こんにちわ、ゲストさん

ログイン

「担保制度解釈」の「借り換え」における担保ルールの進展及び啓発

中国ビジネスレポート 法務
裴徳宝

裴徳宝

無料

2022年3月25日

「借り換え」方式をもって満期となった債務を弁済することは、企業融資業務においてよく見られる債務再編の手段である。「『中華人民共和国民法典』の担保制度の適用に関する最高人民法院による解釈」(以下、「担保制度解釈」という)第16条は、これまでの司法実践経験を踏まえ、借り換えにおける担保ルールを整備し、且つ各当事者の利益の均衡を取るために特別な規則を設けた。同条第1項では、新規借入保証人と既存の借入保証人の担保責任を明確にしており、第2項では、借り換えに担保物権が存在する状況下で、各債権者がその担保物件に対して享受する優先順位を規制している。本文では、「担保制度の解釈」第16条の法的解釈から、司法実践を踏まえ、借り換え担保の設定時に留意すべき事項を分析し、整理する。

一、法律規定及び変革

「担保制度解釈」第16条には、次の4つの層からなる意味がある (表1)。

条文の記述

条文の意味

第1項:主契約当事者が、新規借入をもって既存借入を弁済することに合意し、債権者が既存借入の保証人に保証責任を負うことを請求した場合、人民法院はこれを支持しない。

1.     如何なる場合においても、既存の借入の保証人は、いずれも新規借入の保証責任を負わない。

債務者が新規借入の保証人に保証責任を負うよう請求した場合は、以下の通り取り扱う。

● 新規借入の保証人と既存借入の保証人が同じである場合、人民法院は支持しなければならない。

● 新規借入の保証人が既存借入の保証人と異なっている場合、又は既存借入は無担保だが新規借入に担保がある場合、人民法院は支持しないが、新規借入の保証人が担保を提供した際に、新規借入をもって既存借入を弁済する事実を知っていた、又は知るべきであったことを証明できる証拠が債権者にある場合は、この限りでない。

2.     原則として、新規借入の保証人は新規借入の保証責任を負わない。

3.     借り換えの事実を知っている場合に限り、新規借入の保証人が新規借入の保証責任を負う。

第2項:主契約当事者が、新規借入をもって既存借入を弁済することに合意し、既存借入の物的保証人が、登記が抹消されていない状況において引き続き新規借入のために担保を提供することに同意し、新たな借入契約を締結する前に当該担保財産をもってその他の債権者のために担保物権を設定し、その他の債務者が自己の担保物権順位が新規借入債権者より優先することを主張する場合、人民法院はこれを支持しない。

 

4.     次の2つの状況において、債権者の担保物についての優先順位が継続される。

● 新規借入は既に登記されており、且つ新規借入保証人は借り換えの事実を知っている場合。

● 新規借入は登記されていないが、既存借入の保証人が、既存借入が抹消されるまで新規借入のために引き続き担保を提供することに同意した場合。

表1

上述第16条において規制される内容は、1997年に発効した「借入契約に係る法的問題に関する中国人民銀行による返答書簡」の中で最初に見られた。2000年に、中国人民銀行が公布した「借り換えにおける保証人責任問題に関する返答書簡」においても、借り換えにおける保証人責任が明確にされている。「担保制度解釈」が発効するまでは、司法体系における保証人の借り換えの場合の保証責任に関する規定は、「『中華人民共和国担保法』の適用に関する若干問題についての最高人民法院による解釈」に集約されていたが、当該文書は、2021年1月1日に、「担保制度解釈」の発効に伴い廃止された。立法の変遷(具体的には、表2を参照する)を見ると、法曹界における借り換え担保の法益バランスに対する認識の掘り下げが明らかに感じられる。

旧法の規定

新法第「n」層目の意味と類似する

第「n」層目の意味との比較

借入契約に関する法的問題についての中国人民銀行による返答書簡」第二条:借入人が借入銀行と新規借入契約を締結して、新規融資をもって既存の借入を返済し、元の借入契約において保証人がいる場合は、元保証人の書面による承認を得なければならない。新借入契約が元保証人の承認を得ていない場合、元保証人は、元の借入契約で定められた期間内に限り保証責任を負う。

1

当該返答書簡によれば、借り換えが発生した場合においても、元保証人が新規借入に対する保証責任を負う必要がある。

3

当該規定は、借り換えが「満期後の借入期間延長」に該当するという認識に囚われ、新規借入と既存借入とを異なる債権には分けていない。従って、旧法では、債務者が既存借入保証人の同意を得ることを求めていたが、その主な目的も、満期延長後の借入に見合うよう保証期間を延長することであった。

借り換え借入における保証人責任問題に関する中国人民銀行による返答書簡」:保証人と借入人との間において、借り換えの新しい借入契約についての保証契約が締結されており、保証人が保証を行った際に、その保証する主契約の内容を明確に知っており、且つその意思表示が真実であることを証明できれば、保証人は、保証契約で定められた義務を履行しなければならない。

2

その考え方は基本的に同じであり、いずれも「新規借入保証人は保証責任を負わないことを原則とし、保証責任を負うことを例外とする」という考え方に基づき、証明責任の転換を実施している。

3

証明責任については、当該規定において、新規借入保証人が借り換えの事実を明確に知っていることを証明することが求められるが、新法においては、新規借入保証人が知っている、又は知っているべきであることを証明することが求められる。従って、新法では、債権者の証明責任に対する要求がやや引き下げられている。

『中華人民共和国担保法』の適用に関する若干問題についての最高人民法院による解釈」第三十九条:主契約当事者双方が新規借入をもって既存借入を弁済することに合意した時、保証人が知っている又は知っているべきである場合を除き、保証人は民事責任を負わない。

新規借入の保証人と既存借入の保証人が同一である場合は、前項の規定を適用しない。

1

2

3

当該規定は、新法と一致しており、新規借入と既存借入を異なる債権に区分けしているとともに、「新規借入保証人は保証責任を負わないことを原則とし、保証責任を負うことを例外とする」ことを明確にし、証明責任の転換を実施している。

異なる点は、新法は信用担保と物権担保の両方に適用されるが、当該規定は信用担保のみに適用される。加えて、新法の表現はより具体的で、明確である。

表2

二、法律条文の解読

以下では、第16条について法理論の視点から分析し、且つ「信用担保(保証)」と「物権担保」の2つの観点から16条の適用を整理してみたい。

借り換えは、狭義上の融資再編に該当し、金融機関が問題となる借入を借り換えの方式をもって処理するものだが、その実質的な効果は、借入の返済期間を延長することにある。しかしながら、借り換えと「満期後の借入期間延長」は、法律上明らかに異なる。満期後の借入期間延長は、履行期限の変更に該当し、期間延長の前後は同一の債務であり、債務の同一性は変更されていない。しかし、借り換えについては、その本質は、既存借入の消滅と新規借入の形成であり、すなわち、債務の更新である。従って、既存借入に従属する担保は、当然、既存借入の消滅に伴って消滅しなければならない。「担保制度解釈」第16条第1項では、既存借入の保証人(新規借入の保証人ではない)は、新規借入に対し保証責任を負わないと規定されている。これは、借り換え担保ルールの一つ目の法律要旨であり、即ち、新規借入をもって既存借入を弁済することで、基礎債権は消滅し、既存借入の保証人は責任を負わなくなる。

当該規則の二つ目の法律要旨は、新規借入保証人の権益を保護することにあり、即ち、新規借入担保の効力は新規借入保証人が借り換えを知っていることを前提としている。つまり、新規借入をもって既存借入を弁済することは、主債権そのものに不良債権の疑いがあり、保証人が担保を提供すれば、実際の担保履行のリスクは、正常な債権より著しく高くなってしまうため、保証人の権益を保護するためにも、保証人が借り換えの状況を知っている必要があり、そうしてこそ新規借入の担保は有効となるというものである。しかし、既存借入の保証人と新規借入の保証人が同じである場合、借り換えの事実を知っているため、新規借入に対し引き続き担保を提供する時に直面する「新規借入は、単に返済の用に供する」というリスクも予見できる。従って、新規借入の保証人と既存借入の保証人が同一である場合には、債権者が新規借入に基づき保証責任の負担を要求しても、その予想利益に悪影響を及ぼすことはない。

第2項のロジックは第1項の本質と一致しており、ただ、第1項をベースにして、物権担保について特別規定を行っているだけである。即ち、担保物権が抹消されていない状況において、既存借入の保証人が新規借入のために引き続き担保を提供することに同意した場合、たとえ当該担保物件をもって第三者のために担保を設定したとしても、既存借入の保証人の担保順位が優先されるべきである。ここでは、「新規借入契約の締結前」を強調しているが、これは譲歩仮説であるはずであり、「たとえ新規借入契約の締結前に、第三者のために担保を設定したとしても、担保順位は維持される」ことが分かる。ここから推論すると、新規借入契約の締結後に第三者が担保の提供を受けるほうが、担保順位は一層維持が可能となる。

三、実践に関する啓発

上述の分析から、法律では、新規借入保証人の借り換え事実に対する知る権利を明確に保護していることが分かる。また、法益の均衡を図るために、債務者に告知義務を設けている。法律実践において、新規借入保証人は、通常、自分だけでは借り換えの事実を知ることができない。従って、通常、債務者が新規借入保証人に保証責任を負わせようとするならば、借り換えの事実を伝えなければならない。告知義務の3つの一般的な履行方法を、法的効果の順番により次の通り紹介する。

  1. 債権者は、保証人に「告知書」、「承諾書」への署名を求め、借り換え事実を知っていることを保証人に表明させる。
  2. 新規借入契約において、「借入の用途は、既存借入を返済するためである」と約定する。
  3. 各当事者が、新規借入保証契約において、「保証人は、既に契約における借入の用途を知っている」といった包括的な条項を約定する。

従来の司法判例から見ると、上述の3つ目の方法では、保証人が権利を放棄したと推定することができない可能性があるが、最も確実な手法は、1つ目の方法である。1つ目の方法が実行不可能である場合には、その次に最適選択としては、2つ目の方法と3つ目の方法を組み合わせる方法であり、新規借入契約と新規借入担保契約の規定との整合性を取りながら、互いに裏付け合い、効力を補足することが考えられる。

なお、根保証においては、保証人が一定期間において連続して発生した借入金について、極度額内で債権者に担保を提供し、且つ保証債権が発生するたびに保証人の同意を必要としないため、もしも債権者が借り換えの事実についてわざわざ保証人に通知しなければ、保証人は当該事実を知ることができない。第16条の要求を満たすことができるよう、新規借入の保証人が根保証の方式をもって保証を提供する場合には、債権者は、発生した全ての借り換えについて、その都度保証人に個別の書面通知を出して、保証人から既に了知であることについての返答書を取得したほうがよいと思われる。[1]

里兆法律事務所  裴德宝、魏奕然

 

[1] この見解は、最高人民法院「(2018)最高法民申6172号」民事裁定书にある。裁判文書を以下抜粋する。「……当裁判所は、32号主契約、36号主契約において、いずれも借入金の用途を既存借入の返済と記載しているが、主契約において記載された借入金の用途だけでは、保証人が借り換えの事実を知っていたと認定することができないと判断する。その理由は、以下の通りである。1.事案に係る保証契約は「根保証契約」であり、即ち、保証人は一定期間において連続して発生した借入について、極度債権額内で債権者に保証を提供するが、被担保債権が発生するたびに保証人の同意を必要としない。「根保証契約」の履行方式の特殊性により、かかる主体が自発的に告知しない限り、保証人は被担保債権の発生、用途、金額等の状況を適時に知ることができない。2. 事案に係る2つの「根保証契約」の締結時点は、2013年5月30日であり、32号主契約、36号主契約の締結時点より早く、S企業グループ会社及びX不動産会社は、「根保証契約」を締結した時点において、客観的に対象主債権の発生及び用途を知ることができない。3. 事案に係る「根保証契約」においても、保証人であるS企業のグループ会社及びX不動産会社が、対象主債権を含む被担保債権の用途を把握することができるようにした約定がない。4.保証人は、その保証する債権が借り換えに該当することを知っているか、又は知っているべきか、その事実は直接証拠により証明されるべきであり、且つ証明責任は債権者にある。」

ユーザー登録がお済みの方

Username or E-mail:
パスワード:
パスワードを忘れた方はコチラ

ユーザー登録がお済みでない方

有料記事閲覧および中国重要規定データベースのご利用は、ユーザー登録後にお手続きいただけます。
詳細は下の「ユーザー登録のご案内」をクリックして下さい。

ユーザー登録のご案内

最近のレポート

ページトップへ