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ログイン2022年4月22日
近年、企業のコンプライアンス要求は絶えず高まり、従業員に生じ得る規則違反ひいては違法行為について、企業は通常、内部で又は外部機構に依頼して調査を行う。調査の過程において、ややもすると、証拠の収集方法によっては従業員のプライバシー権が侵害されたり、取得した証拠が適法性の問題で裁判所に認められなかったりする恐れがある。この点を考慮し、本稿では、実務取扱において企業がよく使う調査・証拠収集の方法について、司法判例を踏まえて、証拠収集方法の適法性を分析し、コンプライアンス面から考察する。
一、概念を明確にする
(一)従業員のプライバシー権
「民法典」第1032条では、自然人はプライバシー権を有すると定めている。いかなる組織又は個人も、他人のプライバシーを偵察し、侵し、漏洩し、公開する等の方法をもって他人のプライバシー権を侵害してはならないとしている。プライバシーとは、自然人の私生活の平穏、並びに他人に知られたくない私的空間、私的活動、及び私的情報をいう。
労働者は自然人として当然、上述のプライバシー権を有し、且つ法律で守られている。しかし、労働関係の従属性のため、労働者は労働契約の履行過程において、使用者の雇用管理要求を満たすため、必ず自己のプライバシー権の一部を譲渡する必要がある。労働者のプライバシー権と使用者の管理権との間には相対するところがあるため、実務上は両者の境界線を明確にすることができず、紛争が生じやすい。
(二)証拠の適法性原則
証拠には、真実性、適法性、関連性という3つの性質がある。証拠の適法性については、証拠の形式が法律の規定に適合するほか、証拠の出所も法律の規定に合致していなければならない。
「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する最高人民法院による解釈」第106条によると、他人の適法権益を著しく侵害したり、法律の禁止規定に違反したり、公序良俗に著しく反する方法で形成され、又は取得された証拠は、事案の事実認定の根拠としてはならないとされている。
ここでは、「他人の適法権益の侵害」について「著しい」という表現を使用しているが、つまり、プライバシー権については、他人のプライバシー権への侵害に関する全ての証拠収集行為がいずれも事案の事実認定の根拠とならないというわけではなく、その侵害が「著しい」とされる程度に達した場合に限り採用されないのである。[1]
なお、「民法典」第1033条において、次のように定められている。「法律に別段の規定がある場合又は権利者の明確な同意を得た場合を除き、いかなる組織又は個人も、以下のプライバシー権侵害行為を行ってはならない。
(1)電話、ショートメール、インスタントメッセンジャー、電子メール、チラシ等の方式により他人の私生活の平穏を妨害すること。
(2)他人の住居、ホテル等の私的空間に侵入し、撮影又は覗き見すること。
(3)他人の私的活動を撮影し、覗き見、盗聴し、又は公開すること。
(4)他人の身体の私的部位を撮影し、覗き見すること。
(5)他人の私的情報を処理すること。
(6)その他の方式により他人のプライバシー権を侵害すること。」
従って、司法実践において、もしも使用者が上述の法律上禁止される調査・証拠収集方法を採用したのであれば、相応の証拠は通常、排除されることになる。
二、判例から考察する
(一)録音・録画の証拠
実務取扱において、証拠収集のために録音・録画されることはよくある。例えば、企業と従業員との間で紛争が生じたが、企業が遅滞なく証拠を保管していなかった場合には、電話をかけて録音するなどして、口頭のコミュニケーションにより当時の状況を再現して証拠を固めていくことも考えられる。それに伴うのは、録音・録画の適法性の問題である。この問題については通常、一概には言えないが、録音・録画の方式、場所及び内容等の要素を踏まえて、総合的に判断しなければならない。具体的には、次の通りである。
1.従業員の同意を得ずに、無断で録音したもの
● 判例1:(2020)魯01民終××号
【事案概要】
李某は、××社に労働契約に基づいて賃金を支払うよう要求し、且つ労働契約の原本等の証拠を提出した。これについて、会社側は、法定代表者である張某と李某との間の対話の録音を提出した。当該録音から、会社の印鑑は李某が実際に支配し、使用していることが確認された。労働契約には会社の印鑑が捺印されているが、会社の真実の意思とは確認できない。当該録音から、李某は自身が会社の出資者であることを自ら認めていることが分かった。これについて、李某は、「録音に適法性はない」と主張した。その理由としては、以下の通りである。まず、会社が提供した録音は、李某の事務室で録音され、李某の許可を受けていない。次に、録音中の多くの箇所が李某のプライバシーに抵触し、李某の適法な権益を侵害している。また、会社の法定代表者である張某は、陳述の過程において李某に数回にわたり陳述を誘導している。
【法廷での審理】
李某は、「対話の録音は事案の事実認定の根拠にはならない」と主張したが、事実や法的根拠がないため、当該主張は支持しない。
【筆者の分析】
相手の同意を得ない録音は違法であると誤解している人は多い。1995年に最高人民法院が公布した「相手方当事者の同意を得ず無断でその対話を録音して取得した資料を証拠として使用することができないことに関する回答書」では、相手方当事者の同意を得ずにその対話を録音することは違法行為であり、このような手段で取得した録音資料は、証拠として使用されることができないと定めていた。しかし、当該「回答書」は、新しい証拠規則に取って代わられている。
実践において、現在、多くの裁判所では、「公共場所にプライバシーはない」という原則に基づき、公共場所で相手方の許可を得ずに録音した(盗聴設備を設置していない)ことは、他人のプライバシー権を侵害するものではなく、そのような証拠は、適法な証拠であるとしている。従って、もしも企業が録音して証拠を収集する必要があるならば、例えば執務エリア、会議室等の合理的な場所で行うのがよい。また、話の内容が個人のプライバシーに及ぶことを避けるためにも、録音する対話の内容等は、なるべく紛争事項をめぐって行うようにし、話をあまり拡大しないほうがよい。
2.業務用携帯電話における復元された録音
● 判例2:(2021)滬01民終××号
【事案概要】
江某は2019年7月中旬に××社に入社し、2カ月後に退職を申し出た。勤務期間において、会社は江某に業務用携帯電話を与えた。退職後、会社は江某の業務用携帯電話における通話録音を技術的手段をもって復元し、江某に「飛単行為」行為があると認定した( 「飛単」とは、会社の従業員が取引先の商品需要情報を得た後、企業に報告せず、第三者に履行させ、それにより利益を得ることをいう)。従って、会社は提訴し、営業利益分の損害賠償を当該従業員に求めた。
【法廷での審理】
裁判所は、法律に別段の規定がある、又は権利者が明確に同意した場合を除き、如何なる組織や個人も他人のプライベートな活動を盗聴したり、他人のプライベートな情報を取り扱う行為を行ってはならないと判断した。××会社は、労働者の業務職責履行を管理・監督するのは当然であるが、適法かつ合理的な限度内で権利を行使しなければならない。本事案において、上海××公司は業務用携帯電話の所有権を有しているものの、当該携帯電話の通話を録音し、且つ携帯電話におけるデータを復元することを明確に江某に告知し、又は江某の通話情報を復元することについて、江某から明確な同意を得たことを証明できないため、当該証拠の適法性を認めない。
【筆者の分析】
本事案において、会社は、携帯電話の所有権を有しているが、当該携帯電話の通話を録音し、技術的手段を通じて携帯電話における通話情報を復元する可能性があることを従業員に告知しなかった。だからこそ、従業員は、携帯電話の通話内容に対し合理的なプライバシーとしての期待値を抱いており、よってこれらの通話内容も他人に知られたくない私密性を有するものであり、従業員のプライバシーに該当する。会社は運用において従業員のプライバシー権を侵害したと裁判所に認定されたため、取得した証拠は採用されなくなった。
従って、筆者の考えとして、業務用携帯電話やパソコンを貸与している企業の場合は、「会社が提供する携帯電話、パソコンなどの装置、設備は、業務目的だけに使用されるものであり、如何なる個人的な事項も取り扱ってはならない。また、会社は、これらの装置又は設備におけるデータ(装置及び設備の中の削除されたデータを技術的手段で復元することを含む)をいつでも閲覧、取得する権利がある」と事前に明確に従業員に伝えておくほうがよいと思われる。そのようにするならば、携帯電話やパソコンの内容に対する従業員のプライバシーへの期待値をある程度抑えることができ、技術的手段で復元された通話記録が裁判所に認められる可能性が高くなる。
3.防犯カメラの映像証拠
● 判例3:(2020)粤0113民初××号
【事案概要】
張某は2004年に××社に入社したが、2019年12月に「油を盗んだ」という理由で解雇された。これについて、会社側は、会社の総経理である李某が張某と数回にわたって事務室で交わした会話の録音や映像を提供し、張某が規則に違反して油を盗んだ事実を証明した。張某は、××社が提供した防犯カメラの録音・映像は不法証拠であり、意図的に罠を仕掛けて陳述するよう誘導し、その適法な権益を侵害したと主張した。
【法廷での審理】
会社が提供した複数の録音・映像等の視聴覚資料が違法証拠に当たるかどうかについては、裁判所は、「『適用についての最高人民法院による解釈』第百六条の規定によれば、『他人の適法な権益を深刻に侵害し、法律の禁止規定に違反し、又は公序良俗に著しく反する方法で形成され、又は入手された証拠は、事案の事実認定の根拠にはならない』とされており、××社の総経理李某と張某が数回にわたって交わした会話の映像では、オフィスにおいて防犯カメラの録音・録画があることを明確に張某に告知しなかったが、××社は、社内において防犯カメラを設置したことは、会社の生産管理や治安秩序等の各方面に関する正常な技術防犯措置であり、並びに、本事案において労働者の適法な権益を深刻に侵害し、法律の禁止規定に違反し、又は公序良俗に著しく反する等深刻な状況になっていない。双方の対話内容は、全て今回の事件の経緯に関する客観的な陳述であり、個人のプライバシーに及んでおらず、客観的且つ適法に事案の事実を反映できるため、本事案の証拠として利用されることができる。」と判断した。
● 判例4:(2020)粤04民終××号
【事案概要】
鄺某は、2008年に××会社に入社し、2019年5月に解雇された(合計18回の処分)。鄺某の上述の規律違反を証明するために、会社は、防犯カメラの映像やスクリーンショット等を提供した。鄺某は、会社側が鄺某に告知せずに、鄺某の座席の真上に防犯カメラを設置し、鄺某のプライバシー権を侵害したと主張した。
【法廷での審理】
裁判所は、鄺某の職場は公共場所に該当し、会社は公共場所で防犯カメラを設置することは、鄺某の個人空間に侵入していないと判断した。鄺某は、会社が自己のプライバシー権を侵害していると主張したが、根拠は不十分であり、裁判所はこれを認めない。
【筆者の分析】
上述の二つの判例において、会社に防犯カメラが設置されていることを従業員はいずれも事前に知らなかった。労働監視や公共場所[2]での録画等の理由から、裁判所はいずれもその適法性を認めたが、「個人情報保護法」が広く施行されるに伴い、使用者が社内において防犯カメラを設置することを筆者はあまり推奨しない。「個人情報保護法」第26条によると、公共の場所での画像収集設備や個人身分識別設備の設置は、公共の安全を守るために必要であり、国の関連規定を遵守しなければならず、且つ目立つマークを表示しなければならないとされている。使用者が防犯カメラを設置したが、マークを表示しなければ、「個人情報保護法」に違反するとともに、それにより入手した証拠が認められない可能性がある。
4.尾行・追跡して撮影することによる証拠
従業員に長時間の病気休暇や競業制限といった状況がある場合、一部の会社では、病気休暇期間中にアルバイトや旅行をしていないか、競業制限期間中に競争会社に勤務していないかどうかを確認するための尾行・追迹撮影を行っている。尾行・追迹撮影証拠の効力については、これまで筆者が検索する限りでは、労働紛争事案における取扱は一致している。具体的には、以下の通りである。
● 判例5:(2016)皖02民終××号
【事案概要】
鄭某は××会社の元従業員であり、2014年7月に退職したが、その会社との間に競業制限契約を結んでいた(1年間)。2015年4月に、××会社は厦門××コンサルティング会社に、鄭某の競業制限義務違反行為の有無を確認するための調査を依頼した。同コンサルティング会社は、「競業制限違反調査報告書」を発行した。当該報告書によると、鄭某は2015年4月××日から2015年4月××日まで5日間連続してタイムカードを打刻し、蘇州××会社に立ち入ったことが分かる。鄭某は、当該報告書が厦門××コンサルティング会社が作成したものであり、「『私設探偵所』性質の民間机関の開設を禁止することについての公安部による通知」の精神に基づき、厦門××コンサルティング会社は私設探偵所性質の民間機関であり、それ自体に適法性がないため、その発行した関連調査報告書も証拠の効力がないと主張した。
【法廷での審理】
最高人民法院が2001年12月21日に公布した「民事訴訟証拠に関する若干規定」において、「他人の適法な権益を侵害し、又は法律の禁止規定に違反した方法で取得した証拠は、事案の事実認定の根拠とすることができない」と定めている。
従って、証拠に適法な出所をがあるのかどうかを判断するには、主に証拠収集の過程において他人の適法な権益を侵害し、又は法律の禁止規定に違反した方法で取得されたかどうかを考慮する。厦門××コンサルティング会社は証拠収集の過程において追迹撮影等の方式を採用したが、上記の証拠収集は公共の場所で行われ、鄭某のプライバシーや他人の適法な権益を侵害しておらず、社会公共利益や社会公徳にも違反していない。
厦門××コンサルティング会社は証拠収集行為を完了させた後、鄭某に関わる証拠をみだりに広めたり、その他の違法な目的や用途に使用したりせず、法律で禁止されていない特定の範囲内で特定の方法で使用しており、損害結果をもたらしていないため、その調査結果は本事案の証拠として採用することができる。
● 判例6:(2020)蘇02民終××号
【事案概要】
欧某は2016年に××会社に入社し、2018年7月に退職した。欧某と会社の間には競業制限契約 (2年間)がある。2019年5月に、会社の「証拠収集担当者」が正常ではない方式をもって欧某の足取り(欧某の数日の足取りの軌跡)を撮影した。そのうちある映像において、「証拠収集担当者」は自身が「販売促進担当者」であることを自称し、欧某らと話を交わしているが、欧某は対話において自己が××グループで勤務しているとは明言していない。その後、会社は欧某が競業制限契約に違反したと主張し、違約金を欧某に請求した。欧某は、これは××会社が追跡盗撮の手段を用いて取得した適法とは言えない証拠であり、当該映像からも××会社が自宅の住所や日常の行動を含むプライバシーを侵害していることが分かるため、この盗撮映像を認めないよう裁判所に請求した。
【法廷での審理】
第二審裁判官は、××会社が提供した映像から、欧某が競争関係がある会社に就職し、コンサルティングサービスを提供するなど、競業制限義務に違反した事実を認定した。
【筆者の分析】
上述の判例では、基本的には追跡撮影証拠が有効であると認定している。筆者の理解では、このような追跡撮影は基本的に公共の場で行われ、私的な空間に立ち入ることはなく、通常、位置追跡や盗聴器などの手段を用いることもないため、従業員のプライバシー権を侵害することはないと理解される。
但し、注意すべきこととして、2021年11月に施行された「個人情報保護法」によれば、いかなる個人や組織も許可を得ずに自然人の個人情報(足取りの軌跡は、機微な個人情報に該当する)を侵害してはならないため、今後このような証拠の有効性に変化が生じてくるかどうかは、司法実践の検証が必要となる。
(二)検査・監視証拠
先日、国美社は、「従業員行為規範の違反に対する処罰に関する通知」を発表した。同文書によると、9月において、国美本社は、業務以外のネットワーク使用量の情報を統計したところ、一部の従業員が業務エリア内で会社の公共ネットワーク資源を使って仕事と無関係なことを行っていることが分かった。例えば、コンピュータゲームをしたり、ネットチャットをしたり、音楽を聴いたりしている等である。会社の規定に基づき、11人の従業員に対して違反事実の社内公表し、懲戒処分を行った。
当該社内公表については、従業員のプライバシー侵害に繋がるという意見がある。勤務時間や勤務場所においてプライバシーはなく、使用者が技術的手段を通じてネットワークの利用状況を監視できるという意見もある。このような監視や検査による証拠の適法性について、以下の通り分析する。
1.会社が提供したパソコン、電子メールを検査・監視することにより取得した証拠
● 判例8:(2019)湘0105民初××号
高某は、2010年に××会社に入社した。2018年5月に、会社側はパソコンを監視することにより、高某は勤務中に業務と関係ない行為をしていたと判断し、懲戒処分を下した。高某は、会社が警告処分の根拠とした電子データの収集は、プライバシー権を侵害したものであるため、会社が当該電子データを根拠として下した警告処分は適法ではないと主張した。
【法廷での審理】
裁判所は、会社が監視するパソコンは、会社の業務用のパソコンであり、業務用のパソコンは明らかに会社の業務のために利用されるべきであり、従って会社が会社の業務用パソコンを監視することには不適切なところはないと判断した。
● 判例9:(2019)滬02民終××号
【事案概要】
謝某は、2012年に××会社に入社した。2018年12月に会社は謝某が使用者の規則制度に深刻に違反したこと等を理由に、労働契約を解除した。会社が提出した証拠の出所は、ほとんどが謝某の電子メールボックスである。謝某は、会社が電子メールの内容を無断で入手したことは、自己の適法な権益を侵害しており、証拠とすることはできないと主張した。
【法廷での審理】
裁判所は、「電子メールの内容は、謝某の業務用メールボックスから取得され、当該メールボックスは、会社が謝某の業務上の便宜のために提供したものであり、そのリソース及びサーバーは会社が所有し、その用途は業務関係であり、会社の財産に該当する。謝某が退職した後、会社は当該メールボックスを回収する権利がある。謝某も自主的にパスワードを会社に告知すべきであり、もしプライバシーに係るメールがあれば、自ら削除すべきである。従って、会社は謝某のプライバシーを侵害していない。上記の状況を踏まえ、会社が証拠として提出した電子メールの内容の適法性を確認し、証拠として利用されることができる。」と判断した。
● 判例10:(2018)滬02民終××号
【事案概要】
本事案はプライバシー権紛争であり、従業員の施某は、××会社がパソコンの引き継ぎを行なった際に、自己のパソコン内の個人ファイル及び情報を侵害し、プライバシー権を侵害したと主張した。
【法廷での審理】
裁判所は、「業務用パソコンにおいて保存されるファイルの引き継ぎについて、パソコンの所有権は会社に帰属し、業務用として施某に提供したため、労働契約の解除を前にして、会社が業務用パソコンを回収することは、自己の営業秘密等の適法な権利を守るために必要な措置であり、会社は、その財産の所有権及び自己の経営業務の処分権に基づき、従業員に提供した業務用パソコン内のメモリ空間に対しても管理権と支配権を有し、会社が労働契約を解除することが適法であるかどうかを問わず、会社による当該権利の行使を妨げない。」と判断した。会社側がパソコンに保存される資料の引き継ぎ過程において、自己の個人ファイルを無断で閲覧したことがプライバシー権侵害に該当するという施某の主張は、裁判所は認めない。
【筆者の分析】
従来の判例によれば、使用者が検査・監視する対象が従業員に提供した装置・設備(例えば、業務用パソコン、電子メール等)である場合、このような行為は通常、適法と認められ、従業員のプライバシー権を侵害するものではない。しかし、従業員のプライバシー権侵害リスクを最大限回避するために、監視を実施し、又はこのような装置・設備を提供する前に、明示・告知義務を果たし、プライバシーに対する従業員の期待を引き下げておくのがよいと思われる。
2.従業員本人の同意を得ることなく、又は従業員の授権範囲を超えて従業員の私物を検査する
● 判例11:(2020)京0108民初××号
【事案概要】
劉某は2004年に××会社に入社した。2019年7月、会社は劉某が複数の深刻な規律違反行為があったことを理由に、一方的に労働契約を解除した。そのうち、劉某が他人に代わってタイムカードを打刻し、職務上の便宜を利用して会社から賞品を不正に受け取った等の行為について、会社は劉某の携帯電話から取得したWechatのチャット履歴により証明した。これに対し、劉某は「会社が携帯電話におけるWechatのチャット履歴を不正に取得したため、当該証拠は、真実性や適法性がない」と主張した。会社側は、ヒアリング時の録音を提出しており、当該録音内容の当事者との対話から、劉某は会社の担当者が自己の携帯電話の中から顧客から送られたチャージ履歴の検索に同意したことを証明できる。
【法廷での審理】
裁判所は、以下の通り判断した。自然人のプライバシーは、法律の保護を受け、自然人の通信記録及び通信内容は、機微な個人情報に該当し、本人の同意を得ることなく、それを偵察し、漏洩し、公開してはならない。本人の同意を得ることなく自然人のWechatのチャット履歴を取得する行為は、プライバシー権侵害行為に該当する。劉某は当時、会社の担当者が自己の携帯電話を確認することには同意したが、すべての内容を確認することまでは同意しておらず、ましてや携帯電話から情報を出力することは同意していない。会社は、劉某の許可を得ずにそのWechatにおける私的なチャット履歴を入手することは、劉某のプライバシー権を侵害するものである。会社は、情報は漏洩されておらず、他人の適法な権益を深刻に侵害する行為ではないと主張しているが、裁判所は、当時、劉某は会社の勤務場所において、会社の内部監査部門の調査を受けたため、双方の地位は完全には対等ではなく、会社は使用者としての管理権を利用して、特定の場所において労働者に圧力をかけ、相手方の携帯電話情報を取得し、これは労働者のプライバシー権を侵害しており、労働者の適法な権益を深刻に侵害した行為に該当するため、その取得したWechatのチャット履歴は事案の事実認定の根拠にはならないと判断した。
【筆者の分析】
使用者は、雇用管理、安全生産又は公共の利益等の目的のため、自己が管理している勤務場所、従業員に提供した装置・設備等を検査することは、合理性がある。それに比べて、従業員の私物(従業員の身体、従業員の所持品、かばん等を含む)を検査することは、通常、合理的な範囲を超えており、従業員のプライバシー権、名誉権又はその他の人格権の侵害とみなされやすいと筆者は判断する。従って、使用者は検査の決定を下す前に、検査対象が使用者の所有又は管理に該当するかどうかをまず考慮しなければならず、もし該当しないならば、検査行為は慎重に行わなければならない。
法律上、個人のプライバシー権及び個人情報に対する保護が強化されるに伴い、使用者の責任はますます重くなっていく。今後、使用者が調査・証拠収集を行う際には、周到慎重の義務をこれまで以上に果たし、使用者の雇用監督・管理と従業員のプライバシー権との均衡を保つよう努めていかなければならない。
(執筆者:里兆法律事務所 董紅軍、張玉娟)
[1]「最高人民法院の新民事証拠規定の理解と適用」において、個別に以下の通り打ち出している。「不法証拠の判断は慎重に行われなければならず、利益評定の原則に基づき行うものとする。即ち、証拠取得方法の違法性によって損なわれる利益と、訴訟によって保護される利益(証拠取得方法の違法性により保護されることができる利益は度外視する)を評定し、その評定結果を不法証拠を判断するための重要な判別要素とする。証拠収集方法の違法性による他人の権益に対する損害が、違法性により保護されることができる利益より著しく弱い場合には、当該証拠を不法証拠と判断すべきではない。」
[2]防犯カメラの設置は、場所に応じて行うべきであり、更衣室やトイレなどへの設置は推奨しない。無錫市では、使用者がトイレを監視して関連証拠を得た仲裁例があった。しかし、仲裁廷は、トイレが私的空間に該当し、当該証拠収集手段は違法であると認定し、入手された証拠の適法性を認めなかった。
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