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民間貸借金利に係る司法保護の上限調整が民間貸借に与える影響を考察する

中国ビジネスレポート 法務
裴徳宝

裴徳宝

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2021年7月13日

2020年8月19日、最高人民法院は「民間貸借事案の審理における法律適用の若干事項に関する規定」(法釈[2020]6号)を公布し、5年に亘り施行されていた「民間貸借事案の審理における法律適用の若干事項に関する規定」(法釈[2015]18号、以下「『民間貸借の旧規定』」という)を改正した。「民法典」の施行に伴い、それとの整合性を図るために、最高人民法院は2020年12月31日に「民間貸借事案の審理における法律適用の若干事項に関する最高人民法院による規定」(法釈[2020]17号)を正式に公布し、「法釈[2020]6号」規定をさらに改正した(以下、「法釈[2020]6号」と「法釈[2020]17号」を併せて「『民間貸借の新規規定』」という)。「民法典」との整合性を図るための調整を除き、「民間貸借の新規規定」と「民間貸借の旧規定」とを比べると、民間貸借金利に係る保護の上限調整が最も重要な変更点であり、本稿では、この金利保護の上限調整に係る法律要旨、並びにそれが企業に与える影響について簡潔に考察し分析する。

一、民間貸借金利に係る保護の上限調整についての法律要旨

「民間貸借の旧規定」では、民間貸借の金利は以下の方式により、その上限を保護するとしていた。

■高利貸しは無効とする:貸出金利(年利)が36%を超過した部分について、裁判所は返還するよう貸主に命じる。

■正常な金利は有効とする:

1)貸出金利(年利)が24%超36%以下の場合、裁判所は保護しない。利息を支払い済みの場合、裁判所は返還を支持せず、利息が未払いの場合でも裁判所は支払判決を下さない。

2)貸出金利(年利)が24%以下の場合、裁判所は当該部分の利息を支持する。

「民間貸借の新規規定」によれば、貸出金利が1年物の貸出市場提示金利(以下「LPR」という)の4倍を超過した場合、裁判所は支持しないことを明確にしている。「全国法院民商事審判作業会議紀要」等の関連規定を踏まえると、「民間貸借の新規規定」における民間貸借金利の保護上限は以下の規則が適用されると考えられる。

1)貸出金利(年利)がLPRの4倍以下の場合、その約定は有効とし、裁判所はこれを保護する。

2)貸出金利(年利)がLPRの4倍を超過した場合、その約定は無効とし[1]、裁判所はこれを支持しない。

「民間貸借の新規規定」における民間貸借金利の保護上限について、法律の観点から、一般的には以下の要旨が含まれると考えられる。

  1. 上限を超過したか否かは、民間貸借契約が成立した時点でのLPR[2]を基準にして判断すべきである。
  2. 民間貸借の遅延利息の率についても4倍のLPRを超過して約定してはならない。複利、遅延利息等を定めている場合、最終的に契約で取り決めた金利に基づき算出された利息は、借主が最初の貸出元本に貸借契約成立時点における4倍のLPRを乗じて算出された利息を上回った場合、当該金利は司法保護上の金利上限を超過したものと認定される可能性がある。
  3. 民間貸借において約定した違約金及びその他の費用[3]も、貸借契約に定める利息と併せて、貸借契約の成立時点における4倍のLPRという上限を超過したか否かを勘案しなければならない。

二、民間貸借金利に係る保護上限の調整が貸借行為に与える主な影響

●異なる時期における貸借行為に対する金利の保護上限をどのように適用するのか?

「民間貸借の新規規定」によると、裁判所が2020年8月20日以降に新たに受理した第一審の民間貸借事案において、2020年8月20日より前に成立した貸借契約、及びそれ以降のものについて、当事者はそれぞれ異なる金利を適用するよう請求することができるとしている。下表に簡潔に整理する。

第一審事案の受理時点

貸借契約

成立時点

利息計算期間

適用される金利の保護上限

2020年8月20日より前

不問

契約成立から貸付金の弁済日まで

金利(年利)24%

(24%超36%以下の部分は自然債務)

2020年8月20日以降

2020年8月20日より前

契約成立から2020年8月19日まで

金利(年利)24%

(24%超36%以下の部分は自然債務)

2020年8月20日から貸付金の弁済日まで

契約成立時点における4倍のLPR

2020年8月20日以降

契約成立から貸付金の弁済日まで

契約成立時点における4倍のLPR

また、2020年8月20日より前にすでに受理された第二審の民間貸借事案、並びにすでに結審し、また再審が申し立てられた事案については、「『民間貸借事案の審理における法律適用の若干事項に関する最高人民法院による規定』を真摯に学び且つ着実に実施することに関する通知」等の関連文書を踏まえると、原則上、金利の保護上限は「民間貸借の新規規定」の係る規定を適用せず、依然として「民間貸借の旧規定」の金利(年利)24%に係る規定の適用を受けると考えられる。

借主はその自由意思により支払った、金利の保護上限を超えた部分の利息につき、返還を主張できるのか?

2020年8月20日より前に裁判所が受理した第一審の民間貸借事案には「民間貸借の旧規定」が適用される。金利の保護上限を超えた部分の利息については、「民間貸借の旧規定」において「自然債務の部分(貸出金利(年利)が24%超36%以下)」と「無効の部分(貸出金利(年利)が36%超)」に区分される。借主がその自由意思により支払った「民間貸借の新規規定」における金利の保護上限を超えた部分の利息を返還するよう求める場合、当該区分ごとに法律で定められる処理結果はそれぞれ異なってくる。

  1. 支払済みの自然債務の部分に該当する利息については、当該支払が国、集団及び第三者の利益を損害しておらず、且つ借主が不当利得を理由に貸主に対し返還を請求する場合、裁判所はこれを支持しない。
  2. 支払済みの無効の部分に該当する利息については、借主が不当利得を理由に貸主に対し返還を請求する場合、裁判所はこれを支持しなければならない。

2020年8月20日以降、裁判所が受理した第一審の民間貸借事案は「民間貸借の新規規定」の適用を受けるとされている。借主が2020年8月20日以降、その自由意思により「民間貸借の新規規定」における金利の保護上限を超えて支払った利息についてどのように取り扱うかは、「民間貸借の新規規定」では明確に定められていない。その点だけに着眼すると、新規に受理された第一審の事案において、借主による金利の保護上限を超えた部分の利息の返還請求は、それぞれ2通りの状況があると考えられる。

  1. 2020年8月20日以降に成立した民間貸借契約については、「民間貸借の新規規定」によれば、金利が契約成立時の4倍のLPRを超過した部分は保護しないと定められている。最高人民法院による「民間貸借の新規規定」の記者会見での発言を踏まえると、当該新規規定は「民法典」第680条「高利貸し禁止」の精神を徹底するためのものであることから[4]、新たに受理された第一審事案において、借主による金利保護上限を超えて支払った利息の返還請求は、通常、裁判所に支持されると考えられる。
  2. 2020年8月20日より前に成立した民間貸借契約については、借主が2020年8月20日以降、その自由意思により「民間貸借の新規規定」の金利保護上限を超えて支払った利息は、実質上、「民間貸借の旧規定」における自然債務に該当し、「旧規定に従う原則」により取り扱わなければならない。よって、新たに受理された第一審事案において、借主による金利保護上限を超えて支払った利息の返還請求は、裁判所に支持されない確率が高い。

もっとも、「民間貸借の新規規定」が公布されてからまだ間もなく、現時点では、上記した意見を裏付けるような司法判例はまだ確認できていないため、今後、裁判所の司法判例を通じて裏付けがなされていく必要があり、この点、引き続き注意を払いたい。

●銀行等の金融機関における金利の保護上限はどのように適用されるのか?

「民間貸借の新規規定」であるか「民間貸借の旧規定」であるかに関係なく、第1条ではいずれも金融機関の間の貸付には適用されないと定められている。「全国法院民商事審判作業会議紀要」でも、「金融監督管理部門又は係る政府部門の承認を得て設立された、金融免許を有する銀行、非銀行金融機関が取り扱う貸借行為であれば、一律に金融貸付に該当し、民間貸借に係る規則及び金利の基準は適用しない」ことを強調している。従って、金融機関の貸付には「民間貸借の新規規定」における金利の保護上限に係る内容は適用されないと考えられる。

温州甌海区法院が2020年8月27日に下した判決では、「民間貸借の新規規定」を参照し、4倍のLPRを平安銀行股分有限公司温州支店と洪輝道の金融貸付事案に適用するものであったが、当該判決は、最近、温州中級法院によって覆された。その理由のひとつは、金融機関の貸付をめぐる紛争では「民間貸借の新規規定」は適用されないことである。温州中級法院の終審判決に意義があった点として、金融機関の貸付と民間貸借とでは性質が異なり、金融貸付の上限金利は民間貸借の上限金利を参照しなくてもよいことを明確にした点である。現在までの判決の結果を見る限りでは、金融機関に対する金利の保護上限は当面、「『金融審判作業のさらなる強化に関する若干意見』の公布に関する最高人民法院による通知」(法発[2017]22号)第2条第2項[5]に規定された24%に据え置かれるであろうと思われる。しかし、この問題に係る裁判規則はまだ統一されておらず、中国は判例法主義の国でもないことから、その他の地方法院が異なる観点からこの問題を解釈する可能性も排除できない。長い目で見るならば、この法整備の漏れが補われるような統一された裁判規則が制定されることを期待したい。

また、金融機関に関連する委託貸付については、その金利の保護上限に係る判断は当該貸付金の性質に関係してくる。法律上、委託貸付は金融貸付なのか、それとも民間貸借に該当するのかを明確にしておらず、金利の保護上限の適用規則も定められていない。しかし、最高人民法院の官報事例[6]によれば、裁判所は委託貸付を民間貸借と認定する傾向があるため、委託貸付の金利の保護上限は「民間貸借の新規規定」により規制されるはずである。しかしながら、この観点は司法実務により裏付けがなされる必要がある。

三、企業が注意すべき点

●貸借双方による貸借金利の約定については、なおも意思自治を尊重する

「民間貸借の新規規定」において貸借金利に係る保護上限が4倍のLPRへと調整されたことは、貸借双方が「民法典」に基づき、自ら協議の上、金利を確定することを妨げない。しかし、高利貸しに伴うリスクが発生しないよう、双方は貸借金利が4倍のLPRを超えないことを前提に、意思自治の原則の下で「利息計算基数(複利、遅延利息、違約金及びその他の費用)、利息計算期間、利息計算のベースとなる金利」という3つの要素を明確に取り決める必要がある。

なお、上述した利息計算基数(複利、遅延利息、違約金及びその他の費用)は4倍LPRの制限を受けるが、「全国法院民商事審判作業会議紀要」の関連内容[7]に基づくと、これを民間貸借以外の分野(例えば、貨物の売買)に適用させてはならないとしている。よって、民間貸借以外の分野においては、法律上、依然として意思自治が尊重され、4倍のLPRを超過しないという規定が強制的に適用されることはない。

●金利の保護上限を超過した自然債務を弁済するよう早急に借主を促すこと

 「民間貸借の新規規定」に自然債務に係る規定を廃止したことは、ある程度において、立法及び司法保護の天秤が債務者のほうに傾いていることを示している。2020年8月20日より前に成立した貸借契約については、2020年8月20日以降、借主がその自由意思により金利の保護上限を超えて弁済した自然債務は返還されるかどうかについて、法制度上、現時点では統一された取扱規則はまだなされていない。それが正式に公布されるまでは、金利の保護上限を超えた自然債務を弁済するよう早急に借主を促すことが安定した法律関係の形成には有益であり、また、借主の自由意思による弁済行為は、利息が金利の保護上限を超えているという借主の主張を抗弁するための理由にもなり得る。

 ●銀行等の金融機関は移行期間において事前に対応措置を講じておくのがよい

以上から、銀行等の金融機関に対しては、金利の保護上限は当面、調整されないと考えられるが、監督管理機関の一貫した姿勢から、国から厳格な監督管理を受けている銀行等の金融機関に対しての金利に係るモニタリングも厳格化されていくであろう。銀行等の金融機関においても注意を払っていく必要がある。

[1] 貸付の金利(年利)が1年物のLPRの4倍を超過する約定について、「民間貸借の新規規定」ではその効力を認めるか否かに言及されていないが、「全国法院民商事審判作業会議紀要」第30条第2項での「下記に掲げる強行規定は『効力上の強行規定』として認定しなければならない。強行規定が金融の安全、市場秩序、国のマクロ政策等の公序良俗に関わる場合」、及び、「民法典」第680条第1項における「高利貸しを禁止し、貸付金利は国の関連規定に違反してはならない」といった規定によれば、貸付の金利(年利)が1年物のLPRの4倍を超える部分は法によって禁止される高利貸しに該当し、係る約定は無効であると考えられる。

[2] 自然人の間の金銭貸借契約は要物契約であり、貸主から貸付金の提供があった時点で成立するため、当該貸借は、実際に貸主から貸付金の提供があった時点における1年物のLPRに準じる。

[3] その他の費用の範囲には、「金融審判作業のさらなる強化に関する若干意見」、「『現金貸付』業務の規範化・見直しに関する通知」、「法に依拠し民間貸借事案を適切に審理することに関する通知」等の関連文書に基づき、主に仲介手数料、サービス料、保証金、遅延費用等の総合的資金コストが含まれる。

[4] 「契約の自由意思を尊重し、保護上限を調整し、民間貸借の規範化、安定化、健全な発展を促す——最高人民法院民一廷の責任者による、新たに改正された『民間貸借事案の審理における法律適用の若干事項に関する最高人民法院による規定』についての記者からの質疑に対する回答」を参照のこと。

[5] 「『金融審判作業のさらなる強化に関する若干意見』の公布に関する最高人民法院による通知」第2条第2項:法に依拠し高利貸しを厳禁し、実態経済の融資コストを効果的に軽減する。金融貸借契約の借主は貸主の主張した利息、複利、遅延利息、違約金及びその他の費用が過度に高額なものであり、実際の損失額よりも著しく上方に乖離していることを理由に、合計して年利24%を超えた部分につき下方調整するよう要請する場合、これを支持しなければならない。これをもって、実態経済における融資コストを効果的に軽減するようにする。

[6] 最高人民法院:(2016)最高法民終124号民事判決を参照のこと。

[7] 「全国法院民商事審判作業会議紀要」第50条:約定した違約金が過度に高額であるか否かを認定するにあたっては、通常、「契約法」第113条に定める損失に基づき、判断しなければならない。また、ここにいう損失には、契約履行後、得られる利益が含まれる。なお、金銭貸借契約以外の双務契約において、対価とする代金又は報酬支給の債務は金銭貸借契約に基づく弁済義務に該当しないため、法によって保護される民間貸借金利の上限は、その違約金が過度に高額であるか否かを判断するための基準にはならず、契約の履行状況、当事者の過誤の程度及び逸失利益等の要素を踏まえながら総合的に確定しなければならない。違約金が過度に高額であると主張する違約側は、違約金が過度に高額なものであることについて証明責任を負わなければならない。

(里兆法律事務所が2021年2月5日付で作成)

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