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上海の工業用地の減量化と企業移転の実務について

中国ビジネスレポート 法務
郭 蔚

郭 蔚

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2019年1月15日

上海市建設用地の規模は極限近くまで達しており、土地の供給と需要の不均衡が目立ち、又建設用地が分散して配置されており、構造上も矛盾が多く、用地の利用効率が低いなどの問題を抱えている。産業高度化及び集約的土地利用を推進するために、政府は、上海市の都市長期計画を踏まえて、一部のまばらに点在する、利用効率の低い工業用地を他の用途に転換することで上海全体の建設用地のバランスのとれた、持続し得る発展を実現させようとしている。これが上海工業用地減量化(以下「減量化政策」)実施に至った背景である。後文では、Q&A形式で減量化政策による企業への影響について分析する。

Q1:どの区域の企業が減量化政策の影響を受けることになるのか。

係る法律法規によると、上海市政府は工業用地に対して分類管理を実施しており、それらは下表の通りである。

土地のタイプ 主な法的根拠 簡潔な説明 リスク
104区画 ●旧国土資源部「土地の節約・集約的利用に関する規定」
●旧国土資源部「都市部の利用効率の低い用地の再開発を推進することに関する指導意見(試行)」
●「土地の節約・集約的利用水準をさらに向上させることに関する若干意見」(上海)
●「上海市工業区構造転換・高度化三年行動計画」
●「上海市工業区構造転換・高度化『第十三次五ヵ年』計画」
●「上海市都市資源の利用・保護『第十三次五ヵ年』計画」
●「産業園区における遊休、利用効率の低い工業用地に対する管理を強化することに関する崇明区による実施意見」
即ち、計画工業区画であり、主にひとまとまりの集中型工業区である。このような区画は通常、工業園区内に位置しており、戦略的新興産業、先進製造業及びこれに付帯する生産型サービス業の発展を重点的に促している。 リスクは相対的に低く、通常、問題はない。
195区域 即ち、計画工業区画外の集中建設区内の現状工業用地であり、総じて言えば、104区画外で複数の工業用地が連結することで、一つの区画を形成している。当該区域では、ニュータウン建設と融合した産業チェーンに付帯する生産型サービス業の発展を重点的に促している。 一定のリスクがあり、主にそのうちの利用率の低い用地が対象となる。
198区域 即ち、集中建設区外の工業用地であり、104区画と195区域を除く、独立して点在する工業用地である。当該区域では、生態修復並びに土地の整地などが重点的に実施される。 リスクが高く、各区・県が減量化政策を他に先駆けて実施している区域である。各区・県においては、通常、移転の年度目標値がある。
利用効率の低い用地 即ち、上述の3つの区域内の開発効率が低下している工業用地であり、係る基準は、「上海市の利用効率の低い工業用地基準ガイドライン」などを参考にするとよい。 一定のリスクがある。

Q2:企業がどの区域に位置しているかは、どのように確認できるのか。

企業は、上海市の各区・県が公示している移転区画、移転計画並びに各区・県の将来的な全体計画から、企業の所在区域が移転区域内であるかどうかを確認することができる。さらに明確な情報を入手したい場合には、企業は所在区の計画・国土資源部に照会し確認するとよい。

Q3:企業は必ず移転しなければならないのか。

状況ごとにわけて検討する必要がある。
1)利用効率の低い用地の場合、端的に言えば、「利用効率が低い」というイメージを払拭することができれば移転せずに済むのである。例えば、土地用途を変えないという前提で、技術改良、増資、生産拡大などによる改造・開発を実施し、土地の利用効率又は土地あたりの税収率を引き上げることで、利用効率の低水準から抜け出すのである。企業がこのような改造・開発を行えるよう、通常、政府からは一定期間の移行期間が与えられ、係る協議書の締結を求められるはずである。移行期間を過ぎても土地の利用効率が依然低いままであったときに、政府は土地収用などの要求を行ってくるのであるため(この点は協議書で明確に定められるであろう)、利用効率の低い土地だからといって、それほど差し迫って移転しなければならないというわけではない。
2)198区域にいる場合、又は先の増資、技術改良などの方法で問題を解決できない利用効率の低い用地にいる場合は、いずれは、企業が清算又は移転を迫られることになるであろう。
●まず政府部門は、優遇政策措置の廃止、電気料金格差化の厳格な実施、及び全体的な締め付けの強化(例えば、環境保護、税収、違法建物の撤去などの方面から)を通じて、企業が自主的に撤退するよう仕向けてくるであろう。
●次に、198区域として括られた土地への産業参入許可は厳格にコントロール、規制されるため、企業は通常、土地譲渡、工場建屋賃貸などの方法で土地から収益を得ることは難しく、企業はビジネスの見地から、清算又は移転を検討せざるを得なくなる。

Q4:移転に要する期間はどれくらいか。

企業の所在地が各区・県の年度移転計画に組み入れられている場合、移転時期は通常、当該年度内となり、多くの企業は移転公告、通知などを直接に受取ることになると思われるが、移転時期については、これら公告、通知の中で明確にされている。実態として、企業は3カ月から6カ月という短い期間で移転するよう指示されることもあり、時間的に非常に厳しい要求を突き付けられることがある。

このため、新住所地の視察調査(企業が経営を存続したい場合)、契約の履行と生じ得る違約、取引先への説明、設備の生産停止、移転処理などのためには実際にどれだけの時間が必要になるのかという視点から、政府部門に相談し、移転のための時間を稼ぐようにしておくことが望ましい。また、他地域へ移転する場合も、会社を清算し登記抹消する場合も、いずれも移転や清算のための政府手続きを特例措置の下で迅速に行えるよう、政府部門との意思疎通をしっかりと行っておくのがよい。

Q5:移転の賠償について

通常は貨幣での補償である。補償の法的根拠及び基準は通常、公共の利益のための立ち退きに関する法的根拠と基準にならっている。貨幣での補償項目を簡潔に下表にまとめる。

主な補償項目 内容
不動産(土地、家屋)補償 一般的には評価機関が国が定めた基準と手順に従い評価し(以下同様)、評価価値により補償金額を確定する。
設備の補償 移転させて使用することのできない設備の場合、評価価値をもとに補償金額を確定する。
移転させて使用することが可能な設備の場合、通常、移転、臨時配置に必要となる費用をもとに補償する。
生産・操業停止に伴う損失補償 一般的に不動産の評価価値の10%で補償金額を確定することになるが、企業が当該金額を上回る金額での補償を求める場合、係る証明資料を準備した後、立退き部門がこれを個別に審査し、協議する必要がある。
インセンティブ又は補助 個々の状況による。

Q6:移転跡地の環境保護問題

中国の現行法規では、移転企業に対して、整地、取壊しなどの法定義務を設けていないため、企業が転出する際には、通常、現状のままで政府に明け渡せばよい。しかし、環境保護法規上、「汚染した者が浄化修復を行う」との責任規定があるため、企業は移転した後も、過去の土地使用問題について、環境保護方面の責任を問われる可能性がある。従って、企業は専門機関に委託し、原住所地に対する環境調査、リスク評価を実施し、環境保護モニタリングデータを保管しておくことが望ましい。

終わりに:
企業の移転は複雑な作業であり、政府部門との交渉などを含む様々な法的事項に終始関わってくることから、弁護士などの専門家を起用し、全過程で法的サポートをしてもらうようにするのが好ましい。

なお、195区域と198区域にはリスクが存在するため、工業企業が用地を選定する際には、上述の区域はなるべく避けるようにしたい。

(里兆法律事務所が2018年6月19日付で作成)

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