こんにちわ、ゲストさん

ログイン

中国不正競争防止法の改正の動きに焦点を当てる-改正草案送審稿からの改正草案-後篇

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

無料

2017年6月15日

(2)商業秘密の侵害

改正草案送審稿と比べると、改正草案では商業秘密の権利侵害責任主体を「商業秘密権利者の従業員、元従業員」、及び弁護士、公認会計士などの専門家にまで拡大している。よって従来は、事業者の在職中の従業員又は退職した従業員などが会社の商業秘密を侵害した場合には、事業者は不正競争防止法に依拠して救済や保護を求めることができなかったが、本規定によってこの問題が解決できる。

しかしながら、改正草案で採用されている現在の列挙方法では、商業秘密の権利侵害責任主体の全ての網羅はできていない。例えば、商業秘密権利者の供給業者の従業員は、改正草案で明確に列挙されている責任主体の範疇に含まれていないため、前述の者が行う商業秘密侵害行為を不正競争防止法を適用して規範化し、調整することはできない。従って、筆者の推測では改正草案から正式文書完成までの過程において、責任主体の範囲が拡大され、「何人も商業秘密を侵害する行為を実施してはならない」というような概念化された定義が取り入れられることにより、事業者の権利保護が強化されるのではないかと考えられる。

(3)相対的に優位性を有する地位の濫用

改正草案送審稿において「相対的に優位性を有する地位を濫用した」不正行為の認定基準はあまり明確ではなく、数値化された基準もなかった。実践では、本規定により、優位性を有する地位にある事業者は各取引相手と談判する際、自社は相対的に優位性を有する地位にあるのるかどうか、自社の行為は濫用に該当する可能性があるかどうかについて判断する必要があったため、企業のコンプライアンス審査の難度を引上げ、また負担も重くしていた。前述の問題があったために、改正草案では「相対的に優位性を有する地位を濫用した」不正競争行為については触れられなくなった。

三、監督検査及び違法責任

(1)「二重の無作為」抽出検査及び社会通報制度

改正草案送審稿と比べると、改正草案では以下の監督検査制度を新たに追加している。一つは、「二重の無作為」抽出検査制度であり、監督部門が不正競争行為の抽出検査を行う場合、検査対象を無作為に抽出し、法執行検査を実施する者を無作為に選び、抽出検査状況及び調査処分結果について速やかに一般に公開しなければならないとしている。

もう一つは、社会通報制度であり、いかなる組織又は個人も監督検査部門に対して不正競争行為について通報する権利を有しており、監督検査部門は通報受付の電話番号、郵送先又は電子メールアドレスを公開し、通報受付担当者を配置しなければならず、実名で通報した者に対しては、監督検査部門は処理結果を知らせ、また実名で通報した者の秘密を守らなければならない、としている。

前述の2つの制度のもとで、政府による監督と公衆による監督という2つの手段により互いに補強し、協力し合いながら、事業者による不正競争行為を効果的に規範化し、防止するものである。

(2)信用制裁措置

過料などの法的責任のほか、改正草案送審稿と比べると、改正草案では信用制裁措置という処罰を新たに追加している。本規定によると、事業者が不正競争行為を行い、行政罰に処された場合、監督検査部門が信用記録に記録し、法に依拠し公示するとしている。

実際に、2014年10月1日から施行している「企業情報公示暫定条例」で企業の違法経営記録を公示することについて規定している。現在実践では、企業の違法経営記録は中国工商行政管理部門により全国企業信用情報システムを通じて公示され、公衆が本システムから照会ができるようになっている。改正草案では今回、不正競争防止法における監督管理、法執行の領域で信用制裁制度を実施することを明確にしており、これにより、企業に違反が生じた際のコストが著しく増大することが考えられる。信用は市場競争において重要な要素となることから、公衆が企業の違法経営記録を照会し情報を得た後、企業に対してマイナスの否定的な評価を下し、それによって企業の継続的な経営、取引チャンスの獲得などに影響することは必至であるため、この点、企業はコンプライアンス管理において厳格に注意しなければならない。

(3)民事賠償優先

改正草案送審稿と比べると、改正草案では、事業者が民事賠償責任と過料支払い責任を同時に負う場合で、自社の財産ではこれを同時に支払うのに不足するとき、民事賠償責任を優先して負うとしている。当該規定では民事賠償を優先させることが定められているため、不正競争行為を抑制し、権益を守るうえでの事業者の積極性を高め、引き出すことができると考えられる。

以上から、改正草案は改正草案送審稿と比べ、調整や変更が一部なされており、事業者の適法な権益の保護を強調すると同時に、事業者の違法時のコストも引き上げている。解釈において意見の分かれている一部の条項、規定については今後、立法部門による更なる確定と明確化が待たれる。筆者もこれまで中国不正競争防止法の改正の進捗状況に終始関心を注ぎ、また上海市弁護士協会競争法専門委員会のメンバーとして改正草案送審稿、改正草案の上海地区における意見募集関連作業にも参加してきたが、今後も、正式文書の公布にさらに注意を払い、立法動向について遅滞なく情報を発信したい。

(里兆法律事務所が2017年4月21日付で作成)

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ