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改正後の「外商投資電気通信企業管理規定」を読み解く

中国ビジネスレポート 法務
包巍岳

包巍岳

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2023年5月24日

概要:「外商投資電気通信企業管理規定」は、2022年3月に改正された後、2022年5月1日から施行されている。2016年に改正された「外商投資電気通信企業管理規定」(以下、「2016年度版の外資電気通信規定」という)に比べ、今般の改正版(以下「2022年度版の外資電気通信規定」という)は、中国における電気通信事業、とりわけ付加価値電気通信事業への投資において外国投資者に大きなメリットをもたらすものとなっている。本稿では、今般の改正において押さえておくべきポイントを解説する。

本文:

 ■ 良好な業績と運営経験の要件が削除された

2016年度版の外資電気通信規定

2022年度版の外資電気通信規定

第九条 基礎的電気通信事業を営む外商投資電気通信企業における外国側主要投資者は、以下の条件に合致していなければならない。

(一)企業法人資格を有すること。

(二)登録先の国又は地域において「基礎的電気通信事業取扱許可証」を取得していること。

(三)従事する事業活動に見合った資金と専門人員を有すること。

(四)基礎的電気通信事業を営む上で良好な業績と運営経験を有すること

前項にいう外商投資電気通信企業における外国側主要投資者とは、外国側の投資者全体において出資額が最も多く、かつ外国側投資者全体の出資総額に占める割合が30%以上である出資者を指す。

第九条 基礎的電気通信事業を営む外商投資電気通信企業における外国側主要投資者は、以下の条件に合致していなければならない。

(一)企業法人資格を有すること。

(二)登録先の国又は地域において「基礎的電気通信事業取扱許可証」を取得していること。

(三)従事する事業活動に見合った資金と専門人員を有すること。

前項にいう外商投資電気通信企業における外国側主要投資者とは、外国側の投資者全体において出資額が最も多く、かつ外国側投資者全体の出資総額に占める割合が30%以上である出資者を指す。

第十条 付加価値電気通信事業を営む外商投資電気通信企業における外国側主要投資者は、付加価値電気通信事業を営む上で良好な業績及び運営経験を有していなければならない

原第十条が削除された。

ここ数年、中国においては、付加価値電気通信事業における外国投資者の持分比率に対する規制の緩和が進んでいるものの(詳細は後述する)、それでも外資企業が「付加価値電気通信事業取扱許可証」を申請することの難度は高く、その最大の難関は、外資の持分比率規制のほか、「外国側主要投資者は、付加価値電気通信事業を営む上で良好な業績及び運営経営を有すること」が申請の要件になっていることにあった。

筆者がこれまでに外資企業の「付加価値電気通信事業取扱許可証」の申請をサポートしてきた経験から言えば、外国側主要投資者の電気通信事業運営経験については、主に以下の証明材料を提出することになる。外国側主要投資者(又はその一級親子会社)の今までの付加価値電気通信役務提供状況に関する証明を提供する。もし外国側主要投資者(又はその一級親子会社)がこれまでに許可の取得、届出を済ませている又は有名なウェブサイト、APPを運営している場合、その状況もスクリーンショット又は文書を添えて記入しなければならない。外国側の主要投資者(又はその一級親子会社)の所在地において許可若しくは参入の要件が設けられている場合、現地の「電気通信事業取扱許可証」若しくはその他参入許可証明原本のカラースキャンも添えて提供する必要がある、など。

「2022年度版の外資電気通信規定」においては、外国側主要投資者は、基礎/付加価値電気通信事業における良好な業績及び運営経験を有することを要件とする文言が削除されたことにより、海外の投資者が中国国内における電気通信事業に投資するにあたっての適格要件ではなくなったことで、一部の外資企業の投資における利便性が大きく向上され、「付加価値電気通信事業取扱許可証」を取得しやすくなった(「基礎的電気通信事業取扱許可証」の取得は依然として、外国側主要投資者が「登録先の国又は地域において基礎的電気通信事業取扱許可証を取得している」ことが前提になっているため、基礎的電気通信事業における対中投資要件は、緩和されていない)。

■ 申請プロセスが統一され、審査期間が短縮された 

2016年度版の外資電気通信規定

2022年度版の外資電気通信規定

第十一条 基礎的電気通信事業又は省、自治区、直轄市の枠を超え付加価値電気通信事業を営む外商投資電気通信企業を設立する場合、中国側主要投資者は、国務院工業・情報化主管部門に以下の文書を添えて申請する。

(一)プロジェクト申請報告書。

(二)本規定の第八条、第九条、第十条に定める合弁事業の各投資者の資格証明又は関係する確認文書。

(三)電気通信条例に定める基礎的電気通信事業又は付加価値電気通信事業に際して必須となるその他条件に係る証明若しくは確認文書。

国務院工業・情報化主管部門は、申請を受取った日から、前項に定める関係文書に対する審査を行うものとする。基礎的電気通信事業に該当する場合は、180日以内に審査を完了し、許可又は不許可の決定を下さなければならない。付加価値電気通信事業に該当する場合は、90日以内に審査を完了し、許可又は不許可の決定を下さなければならない。許可する場合は、「外商投資経営電気通信事業審査決定意見書」を交付し、許可しない場合は、申請者に理由も添えて書面により通知しなければならない

第十二条 省、自治区、直轄市の範囲内で付加価値電気通信事業を営む外商投資電気通信企業を設立する場合、中国側主要投資者は、省、自治区、直轄市の電気通信管理機関に以下の文書も添えて申請する。

許可する場合は、「外商投資経営電気通信事業審査決定意見書」を発行し、許可しない場合は、申請者に理由も添えて書面により通知しなければならない

第十三条 外商投資電気通信企業のプロジェクト申請報告書には主に各合弁当事者の名称及び基本状況、設立予定の企業の投資総額、登録資本、各当事者の出資比率、申請する事業の種類、合弁期限等が含まれる

第十四条 (国務院発展改革委員会の審査を受ける必要がある状況)外商投資電気通信企業を設立するに際して、国の関係規定により、その投資プロジェクトは国務院発展改革部門の審査を受けなければならないことになっている場合、……

第十五条 (商務主管部門から許可を得る必要がある)設立する外商投資電気通信企業が営む事業は、基礎的電気通信事業若しくは省、自治区、直轄市の枠を超えた付加価値電気通信事業に該当する場合、中国側主要投資者は、「外商投資経営電気通信事業審査決定意見書」に基づき、設立予定の外商投資電気通信企業の契約、定款を国務院商務主管部門に送付する。……許可する場合は、「外商投資企業批准証書」を交付し、許可しない場合は、申請者に理由も添えて書面により通知しなければならない。

第十六条 (「電気通信事業取扱許可」を申請するために必要となる証書)外商投資電気通信企業における中国側主要投資者は、「外商投資企業批准証書」をもって、工商行政管理機関に企業登録登記を申請した後、「外商投資企業批准証書」及び営業許可証をもって、国務院工業・情報化主管部門に「電気通信事業取扱許可」を申請する

第十条 外商投資電気通信企業は、法に依拠し事業者登記手続きを行った後、国務院工業・情報化主管部門に以下の文書を添えて「電気通信事業取扱許可」を申請する。

(一)投資者状況説明書。

(二)本規定の第八条、第九条に定める投資者の資格証明又は関係する確認文書。

(三)電気通信条例に定める基礎的電気通信事業又は付加価値電気通信事業に際して必須となるその他条件に係る証明若しくは確認文書。

国務院工業・情報化主管部門は、申請を受取った日から、前項に定める関係文書に対する審査を行うものとする。基礎的電気通信事業に該当する場合は、申請を受理した日から180日以内に審査を完了し、許可又は不許可の決定を下さなければならない。付加価値電気通信事業に該当する場合は、申請を受け取った日から60日以内に審査を完了し、許可又は不許可の決定を下さなければならない。許可する場合は、「電気通信事業取扱許可証」を交付し、許可しない場合は、申請者に理由も添えて書面により通知しなければならない

第十一条 外商投資電気通信企業の投資者状況説明書には主に以下の内容が含まれる。投資者の名称及び基本状況、各当事者の出資比率、外国側投資者の外商投資電気通信企業に対する支配状況等

今般の改正では、電気通信事業に外国投資者が投資するための申請プロセスを統一し、簡略化し、審査期間を短縮している。なお、申請プロセスの簡略化は、今般の改正により新たに設けられた規定ではなく、2016年度版の外資電気通信規定における電気通信事業取扱許可に係る許可証取得手続きフロー(即ち、「外商投資電気通信事業審査決定意見書」→「外商投資企業批准証書」→営業許可証→電気通信事業取扱許可申請までのプロセス)と比べると、今般の改正前における電気通信事業取扱許可申請の実務面において、当該行政許可事項に変更が生じている。

(1)「外商投資企業批准証書」の取消

「外商投資法」等の対中投資に係る法規が多数施行されていることに伴い、商務主管部門は、2020年1月1日から、「外商投資企業批准証書」を交付しないとしている。外商投資企業設立登記の申請時、投資者は、「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」(以下「ネガティブリスト」という)の要件該否を誓約し、実情に基づき「ネガティブリスト」内の業種分野にチェックマークを入れるだけでよく、また「ネガティブリスト」内において、出資比率などの制限規定を設けている分野については、外商投資企業が参入特別管理措置所定の条件に合致していれば、登記機関は法に依拠し登記登録しなければならないことになっている。

(2)「外商投資経営電気通信事業審査決定意見書」の取消

2020年9月、「一部の行政許可事項の撤廃及び委譲に関する国務院による決定」(国発[2020]13号)において、「外商投資経営電気通信事業審査決定意見書の交付」の行政許可事項を撤廃し、外資に対する審査作業は、電気通信事業取扱許可の審査プロセスに組み入れ行うとしている。

■ 幅を持たせた規定にするために文言を調整した

2016年度版の外資電気通信規定

2022年度版の外資電気通信規定

第二条 外商投資電気通信企業とは、外国投資者が中国投資者とともに中華人民共和国国内で法に依拠し中外合弁経営形態により、電気通信事業を営むために共同出資し設立した企業を指す。

第二条 外商投資電気通信企業とは、外国投資者が法に依拠し中華人民共和国国内で設立した電気通信事業を営む企業を指す。

第六条 基礎的電気通信事業(無線呼出事業を除く)を営む外商投資電気通信企業における外国側投資者の出資比率は、最終的に49%を超えてはならない。

付加価値電気通信事業(基礎的電気通信事業における無線呼出事業を含む)を営む外商投資電気通信企業における外国側投資者の出資比率は最終的に50%を超えてはならない。

外商投資電気通信企業における中国側投資者及び外国側投資者の異なる時期の出資比率は、国務院工業・情報化主管部門が関係規定に従い確定する

第六条 基礎的電気通信事業(無線呼出事業を除く)を営む外商投資電気通信企業における外国側投資者の出資比率は、最終的に49%を超えてはならない。但し国が別途定める場合はこの限りではない

付加価値電気通信事業(基礎的電気通信事業における無線呼出事業を含む)を営む外商投資電気通信企業における外国側投資者の出資比率は最終的に50%を超えてはならない。但し国が別途定める場合はこの限りではない

「外商投資電気通信企業」の定義に対する調整は、「外商投資法」における「外商投資企業」の定義に合わせるために行われたものであると考えられる(これは、「外商投資法」の施行後に三資企業法も廃止されていることに伴い、新たに設けられた外商投資企業においては、「中外合弁経営企業」といった企業組織形態がなくなっている状況とも一致している)。

また、電気通信企業における外国投資者の出資比率制限について、「但し国が別途定める場合はこの限りではない」との規定が新たに設けられたことで、既存の法律規定の実情に応じて、柔軟な対応ができるようになっている。2022年度版の外資電気通信規定における外資持分比率の制限のほか、「別段の定め」について、その一部を以下の通り紹介する。

名称

内容

オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類電子商取引)における外資者の持分比率に対する制限を緩和することに関する工業・情報化部による通告(工信部通[2015]196号)

オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類電子商取引)における外資の持分比率に対する制限を中国全土内で緩和し、外資の持分比率は、100%まで達することができる。

香港・マカオのサービス提供者の中国大陸における電気通信事業の展開に関する工業・情報化部による通告(工信部通信[2016]222号)

一、香港・マカオのサービス提供者が中国大陸で合弁又は独資形態の企業を設立することを認め、次に掲げる付加価値電気通信役務を提供する場合、香港・マカオ投資者の持分比率に制限を設けない。

(一)オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類電子商取引のみに限る)

(二)中国大陸内における多人数通信サービス業務(「電気通信事業分類目録」における「国内多人数通信サービス業務」)

(三)保存・転送類業務

(四)コールセンター業務

(五)インターネット接続サービス業務(インターネットユーザーにインターネット接続サービスを提供する場合に限る)。

(六)情報サービス業務(アプリストアに限る)。

……

外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2018年度版)

電気通信会社:中国がWTO加盟時に開放することを約束している電気通信事業のみに限る。付加価値電気通信事業については、外資の出資比率は50%を超えないものとする(電子商取引を除く)。基礎的電気通信事業については、中国側がマジョリティを有するものとする。

外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2019年度版)

電気通信会社:中国がWTO加盟時に開放することを約束している電気通信事業のみに限る。付加価値電気通信事業については、外資の出資比率は50%を超えないものとし(電子商取引、国内多人数通信、保存・転送類、コールセンターを除く)、基礎的電気通信事業については、中国側がマジョリティを有するものとする。

海南自由貿易港外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2020年度版)

電気通信会社:付加価値電気通信事業については、オンラインデータ処理及び取引処理を除き、「自由貿易試験区外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」に従い実施する。海南自由貿易港内に登録し、サービス施設を持つ企業による、インターネットデータセンター、コンテンツ配信ネットワーク等業務の自由貿易港全域展開及び国際的展開を認める。基礎的電気通信事業については、中国がWTO加盟時に開放することを約束している電気通信事業のみに限られ、かつ中国側がマジョリティを有するものとする。

おわりに:

2022年度版の外資電気通信規定は、電気通信事業(主に付加価値電気通信事業)への外資系企業の参入をさらに促進し、中国の電気通信事業市場における競争の活性化、公平な競争が確保された市場環境作りに資するものである。また、新規定において一部の審査条件が撤廃されたことにより、外国投資者が、投資し市場に参入するに際して、ネガティブリストに定める条件に合致している場合、ほかの方面では、国内資本・外資一致の原則に従い管理する法的ルールの徹底がさらに図られることになる。新規定では、付加価値電気通信事業に投資する外国投資者は、出資比率、登録資本などの条件を満たしていれば、営業許可証を取得後、原則的には、工業・情報化部へ付加価値電気通信事業取扱許可を申請することができることになっている。

(作者:里兆法律事務所 包巍岳、曽潔)

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