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新「会社法」のもとでの債権回収の新たな手段について

中国ビジネスレポート 法務
董 紅軍

董 紅軍

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2024年8月28日

概要「中華人民共和国会社法(2023年改正)」(以下「新『会社法』」という)が2024年7月1日から正式に施行されるが、2018年に改正された「会社法」と比較してみると、その中の1つの顕著な変化は、債権者の利益の保護が強化され、整備されたことである。本文では、債権者の視点から、新「会社法」のもとでのいくつかの主たる債権回収の新たな手段について簡潔に考察する。

本文:

新「会社法」において、債権者の利益の保護の強化と整備に関する条項は、会社の設立、運営、清算などの各段階ごとに散見されるが、本文では、新「会社法」と2018年に改正された「会社法」と比較しながら、債権回収の新たな手段に重点を置いて整理する。

 一、引受出資に対する期限の利益喪失制度について

2018年に改正された「会社法」では、株主の引受出資に対する期限の利益が保護されており、即ち、破産等といった特別な状況がある場合を除き、原則として、債権者は、株主の引受出資に対して期限の利益喪失を主張することはできない。一方、新「会社法」第54条では、債務者である会社が「期日到来した債務を返済できない」場合、期日到来した債権の債権者は、出資を引受けたが出資期限が到来していない株主に対し、出資期限前に払込を求める権利があると定めている。

債権者の立場から見て、引受出資に対する期限の利益喪失制度が適用されるポイントを下表に簡潔に整理する。

適用状況

債務者である会社に、株主が出資を引受けたものの出資義務が完全には履行されていないといった状況が生じたとき。

法的効果

債権者は、債権者の期日到来債権が返済されるよう、債務者である会社の出資期限が到来していない株主に対し、引受出資の期限前払込を要求することができる。

注意事項

●  株主の出資状況について。債権者は、法務デューデリジェンス(例えば、会社の登記情報の取り寄せ)を行うことにより、債務者である会社の株主の出資状況などを照会することができる。

●  債務者である会社が期日到来債務を返済できない状況について。現在、司法の実務においては、一部の裁判所は「会社が強制執行を経た後もなお債務を返済していない状況」であることというやや慎重な捉え方をしている[1]。一方、「『中華人民共和国企業破産法』適用の若干事項に関する最高人民法院による規定(一)」では異なる見方がなされ、以下の条件を同時に満たす場合は、債務者が期日到来債務を返済できない状況を構成し、強制執行を経る必要はないとしている。①債権債務関係が法により成立すること。②債務の履行期限が満了していること。③債務者が債務を完全には返済していないこと。新「会社法」が施行された後、司法部門は果たしてどのような見方をするのか、筆者は引き続き注意を払いたい。

二、瑕疵ある譲渡の補充責任制度について

本文における瑕疵ある譲渡の補充責任制度とは、新「会社法」第88条での新たに追加された内容に該当し、それは、主には、債務者である会社の株主の出資期限が到来していない時点で株式譲渡が発生し、出資期限が到来し又は期限の利益を喪失した後において、譲受者が期限通りに出資を全額払い込まなかった場合、譲受者が期限通りに払い込まなかった出資部分について、譲渡者が補充責任を負わなければならない制度を指す。

債権者の立場から見て、瑕疵ある譲渡に関する補充責任制度が適用されるポイントを下表に簡潔に整理する。

適用状況

債務者である会社について、株主の出資期限が到来していない時点で株式譲渡が発生したとき。

法的効果

債権者は、債権者の期日到来債権が返済されるよう、債務者である会社において出資義務を完成せずに株式を譲渡した歴代の株主に、譲受者が期限通りに払い込んでいない出資についての補充責任を負わせることができる。

注意事項

●  上記第一項の制度を参考にして、債権者は債務者である会社に対して法務デューデリジェンスを実施し、債務者である会社の歴代の株主及びその出資状況を検証することができる。

●  上記の状況以外に、債権者は譲受者の払込出資状況(とりわけ非貨幣による出資)に対して慎重な検証を行うのがよい。もしも譲受者の払込出資の実際価値が著しく不足していることがわかった場合には、新「会社法」第49条などの関連規定を踏まえながら、出資不足範囲内で譲渡者と譲受者の連帯責任を追及することができる。非貨幣による出資に虚偽の評価が存在していることが判明した場合は、評価機構に評価された又は不実を証明された金額の範囲内で賠償責任を負わせることができる。

三、水平的な法人格否定制度について

2018年に改正された「会社法」に定められた会社の垂直的な法人格否定制度をベースに、新「会社法」第23条では、会社における水平的な法人格否定制度が新たに追加された。即ち、株主が支配する複数の会社間で人格の混同、又は過度な支配や制御が存在している場合、各会社はいずれかの会社の債務に対し連帯責任を負うことになる。

債権者の立場から見て、水平的な法人格否定制度が適用されるポイントを下表に簡潔に整理する。

適用状況

債務者である会社と関連会社の人格が混同し、又は関連会社と共に株主に過度に支配及び制御されているとき。

法的効果

債権者は、債権者の期日到来債権を返済されるよう、債務者である会社、人格混同又は株主による過度な支配や制御が存在している関連会社に連帯責任を負わせることができる。

注意事項

●  債務者である会社と関連会社との関係には、水平的な兄弟会社に限らず、垂直的な親子会社も含まれる。

●  水平的な法人格否定には「人格の混同」と「過度な支配や制御」という2種類があり、具体的には以下の通りである。

1) 「人格の混同」に関しては、債権者は、債務者である会社と関連会社との間に人員の混同、財産の混同、業務の混同が存在するかどうかに重点的に注目する必要があり、これには以下のものが含まれる。

A.人員の混同。株主、董事・監事・高級管理職、従業員が大勢重複しているなどの人事上の混同状況を含む。これには二重就任者の署名文書、工商登記ファイル、会計資料、業務領収書、名刺、往来メール、会社ウェブサイトの紹介などを検索することで係る手がかりを探すことができる。

B.財産の混同。財産を分けることができず、権利帰属が不明であり、帳簿が不明瞭、又は財務管理が不明瞭であることから財産がみだりに調達使用され、相互に使用されているなどの状況を含む。これにはクロスオーダー、送金、領収書の発行や入荷などの記録、会社の入金口座と資金使用状況(裁判所に取り寄せを申立てる必要があるかもしれない)を照会することで係る手がかりを探すことができる。

C.業務の混同。経営業務や行為、取引方式、価格の確定などの持続的な混同状況を含む。これには会社の宣伝資料、経営範囲などを照会することで係る手がかりを探すことができる。

2) 「過度な支配や制御」に関しては、債権者は債務者である会社と関連会社間の利益移転に重点的に注目する必要があり、通常は理にそぐわない資産譲渡として表現される。[2]

四、清算義務者に対する責任追及制度について

「清算組メンバー」と「清算義務者」の概念を明確にし、また、2018年に改正された「会社法」と「民法典」第70条における清算義務者の主体範囲との整合性又は論争を解決するために、新「会社法」第232条では、董事が会社の清算義務者であり、もしも清算義務を遅滞なく履行せずに、債権者に損失を与えた場合、賠償責任を負わなければならないことを明確にした。

債権者の立場から見て、清算義務者に対する責任追及制度が適用されるポイントを下表に簡潔に整理する。

適用状況

債務者である会社に法定清算事由が発生し、董事が清算義務を遅滞なく履行していないこと。

法的効果

債権者は、債権者の期日到来債権が返済されるよう、董事に損害賠償責任を負わせることができる。

注意事項

●  清算義務者の身分について。債権者は一般的に、国家企業信用情報公示システムの公示情報を通じて、債務者会社が登記された董事を清算義務者とし、さらに被告として追加し、責任を負うよう求めることができる。

●  清算義務を遅滞なく履行していないことについて。「清算義務を遅滞なく履行していない」とは、「新会社法」で採用された新たな言い回しだが、法的論理から見ると、「清算義務を遅滞なく履行していない」ことの認定基準は、「『全国法院民商事審判作業会議議事録』の通達に関する最高人民法院による通知」における「清算義務の履行を怠った」との認定基準と類似していなければならず、即ち、法定清算事由が発生した後、清算義務を履行することができる状況において、清算義務の履行を故意に引き延ばし、拒否し、又は過失により清算ができなくなってしまうことである。

 五、終わりに

紙面の関係上、以上は、新「会社法」に定められたいくつかの債権回収の新たな手段について概括的に検討しただけであり、債権者がどのような手段を選択するか、及び対応の詳細については、事案の具体的な状況、様々な要素を総合して考慮していく必要がある。

(作者:里兆法律事務所 董紅軍、李繁 2024年6月5日)

 

[1] 例えば、(2020)最高法執監41号民事判決書がある。

[2] 「『全国法院民商事審判作業会議議事録』の通達に関する最高人民法院による通知」第11条では、4タイプの過度な支配や制御を挙げている。司法実務において、よく見られるのは利益移転であり、その他のものについてはあまり見かけられない。この理由から、本文では利益移転のみを債権者の重点注意事項として挙げている。

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