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婦女権益保障法改正の要点解説及び使用者の立場からのコンプライアンスの考察

中国ビジネスレポート 法務
裴徳宝

裴徳宝

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2023年10月24日

概要:

新「婦女権益保障法」は、女性にとっての平等な労働権、女性従業員の出産保障措置等を強化することにより、女性権益の保護を強化し、侵害を受けた女性の救済ルートを整備している。新しい規定をどのように理解し、女性従業員の労働権益保障措置をどのように整備するかが、企業の人事管理部門が取り組むべき新たな課題となっている。本文では、この課題に焦点を当て、新「婦女権益保障法」の改正ポイントを解説したうえで、使用者の参考に資するべくコンプライアンスに関する考察の観点をいくつか紹介する。

本文:

 2022年10月30日、第13期全国人民代表大会常務委員会第37回会議において、新たに改正された「婦女権益保障法」(以下、「新婦女権益保障法」という)が審議可決され、2023年1月1日から施行された。今回の改正は、婦女権益保障法が1992年に公布されて以来3回目の全面改正であり、従来の9章61条から10章86条に増え、中国の国情を踏まえ、日増しに高まっている女性権益保障の要請に応え、女性の権益分野において長期的に存在する問題点と難題を解決し、旧婦女権益保障法では相対的に大まかであった原則的規定を詳細化し、法律の運用性を高めることを趣旨としている。本文では、今回の改正ポイントを解説し、新婦女権益保障法の下で企業が雇用管理の問題をどのように整備していくべきかについて、いくつかの助言を行う。

一、要点解説

● 女性にとっての平等な労働権の保障を強化

新婦女権益保障法の第43条では、募集採用過程における性別による不当な扱い及び結婚・出産に対しての不当な扱いの禁止行為を明確に列挙しており、これには、(1)男性に限定し、又は男性優先と定めること、(2)基本的な個人情報のほか、女性求職者の婚姻と出産状況についてさらに質問し、又は調査すること、(3)妊娠検査を入社時の健康診断の項目に入れること、(4)結婚、出産に対する制限又は婚姻、出産状況を採用/雇用の条件とすること、(5)その他、性別を理由に女性の採用/雇用を拒否し、又は女性に対する採用/雇用基準を不当に引き上げることなどが含まれる。同時に、実際のオペレーションにおいて、使用者がジェンダー・ステレオタイプに基づき、女性に適さないとされる職務の範囲が恣意的に拡大されてしまうことを防ぐため、原規定における「女性に適さない職種又は職務を除く」という禁止の例外状況を「国の別段の定めがある場合を除く」に変更した。上記の募集採用過程での性別による不当な扱いを禁止するほか、性別による不当な扱いを排除するという要求は、同様に昇進、昇格、専門技術の職階と職務の格付け後の任命、研修及び退職、定年退職の各場面においても一貫している。

上記の第(2)号の規定に関しては、2019年公布された「募集採用行為の更なる規範化及び女性就労の促進に関する通達」(以下、「通達」という)で、既に類似の規定があり、即ち、各々の使用者と人材サービス機関は、採用企画の作成、採用情報の公表、人材募集の過程において、女性に婚姻・出産状況について質問してはならない、とされている。実務においては、現在の新婦女権益保障法の類似規定が、実際には通達の基準を緩和するものであり、字面上の意味から理解すると、婚姻・出産に関する簡単な情報(例えば既婚かどうかなど)は、基本的な個人情報とみなすことができ、使用者がさらに問い詰めるのでない限りは禁止行為にはあたらないという見解もある。これに対し、筆者の認識としては、どちらかというならば婦女権益保障法改正の趣旨から見る限り、より厳密に理解されるべきであり、即ち、新法第43条は通達に対する呼応と整備であり、法規範文書を法律へと昇華させることを目的とし、従来の基準を緩和するものではないと考えられる。司法の実践を踏まえながら、各地の法院も、「婚姻・出産状況」は従業員個人のプライバシーであり、「労働契約法」第8条に定める「使用者が知る権利を有する労働契約に直接関係する労働者の基本情報」に該当するものではなく、従業員は使用者に知らせる義務もないとの見方をする傾向にある。従って、従業員が応募の際に婚姻・出産に関する情報を隠蔽し、又は虚偽の婚姻・出産情報を提供したとしても、使用者は原則としてこれを理由に労働契約を解除することはできない[i]

● 女性従業員への出産保障措置の強化

新婦女権益保障法第44条は、企業が女性従業員と締結する労働契約又は役務契約において、女性従業員の特別保護条項を備えなければならないと定めている。同法第48条は、使用者は、結婚、妊娠、産休、授乳等の事情を理由に、女性従業員の給与と福利厚生を引き下げてはならず、女性従業員の昇進、昇格、専門技術の職階と職務の格付け後の任命を制限してはならず、女性従業員を解雇し、労働(雇用)契約又は役務契約を一方的に解除してはならないと定めている。当然ながら、上記の規定は、出産期間中の女性従業員に対する使用者の雇用管理権が完全に制限されることを意味するものではなく、妊娠、授乳中の女性従業員が確かに現職に不適任である場合には、使用者は労働契約法の関連規定に従い、その配置を合理的に調整することもできるのだが、給与と福利厚生は据え置くようにしなければならない。

● 女性の個人の権利保護を強調

近年、婚姻・恋愛関係に起因する女性の個人の権利が侵害される事件が頻発していることから、新婦女権益保障法第29条では、婚姻・恋愛関係の継続中又は終了後の女性の権益保護を強化し、恋愛や交友を理由にし、又は恋愛関係終了後、若しくは離婚後に、女性に付きまとい、嫌がらせをしたり、女性のプライバシーと個人情報を漏洩し、流布することを禁止し、且つ、従来は家庭内暴力を防止するために使われていた個人安全保護令制度を婚姻、恋愛と交友を含む範囲にまで広げ、女性が婚姻・恋愛関係に起因する侵害を受け、又は現実的な危険に直面した場合、人民法院に人身安全保護令を申し立てることができる。2023年1月1日、新婦女権益保障法が正式に施行された初日に、四川省崇州法院は、同省初の「女性のプライバシーと個人情報を保護する」人身安全保護令[ii]を発令し、被申立人が恋愛関係のトラブルにより申立人のプライバシーと個人情報を継続して漏洩し、流布することを禁止する裁定を下した。

また、新婦女権益保障法はセクシャル・ハラスメント(以下「セクハラ」という)の予防と対処の制度的メカニズムをさらに整備し、使用者、学校、宿泊施設運営者のセクハラ防止管理義務を詳細化した。「セクハラ」という概念は、2005年に改正された「婦女権益保障法」に初めて登場したが、当時は明確に定義されたものではなかった。2012年に公布された「女性従業員労働保護特別規定」では、使用者が女性従業員に対するセクハラを予防し、阻止することが初めて明確にされた。2021年に施行された「民法典」第1,010条は、言葉、文字、画像、身体的行為等の方法で実施される「セクハラ」の実施形態を定義している。2023年3月8日、人力資源社会保障部等6部門が公布した「職場におけるセクシャルハラスメント解消制度(参考書式)」の第2条では、「セクハラ」を「実施者が嫌がらせ又はその他不正な目的、意図を持っているかどうかにかかわらず、他人の意思に反し、言葉、表情、身振り、文字、画像、映像、音声、リンクその他の方式により、他人に性に関する連想をさせ不快感を与える行為」と定義している。新婦女権益保障法第25条では、使用者が職場のセクハラを防止と管理するための8つの措置が具体的に明記されており、企業が職場のセクハラ防止管理義務を果たす際に、どのように実行すべきかについてのガイドラインが明確に指し示されている。実務において、使用者は職場のセクハラを予防し、阻止するための第一の防衛線である。使用者は、規則の制定と実施を通じて、職場のセクハラ加害者を抑制し、制裁し、ひいては解雇することができる一方で、使用者であれば、被害者のプライバシーを保護しながら、行政又は司法の救済ルートに訴えるための証拠収集において協力がしやすい。

● 侵害を受けた女性の救済ルートを整備

新婦女権益保障法は、権益を侵害された女性のために、共同ヒアリング体制、公益訴訟制度及び提訴支援制度といった一連の救済ルートを設置し、整備した。共同ヒアリング体制では、人的資源社会保障部門(以下「人社部門」という)が労働組合、婦女連合会と連携し、女性の労働と社会保障権益を侵害した使用者に対しヒヤリングを行い、法に依拠して監督を行い、期限を定めて是正を求めることができることを明確にした。公益訴訟制度では、使用者が女性の労働と社会保障権益を侵害し、又はセクハラ防止管理義務の履行を怠った場合、女性が法に依拠し公益訴訟の提起を検察機関に申立てることができることを明確にした。提訴支援制度では、国家機関、社会団体、企業と事業組織について、侵害を受けた女性が法に依拠し法院に訴訟を提起するうえでの支援ができると定めている。

二、企業の雇用管理を改善するうえでの考察

 注意を払うべき点として、新婦女権益保障法では、雇用における性別による不当な扱いとセクハラという2つの特に注目されている問題に対し、責任追及制度をさらに整備している。第49条は、採用、昇進、昇格、専門技術の職階と職務の格付け後の任命、研修、解雇等の過程において性別による不当な扱いをする行為を労働保障監察の範囲に組み込んでいる。第83条では、使用者に第43条と第48条に掲げる性別による不当な扱いをするといった状況があった場合、人社部門が是正を命じるが、是正を拒否し又は情状が深刻なときは、1万元以上5万元以下の罰金を科すことができると定めている。

また、新婦女権益保障法第80条第2項の規定によれば、使用者がセクハラを防止し、管理するために必要な措置を取らなかったことにより、女性従業員の権益が侵害され、又は社会に悪影響がある場合、主管機関が是正を命じ、是正を拒否し又は情状が深刻なときは、法に依拠し直接責任を負う主要管理者及びその他の直接責任者に対し処罰を課することができる。

従って、職場における性別による不当な扱いとセクハラの防止は、使用者の人事管理における新たな課題となっている。また別の視点から見れば、女性従業員の権益保障を強化することは、健全で良好な職場環境を作り、仕事の効率を高め、労働紛争を減らし、企業のイメージを向上させることにも資する。これに関し、筆者は以下に若干の助言を行う。

● 女性にとっての平等な労働権を保障するための考察

1.既有の求人広告についてコンプライアンス審査を実施し、性別による不当な扱い又は結婚・出産に対する不当な扱いに明らかに関わっている表現(例えば、男性限定、既婚子持ち優先)、又は中立的に見えるが実際には大多数の女性に不利な条件(例えば、身長170㎝以上に限る等、但し、業務上必要な条件である場合を除く)は削除する。採用登録表の結婚・出産情報欄を削除するか、任意項目として設定し(当該項目を残しておく必要がある場合)、記入するか否かを応募者に自ら選択させる。不採用となった女性応募者に対し、直接又はヘッドハンティング会社を通じて間接的にフィードバックを行う場合、性別、結婚と出産状況に関する言及は避ける。

2.在職中の女性従業員の従業員情報を登録する際には、個人情報保護法の関係規定に従わなければならない。結婚・出産に関する情報については、どうしても必要な場合(例えば、結婚祝金、出産慰労金等の支給等)には、必要最小限の範囲で収集することができる。

3.既存の昇進、昇格、職階と職務の格付け後の任命、研修等の制度についてコンプライアンス審査を実施し、女性の昇進、評価、研修等に明らかに不利な評価条件又は定めは除外する。

4.新婦女権益保障法では、「労働(雇用)契約又は役務契約は、女性従業員の特別保護条項を備えなければならない」という規定が新たに追加され、この規定に違反した場合に法的責任を負う必要があるかどうかは明確にされていないが、労働監察にとっての一つの注目ポイントとなり得るため、使用者は新婦女権益保障法における女性従業員の特別保護の要求を満たすよう、労働契約について自己点検を行い、女性従業員の特別保護に関する条項を適宜追加し、又は補足契約の締結を通じて追加しておくことが推奨される。特別保護条項の詳細については、「職場における女性従業員特別労働保護制度(参考書式)」を参考にすることもできる。

● セクハラ防止管理義務を履行するうえでの筆者からのアドバイス

1.事前予防制度を確立し、セクハラを禁止する規則制度を制定し、規則において「セクハラ」の具体的な行為を明確にし、違反行為に対する罰則を強化し、同時に専管機関及び責任者を指定しておく。セクハラ防止管理に関する教育、研修活動を実施し、職場におけるセクハラ防止に関するパンフレットを作成し、公示し、従業員の中で調和のとれた職場環境づくり等に関するアンケートを定期的に実施し、女性従業員のセクハラに対する予防意識を高め、女性従業員の職場の休憩場所に対しても必要なセキュリティ対策を講じるようにしたい。

2.事件発生時の調査制度を強化し、社内に苦情申立ホットライン等を設置し、苦情申立と通報のルートを開通させ、従業員によるセクハラ行為への監督を奨励する。一旦苦情申立又は通報を受けたら、遅滞なく調査手続きを開始し、被害者のプライバシーをできる限り保護しながら調査と証拠収集活動を積極的に進め、収集された手掛かりとなる情報、証拠等については、その後の被害者の権利保護活動を支援するために適切に保管しておくようにする。

3.事後処理制度を整備し、セクハラ加害者又はセクハラ防止管理義務の履行を怠った責任者に対しては、規則に従い処罰し、情状が深刻な場合は解雇し、又は主管機関に移送し、処理させることができる。被害を受けた女性従業員に対しては、必要な支援と援助を行い、必要に応じて心理カウンセリングを提供し、様々な便宜条件を提供して権利保護に係る訴訟を法院に提起するうえでの支援を行うようにするとよい。

(作者:里兆法律事務所 裴徳宝、沈思明)

 

[i]  (2013)一中民終字第14477号、(2016)粤03民終20674号、(2019)滬0106民初58260号、(2021) 滬02民終7020号、(2021)湘0182民初11766号、(2022)津03民終1732号。

[ii] (2023)川0184民保令1号民事裁定書。

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