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最高人民法院の最終判決: 中国で初めてのインターネット業独占禁止民事訴訟案件の解説

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2015年2月17日

概要:
中国で初めてのインターネット業独占禁止民事訴訟案件において、最高人民法院の「関連市場の画定、市場における支配的地位の判断要素、市場における支配的地位の濫用に関する認定方法、証明責任の分担規則」などの多くの面で司法裁判の観点が示された。本文では本件について簡潔な整理、解説を行った上、案件の価値と意義を考察する。

正文:
2014年10月16日、最高人民法院は中国のインターネット業A社がB社を訴えた独占紛争の上訴案件について最終の判決を下し、A社の上訴を棄却し、B社による独占での権利侵害は構成されないと認定した。中国で初めてのインターネット業での独占禁止民事訴訟案件である本件の最終判決は中国におけるインターネット業の健全なる発展と良好な競争秩序の構築に対し重大な影響を及ぼすものである。本文では本案件の背景事実、焦点となる問題、裁判の理由について簡潔な整理、解説評論を行った上、案件の価値と意義を考察する。

一、案件の事実背景
A社とB社の紛争は2010年2月から始まっており、B社が発表した「QQドクター」セキュリティーソフトウェアは、A社の「360安全衛士(セキュリティーガード)」と競争関係にあった。2010年9月、A社が発表した「360個人情報保護ツール」はB社のQQソフトウェアをユーザー個人情報のスパイウェアとして検出し、その後に発表された「釦釦用心棒」はB社のQQソフトウェアに対し広告欄非表示などの修正を行った。2010年11月3日、B社はA社の「360安全衛士」ソフトウェアをインストールしたコンピュータ上でのQQソフトウェアの実行を停止し、ユーザーに対し「二者択一」を求め、A社のセキュリティーソフトウェアとの同時使用を停止した。
これと同時に、両社はそれぞれ相手方に対し訴訟を提起した。その中で、B社がA社の「不当競争」の疑いを理由に提起した訴訟が北京市第二中級人民法院と最高人民法院の最終審理で勝訴し、500万元余りの賠償を受けた。
2011年11月15日、A社は広東省高級人民法院に提訴し、B社がインスタントメッセンジャーソフトウェアおよびサービスの関連市場における支配的地位を濫用したとして、1.5億元の経済損失の賠償を求めた。
2013年3月20日、広東省高級人民法院は一審判決を下し、A社の本件関連商品市場に対する画定は誤りであり、同社が提供した証拠はB社が関係商品市場における独占的な地位にあることを証明するに不足していると認定し、A社の全ての訴訟請求を棄却した。

二、裁判所の判決
二審の過程において、A社とB社はそれぞれ国内外の学者を招聘して専門家によるサポート役として出廷させ、本件関連問題について意見を述べさせた。最高人民法院は双方の紛争について以下の五つの問題に焦点をあてて整理した。

(一) 本件における関連市場をどのように画定するかについて
1. 一審裁判所が本件関連商品市場について明確な画定を行わなかった状況は、基本事実の認定を明確にしていない状況に該当するかについて
独占禁止案件の審理において関連市場を明確に画定できるかは、案件の具体的な状況により決まり、特に案件の証拠、関連データが得られるか、関連分野の競争が複雑であるかなどによる。また、市場における支配的地位の濫用に関する案件の審理においては、関連市場の画定は事業者の市場力および訴えられた独占行為の競争に与える影響を評価する手段であり、それ自体は目的ではない。たとえ関連市場の画定が不明確であったとしても、競争を排除し、または妨害したことを示す直接的な証拠を通じて、訴えられた事業者の市場における地位および訴えられた独占的行為が市場に与える影響に対する評価を行うことができる。このため、市場における支配的地位の濫用案件のいずれについても関連市場を明確にする必要がある訳ではない。

2. 本件が「仮想独占者テスト」[1]方法を使用した関連市場の画定に適合するかおよび一審裁判所の当該方法の使用が正確であるかについて
無料のインターネットの下でインスタントメッセンジャーサービスが長期にわたり存在し、通用の商業方式となっている状況において、ユーザーは価格に対し非常に敏感であり、無料方針をたとえ少額であるとしても有料へと変更することは、全てユーザーの大量流失につながるものと思われる。相対的な価格引き上げによる仮想独占者テストを採用した場合、代替関係にある商品を関連市場に組み入れる中で、関連市場の画定が広くなりすぎるものと思われる。このため、相対的な価格引き上げに基づいた仮想独占者テストは本件への使用にあまり適していない。ただし、例えば品質引下げに基づいた仮想独占者テストなど、当該方法の変
則的な方式を採用することができる。

3. 文字、音声および画像などの非総合的インスタントメッセンジャーサービスは本件関連商品市場の範囲に含まれるかについて
関連商品市場の画定においては、必要による代替を起点として、商品の特性、用途、品質、獲得の難易度などの要素に基づき、代替分析を行わなければならない。必要であれば、供給による代替の点から分析を行う事ができる。以上の方法に基づいて総合的な分析を行った上で、文字、音声および画像などの非総合的インスタントメッセンジャーサービスは本件関連商品市場の範囲に含まれるべきである。

4. モバイル端末インスタントメッセンジャーサービスは本件関連商品市場の範囲に含まれるかについて
本件で訴えられた独占行為が発生した時点において、スマートフォン、タブレットコンピュータなどのモバイル端末インスタントメッセンジャーサービスは既に個人向けコンピュータ端末インスタントメッセンジャーサービスと緊密な代替関係を構成しており、個人向けコンピュータ端末インスタントメッセンジャーサービスの事業者に対する効果的な競争の拘束力を形成していた。このため、モバイル端末インスタントメッセンジャーサービスは本件関連商品市場の範囲に含まれるべきである。

5. ソーシャルネット、ミニブログ自体は本件関連商品市場の範囲に含まれるかについて
ソーシャルネット、ミニブログ自体は、インスタントメッセンジャーと商品特性上明らかな違いが存在し、主な使用機能が異なることから、インスタントメッセンジャーと緊密な代替関係を構成することはあまり考えられず、このため、ソーシャルネット、ミニブログは本件関連商品市場の範囲に含まれるべきではない。

6. 携帯電話のショートメッセージ、電子メールボックスは本件関連商品市場の範囲に含まれるかについて
携帯電話のショートメッセージ、電子メールボックスは、インスタントメッセンジャーと商品特性、機能用途、価格などの面で大きな違いが存在するため、本件関連商品市場の範囲に含まれるべきではない。

7. 本件関連商品市場はインターネットアプリケーションプラットフォームとして画定されるかについて
本件の特定状況においては、明確な実証データにかけることから、インターネットプラットフォーム競争の本件における影響は明確ではなかった、関連市場の画定段階においてインターネットアプリケーションプラットフォームについてあまり多く考え過ぎると、その他のインターネットプラットフォームが訴えられた者に対し構成する競争的拘束力を拡大するものと思われる。

8. 本件の関連地域市場の画定について
関連地域市場の画定については、関連市場画定の一般的な方法を同様に順守する。多数の需要者が商品を選択する実際の区域、法令の規定(付加価値電信サービスへの参入に対し行政許可を設置するか)、国外競争者の現状およびその参入が遅滞なく行われるかなどの要素を総合的に考慮した上で、本件の関連地域市場は中国大陸市場と画定されなければならない。

9. 本件関連市場の画定は本件訴訟紛争行為発生後の関連市場状況および技術発展動向を考慮しなければならないかについて
インターネット分野の競争は動的な競争の特徴を呈しており、関連市場の画定の際には、予見可能な将来における現実的な可能性を具備した市場の反応と変化を考慮することで、それがその他の方面の事業者からの競争制約を受けるかを正確に判断しなければならない。ある時点のみで関連市場の画定を考慮し、相対的に長い時間内で市場の反応と変化を考慮しなかった場合、関連市場の画定が狭きに過ぎるものとなり、事業者の関連市場における市場力を誇大にするおそれがある。

以上をまとめると、本件関連市場は中国大陸地区のインスタントメッセンジャーサービス市場と画定され、個人向けコンピュータ端末インスタントメッセンジャーサービスが含まれれば、モバイル端末インスタントメッセンジャーサービスも含まれ、総合的インスタントメッセンジャーサービスが含まれれば、文字、音声および画像などの非総合的インスタントメッセンジャーサービスも含まれる。

(二) B社が市場における支配的地位を具備するかについて
市場占有率は、単に市場における支配的地位を判断する一つの大まかで誤解を与えやすい指標でもあり、高い市場占有率をもって市場における支配的地位の存在を直接判断できる訳ではない。市場占有率、関連市場の競争状況、訴えられた事業者の商品価格、数量またはその他の取引条件をコントロールする能力、当該事業者の財力と技術条件、その他の事業者の当該事業者に対する取引上の依頼度、その他の事業者の関連市場参入の難易度などの多方面の要素を総合的に考慮した後、現在の証拠ではB社が市場における支配的地位を具備するという結論を支持するに不足していた。

(三)B社が独占禁止法で禁止している市場における支配的地位の濫用行為を構成するかについて
原則として、訴えられた事業者が市場における支配的地位を具備していない場合、それが市場における支配的地位を濫用しているかについての分析を行う必要はなく、それは独占禁止法で禁止している市場における支配的地位の濫用行為を構成しないと直接認定することができる。ただし、関連市場の境界が曖昧で、訴えられた事業者が市場における支配的地位を具備しているかがあまり明確でない場合、訴えられた独占的行為の競争に対する影響効果を更に分析することで、それが市場における支配的地位を具備しているかの結論が正確であるかを検証することができる。

1. B社が実施した「製品の同時使用を認めない」行為(ユーザーによる二者択一)は独占禁止法で禁止している取引を制限する行為を構成するかについて
B社が実施した「製品の同時使用を認めない」行為は消費者の利益に対し重大な影響を与えず、インスタントメッセンジャーサービス市場の競争を排除、制限するために「製品の同時使用を認めない」行為をとるという動機が明らかでなく、実施した「製品の同時使用を認めない」行為のセキュリティーソフトウェア市場に対する影響が微弱であることから、セキュリティーソフトウェア市場の競争を明らかに排除しまたは制限するものとはならない。このため、B社が実施した「製品の同時使用を認めない」行為は独占禁止法で禁止している市場における支配的地位の濫用行為を構成しない。

2. B社は独占禁止法で禁止している抱合せ販売行為を構成するかについて
独占禁止法で禁止している抱合せ販売行為とは以下の条件に合致しなければならない。抱き合わせる製品と抱き合わせられる製品はそれぞれ独立した製品であること。抱合せ販売を行う者は抱合せ販売製品の市場において支配的地位を具備していること。抱合せ販売を行う者は購入者に対しある種の強制を行い、抱き合わされる製品を受け入れざるを得ないようにしていること。抱合せ販売に正当性はなく、取引習慣、消費習慣などに合致しない、または商品の機能を無視していること。抱合せ販売は競争に対し消極的な効果を生じさせること。なお、訴えられた抱合せ販売行為にはB社がそのインスタントメッセンジャー市場における優位的な立場をセキュリティーソフトウェア市場に影響させていることを示すに十分な証拠がなかった。また、B社がQQインスタントメッセンジャーソフトウェアとQQソフトウェアマネージャーを併せてインストールさせることには一定の合理性があり、訴えられた抱合せ販売行為の強制性も明らかではなかった。よって、B社は独占禁止法で禁止している抱合せ販売行為を構成しない。

(四) 一審裁判所の審理手順は違法であるかについて
A社が「一審裁判所はそれが新たに画定した関連市場に基づいて双方の当事者の市場占有率を改めて計算しなかったことは法定手順に違反しているのではないか。一審裁判所がB社の支配的地位の有無を認定する際、証拠規則に反して裏付けの取れていない証拠を採用した。一審裁判所は聴聞の原則に反して大量の裏付けの取れていない証拠と事実を認定した。一審裁判所は『民事訴訟の証拠に関する最高人民法院の若干規定』[2]第35条で定められた告知義務の履行を怠った。」と主張したが、裁判所はA社の前述の主張をいずれも認めなかった。

(五) 本件関連民事責任の負担について
B社の行為が独占禁止法で禁止している市場における支配的地位の濫用行為を構成しないことから、裁判所が本件の法的責任問題に関する更なる分析を行うことはなかった。

三、案件の論評
(一)案件の価値
中国「独占禁止法」[3]は公布施行されてからすでに6年が経過しているが、近年、特に今年の夏以降、独占禁止行政法執行の領域において「法執行の嵐」が吹き荒れており、発行した処罰通知の金額は回を追うごとに記録を更新している。これとは対称的に、独占禁止民事訴訟の領域においては一貫して「独占禁止法」司法適用の影響力がそれほど及ばない「窪地」となっていたが、最高人民法院が最初のインターネット業独占禁止案件について判決を下すに伴い、おそらく本領域においても「バタフライ効果」が生まれ、より多くの企業が自発的に「独占禁止法」という剣を借りて業界の独占を打破していくようになるものと思われる。2014年10月23日には、既にモバイルインターネット分野における中国のC社がD社を市場における支配的地位の濫用を理由に提訴した案件が開廷審理されている。
本件では、最高人民法院が初めてインターネット業に関する独占禁止法の意義における「関連市場の画定、市場における支配的地位の判断要素、市場における支配的地位の濫用に関する認定方法、証明責任の分担規則」などの多くの事項について、はっきりとした説明を行い、「独占禁止法」法律適用に関する多くの重要な裁判基準を明確にしており、これが中国の裁判所の独占禁止民事訴訟裁判領域における規則の累積を推進し、将来のインターネット分野に関する独占禁止案件、更には全ての中国における将来の独占禁止民事訴訟案件の審理のために明確な指針を示すことが想像される。
中国は判例法の国ではなく、裁判の具体的な個々の案件を通じて確立した規則がその後の類似案件の審理に必ずしも適用されるものではない。ただし、最高人民法院が立法機関との連携、協力の過程において頻繁に法律解釈の発布、指導事例の公布などの方法を通じて「準立法者」の役割を演じており、またそれが中国裁判所体系において発言主導権を持つ地位にあることを考慮すれば、最高人民法院が本件を通じて確立した裁判規則は往々にして下級裁判所が行うインターネット独占禁止民事案件裁判の重要な参考となる。関係企業はこれを参考に、「独占禁止法」で認められ、本件で確立された規則の枠組みの中で、適法、合理的に市場競争に参加しなければならない。

(二)弁護士からの注意点
具体的な規則においては、最高人民法院は本件を通じて「市場占有率の高さは必ずしも市場における支配的地位を意味しない」ことを明確にした。関係企業は「市場占有率の高さ=市場における支配的地位」との通常認識を取り除き、その他の要素を総合的に考慮した上で、自身が関連市場において支配的地位にあるかの合理的な評価および考察を行い、企業の各種経営行為を適切、適法に手配しなければならない。
また、最高人民法院は本件の中で、「ソフトウェアのセット販売」には一定の合理性があることを確認しており、これは現在ソフトウェア業界において盛んに行われているセットとしてインストールする方式に対し重大な影響を及ぼすため、関係企業は多くの注意を払うことが望ましい。
独占禁止訴訟案件は通常、複雑な経済学の知識にかかわるため、本件の審理過程においては、A、B両社いずれも「独占行為に起因して生じた民事紛争案件の審査に応用する法律の若干事項に関する最高人民法院の規定」[4]第12、13条の関連規定に基づいて、「専門家によるサポート」を導入し彼らを出廷させ、専門的な問題について意見を提起し、同時に専門機関に委託して経済分析報告などを提出した。これをみると、今後、企業が独占禁止などの複雑な訴訟案件にかかわる際、十分に前述の制度を利用して、自己の観点のより確かな論証と主張を行うことが考えられる。
「独占禁止法が留意する重点は個々の事業者の利益ではなく、健全な市場競争メカニズムがゆがめられ、または破壊されていないかにある」ことから、最高人民法院の本件の考えにおいても独占禁止民事訴訟司法裁判の主旨が肯定的に反映されており、関係企業に対し秩序ある、公平で、健全な競争環境の構築に共同参加するように示唆している。

(里兆法律事務所が2014年11月24日付で作成)

[1]仮想独占者テスト(HMT)は画定に関する一種の分析手法であり、その他の条件が不変であることを仮定して、対象商品またはサービスのある量的変化を通じて対象商品とその他の商品の間の代替可能の程度を測定する。実際には、仮想独占者テストの分析方法は複数存在し、小幅であるが有意且つ一時的でない価格引き上げ(SSNIP)による方法で行うこともできれば、小幅であるが有意且つ一時的でない品質引下げ(SSNDQ)による方法で行うこともできる。また、一つの分析手法または思考方法として、仮想独占者テストを実際に行う際に定性分析による方法で行うこともできれば、条件が許される状況において定量分析による方法で行うこともできる。
[2]「民事訴訟の証拠に関する最高人民法院の若干規定」http://www.court.gov.cn/bsfw/sszn/xgft/201004/t20100426_4533.htm
[3]「独占禁止法」http://www.gov.cn/flfg/2007-08/30/content_732591.htm
[4]「独占行為に起因して生じた民事紛争案件の審査に応用する法律の若干事項に関する最高人民法院の規定」http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201205/t20120509_176785.htm

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