に減少させる。同時に、商標権者について言えば、日々の業務において証拠となるものを収集保存することに留意しなければならない。


三、まとめ

今次「商標法」の大幅改正は、「商標法(2001年改正)」の実施過程において生じた手順上と実体上の問題について整備したものであり、過去の実務における「商標法実施条例」、関連司法解釈などを含む有益な経験を吸収すると同時に、国際商標法の有益な立法成果も参考にしている。企業について言えば、自らに企業の適法権益を保護するための有利な武器が与えられたことは間違いない。今後、「新商標法」の正式施行に伴い、新たな商標法保護制度および新法令の施行において存在する問題に適応するため、関係立法機関は「商標法実施条例」を相応に調整し、新たな司法解釈も発布されるものと、筆者は予想する。

以上のとおり、企業は「新商標法」の正式施行前に、法律専門家の協力の下、できる限り速やかに関連規定を把握し、「新商標法」の改正要点および着目点に照らして、企業の登録商標保護戦略およびブランド普及戦略に相応の調整を加え、悪意の商標冒認出願の現象を積極的に防止し、商標の異議申立て制度に十分に対応し、企業の商標の適法使用に留意して、登録商標専用権の保護を強化することが望ましいと筆者は考える。

(里兆法律事務所が2013年12月6日付で作成)

備考:
法令全文については、下記のURLをクリックしてください。
(1)    「『中華人民共和国商標法』の改正に関する決定」
URL:http://www.gov.cn/flfg/2013-08/30/content_2480467.htm
(2)    「商標法(2001年改正)」
URL:http://www.sipo.gov.cn/zcfg/flfg/sb/fljxzfg/200804/t20080403_369302.html
(3)    「商標法実施条例」
URL:http://www.sipo.gov.cn/zcfg/flfg/sb/fljxzfg/200804/t20080403_369301.html
(4)    「不正競争防止法」
URL:http://www.saic.gov.cn/zcfg/fl/199309/t19930902_45760.html

[1]現行の「商標法」は1982年に制定され、1993年に1回目、2001年に2回目の改正が行われた。
[2]「新商標法」第8条および第10条を参照のこと。
[3]「新商標法」第13、14、45、53条および第58条を参照のこと。
[4]本原則の意味:認定機関は自発的に法律規定を適用して馳名商標を認定してはならない。当事者から商標案件において自己の馳名商標の保護に関する申請があった場合に限り、関連する法律規定を適用することができる。この他、かかる認定結果は当該案件に限り有効である。
[5]「新商標法」第15条を参照のこと。
[6]「新商標法」第18、19、20条および第68条を参照のこと。
[7]「新商標法」第22条を参照のこと。
[8]「新商標法」第28、33、34条および第35条を参照のこと。
[9]「新商標法」第40条を参照のこと。
[10]「新商標法」第43条を参照のこと。
[11]「新商標法」第44~47条を参照のこと。
[12]「新商標法」第48~55条を参照のこと。
[13]「新商標法」第57~60条および第63、64条を参照のこと。
[14]「新商標法」第59条第3項によると、「商標登録者の商標出願前に、他者が同一商品または類似商品において商標登録者より先んじて登録商標と同じもしくは近似し、一定の影響を及ぼす商標を使用していた場合、登録商標専用権者は当該使用者がかかる商標を現在の使用範囲において継続使用することを禁止する権利を持たないが、それに対し適当な区別するための標識を付加するように要求することができる」。
[15]「審査意見書」とは、審査過程において、商標局が商標の出願内容に説明または修正が必要と判断した場合、出願者に対し説明または修正を求めることができることを指す。
[16]「相対的拒絶理由」とは、「新商標法」第13条第2項または第3項、第15条、第16条第1項、第30条、第31条または第32条の規定に違反して商標登録を受けたことを指す。
[17]「絶対的拒絶理由」とは、「新商標法」第10条、第11条、第12条に違反し、または詐欺の手段またはその他の不正手段により商標登録を受けたことを指す。
[18]「新商標法」第63条を参照のこと。

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