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契約紛争解決条項の約定が不明瞭である場合、どのように対処するか?

中国ビジネスレポート 法務
董 紅軍

董 紅軍

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2024年2月8日

取引契約における紛争解決条項には、「契約紛争の双方が協議によっても解決できない場合、訴訟を申し入れた一方の所在地での仲裁とする」などの規範化されていない表現が使われることがある。ひとたび紛争が起きた際には、いったいどの紛争解決機構が処理することになるのだろうか?筆者の実務経験に基づき、司法の実践を踏まえると、通常3通りの対処方法がある。

■ 方法 その1

主な対処

1) 「訴訟を申し入れた一方の所在地での仲裁とする」という紛争解決条項が訴訟と仲裁を同時に約定していることを理由に、紛争管轄の約定が不明瞭であり、当該条項は全体的に無効であるとして主張する。

2) 等級別管轄及び専属管轄に違反しない前提のもと、法定管轄を適用し、すなわち、被告の住所地または契約の履行地の裁判所に訴訟を提起する

3) その中で、契約の履行地について、説明すべきことは以下の通りである。

A.契約で履行地について約定している場合、当該約定を優先的に適用する。

B. 契約で履行地の約定がない場合は:①係争対象が貨幣の支給であるときは、貨幣を受け取る一方の所在地を契約の履行地とする[1]。②係争対象が不動産の引渡しであるときは、不動産の所在地を契約の履行地とする。③その他の対象であるときは、義務を履行する一方の所在地を契約の履行地とする。

適用上の説明

訴訟を提起する一方に対し、以下の状況が存在する場合、立件の際に直接法定管轄に従って対処すると一層有利である。

-約定された契約の履行地が訴訟を提起した当事者の所在地である。

-契約において履行地を約定していないが、訴訟を提起した当事者(通常は、売買契約、リース契約、保管契約などにおいて契約の代金を受け取る一方である)が、相手方に契約の金額を支払うよう要請する。

■ 方法 その2

主な対処

1) 紛争解決条項における仲裁と訴訟に関する約定は分割することができ、互いに一定の独立性を有しており、すなわち、「訴訟を申し入れた一方の所在地での仲裁とする」が約定している紛争解決方法は無効だが、双方の訴訟の地域管轄(訴訟を申し入れる一方の所在地)に関する効力に影響を与えるものではない、と主張する。

2) 等級別管轄及び専属管轄に違反しない前提のもと、訴訟を提起する一方の所在地の裁判所に訴訟を提起する

適用上の説明

-訴訟を提起する当事者が自己の所在地の裁判所に訴訟を提起したい場合、立件する際には以下の背景や論理を裁判所に説明し、できるだけ裁判所の認可を得て、事案を受理してもらうように働きかける必要がある。

A. 当事者の意思としては、訴訟を提起する一方の所在地の紛争解決機構で紛争を処理したいと考えており、双方の紛争解決を仲裁機構が仲裁するのか、それとも裁判所に訴訟を提起するかの約定には異なる解釈が存在するものの、地域管轄に関する約定は明確である(すなわち、訴訟を申し入れる一方の所在地)[2]仲裁に関する約定が不明瞭であるために仲裁機構を通じて紛争を処理する方法が無効となった場合、事案は裁判所を通して訴訟で解決しなければならず、もしも双方の地域管轄に対する明確な意思表示を否定してしまうと、民法の意思自治原則に違反することになる

B. 民事の実体法の視点からは、民事法律行為の部分的な無効は、他の部分の効力には影響しない。本件において、双方の仲裁機構での仲裁か、それとも裁判所での訴訟か、という紛争解決方法に対する約定の無効は、双方の地域管轄に関する約定の効力には影響しない

-また、裁判所が事案を受理する可能性を強化するために、訴訟を提起する当事者は立件する際に類似事案の裁判文書[3]を併せて提出し、補助的な説明を行うとよい。

■ 方法 その3

主な対処

1) 訴訟を申し入れる一方の所在地の仲裁機構が唯一のものであり、かつ確定している場合、訴訟を提起する一方は紛争解決条項が有効であると主張することができる。

2) 上記の前提のもと、訴訟を提起する一方は、当該紛争を唯一の仲裁機構に提起して対処するよう主張することができる

適用上の説明

-当該対処方法を適用する前提は、訴訟を提起する一方の所在地に存在し、しかも仲裁機構が1つしかないことである。

-訴訟を提起する当事者が上記の唯一の仲裁機構で解決することを希望する場合は、立件する際に以下の背景や論理を仲裁機構に説明し、又は、裁判所に管轄権異議を申し立てる際に裁判所に説明し、できるだけ事案を仲裁機構で処理してもらうようにするとよい。

A. 双方の紛争解決条項における「訴訟を申し入れる一方」の概念に対する表現は正確ではないが、約定された紛争解決方法の着地点は「仲裁」であることから、双方は確かに紛争を仲裁に提起することについての合意があり、双方の仲裁に関する合意を尊重するという視点から見れば、紛争解決条項における「訴訟を申し入れる一方」は「仲裁申立人」であるとして理解すべきである

B. 紛争解決条項に署名する際に、訴訟を提起する一方の所在地が確定しており、かつその地域には仲裁機構が1つしかない場合、紛争解決条項は仲裁機構に対する約定が明確であり、当該仲裁条項は有効であると認定しなければならない

-説得力を強化するために、訴訟を提起する当事者は類似事案の裁判文書[4]を併せて提出し、補助的な説明を行うとよい。

企業が本文にいう異なった解釈の存在する契約紛争解決条項に遭遇した場合、上記3通りの対処方法のどれを実際に適用するかは、企業のニーズと実際の状況を踏まえて選択し、進めていく必要がある。当然ながら、紛争を回避するためには、企業は取引契約のコンプライアンス管理を予め徹底し、紛争解決条項を明確に約定しておくのがよい。

(作者: 里兆法律事務所  董紅軍、李繁)

 

[1] 「貨幣の支給」の理解に関しては、現在の司法実践【例えば、(2019)最高法民管轄終385号民事判決書】における主流の観点は、貨幣の支給義務とは、訴訟請求における簡単な金銭の支給請求ではなく、実体内容となる契約義務(契約において直接規定された義務、例えば、売買契約における売主の代金支給要求)を指すべきである、というものである。

[2] 当事者が紛争を特定の地域の紛争解決機構に提起して処理することを明確に約定するうえでは、自身のいくつかの要素に関する思慮を必然的に含んでおり、例えば、裁判所からの距離の度合いによる司法コスト、裁判所の公信力と司法権威などである。

[3] 例えば、最高人民法院(2016)最高法民轄終285号民事判決書である。

[4] 例えば、煙台市中級人民法院(2021)魯06民特147号民事裁定書である。

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