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「商標一般違法判断基準」の施行後、企業が商標を適法に使用するにはどうすべきか?

中国ビジネスレポート 法務
包巍岳

包巍岳

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2022年5月24日

概要

 2022年1月1日に正式に施行された「商標一般違法判断基準」では、9種類の商標一般違法行為の判断基準を明確にし、商標法執行部門[i]に対して相対的に統一した法執行基準を設けている。本稿では、同基準の内容を正しく理解し、商標使用の適法性を確保する上で、企業の参考となるよう、助言を行うものである。

本文

 商標管理の強化、商標法執行に対する指導の強化、法執行基準の統一化に向けて、2021年12月13日に中国国家知的財産権局から正式に「商標一般違法判断基準」(「一般違法基準」)が公布され、当該一般違法基準は、2022年1月1日から正式に施行されている。本稿は商標一般違法行為の概念、種類の観点から、一般違法基準を読み解き、また実務面から企業に対し適法性確保の面で、助言を行うものである。

1.商標一般違法行為の概念

 特定権利者の登録商標専用権を侵害する商標権侵害行為と異なり、商標一般違法行為とは、特定の当事者の商標専用権を侵害していないものの、商標管理の秩序に違反し、公共の利益を害する違法行為をいう。従い、商標一般違法行為とは、違法情状の重さが普通である、もしくは重大でない商標違法行為を指すのではなく、また特定権利者の権利を侵害する商標権侵害・冒用行為とは異なる商標違法行為をいう。

2.9種類の商標一般違法行為

 一般違法基準の第三条において、9種類の商標一般違法行為[ii]を明確にし、且つ複数の規範性法文書を引用し、9種類の商標一般違法行為について細分化した規定を定めている。一般違法基準で引用された規範性法律文書には、「商標法」「商標法実施条例」「団体商標、証明商標登録と管理弁法」「商標印刷作成管理弁法」「商標出願・登録行為の規範化に関する若干規定」「印刷業管理条例」「行政処罰法」「商標審査審理ガイドライン」「たばこ専売法」「たばこ専売法実施条例」などが含まれる。

法律及び実務経験を踏まえ、企業の参考となるよう、商標一般違法行為の各態様ごとに、適法化のための助言を下表の通り、記載している。

No.

行為態様

筆者の助言

 1        

登録商標を使用しなければならないにもかかわらず、使用していない

●  法律、行政法規の規定により登録商標の使用が義務付けられている商品(例えば、たばこ[iii]、農薬等)について、企業は特定の業界規則を遵守し、商品に登録商標を法に依拠し使用しなければならない。

 2        

商標として使用してはならない標章を使用した

●  一般違法基準では、民族に対する不当な扱い、欺瞞性を帯び、社会主義の道徳、風習を害し、その他の悪影響を及ぼすもの等、「商標法」第10条[iv]の概念をさらに解釈している。

(1) 民族に対する不当な扱いとは、使用する未登録商標の文字、図形またはその他構成要素が、特定の民族を醜く描き、貶める、または当該民族を不平等に扱うその他の内容が含まれていることをいう。

(2) 欺瞞性とは、商標に、その商標を使用する商品または役務の品質等の特徴または産地について、その固有の程度または事実と合わない表示がされており、商品または役務の品質等の特徴または産地について一般大衆に誤認を生じさせやすいことをいう。ただし、一般大衆が日常的な生活経験等から、商品または役務の品質等の特徴または産地について誤認を生じることはない場合にはこの限りではない。

(3) 社会主義の道徳、風習を害するとは、中国の一般大衆の共同生活及びその行動の準則、規範及び一定の時期に社会で流行している良好な気風、習慣を損なうことをいう。

(4) その他の悪影響とは、標章の文字、図形もしくはその他構成要素に貶めるような意味合いが含まれ、または同標章それ自体には貶めるような意味合いは含まれていないものの、商標として使用すれば、中国の政治、経済、文化、宗教、民族等社会公共の利益及び公共の秩序に否定的な、もしくはマイナスの影響をもたらしやすいことをいう。

●  実務において、企業は商標に「商標法」第10条違反の疑いがかかるような状況がないかどうかをチェックしておく必要がある。また、政治、宗教、民族に関連する商標、公共の利益及び公共の秩序に否定的もしくはマイナスの影響をもたらす商標はできる限り使用しないようにしなければならない。

 3        

ビジネス活動に「馳名商標」の文字を使用した

●  中国では「馳名商標」の認定と保護に係る規定があるものの、当該規定は「個別認定、受動的保護」を原則としている。即ち、中国では、認定以前の時点で、すでに「馳名商標」になっている商標は存在しない。そのため、企業は商品、商品包装または容器、広告宣伝、展覧及びその他ビジネス活動において「馳名商標」の文字を使用しないように注意する必要がある。

 4        

商標の被許諾者が法に依拠し、その名称及び商品の産地を表示していない

●  企業は商標登録者との間で商標使用許諾契約を締結し、登録商標の使用権を取得した後、法に依拠し、当該登録商標を使用する商品に企業の名称及び商品の産地を明記しなければならない。

 5        

登録商標、登録者名義、住所またはその他登録事項を独自に変更した

●  登録商標を独自に変更したとは、商標登録者が無断で登録商標の文字、図形、アルファベット、数字、3D標章、色の組み合わせ、声等の構成要素を一部変更し、または相対的位置を換えたことにより、当該登録商標に対する認識または識別に影響が生じているにもかかわらず、なおも「登録商標」であることを表示する、または登録表記を付することをいう。

●  企業は商標登録者として、名称、住所またはその他商標登録事項に変更が生じた場合、速やかに商標局に対し変更の申請を行わなければならない。登録商標を使用するにあたっては、登録商標を独自に変更するような行為(登録商標の顕著な特徴などを変更する)をしないように注意する必要がある。

●  企業は商標登録者として、他人に登録商標の使用を許諾する場合、被許諾者による商標使用行為の適法性を法に依拠し監督し、被許諾者が登録商標を独自に変更することを禁じなければならない。そのための具体的措置としては、被許諾者が法に違反し、登録商標を使用した場合における違約責任を契約で明確にしておくといった方法が考えられる。

 6        

未登録商標を登録商標であるかのように見せかけて使用した

●  登録商標の有効期間内において、商標登録者は法に依拠し、商品、商品包装、容器、役務場所及び取引書類、広告宣伝、展覧及びその他ビジネス活動において、「登録商標」または登録マーク®を表示することができる。

●  中国で登録商標を取得していない企業については、前述した状況において「登録商標」または登録マーク®を使用しないようにしなければならない。中国で登録商標を取得している企業は、登録商標の有効期限に注意を払い、有効期間満了前の12ヶ月以内に、法に依拠し更新手続きを行うようにしなければならない。

 7        

団体商標、証明商標の管理義務を履行していない

●  団体商標、証明商標の登録者は、法に依拠し商標管理義務を履行しなければならない。

●  団体商標については、企業が団体商標登録者団体の構成員である場合、当該団体商標使用管理規則に定める手続きを履行してから、当該団体商標を使用することができる。

●  証明商標については、企業が証明商標使用管理規則に定める条件に適合している場合、当該証明商標使用管理規則に定める手続きを履行してから、当該証明商標を使用することができる。

 8        

商標印刷作成管理義務を履行していない

●  法に依拠し登記し、商標印刷作成業務に従事する企業(「商標印刷作成業者」)は法に依拠し、商標印刷作成委託者(「委託者」)から提供された証明書類及び商標の図形を確認し、委託者から提供された材料について台帳を設置して保管し、商標標識の出入庫制度を構築しなければならない。

 9        

悪意の商標登録出願を行った

●  企業は使用を目的として商標出願・登録を行わなければならず、登録商標を悪意をもって買占め、商標資源を不正に占用し、商標登録の秩序を乱してはならない。

●  企業が防護商標及び合理的かつ適量な商標(現実的に将来発生することが想定される事業のために)の登録出願を行うことは、悪意の商標登録出願に該当しない。

終わりに

一般違法基準は、中国における既存の規範性法文書に定める規定を超えるものではなく、既存する法的枠組みの下で、商標一般違法行為を細分化し解釈を行ったものである。なお、一般違法基準では商標一般違法行為を細分化し解釈を行っているものの、それらの解釈は主に定義の説明を行い、または包括的に例を挙げているだけであるため、実務上、商標法執行部門が依然として一定の裁量権を有することになる。

一般違法基準の正式施行に伴い、全体的には、商標法執行部門が商標一般違法事案に対する調査・処分を行うにあたっての法執行基準は厳格化・統一化の傾向にある。一般違法基準において、企業による商標一般違法行為の発生を防止し、商標使用の適法性が確保されるようにするためのより明確な指針も示されている。企業は一般違法基準及び本稿に記載される筆者の助言に基づいて、企業内部における商標使用行為の適法性についてセルフチェックを行っておくことが望ましい。

(作者:里兆法律事務所  包巍岳 熊瀟)

 

[i] 実態として、商標法執行部門には、商標法執行の職責を負う市場監督管理部門のほか、上海市浦東新区知的財産権局、湖南省長沙市知的財産権局、広東省広州開発区知的財産権局等商標法執行権を有する知的財産権管理部門も含まれる。

[ii] 本稿でいう9種類の商標一般違法行為には、一般違法基準の第三条の包括条項「(十)その他商標管理の秩序に違反するもの」は含まれない。

[iii] たばことは、紙巻たばこ、葉巻、包装された刻みたばこ及び電子たばこ等新タイプのたばこ製品のことをいう。

[iv] 「商標法」第十条 以下の標章は商標として使用してはならない。

(一)中華人民共和国の国家名称、国旗、国章、国歌、軍旗、軍章、軍歌、勲章などと同一または類似のもの、及び中央国家機関の名称、標章、所在地の特定地名またはシンボル的な建築物の名称、図形と同一のもの。

(二)外国の国家名称、国旗、国章、軍旗などと同一または類似のもの。ただし、当該国政府の承諾を得ている場合にはこの限りではない。

(三)政府間国際組織の名称、旗、徽章などと同一または類似のもの。ただし、当該組織の承諾を得ている場合、または容易に一般大衆に誤認を生じさせるものではない場合にはこの限りではない。

(四)規制措置の実施、保証の付与を示す公式標識、検査刻印と同一または類似のもの。ただし、当該権利のライセンス許諾を取得している場合にはこの限りではない。

(五)「赤十字」、「赤新月」の名称、標章と同一または類似のもの。

(六)民族を不当に扱うような意味合いを持つもの。

(七)欺瞞性を帯び、商品の品質などの特徴または産地について一般大衆に誤認を生じさせやすいもの。

(八)社会主義の道徳、風習を害し、またはその他の悪影響を及ぼすもの。

県級以上の行政区画の地名または周知の外国地名は、商標にしてはならない。ただし、地名が別の意味を有する、または団体商標、証明商標の構成部分とする場合にはこの限りではない。地名を使用した商標(すでに登録されている)は、引き続き有効とする。

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