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新「会社法」における登録資本金の引受、払込の変遷及び対応についての考察

中国ビジネスレポート 法務
包巍岳

包巍岳

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2024年8月20日

概要

2013年の中国「会社法」では、登録資本金引受制を導入し、有限責任会社における株主の出資金の払込期限が定められていなかったために、出資金の払込期限を10年、20年、ひいては50年にして登記している会社もある。この点、新「会社法」においては、有限責任会社の株主は、5年以内に出資金を払い込まなければならないと明確に規定している。本稿では、中国「会社法」における登録資本金の引受、払込の変遷を整理し、新「会社法」等の規定に基づく登録資本金制度の調整に伴い、既存会社に求められる対応について、助言する。

本文

2023年12月29日に、新「会社法」が正式に公布され、2024年7月1日に発効し施行される。2024年2月6日に、「『中華人民共和国会社法』登録資本金登記管理制度の実施に関する国務院の規定(意見募集案)」(以下「国務院の意見募集案」という)が公布されたが、理論的に言えば、国務院の意見募集案の正式版も今後、新「会社法」と同時に施行されるはずである。

新「会社法」、国務院の意見募集案の規定によると、株式有限会社の発起人は、払込を引き受けた株式に係る出資金の払い込みを、会社の成立前までに完成させる必要がある。もし既存会社が株式有限会社である場合、株主は、移行期間以内に(2027年6月30日までに)払込を完了しなければならない、と規定している。なお、紙面の都合上、下記にいう「会社」とは、いずれも有限責任会社を指し、株式有限会社に関連する内容は、割愛する。

一、登録資本金の引受、払込の変遷

「会社法」は1993年に制定された後、数回、改正・修正を経ている。そのうち、登録資本金の引受制、払込制に関して、4回の変更があった。

1.1993年の「会社法」において、登録資本金払込制を定め、会社設立までに株主が、登録資本金の満額を払い込んでおくことを義務付けるとともに、業種別に登録資本金の最低金額が設けられていた(例えば、生産経営類の会社については少なくとも50万元、コンサルティング類の会社については少なくとも10万元)。また、会社設立時、政府部門へ出資検査証明書を提出することも義務付けられていた。

2.2005年の「会社法」において、登録資本金引受制(一定期限内に払い込むことを認める制度)を定め、払込期限について、一般的な会社における株主に対しては、2年以内、投資会社の株主に対しては、5年以内に満額払い込まなければならず、また、登録資本金の最低金額は、3万元としていた。また、会社設立時、20%以上の登録資本金を実際に払い込んだうえで、政府部門へ出資検査証明書を提出することも義務付けられていた。

3.2013年の「会社法」において、登録資本金引受制を定め、従前の会社の登録資本金の出資期限、最低金額、出資検査に係る要件が撤廃された(但し、法律、行政法規等に別段の規定がある場合を除く)。2013年「会社法」が実施された後、会社設立のための要件が緩和されたことで、市場が活性化され、起業ブームが起きた。統計データによると、2014年から2023年末にかけて、中国の会社数が2.7倍に増えた。しかし、このような緩やかな要件の登録資本金引受制のもとで、長年、出資金を払い込んでおらず、信用状況が不明瞭な会社が一部存在し、取引先が会社を誤信したため、損害が生じるケースが多数発生した。そのため、市場の活性化と取引の安全、秩序維持との間のバランスを図るために、実務及び理論の面から、「会社法」の登録資本金関連制度の見直しに関する議論が行われた。

4.2023年の「会社法」(即ち、新「会社法」)において、登録資本金引受制(一定期限内に払い込むことを認める制度)を定め、法律、行政法規等に別段の規定がある場合を除き、5年以内に満額払い込むことを会社の株主に義務付けている(但し、登録資本金の最低金額は、設けていない)。また、新「会社法」では、株主の引受出資額と払込出資額、出資方式及び出資期日を国家企業信用情報公示システム上で公示することを会社に義務付けた上で、会社が公示しなかった場合、又は公示内容に虚偽記載があった場合のペナルティ条項(是正命令、過料等)を設けている。

二、新「会社法」施行後、既存会社のコンプライアンス遵守義務

新「会社法」の公布後、大きな変更が加えられた登録資本金引受制によりよく適応させるべく、国務院の意見募集案では、新「会社法」の発効日(2024年7月1日)前に成立している会社(以下「既存会社」という)に対して、「3+5」政策のもとで、3年の移行期間(2024年7月1日から2027年6月30日までとする。以下「移行期間」という)を設け、所定の条件を満たす既存会社を対象とする簡素化された減資手続きを設け、また出資期限、出資額が著しく異常であると判定された場合の取り扱いなどに関する詳細化規定を設けている。これについて、以下の通り簡潔に説明する。

1.3年の移行期間以内に、既存会社は、出資期限を調整することとなるが、調整後、出資期限までの残りの年数(2027年7月1日から起算する)を5年以内になるようにする必要がある。つまり、登録資本金を変更しない場合、既存会社の株主は2032年6月30日までに(8年以内に)出資金の払い込を完成させる必要があるということになる。

2.出資期限が30年を超過し、又は出資額が10億人民元を超過している既存会社については、会社登記機関は、当該既存会社の具体的状況、登録資本金の真実性を踏まえて、判断する。法定の手続きを経て、当該既存会社の出資期限、出資額が著しく異常であると判定された場合6か月以内に(3年の移行期間以内ではない)、出資期限、出資額を調整するよう求められる可能性がある。この場合においても、調整後の出資期限は、2027年7月1日から起算し、5年以内になるようにしなければならない。

3.一定の条件を満たしている既存会社は、移行期間内において、簡易手続き(一定の条件を満たしている既存会社は、オンライン上で20日間の公示を行い、その間、債権者から異議申し立てがなければ、未払い部分の登録資本金に対する簡易の減資手続きを行える)により、まだ払い込んでいない登録資本金について減資を行うことができる。所定の条件には、以下のものが含まれる。(1)未弁済の債務が存在しない、又は債務が会社の払込済み登録資本金を明らかに下回るといった状況が存在しない場合。(2)全株主が減資前の会社債務に対してもとの出資額の範囲内で連帯責任を負うことを誓約した場合。(3)全董事が会社の債務履行能力及び持続的な経営能力を損なわないことを誓約した場合。

4.特定の既存会社(国の重要戦略任務を引受け、国の経済と人々の暮らし、又は国の安全、重要な公共の利益に関わる会社)については、法定の手続きを経て、もとの出資期限のままで出資することが可能である(つまり、5年の出資金の払込期限に関する規定は、適用されない)。

5.経営異常などの状況(例えば、営業許可証の取り消し、連絡が取れないなど)が存在し、登録資本金を調整できない既存会社については、会社の登記機関が、特別管理し、国家企業信用情報公示システム上で、特記事項として公開する。

6.また、新「会社法」が2024年7月1日に正式に施行された後に新設された会社は、5年以内に登録資本金を満額払い込まなければならず、増資を行う会社は増資後の5年以内に登録資本金の増加分を満額払い込まなければならない。

なお、現時点では、国務院の意見募集案は、まだ確定されておらず、現在の内容のままで、今後、正式版が公布されるとは限らないため、既存会社において、今後も引き続き、立法の動向を注視していくことが望ましい。

おわりに

新「会社法」では、登録資本金引受制度、株主の出資責任などが大きく変更され、会社(とりわけ、既存会社)及び株主、高級管理職者にとって、コンプライアンス経営上の新たな課題となるものであり、既存会社においては、新「会社法」などの新規定の要求に基づいて、出資期限を変更し、法定の出資期限以内に資本金の払い込みを完成させる必要がある。また、既存会社においては、状況に応じて、登録資本金の減少、出資持分の譲渡、抹消等といった対応方法も考えられるが、専門家のサポートを受けながら、コンプライアンス遵守のための対応を進めていくことが望ましい。

(作者:里兆法律事務所 包巍岳、熊瀟 2024年3月14日)

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