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法的視点から:電力の供給停止及び使用制限措置が企業に与える主な影響及び対応措置

中国ビジネスレポート 法務
董 紅軍

董 紅軍

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2021年12月13日

先頃、「2021年上半期、各地区エネルギー消費総量と強度の制御目標達成指標」等の文書の発布に伴い、電力の供給停止及び使用制限の動きが徐々に全国の多くの省まで広がり、製造企業を含む電力使用企業にとって、電力使用の制限による稼働停止危機が生じている。この問題について、本稿では、法的視点から、電力の供給停止及び使用制限措置が企業に与える主な影響を分析し、電力使用企業の参考に資するため、相応のリスク防止及び対応措置を紹介する。

一、電力の供給停止及び使用制限措置が電力使用企業にもたらす経済的損失について、賠償を主張できるのか?

今般の電力の供給停止及び使用制限措置は、電力供給事業者が政府の電力ネットワーク管理部門の「電力制限令」に基づき、電力供給を停止ものである。従って、電力使用企業が、今般の電力の供給停止及び使用制限措置による経済的損失(例えば、設備の損傷)について賠償を主張できるかどうかを判断するうえでは、主に以下の視点から検討できる。

  1. 政府の電力ネットワーク管理部門に損害賠償を主張することができるかどうか?
  2. 電力供給事業者に対し損害賠償を主張することができるかどうか?

上述の1については、判断の鍵は、政府の電力ネットワーク管理部門が「電力制限令」を下す権利があるかどうかにある。「秩序ある電力使用管理弁法」等の関連法律規定によれば、国家発展改革委員会が全国の秩序ある電力使用管理作業をつかさどり、県級以上の人民政府関連部門は、当該行政区域における秩序ある電力使用管理作業を管理する権利を有しており、電力の需給状況に応じて、政府の電力ネットワーク管理部門は、電力の総量と強度のバランスをとるために、ピークシフト、ピーク回避、電力供給制限、電力供給停止等の秩序ある電力使用方案を実施する権利があるとされている。このことから、政府の電力ネットワーク管理部門は、「電力制限令」を公布する適法な職権を有しており、電力の供給停止及び使用制限により損害を被った電力ユーザー企業も、通常、政府の電力ネットワーク管理部門に賠償責任を負うよう求めることはできないことがわかる。

上述の2については、電力供給事業者と電力ユーザー企業は平等な民事主体であり、両者には電力供給契約関係があり、電力供給事業者に対し損害賠償を主張できるかどうかは、電力供給事業者による電力の供給停止及び使用制限が「電力法」等の社会法及び「民法典」等の民事法の二重規範的要求に合致するかどうかにかかわってくる。「電力法」第29条及び「民法典」第652条では、いずれも「電力供給事業者は、法律に基づく電力供給制限により、電力ユーザー企業に対する電力供給を中断する必要がある場合には、国の関係規定[1]に基づき事前通知義務を履行しなければならない」と定めている。逆に言うならば、電力供給事業者が規定に基づき通知義務を履行した後に電力の供給停止及び使用制限を実施する場合、電力ユーザー企業は、通常、電力供給事業者に賠償を請求することは難しい。

二、電力の供給停止及び使用制限により、電力ユーザー企業の対外的に生じた違約責任について、不可抗力の抗弁を援用することはできるか?

電力ユーザー企業の日常的な生産経営過程において、電力の供給停止及び使用制限は、外部と締結した取引契約の履行遅延ひいては履行不能という法的結果をもたらし得る。この場合、不可抗力を援用して免責抗弁を行うことができるかどうかが電力ユーザー企業の損失を減らせるかどうかにかかってくる。1つの契約の不可抗力事由を構成するには、同時に以下の条件を備えていなければならない。(1)客観的事由が予測不可能であること。(2)不可抗力の客観的事由が回避できず、克服できない特性を有していること。(3)不可抗力を構成する事由は必ず契約の締結後、終了前に発生したものでなければならないこと。

前述の通り、今般の電力の供給停止及び使用制限は、政府行為/指令(以下、「政府指令」という)によるものである。政府指令が不可抗力を構成するかどうかについては、実践において議論がある。

  1. ある観点では、政府による行政指令の発布は、事前に社会公衆と協議したり、又は事前に社会公衆に知らせることはなく、しかも多くの政府指令は強制性を有しており、当該政府指令の影響を受ける具体的な契約当事者は、これについて予見できず、回避できず、且つ克服できず、また、契約履行過程において、当事者は、主観的には過失要素がないため、電力の供給停止及び使用制限は、「不可抗力」を適用して保護されることに合理性があるとしている。[2]
  2. また別の観点では、厳しく、慎重な見方をしており、生産・加工企業にとって、政府の電力供給制限指令は、すべて予見できないというわけではなく、反対に、成熟した生産・加工企業は、節電・電力供給制限政策について一定の予見性を有しているはずであり、政府の電力供給制限による操業停止という状況は、生産・加工企業にとって不可抗力に該当せず、免責されないとしている。[3]

上述の内容を踏まえるならば、電力ユーザー企業が取引相手に対し不可抗力を援用して免責抗弁をすることができるかどうかは、ケース・バイ・ケースの分析が必要であることがわかる。電力の供給停止及び使用制限という背景のもとで、取引先に対する電力ユーザ企業の違約責任をできるだけ軽減するという観点から、電力ユーザ企業は、事前に次のような対応策を講じておくとよい。

  • まだ締結していない取引契約については、源から契約のリスクをコントロールすること。すなわち、企業はかかる契約を締結する前に、このような突発状況(例えば、「電力制限令」など)を取引契約の免責事由又は不可抗力の範囲に明確に組み込んでおく。
  • 既に締結された、履行されている取引契約については、取引契約に定める期日及び方式に基づき、取引相手に通知義務を履行すること。

 

三、電力の供給停止及び使用制限により電力ユーザー企業が操業停止した場合、従業員の賃金はどうなるのか?

電力ユーザー企業の規模、業種、性質に応じて、地域ごとにそれぞれの電力の供給停止及び使用制限政策を発布している。全体として見てみると、電力の供給停止及び使用制限政策は、次の2通りに分類される。

  1. 操業停止期間が1か月以上に及ぶ全面的な電力の供給停止及び使用制限(以下、「全面的な操業停止」という)。
  2. 「1日稼働、6日操業停止」等のスキームの断続的な電力の供給停止及び使用制限(以下、「断続的な操業停止」という)。

労働法の分野では、従業員の賃金の支払について、「不可抗力」が適用されるという状況はみられない。つまり、電力の供給停止及び使用制限による全面的な操業停止又は断続的な操業停止の場合、通常、「不可抗力」等の事由を援用して支払の支払を拒否することはできない。

全面的な操業停止における従業員の賃金支給の問題について、政府が係る正式文書を公布する前に、電力ユーザー企業は、「賃金支払暫定規定」第12条[4]及び各省のこれに関する詳細規定に基づき、従業員に賃金を支給することができる。

江蘇省を例にとると、従業員の賃金は以下の方式に基づき、取り扱われることになる。

  • 1回目の賃金支給期間内において、労働者が正常な労働を提供したとみなし、賃金を支払うものとする。通常、ここでの賃金とは、基本給、職場給与等の固定賃金を指し、それには、変動的なリスク性のある収入(例えば、変動的業績インセンティブ)や残業代は含まれていない。
  • 1回目の賃金支給期間を過ぎた場合、労働者が提供する労働に応じ、電力ユーザ企業は、双方が新たに約定した基準に基づき賃金を支払うことができる。電力ユーザー企業は、労働者に労働を手配しなかった場合、現地の最低賃金基準の80%を下回らない基準で労働者に生活費を支給しなければならない。

断続的な操業停止中の従業員の賃金支給問題については、法律上まだ明確にされていない。この点ついて、具体的な地方(主に蘇州)人社部門に確認を行った限りでは、政府がかかる正式文書を発布するまで、従業員の賃金は、新型コロナウイルス感染症拡大防止期間における「隔離」、「操業停止」等の関連規定を参照して取り扱うことができると考えられ、以下、簡潔に整理する。

  • 使用者は従業員と協議し合意したうえで、従業員の年次有給休暇の取得手配を優先的に検討することができる。[5]
  • 上記の休暇手配が実現できない場合には、操業停止期間中の賃金支払基準について従業員と協議し、且つ合意することができる。


(作者:里兆法律事務所  董紅軍、李繁)

[1] 主に「電力供給及び使用条例」第28条である。第28条では、「本条例に別段の定めがある場合を除き、発電、送電システムが正常に運行している場合には、電力供給事業者は、ユーザーに連続して電力を供給しなければならない。何らかの事由により電力供給を停止する必要がある場合、以下の要求に基づき、事前にユーザーに通知し又は公示しなければならない。

(一)電力供給施設の計画点検のため停電が必要な場合、電力供給事業者は7日前までにユーザーに通知し、又は公告しなければならない。(二)電力供給施設の臨時点検のため、電力供給を停止する必要がある場合、電力供給事業者は、24時間前までに重要なユーザーに通知しなければならない。(三)発電・送電システムの故障により、停電、電力供給制限が必要となる場合には、電力供給事業者は、事前に定められた電力供給制限順序に従って、停電又は電力供給制限を行うものとする。停電や電力供給制限の原因が解消された後、電力供給事業者は速やかに電力供給を回復しなければならない。」と定めている。

[2]河池市中級人民法院(2017)桂12民終1335号民事判決書を参照する。「……天峨電業公司が紅旺木炭工場への電力供給を停止したのは、天峨県人民政府弁公室が出した『紅旺機制木炭工場への電力供給を直ちに停止することに関する通知』を受け取ったためであり、当該通知は政府の行政命令に該当し、天峨電業公司はこれに従わなければならない。天峨電業公司はこれにより紅旺木炭工場への電力供給を停止したが、これは、不可抗力により一時的に契約を履行することができないという状況に該当する。」

[3]浙江省温岭市人民法院(2011)台温商初字第121号民事判決書を参照する。「……原告は、政府の電力供給制限による操業停止は、不可抗力事由に該当し、原告は、如何なる違約責任を負う必要もないと主張した。原審裁判所はこれについて以下の通り認定した。省エネ・電力供給制限は、政府が毎年実施する可能性のある政策的事件であるため、成熟した、熱加工の資格を有する企業として、これについて一定の予見性を有しており、相応の準備作業を行うべきであった。節電・電力供給制限による操業停止は、不可抗力の法定状況に該当しない。」

[4] 「賃金支払暫定規定」第12条:労働者の原因によらない組織の操業停止は、一つの賃金支給周期以内である場合、使用者が労働契約に定める基準に基づき労働者の賃金を支給しなければならない。一つの賃金支給周期を超えた時、労働者が正常な労働を提供した場合、労働者に支給する労働報酬は、現地の最低賃金基準を下回ってはならない。労働者が正常な労働を提供しなかった場合、国の関連規定に従って取り扱わなければならない。

[5] 蘇州市人的資源人社会保障局「新型コロナウイルス感染症拡大防止期間における人的資源社会保障に関するQ&A(労働関係の安定化の維持)」質問7を参照する。下記のURLをクリックしてください。http://hrss.suzhou.gov.cn/jsszhrss/gsgg/202001/29a8ec9886a24c27b82d42ac25f91513.shtml

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