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新「会社法」施行~新法の解説及び企業の対応策~

中国ビジネスレポート 法務
董 紅軍

董 紅軍

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2024年9月10日

概要

 2023年12月29日、第14期全国人民代表大会常務委員会第7回会議において、「中華人民共和国会社法」の改正が可決され、新会社法が2024年7月1日から施行された。今回の改正では、多くの実質的な追加と修正が行われ、コーポレートガバナンスに関する多くの制度が再構築された。本文は、企業が関心を寄せるいくつかの実務上の問題について簡単に説明し、新会社法の下で企業の対応策を提供することを目的としている。

本文

 ■ 登録資本金引受制の改正 

新会社法は、有限責任会社の登録資本引受制を改正し、「全ての株主が引き受けた出資額は、株主が会社定款の規定に従い、会社設立の日から5年以内に全額払い込まなければならない」と定めており、有限責任会社の株主の払込期限の上限について強行規定を設けると同時に、法律、行政法規及び国務院の決定により、登録資本金の払込及び最低金額、株主の出資期限について特別な規定を設けることができることを明確にしている。

先頃、国務院常務会議は、「『中華人民共和国会社法』登録資本登記管理制度の実施に関する国務院の規定(草案)」を審議可決し、新会社法施行前に設立された既存の会社に対し、2024年7月1日から2027年6月30日までの3年間の移行期間を設定した。既存会社の出資期限が会社法に定める期限を超える場合は、移行期間中へと調整しなければならない。これについて、出資を全額払い込んでいない企業は、会社定款、株主協議等の書類を自主的に修正し、出資期限を調整し、遅滞なく出資を全額払い込むようにしなければならない。株主が新会社法で定められた期間内に出資できない場合、企業は減資手続きを行わなければならない。

■ 董事の登録資本精査義務

 新会社法では、会社の登録資本は払込制に変更され、それに伴い、董事は株主に対し登録資本金の払込を催促する義務を負うことになる。新会社法第51条は、有限責任会社設立後、董事会は株主の出資状況を精査し、株主が定款に定める出資金を期限内に全額払い込んでいないことが判明した場合、会社から当該株主に対し、書面による催促状を送付し、出資を催促しなければならないと定めている。かかる催促義務を遅滞なく履行せず会社に損失を与えた場合、責任ある董事は会社に対し賠償責任を負わなければならない

上記の追加された出資催促義務は、董事に対し登録資本の精査義務を厳格に履行するよう求めるものである。具体的には、董事は、銀行取引明細書(金銭出資の場合)、製造物所有権譲渡書類、評価報告書(非金銭出資の場合)を精査することで、株主の出資が全額払い込まれたかどうかを確認することができる。精査過程においては、記録を残し、精査が実施された証拠を保存するよう注意を払うことになる。必要に応じて、会計士事務所に株主の出資に対する精査を依頼することもできる。董事は、株主が期限通りに出資を払い込まなかったことを発見した場合、遅滞なく当該株主に対し書面による催促通知を送付しなければならない。

■ 董事、監事及び高級管理職の忠実義務と勤勉義務の詳細化

新会社法では、董事、監事及び高級管理職の忠実義務と勤勉義務に関する規定を詳細化しており、忠実義務とは、自己の利益と会社の利益との相反を回避するための措置を講じ、その職権を利用し不当な利益を得てはならないことであり、勤勉義務とは、会社の最善の利益のために、その職務を遂行する上で管理職に通常期待される合理的な注意を払うことだということを明確にしている。

忠実義務と勤勉義務に関して、新会社法では1つの緩和と2つの強化が行われた。

1つの緩和:旧会社法では、董事と高級管理職が関連取引、会社に属する取引機会の利用、勤務する会社と同種の事業(以下、「利益相反取引」と総称する)を行う場合には、株主会の承認を得なければならなかった。新会社法では、利益相反取引承認の意思決定機関が株主会から株主会又は董事会(詳細は定款で定める)へと変更された。これは、董事会が利益相反取引の審査承認者になれることを意味している。

2つの強化:ひとつは、新会社法では、監事を利益相反取引の監督管理対象に組み入れていることもうひとつは、董事、監事及び高級管理職の近親者、董事、監事及び高級管理職又はその近親者が直接又は間接的に支配する企業、並びに董事、監事及び高級管理職とその他の関係を持つ関係者も監督管理の対象に組み入れていることである。従って、董事、監事及び高級管理職は、新会社法及び会社定款の規定に厳格に従い、利益相反取引に関わっているかどうかを整理する必要がある。利益相反取引を行う前に、董事会又は株主会に報告し、承認を得てからでなければ、係る取引を行うことができない。

■ 董事会の議決メカニズムの調整 

旧会社法では、有限責任会社の董事会の議決メカニズムは定款によって自由に定めることができ、法律による強制的な要求はなかった。新会社法では、董事会会議は過半数の董事が出席してはじめて開催でき、董事会の決議は、全董事の過半数によって採決しなければならないと定められている。董事会の議決メカニズムは、もはや会社の定款によって自由に決定することはできないが、この変更により、董事会会議に参加する董事の人数が少なすぎることにより董事会決議の公正性と合理性に影響が及んでしまうことを回避できる。

企業は、新法に従い、会社定款の董事会決議規則を修正しなければならない。新会社法における董事会決議可決の「過半数」は、決議可決のための最低必要比率を定めたものと理解すべきであり、会社定款で定めた比率が法定比率を下回らなければ、適法且つ有効であると認定できる。

■ 従業員代表のコーポレートガバナンスへの参加 

新会社法は、従業員代表がコーポレートガバナンスに参加するための制度設計を定めている。旧会社法では、国有独資と完全国有の有限会社にのみ、従業員董事に関する強制的な要件を定めていた。会社の民主的な管理と民主的な監督への従業員の参加をより確実なものとするため、新会社法は従業員董事の設置を義務付ける会社の範囲を拡大し、従業員300人以上の会社については、法に依拠し監事会を設置し且つ従業員代表がいる場合を除き、董事会メンバーに従業員代表、即ち「従業員董事」を含めるよう求めている。その他の会社の董事会メンバーにも従業員代表を含めることができる。従って、新会社法施行後は、従業員300人以上の会社は、従業員代表を選任し、董事又は監事としてコーポレートガバナンスに参加させなければならない

選任資格に関しては、従業員董事及び監事は、一方では「会社法」の董事、監事及び高級管理職の一般就任資格に従うが、他方ではその特別な制限を受けることになる。中華全国総工会が2016年に公布した「会社制企業における従業員董事制度、従業員監事制度の構築強化に関する意見」によると、実務のオペレーションにおいては、従業員董事及び従業員監事の就任回避原則に従うことが求められる可能性が高く、会社の高級管理職と監事は従業員董事を兼任してはならず、会社の高級管理職と董事は従業員監事を兼任してはならない。会社の高級管理職の近親者は、従業員董事及び従業員監事を務める(兼任する)には適さない。

■ 新会社法の下での行政監督管理の変化

新会社法が引受制を廃止したことにより、会社による登録資本金の虚偽申告、株主(発起人)による虚偽の出資、及び株主(発起人)による出資逃れに対する会社登記機関の監督管理は、「登録資本登記制度改革方案」に記載された27項目の「当面登録資本の引受登記制を実施しない業種」の範囲内の会社だけに限定されなくなった。

新会社法では、上記の行為について、直接責任を負う主要管理者及び直接責任者に対し罰金を科すことが新たに追加された。「二虚偽一逃れ」行為に対する調査と処罰は、会社登記機関による会社への行政監督管理の焦点となる。さらに、新会社法では、公示義務の不履行に対する罰則が新たに追加された。企業は、有限責任会社の株主が引き受け、払い込んだ出資額、出資方法と出資日、株式会社の発起人が引き受けた株式数等の情報を自主的に公示しなければならない。

終わりに

会社法が新しく改正されたことにより、コーポレートガバナンスの構造及び運営形態が大きな変革を迎えた。新会社法では、登録資本制度が実質的に改正され、董事の精査義務が強化されただけでなく、董事、監事及び高級管理職の忠実義務と勤勉義務も詳細化され、董事会の議決メカニズムも調整された。さらに、新会社は、従業員代表のコーポレートガバナンスへの参加範囲を拡大し、企業の民主的な管理が重視されていることを反映している。企業は、新会社法の実施動向に適時に注意を払い、新会社法の要求に従い会社定款及び各種制度を整備し、新会社法との整合性をうまくとり、新しい法的枠組みの下で企業が安定的かつ健全に発展していけるようにすることが推奨される。

(作者:里兆法律事務所 董紅軍、陳暁鳴 2024年7月8日)

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