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外国仲裁判断の中国国内での承認と執行に関する実務上の要求を考察する

中国ビジネスレポート 法務
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裴徳宝

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2025年4月10日

中国が経済のグローバル化の進展に深く溶け込み、「一帯一路」構想の勢いある発展に伴い、外国仲裁判断の中国国内での承認および執行案件が年々増加している。その一方で、外国仲裁判断を中国国内でどのように承認し執行すべきかについては、根拠となる法律規定はまだ原則的なものにとどまっており、各地域ごとの司法の実務運用上も大きな開きがあり、外国仲裁判断が中国国内で効果的に執行されるうえで多くの困惑が生じている。本文では、筆者が直近に処理したこの種の案件の経験を踏まえ、外国仲裁判断の中国国内における承認と執行の実務的なポイントを簡潔に整理し、分析する。

一、外国仲裁判断を中国国内で承認し執行するうえでの法律依拠

「民事訴訟法」(2024年1月1日施行)(以下「民訴法」という)第304条では、「中華人民共和国領域外で作成され、法的効力を有する仲裁判断について、人民法院での承認および執行が必要な場合、当事者は執行対象者の住所地もしくはその財産所在地の中級人民法院に直接申立てることができる。……人民法院は、中華人民共和国が締結しまたは加盟している国際条約、もしくは互恵原則に基づき処理しなければならない。」1と定めている。本条は、外国仲裁判断を中国国内で承認し執行できるとする主な法律依拠であり、当該案件の管轄法院及び審理の根拠を明らかにしているが、審理の根拠の部分は原則的な規定があるに過ぎない。

司法の実務運用上は、通常、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(以下「ニューヨーク条約」という)が、外国仲裁判断を中国国内で承認と執行する際の審理の根拠とされている。「ニューヨーク条約」は1987年4月22日に中国で発効し、現在までに加盟国はすでに170を超えていることから2、本条約が中国の司法の実務運用上、広く応用されている。

それにもかかわらず、最高人民法院の「我が国が加盟した『外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」』の執行に関する通知」によれば、中国では、中国法に基づき契約性及び非契約性の商事法律関係3から生じた紛争に対してのみ、「ニューヨーク条約」を適用するとしている。これらの範疇に該当しない紛争については、互恵の原則に基づいて処理するしかない。

二、外国仲裁判断の承認と執行に関する案件の裁判・審理手続き

外国仲裁判断の承認申立と執行申立は、独立した2つの法律手続きであり、外国仲裁判断の執行を申し立てるには、当該外国仲裁判断が既に承認を得ていることが前提となる。このため、理論上はまず承認を申し立て、その後に執行を申し立てなければならない。司法の実務においては、案件審理の効率を上げるため、通常は承認の申立と執行の申立を併せて審理することになり、申立人は申し立てを1回行うだけで、申立書に「承認と執行を申立てる」と明記すればよい4。外国仲裁判断の承認と執行の裁判・審理手続きの基本的な流れについては、別紙1を参照いただきたい。

最高人民法院による「民訴法」についての関係する司法解釈、「人民法院が渉外仲裁および外国仲裁事項を処理することに関する通知」(2008年改正)、「仲裁司法審査案件の報告審査問題に関する規定」(2021年改正)などの関連法律規定、司法文書を踏まえると、上記の裁判・審理手続きにおいては以下のとおりとなる。

  1. 申立人は、中国国内の主体であっても中国国外の主体であっても、中国国内で仲裁判断の承認と執行を申立てることができる。
  2. 国外の常設仲裁機関(機構)、臨時仲裁廷が下した法的効力の生じる仲裁判断は、いずれも中国国内で承認と執行を申立てることができる。
  3. 外国仲裁判断の承認と執行の申立期間は、訴訟時効に該当し、法律に定めた訴訟時効の中止、中断に関する規定が適用される。
  4. 裁判所が下した外国仲裁判断を承認し、執行する裁定、または承認と執行を拒否する裁定に対して、中国法では上訴手続きが設けられていない。「民訴法」では、一回の再議の機会5が定められており、当事者が裁定を不服とする場合、裁定の送達日から10日以内に上級人民法院に再議を申し立てることができる。しかし、実務においては、「外国仲裁判断の承認と執行を拒否する」裁定については、「報告審査制度」を通して高級人民法院の回答を得ていることから、裁定結果が覆される可能性はかなり低い。

三、外国仲裁判断の承認と執行を拒否する7通りの状況。

「ニューヨーク条約」第五条の関係規定に依拠し、法院は審査を経て以下の5通りのいずれかの状況が存在すると判断した場合、外国仲裁判断の承認と執行を拒否する。

(1)有効な仲裁の協議がなされていない場合。仲裁協議の当事者が適用する法律に基づき、その当事者が相応の民事行為能力を有していない場合。当該仲裁協定がその依拠となる準拠法6の規定により無効とされる場合。当該仲裁協定が準拠法を明確に定めておらず、判断所在地の法律に依拠して無効と認定される場合。

(2)仲裁手続きで適切な通知が行われておらず、又はその他の理由で一方の当事者が弁明を行わなかった場合。

(3)裁量権を超える場合。

(4)仲裁手続きが約定された仲裁規則に違反し、又は仲裁地の法律に違反する場合。

(5)仲裁判断が終局性をもたない場合。当該判断が各当事者に対し拘束力を持もたない場合。当該判断がその作成地又は当該判断を下す際に依拠した準拠法を制定した国の主管機関によって取消され又は執行が停止された場合。

上述の5通りの状況については、被申立人からの申し入れがあった場合に限り、法院が審査を行うことができる。このほか、法院は以下の2通りの状況について自主的な審査義務を有しており、審査を経て、いずれかの状況が成立することが認められると、当該外国仲裁判断の承認と執行を拒否することになる。

(1)中国法に依拠し、係争事項が仲裁してはならないものである場合7

(2)当該外国仲裁判断の承認又は執行が中国の公共政策に反する場合8

法院による外国仲裁判断の承認と執行についての審査は形式審査である。裁判・審査の手続きにおいて、法院は通常、前述の7通りの状況のいずれかに該当するかどうかを判断することにとどまり、外国仲裁判断そのものを対象として、事実と法律の審査を改めて行うことはない。そのため、被申立人の立場から見るならば、外国仲裁手続きに関与せず、且つ外国仲裁判断の承認と執行手続きの過程で案件の実体的事項について抗弁を試みようとする戦略は誤りである。

四、外国仲裁判断の承認と執行に関する案件の申立書類の要求

管轄法院ごとに、外国仲裁判断の承認と執行に関する申立書類にはある程度の違いがある。必要な申立書類は通常以下の通りである(承認と執行を同時に申立てるケースを例とする)。

  1. 外国仲裁判断の承認と執行を申立てる申立書。
  2. 外国仲裁機構による仲裁判断の原本又はその正式な副本。
  3. 仲裁条項を記載した当事者双方の書面による取り決めの原本又はその正式な副本。
  4. その他、案件に関連する当事者双方の書面による取り決め、契約の約定、適用法律など。
  5. 当事者の身分証明書類。
  6. 代理人の委任状。

上述の関連する申立書類が中国国外で作成された場合、法院に提出する前に、所在国(外国企業又は組織の設立登録地の国、もしくは営業登録手続きを行った第三国)の公証機関による公証手続きを行う必要がある。これまでは、公証の他に、中国が当該国に駐在する大使館・領事館による認証、又は中国と当該国が締結した関係条約で規定された証明手続きを履行する必要があった。2023年11月7日から、「外国公文書の認証を不要とする条約」(「条約」という)が中国で発効したため、他の締約国の公文書を中国本土で使用する場合、条約に規定したアポスティーユ(Apostille)の手続きを行うだけでよく、当該国と中国が当該国に駐在する大使館・領事館による認証は不要となった。

(作者:里兆法律事務所 裴徳宝、易志臻焱)

 

別紙1

外国仲裁判断の承認と執行に関する案件の基本的な裁判手続きの流れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 本条文は、2024年1月1日に施行された「民訴法」において初めて設けられたものではなく、1991年4月9日に施行された「民訴法」にも類似の規定が存在している。つまり、外国仲裁判断が中国国内で承認と執行できることについては、早くは1991年からすでに法的根拠が存在していた。

2 「ニューヨーク条約」加盟国リストは下記URLを参照。https://www.newyorkconvention.org/list+of+contracting+states

3 中国における「契約性及び非契約性商事法律関係」とは、契約、権利侵害、又は関連する法律規定に基づいて生じた経済的な権利義務関係を指すが、外国投資家と投資受入国政府との紛争は含まれない。

4 承認と執行を併せて審理することは、司法審査の手続きのステップを減らし、司法コストを節約するうえでは有益だが、司法実務上は、法院の審判法廷と執行法廷との間で執行に関する争いが生じやすく、外国仲裁判断の実際の執行に困難をもたらすことがある。このような案件を処理する実務においては、事前に案件の論証をしっかりと行い、裁判官との必要な意思疎通を行うことが不可欠である。

5 「民訴法」第三百三条、当事者が承認と執行の裁定、又は承認と執行を拒否する裁定を認めない場合、裁定の送達日から10日以内に上級人民法院に再議を申し立てることができる。

6「第二回全国渉外商事海事審判業務会議記録」

58.当事者が契約で約定した契約の争いを解決するために適用する準拠法は、渉外仲裁条項の効力を決めることには使用できない。当事者が契約中で仲裁条項の効力に適用する準拠法を明確に約定している場合、当事者が明確に約定した準拠法を適用することになる。仲裁条項の効力に適用する準拠法を約定していないが、仲裁地を約定している場合は、仲裁地の国又は地域の法律を適用することになる。仲裁条項の効力に適用する準拠法を約定しておらず、且つ仲裁地も約定していない、又は約定不明の場合にのみ、法院所在地の法、即ち中国法を適用して仲裁条項の効力を確認する準拠法とすることができる。

7 例えば、中国の「仲裁法」第三条に規定された、仲裁ができない紛争は、婚姻、養子縁組、監護、扶養、相続に関する紛争、法律により行政機関が処理すべき行政紛争である。

8 「公共政策」の定義について、最高人民法院はかつて「復函」の形式で明確にしており、外国商事仲裁判断を承認と執行すると、中国の基本的な法律原則に違反し、中国の国家主権を侵害し、国家および社会の公共安全に危害を加え、善良な風俗に反するなどの中国の根本的な社会公共利益に対して危害を引き起こす場合にのみ、公共政策を理由に承認と執行を拒否することができる。

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