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ログイン2017年12月18日
~偽物のプロクレーマーに関する最高人民法院の回答意見に対する簡潔な考察
一、背景
偽物のプロクレーマー(直訳すると、職業摘発人)とは通常、偽物の摘発を利得のための手段としているプロの摘発集団を指す。彼らは故意に問題のある商品を大量に買いあさってから、法律規定に基づき、事業者に賠償を請求することを目的としている。
2017年5月19日、最高人民法院は「第十二期全国人民代表大会常務委員会第五回会議第5990号提議に関する最高人民法院弁公庁による回答意見」(以下「回答意見」という)を公布し、食品、薬品を購入する場合を除き、偽物のプロクレーマーによる利得を目的とする偽物の摘発行為を段階的に制限していくことについて言及している。
二、偽物の摘発を職業とする行為に関する法令の変遷
1.法令一:「消費者権益保護法」
●1994年1月1日から施行されている本法令第49条において、事業者が商品又はサービスを提供するにあたり詐欺行為があった場合、消費者の請求に応じて当該消費者が被った損失について上乗せして賠償しなければならず、上乗せする賠償金額は、消費者が商品を購入するために支払った代金又はサービスを受けるために支払った費用の一倍とすると規定されている。本法令においては、消費者が懲罰的賠償を受けるには、事業者が詐欺行為をしたことを前提とすることを明確にしており、また懲罰的賠償の概念について初めて言及されている。しかし本法令では「事業者の詐欺行為」について定義をしておらず、司法実務では、後述の法令三における「詐欺行為」の定義を踏まえて本条に適用されることが往々にしてある。
●本法令が2009年に初めて改正された時、1倍の懲罰的賠償基準が維持された。
●本法令が2013年に第二回目の改正がされたとき、第二回目の改正後の第55条では、懲罰的賠償基準が1倍から3倍に引き上げられた。これによって、偽物のプロクレーマーが多くの利益を獲得できるようになった。
2.法令二:「食品安全法」
●2009年6月1日から実施されている本法令第96条において、食品安全基準に適合しない食品を生産し、又は食品安全基準に適合していない食品であることを明らかに知りながら販売した場合、消費者は損害賠償を請求するほか、製造者若しくは販売者に対して代金の10倍に相当する賠償金の支払いも請求することができると規定されている。「食品安全基準」については、本法令の第三章において規定されている。
●本法令は2015年の改正時、第148条における前述の規定部分が改正されたものの、原則そのものは全体的に見て変更されていない。
●食品分野における懲罰的賠償は、事業者に詐欺行為があることを前提としていない点が法令一と若干異なるが、該当する食品が上述の食品安全基準の要求に適合していないという要件を満たしている必要がある。
3.法令三:「『中華人民共和国民法通則』貫徹執行における若干事項に関する最高人民法院による意見(試行)」
●1988年4月2日に公布され施行されている本法令第68条において、詐欺行為とは、一方当事者が相手方に対して虚偽の状況を故意に告げた、又は真実を故意に隠蔽し、誤った意思表示をするよう相手方を誘導する行為を指すと規定している。
●偽物のプロクレーマーはそれが偽物であることを知りながら偽物を購入しており、事業者に虚偽の状況があることを知っていることは明らかであるため、偽物のプロクレーマーには主観的に見て詐欺を受けたという状況は存在せず、また商品購入時にも誤った意思表示をしていないことは明らかである。よって、偽物のプロクレーマーが「偽物だと知りながら購入する行為」に法令一が適用されるのか、懲罰的賠償を受けられるのかという点をめぐって議論(以下「議論」という。司法実務における各判例は後文を参照のこと)が起こった。
4.法令四:「食品・薬品に係る紛争事案審理の適用法律若干事項に関する最高人民法院による規定」
●2013年12月23日に公布され、2014年3月15日から実施されている本法令第3条では、食品、薬品の品質問題により紛争が生じ、購入者が製造者、販売者に権利を主張し、製造者、販売者が購入者は食品、薬品に品質問題があることを知りながら購入したと抗弁した場合、人民法院はこれを認めないと規定している。本法令では食品及び薬品分野における偽物であることを知りながら購入する行為を明確に肯定し支持している。
●2014年1月9日に最高人民法院は本法令に関する記者会見の場において、食品及び薬品分野において、偽物であることを知りながら購入した者を消費者として認定すべきであり、懲罰的賠償を主張できることを明確にした。
●このほか、2014年1月29日に公布された「指導的判例(第六回目)の公布に関する最高人民法院による通知」(法【2014】18号)の指導的判例23号における最高人民法院による判旨においても、消費者が食品安全基準に適合しない食品を購入し、販売者又は製造者に食品安全法規定に従い、代金の10倍に相当する賠償金の支払い若しくは法律に定める他の賠償基準に従い賠償するよう請求した場合、購入当時に当該消費者が当該食品が安全基準に適合しないことを知っていたかどうかに関係なく、人民法院はこれを支持しなければならないことが明確にされている。
●しかし、本法令などでは食品及び薬品領域以外の一般消費財分野における紛争については依然として未解決のままである。
5.法令五:「消費者権益保護法実施条例」(意見募集案)
●2016年年末、国家工商総局は法令五を公布し、意見を募集している。本法令の意見募集案第2条において、金融消費者以外の自然人、法人及びその他組織が利得を目的として商品を購入、使用する若しくはサービスを受ける行為には本条例は適用されないことが規定されている。
●本法令により、偽物であることを知りながら偽物を購入した者は消費者として認定されず、懲罰的賠償も受けることができないことになる。
●しかし、本法令の正式な公布・施行はまだなされておらず、法的効力はないため、食品及び薬品分野以外の一般消費財分野の紛争については依然未解決のままである。
なお、回答意見が公布されるまでは、食品及び薬品分野以外の一般消費財分野における司法実務では、各地方の裁判所及び裁判官によって、紛争に対する認識が異なったために、全く異なる判決結果が下される状況が少なからずあった。購入者が販売者による詐欺行為の影響を受けたかどうかは、販売者による詐欺行為の認定に影響せず、「偽物であることを知りながら偽物を購入した」場合でも法令一に基づき、懲罰的賠償を受けられる(例えば、(2016)粤民申3796号、(2016)粤民申3797号などの裁判)との見解を示した裁判官もおり、他方で、購入者が販売者による詐欺行為の影響を受けたことが懲罰的賠償を受けるための前提となる、即ち、法令三を踏まえて販売者の詐欺行為を認定する必要があり、「偽物であることを知りながら偽物を購入した」購入者は消費者にあたらず、法令一に基づく懲罰的賠償を受けられない(例えば、(2015)渝五中法民終字第05228号、(2015)咸中民終字第01132号などの裁判)との見解を示す裁判官もいた。2016年に深セン、重慶、江蘇省などの地方において審判手引若しくは紀要などが公布され、利得目的で「偽物であることを知りながら偽物を購入する」行為を認めない傾向にあることが示されている。
三、回答意見の主な内容
上述法令を踏まえ、最高人民法院の今回の回答意見における傾向的意見は、以下の通りである:
1)食品及び薬品分野は、大衆の健康と安全に関わり、また食品及び薬品の安全問題も顕在化しているため、特別に政策を検討し対応する必要がある。偽物であることを知りながら購入する行為は、食品及び薬品分野における違法・権利侵害行為の取締りに対してプラスの効果を発揮するため、偽物であることを知りながら購入する行為を支持する。
2)食品及び薬品分野以外の一般消費財分野においては、特別に政策を検討し対応する必要はなく、またこれら分野において偽物であることを知りながら購入することは、産業チェーンが形成する動きも見られており、彼らが主に自身の利得を目的として行っていることは、信義誠実の原則に著しく反した、司法の権威を無視した、司法資源の浪費にもつながる行為であり、悪をもって悪を制する行為である。従って、最高人民法院は、偽物のプロクレーマーによる利得目的の偽物摘発行為を段階的に抑制していく傾向にある。
なお、当該回答意見は中国法律で規定されている法源ではなく、法的効力を有さず、あくまでも司法裁判部門の見解を示したものにすぎないが、当該見解は司法裁判部門の審判実践において重要な指導的意義を有すると考えられる。また、最高人民法院も司法解釈、指導的判例などにより適時に自己の見解をさらに表明することを明確にしている。
四、おわりに
法令五及び回答意見の内容から見れば、中国政府部門及び司法裁判部門では偽物のプロクレーマーの利得目的の偽物摘発行為を規範化、抑制して行くという認識がほぼ共通のものとなっており、食品及び薬品分野以外の一般消費財分野の紛争も徐々に解決されていくものと考えられる。係る法令も後日、調整されるであろうと考えられるため(法令一の改正、又は法令五の正式な公布、又は最高人民法院の新司法解釈など)、今後の動向に注目したいところである。
(里兆法律事務所が2017年10月25日付で作成)
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