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ログイン2015年12月24日
訴状受理制度は、膨大な司法体系の一環にすぎないが、争いを円滑に司法段階に持ち込むことができるかどうか、権利が擁護されるかどうかにおいて重要な節目の一つである。従来、中国の裁判所では訴状受理審査制を実施していた。簡単に言えば、訴状受理審査制とは、当事者が裁判所に訴訟を提起した際、裁判所は先ず、訴訟要件の実質的審査を行った後に訴状を受理するかどうかを決定することを指す。民事案件の訴状受理を例にとるならば、「民事訴訟法」第119条及び係る司法解釈などの規定に基づき、裁判所の訴状受理に対する審査内容には、原告は本案件と直接の利害関係があるかどうか、被告は明確であるかどうか、具体的な請求の趣旨、事実および理由があるかどうか、裁判所の受理範囲および提訴を受けた裁判所の管轄範囲内であるかどうかなどが含まれる。
しかし、これまでの司法実践では、訴状受理審査制は、提訴条件が過剰に高すぎ、用語が不明瞭で、自由裁量度が高いなどの問題により、訴状受理基準に対する認識と匙加減が各地域、各裁判所、各裁判官によっても違いがあったと思われ、「受理難」または地域差などが生じていた。このような背景の下、最高人民法院は、2015年4月15日に「人民法院訴状受理登記の若干事項に関する最高人民法院による規定」[1](法釈[2015]8号、以下「規定」という)を公布し、2015年5月1日から訴状受理登記制を実施することを決定した。これにより、「案件があれば訴状受理し、訴えがあれば対処しなければならない」というルールが実現され、当事者の訴権が十分に保障されることが期待される。
訴状受理登記制の主な内容
「規定」によれば、訴状受理登記制とは、裁判所が当事者の提訴に対して実質的審査を行わずに、形式的要件の確認のみ行うことを指し、法律で訴状受理登記しないと規定されている状況を除き、当事者から提出された訴状は全て受理し、書面での証明を発行しなければならず、訴状および関係資料が法律規定に合致する場合、その場で訴状受理登記されるとしている。
「規定」は計20条で構成され、訴状受理登記制の適用範囲、適用条件、手続き保障などの方面において規範化している。
「規定」第1条、第17条、第18条によれば、訴状受理登記制には一定の適用範囲があり、一審民事提訴、行政提訴、刑事訴追、強制執行および国家賠償請求案件には訴状受理登記制が適用される。上訴、再審請求、刑事訴訟における異議申立て、執行異議、国家賠償の異議申立て案件の訴状受理には訴状受理登記制を適用しない。
このほか、「規定」第10条では、違法に提訴し、又は法律の規定に合致していない場合、国の主権および領土の完全性、国家安全、宗教政策などに危害を及ぼす場合、訴え事項が人民法院の主管外の場合は訴状受理登記適用外である旨を明確にしている。
従来の訴状受理審査制とこの度の変更後の訴状受理登記制の主な内容又は違いについて、下表に簡潔に整理する。
項目 | 訴状受理審査制 | 訴状受理登記制 |
訴状受理に必要とされる提出書類 | 基本的に一致している。 | |
訴状受理条件 | 係る法律法規では訴状受理条件について規定しているものの、前述の分析をふまえれば、これまでの司法実践において、訴状受理難および地域差などがあった可能性がある。 | 「規定」第1条、第2条によれば、裁判所は形式的審査のみ行うとされており、訴状受理基準は理論的には全国的に統一されている。 |
訴状見本 | 以前は法律法規では明確な規定はなかったものの、実践では多くの裁判所が訴状のサンプルを提供していた。 | 「規定」第3条によると、裁判所は訴状見本を提供しなければならない |
訴権の保障 | これまでの司法実践においては、「案件があっても訴状受理せず、訴状受理の先延ばし、訴状受理の人為的コントロール」、「年末は訴状受理しない」などの状況があったとみられている。 | 規定」第13条によると、案件があっても訴状受理されず、訴状受理先延ばし、訴状受理の妨害、訴状受理も裁定も行わず又は決定などが法律・規定に違反する場合、当事者は訴訟を受けた人民法院又は上級の人民法院に苦情申立てをできることになっており、訴権保障の度合いが従来よりも若干向上している。 |
訴状受理に必要な提出資料の補正 | 当事者は訴訟に必要な提出書類の補正を何度も求められた可能性がある。 | 「規定」第7条によると、当事者が提出する訴状および提出書類が要求に合致しない場合、人民法院は所定の期間内に補正されるよう一回限りの書面で告知する必要がある |
訴状受理登記制による影響
訴状受理登記制が企業に与える主な影響について、以下の通り整理する。
1.訴状受理登記制により、企業が提訴するうえでは便利となったが、その反面、訴えられる確率が増すおそれがあり(濫訴が生じる可能性あり)、それに伴い、企業のコストが増加するおそれがある。
2.案件の処理周期などに影響するおそれがある。最高人民法院の通達状況によれば、訴状受理登記制の実施後1ヶ月で、訴状受理数が大幅に上昇しており(民事案件を例にとると、30%近く増加)、裁判所の業務量が増え、すでに余裕がない状況にある司法資源に大きな影響をもたらすことは明らかである。筆者は実務においても、民事案件の開廷時期の先延ばし、裁判官に手付かずの状態にある案件が大量に発生しているといった状況を目の当たりにしたことがある。
3.訴状受理登記制は労働争議などの案件の法定処理手続きに影響するものではない。
労働争議案件は依然として「労働争議調停仲裁法」などの規定に従い、労働争議調停仲裁手続きを先行する必要があり、直接裁判所に訴えることはできない。仮に直接、裁判所に提訴しても、裁判所は「法律規定に合致しない」ことを理由に訴状受理しない。
訴状受理登記制の内容および実施以来の実情により、訴状受理登記制は当事者の訴権保障に有益であると考えられる。しかし同時に、大量に舞い込んでくる案件に対処するためにはどのような体制を構築すべきか、濫訴などを効果的に阻止するためにはどのような体制を構築すべきかなどについても、関心を払う必要がある。
[1]http://www.court.gov.cn/shenpan-xiangqing 14175.html
(里兆法律事務所が2015年8月7日付で作成)
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