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司法鑑定に関するあれこれ

中国ビジネスレポート 法務
董 紅軍

董 紅軍

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2024年6月6日

司法鑑定とは、裁判所が職権に依拠し、又は当事者及びその他訴訟参加者の申立により指定し又は依頼された鑑定人が、科学技術や専門性知識を活用し、専門的な問題について検査、鑑別、判断及び評価を行う活動を指す。司法鑑定意見は事件の事実を明らかにするうえで重要な役割を果たす。本文では、法律規定と事例を踏まえ、司法鑑定においてよくある質問について解答する。

Q1. 司法鑑定活動の分類とは?
●  「司法鑑定管理問題に関する全国人民代表大会常務委員会による決定」によると、司法鑑定には主に法医類鑑定、物証類鑑定、視聴資料鑑定と環境損害司法鑑定などが含まれる。実践において、よくある司法鑑定は、人身傷害状況に関する法医臨床鑑定、法医精神病鑑定、印鑑又は個人署名の筆跡鑑定、文書形成時期の鑑定、録音録画の同一性認定の鑑定などが含まれる。
●  注意しなければならないのは、司法鑑定の依頼者は裁判所であり、当事者が自ら鑑定機構に鑑定を依頼する行為は司法鑑定には該当しないということである。当事者が自ら鑑定機構に依頼し得られた鑑定意見は、司法鑑定意見ではないが、訴訟の証拠にすることができないことを意味するものではない。一方当事者が単独で依頼する場合も、当事者双方が共同で依頼した後において争いが存在する場合も、その鑑定意見はいずれも書面証拠として裁判所に提出することができ、その採否は、証拠自体が「三性」に適合しているかどうかを踏まえて、最終に判断しなければならない。

【判例】
●  (2021)湘06民終1297号。第二審裁判所は、関係する法律規定では一方当事者が、自ら鑑定機構に鑑定を依頼することを明確には禁止しておらず、一方当事者が自ら鑑定を依頼して形成された鑑定意見が必然的に無効になるとは限らず、その鑑定手続きが適法かどうか、鑑定意見の根拠が十分かどうかを踏まえて、鑑定意見を審査する必要がある。本案件においては、当該鑑定所は当事者の負傷の度合い、その後の医薬費、休業補償期間、看護期間、栄養回復期間について評定した。岳陽市春風司法鑑定所は鑑定に必要な必須条件を有し、鑑定意見は当事者の負傷後の治療に関する資料と負傷状況を分析して得られ、手続に違法なところはない。他方当事者は鑑定結論に対し異議を唱えたが、その鑑定結論に反駁するに足る相応の証拠や理由を提示しなかったため、第一審裁判所が当該鑑定意見を採用したことは不当ではない。

Q2. 司法鑑定を始動させる方法は?
●  司法鑑定を始動させる基本的な方法は2つある。1つは当事者が鑑定申立を行うことであり、もう1つは裁判所が職権に依拠し、究明しなければならない事実が専門性に関わる場合、職権に依拠して鑑定を依頼しなければならない。
●  一般的に、証明責任を負う当事者は、自己の主張を証明し又は相手側の主張を覆す必要から、関連事項について裁判所に鑑定申立を行う。注意しなければならないのは、当事者の申立が司法鑑定を始動させることになるとは限らず、鑑定を依頼するかどうかは、裁判所が申立事項に対する認定の必要から判断しなければならないということである。生活常識や経験法則を通して推定できる事実、又は要証事実と関連性がなく、要証事実を証明するうえで意味がないことについて、裁判所は通常、司法鑑定を始動させることはない
●  当事者が鑑定申立を行わないが、裁判所が要証事実を鑑定意見によって証明する必要があると判断した場合、裁判所は当事者にそれを説明し、かつ鑑定申立期間を指定することになる。当事者は指定された期間内に申立をし、かつ鑑定費用を前納しなければならず、さもなければ、申立を放棄したものとみなされる。このとき、鑑定を必要とする要証事実について証明責任を負う当事者が、正当な理由なく申立を放棄した場合、証明不能の法的結果を負うことになる
●  国家の利益、社会公共の利益を損なうおそれのある場合、例えば、環境の権利侵害責任紛争において、環境汚染、生態系破壊案件事実を明らかにする専門的な問題について、裁判所は職権により鑑定を依頼しなければならない。医療損害責任紛争における専門的な問題について、裁判所は必要があると判断した場合、職権により鑑定を依頼しなければならない。権利侵害を訴えられた作品と権利を主張する作品の相違点と一致する点など知的財産権に関する専門的な問題については、裁判所は鑑定を依頼することができる

【判例】
●  (2020)滬民終225号。当事者は鑑定意見について異議があるものの、鑑定手続や鑑定内容に対し実質的に反駁できず、再鑑定も申立てたくない場合、証明不能の法的結果を負わなければならず、裁判所は当該当事者の司法鑑定意見書は採用されるべきではないという上告理由を受け入れない。
●  (2021)皖03民終628号。当事者の間で手術時にドレナージチューブを置かない行為が診療規範に違反したかどうかについて論争があるが、その問題は専門的な問題であるため、専門的な鑑定を行う必要がある。第一審裁判所はその問題について鑑定を行っておらず、結果、病院が診療規範に違反したという事実があるかどうかははっきりとせず、第二審裁判所は第一審判決を取り消し、差戻し・再審することを裁定した。

Q3. 司法鑑定の申立期限は?
●  「民訴法」解釈及び「民事訴訟証拠に関する最高人民法院による若干の規定」(以下、「規定」をいう)によると、当事者は証明期間満了前に鑑定を申立てる、とされているが、実践においても、通常その期間に申立を行う。しかし、特別な状況がある場合、当事者は法廷審理前会議、被告答弁の段階、証明・証拠調べの段階、法廷審問の段階及び法廷弁論の段階で鑑定の申立を行うこともできる。なお、裁判所が期間を指定した場合は、当事者はその指定期間内に鑑定を申し立てなければならないことに注意したい。
●  原動機付車両交通事故責任紛争、医療損害責任紛争、財産損害賠償紛争などの9つの大類の紛争について、「訴訟前調停における鑑定依頼に関する最高人民法院による操作規程(試行)」の関連規定に基づき、当事者は裁判所に訴訟前鑑定を申し立てることができる。又は、裁判所は当該紛争の訴訟前調停の過程で、その紛争は鑑定によって調停を実現させた方がよいと判断した場合、当事者に説明し、かつ訴訟前鑑定の申立期間を指定することができる。

Q4. 司法鑑定費用の支払いは?
●  「規定」第31条によると、鑑定手続を始動させる際、通常、鑑定を申し立てる側の当事者が鑑定費用を前納する。当事者が鑑定費用を前納しない場合、申立を放棄したものとみなされる。裁判所は職権により鑑定手続を始動させ、当事者が鑑定費用の前納を拒否した場合、裁判所が先に立替えることができる。
●  鑑定費用の最終的な負担について、裁判所は案件の具体的な状況に応じて、敗訴した当事者が負担し、又は、各当事者が一定の割合で分担するかを命じる判決を下す。これについては、実践において一定の論争が存在し、主に2つの観点に分けられる。1つは、敗訴した側が負担するという見方であり、即ち、鑑定費用は訴訟費用に該当し、原則として敗訴した側が負担すべきであると主張するもの、もう1つは、証明する側が負担するという見方であり、即ち、鑑定費用は証明責任を負う側の当事者が負担するべきであると主張するものである。

【判例】
●  (2018)最高法民終557号。第二審裁判所の認識では、「人民法院訴訟費用納付方法」第29条第2項で、一部勝訴し、一部敗訴した場合、人民法院は案件の具体的な状況に基づき当事者が各自負担する訴訟費用の額を決定すると定めていることから、本件第一審判決の結果は当事者が一部勝訴し、一部敗訴した場合に該当し、当事者が鑑定、評価費用の60%を負担するという一審裁判所の判決は上記の規定に適合していると判断する。

Q5. 司法鑑定意見に異議があるときは?
●  当事者が鑑定意見について異議がある場合は、裁判所から指定された期間内に書面にて申し入れなければならない。当事者は、鑑定人の書面による回答を受領した後においても異議がある場合、裁判所は鑑定人に出廷して証言するよう通知することができ、当事者は法廷審問での証拠調べを行う際に鑑定意見について異議を唱えることができる。
●  鑑定人が相応の資格を有しておらず、鑑定手続に著しい法令違反があり、鑑定意見の根拠が明らかに不十分であり、又は鑑定意見が証拠として使用できないなどの状況がある場合、当事者は再鑑定を申し立てることができる。
●  一方当事者が自ら鑑定を依頼し提示された鑑定意見(司法鑑定意見ではない)について、他方当事者がこれに異議ある場合は、鑑定意見に反駁する十分な証拠又は理由を提出し、かつ司法鑑定を申立てなければならず、そのような手続きを経ることにより裁判所ははじめて鑑定を許可することになる。

【判例】
●  (2021)滬02民終955号。他方当事者は一方当事者の負傷状況について司法鑑定を申立てたが、その当事者が一方的に依頼した鑑定機構が発行した専門鑑定意見を揺るがすに足る証拠は提供してはおらず、かつその骨のズレや損傷、及び内固定によって関節に悪影響を与えるかどうかを判断するには、いずれも専門的な測定が必要であり、視覚を通じて簡単に判断することはできない。そのため、第一審裁判所が再鑑定を許可しなかったことは適法かつ根拠がある。

司法鑑定は訴訟活動において広く応用され、専門的な問題を解決し、裁判官の事実認定を支援するうえで顕著な役割を果たしている。同様に、司法鑑定の手続を把握し、判例などを通してその過程における注意事項を知ることで、訴訟当事者は紛争をより迅速かつ効果的に解決することができる。

(作者:里兆法律事務所 董紅軍、黄宇)

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