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ログイン2016年2月15日
現代のビジネス環境において、商品引渡し時に代金の決済がなされるケースはますます減っており、大口取引における代金の受取人は、通常、支払人に対し一定の決済周期を与えるのが一般的である。とりわけ巨額の資金をやり取りし、その取引頻度も高い商業企業にとっては、決済周期は、ある意味においては、相手方の取引行為を制約する「ツール」にもなっており、このような状況の中で、売掛金が大量に存在することは避けることが難しく、「不良」売掛金の発生を防ぐためには、売掛金の回収リスクを制御し管理する必要がある。
「不良」売掛金の未然防止と対応策について、これまでの筆者の実務経験を踏まえ、事例別に以下の通り整理する。以下の事例は、いずれも個別の会社、個別の案件の秘密情報を含むものではない。
一、取引前にできること:取引先の資産信用状況を十分に確認する
◇事例1:
A社はこれまでに取引をしたことのない新規顧客と長期に亘る製品供給関係を築く予定であったが、法務部が内部調査を行ったところ、この顧客の訴訟履歴状況がやや深刻であり、すでに複数の執行案件が処理過程にあり、且つ信用喪失被執行人名簿に載せられていることが判明した。そこで取引先に話をしたところ、会社の資産信用状況は好ましくないが、個人名義での一部不動産は抵当権の設定や差押えをまだ受けていないものがあり(調査の結果、事実であることが確認できた)、会社の契約履行を担保するために、これを担保としA社に供してもよいと取引先の法定代表者からの申入れがあった。
◇筆者の分析
1.照会方法
新規顧客との初回取引を行う前に、まず取引先の訴訟履歴状況、資産信用状況などに対し必要な調査を行うことが望ましく、類似する調査手段として主に以下のものがある。
1)工商基本情報:「全国企業信用情報公示システム」(http://gsxt.saic.gov.cn/)
2)訴訟履歴情報:「中国裁判文書サイト」(http://www.court.gov.cn/zgcpwsw/)
3)執行情報:「全国裁判所被執行人情報照会」(http://zhixing.court.gov.cn/search/)、「全国裁判所信用喪失被執行人
名簿情報の公表と照会」(http://shixin.court.gov.cn/)
4)株式公開会社情報:「上場会社」関連情報の照会(http://www.cninfo.com.cn)、「新三板」上場会社関連情報の照会(http://www.neeq.com.cn/index)
5)その他:ほかにも調査手段はあるが、実際の必要に応じて、確定する。
立場の強弱がやや顕著な取引においては、強い立場にある方が弱い立場にある方の法定代表者、実際の支配者に対して、会社の契約履行につき、人的担保を立て、自己の利益を会社と結びつけるよう求める手法が実務ではやや一般的である。この方法を通じて、相手方の取引行為をよりよく制約することができ、後になって相手方の資金繰りに問題が生じた場合に、人的担保を立てた売掛金について優先弁済を受けることができるため、自己の「負担」を軽減することができる。
2.不備のない契約書を作成する
現代のビジネス環境においては、契約における約定内容の多くが法律上の強行規定がないため、取引の当事者が実情を踏まえて商業条件を制定していく必要があり、このような状況の中では、契約条項を如何に設定するかがとりわけ重要となる。
製品の売買契約を例に取ると、通常、重点的に注目する必要のある条項・内容として、発注書、納品・検収、所有権・危険の移転、支払い、製品品質、違約責任、解約などが考えられる。
このほか、取引リスクのコントロールと自己の利益を確保するために有用となる担保又はこれに類似する条項にも特に注意が必要である。前文で取り上げた人的担保のほか、実務では、次に掲げる形式での担保(及びその他取引先の行為を制約するもの)も、やや多く見受けられる。
1)所有権の留保(効力はやや弱く、めである。目的物が実際に相手方の占有下にあることから、相手方の処分状況をその都度有効に把握できない。他の形式を組み合わせることが望ましい)
2)高い割合の前払代金着金後に製品を発送する(商業条件に影響する)
3)銀行保証状(銀行の信用であり、信頼度は高い)
4)不動産に抵当権を設定する(主管政府部門の情報公開システムで資産の権利帰属状況を照会できるため、信頼度は高い)
5)動産に抵当権を設定する(機器設備又は在庫などの価値が高い場合、実務では比較的よく採用される)
6)売掛金に質権を設定する(第三債務者の資産信用状況が良好である場合、信頼度は高い)
7)関連会社による保証(関連会社の資産信用状況が良好である場合、信頼度は高い)など。
取引双方の立場の優劣状況を踏まえ、通常、可能な範囲内で、債権金額と同等額(ひいてはこれを超える額)の担保を取得しておくのがよいと考える。
3.担保の確認
上述の事例において、顧客である会社の訴訟履歴状況、資産信用状況は相対的に見て思わしくなかったが、法定代表者本人に抵当権の設定や差押えを受けていない「まっさらできれいな資産」があるといったケースは、実務ではそれほど多くはない。
実務においては、顧客である会社の法定代表者、実際の支配者から似たような状況があることが伝えられたとしても、その真偽を慎重に確認しておくことが望ましい。
1)家屋、車両など主管政府部門の情報公開システムで資産の実際の権利帰属状況を照会できる資産については、その真偽を概ね確認することができる。
2)在庫貨物、売掛金などの資産については、その実際の権利帰属状況(倉庫に質権が設定されているかどうか、譲渡済みであるかどうかなど)を確認することが難しい場合が多いため、慎重に対処することが望ましい。
(里兆法律事務所が2016年2月1日付で作成)