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2007年中国の対外経済活動:幾つかの注目点

中国ビジネスレポート マクロ経済
馬 成三

馬 成三

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2008年2月19日

記事概要

昨年の中国の対外経済活動においては、貿易額の急増と貿易黒字の拡大、外資導入の増加と質の低下、中国貿易の対日依存度のさらなる低下、対外直接投資の伸び悩み、中国人の海外観光の大幅増などが注目される。

中国経済にとって、2007年は激動の年であった。これは中国のマスコミに選ばれた中国経済に関する「十大ニュース」にも表れている。「十大ニュース」のリストには、小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的建設と和諧社会(調和の取れた社会)の実現を強調した中国共産党第17回全国代表大会の開催(10月)、上海証券取引所総合指数の暴騰と下落、「二つの防止」(経済過熱とインフレの防止)を打ち出した中央経済活動会議(12月)の開催などが取り上げられているが、これらのニュースの背後には中国経済は高成長を続けている一方、内外の不均衡も深刻さを増しているという事実がみえる。

昨年の中国の対外経済活動においては、貿易額の急増と貿易黒字の拡大、外資導入の増加と質の低下、中国貿易の対日依存度のさらなる低下、対外直接投資の伸び悩み、中国人の海外観光の大幅増などが注目される。

 

貿易総額は初めて2兆ドルを突破、貿易黒字は史上最高の2622億ドル

中国税関によると、昨年(2007年)中国の貿易総額は前年比23.5%増の2兆1738億ドルと初めて2兆ドルを突破した(表1)。中国がWTO(世界貿易機関)加盟を果たした2001年をベースに計算すれば、2002~07年の6年間、中国の貿易総額は実に4.3倍に拡大した。

昨年の中国貿易を輸出と輸入にわけてみると、輸出は前年比25.7%増の1兆2180億ドル、輸入は同20.8%増の9558億ドルとなっている。内外から注目されている貿易黒字は、同47.7%増の2622億ドル(約28兆8000億円)と、2005年から3年連続で過去最高の水準を更新した。

 

表1 2007年中国貿易の主要相手国・地域別金額(単位:100万ドル)

順位 輸出入合計 輸出 輸入
1.EU 356,151(27.0) 245,192(29.2) 110,960(22.4)
2.米国 302,083(15.0) 232,704(14.4) 69,379(17.2)
3.日本 236,022(13.9) 102,071(11.4) 133,951(15.8)
4.ASEAN 202,548(25.9) 94,179(32.1) 108,369(21.0)
5.香港 197,248(18.8) 184,432(18.8) 12,816(18.9)
6.韓国 159,898(19.1) 56,141(26.1) 103,757(15.6)
7.台湾 124,480(15.4) 23,458(13.1) 101,022(16.0)
8.ロシア 48,165(44.3) 28,488(79.9) 19,677(12.1)
9.オーストラリア 43,846(33.1) 17,993(32.1) 25,852(33.8)
10.インド 38,647(55.5) 24,016(64.7) 14,631(42.4)
総額 2,173,834(23.5) 1,218,016(25.7) 955,818(20.8)

注:順位は輸出入合計の順位、カッコ内は前年比伸び率(%)。

資料:中国税関統計(速報)。

 

中国の貿易収支を相手国・地域別にみると、最大の黒字額を示したのは対米貿易(1633億ドル)で、その次は対EU貿易(1342億ドル)、両者合計で2976億ドルと約3000億ドルを計上している。一方、対日本、韓国、台湾、ASEANの貿易には中国側が赤字を示し続け、中国側の赤字はそれぞれ319億ドル、476億ドル、776億ドルと142億ドルと、合計で1713億ドルに達している。

以上の数字からみれば、中国は東アジア諸国・地域の対米輸出基地としての地位が一層鮮明となったといえる。実際、昨年中国の対日本、韓国、台湾の貿易赤字だけで1571億ドルと、対米貿易黒字(1342億ドル)を上回っている。

昨年、中国の貿易黒字の拡大をもたらした要因として、内需不足など構造的要因のほか、特殊な要因も挙げられよう。中国政府は輸出抑制のため、数回にわたって輸出還付税率の引き下げを断行したが、引き下げ前に駆け込み輸出が行なわれていた一方、人民元高が予想されているなか、一部の企業は輸入を先延ばすという傾向もみられるのである。

また輸出還付税を騙し取るため、輸出の拡大申告といった現象もある。中国商務省国際貿易経済協力研究院によると、2006年8月~12月の5か月間だけで、輸出額の拡大申告により同期間における中国の貿易黒字を同期間の貿易黒字の17%に相当する175億ドルほど増やしたという。

今後、税収制度の改善や還付税騙しへの取締りの強化に伴い、上記の要因による黒字分は縮小していくと予想されるが、内需不足や人民元レートの硬直性で輸出が多く、輸入が少ないという基本的な構図が変わらない限り、中国の貿易黒字はさらに拡大する可能性がある。国際貿易経済協力研究院の予測では、今年の黒字幅は3000億ドルを超える見込みである。

 

中国貿易の対日依存度はさらに低下

2007年の中国貿易における今ひとつの注目点は、中国貿易の対日依存度のさらなる低下である。改革開放政策が導入された以前の1970年代後半から1990年代初めにかけて、中国貿易総額に占める対日貿易の割合は平均で4分の1前後、ピークだった1985年には3割にも達したが、1990年代以降、中国貿易における日本の地位は低下傾向を示し続けている。2004年、中国貿易総額に占める対日貿易の割合は14.5%と、ピークだった1980年代半ばの半分以下となり、中国の最大貿易パートナーの座もEUに取って代われ、中国の貿易パートナーとして、日本はEUと米国に次ぐ第3位に転落した。

2005~07年の中国貿易に占める対日貿易の割合はさらに低下している。中国税関によると、昨年には中国貿易総額は前年比23.5%増だったのに対して、対日貿易総額は同13.9%増にとどまった。なかでも対日輸出の前年比伸び率は11.4%と、中国輸出全体のそれ(25.7%)の半分以下となっている。これにより、中国貿易総額、同輸出と輸入に占める対日貿易の割合は、それぞれ前年の11.8%、9.5%と14.6%から、10.9%、8.4%と14.0%へと低下した(表2)。

長い間、中国貿易に占める対日貿易の割合は、日本貿易に占める対中貿易の割合を大きく上回っていたが、2004年には両者はついに逆転した。つまり日本貿易に占める対中貿易の割合は、中国貿易に占める対日貿易の割合を超えたのである。2007年には両者の差は一層拡大した。日本の通関統計によると、2007年日本貿易に占める対中貿易の割合(対香港貿易を含まない)は、前年の17.2%から17.6%へと上昇し、同期間の中国貿易に占める対日貿易の割合(10.9%)より6.7ポイントも高い数字を示した。

2004年に香港を含む中国は米国に取って代わって、日本の最大の貿易パートナーに躍進したが、2007年には対中国本土貿易だけで米国を抜き、日本貿易総額において最大のシェアを占めるようになった。うち対香港輸出を含む対中輸出は、初めて対米輸出を超え、中国が日本の最大の輸出市場にも浮上した(表3)。

 

 

表2 中国貿易における対日貿易の地位低下(単位:%)

  中国の輸出入 中国の輸出 中国の輸入
2000 17.5 16.7 18.4
2001 17.2 16.9 17.6
2002 16.4 14.9 18.1
2003 15.7 13.6 18.0
2004 14.5 12.4 16.8
2005 13.0 11.0 15.2
2006 11.8 9.5 14.6
2007 10.9 8.4 14.0

注:数字は中国貿易全体に占める対日貿易の割合。

資料:中国税関統計。

 

表3 日本貿易の対中・対米依存度の推移(単位:%)

  日本貿易の対中依存度 日本貿易の対米依存度
2000 9.9(13.4) 25.0
2001 11.8(15.2) 24.5
2002 13.5(17.0) 23.4
2003 15.6(19.1) 20.4
2004 16.5(20.1) 18.6
2005 17.0(20.3) 17.9
2006 17.2(20.3) 17.4
2007 17.6(20.6) 16.0

注:数字は日本貿易総額に占める対中・対米貿易の割合。

カッコ内は対香港貿易を含む対中国貿易の割合。

資料:日本税関統計(2007年は速報)。

 

直接投資受入れは史上最高の827億ドルに達したが、質の向上は見えない

中国商務省によると、2007年中国の直接投資受入れ(銀行や証券など金融業を含む)は新規認可件数で前年比8.7%減の37888件、実行金額で同13.8%増の826.58億ドル、うち非金融分野の直接投資受入れは新規認可件数で前年比8.7%減の37871件、実行金額で13.6%増の747.68億ドル、実行金額ベースでは両者とも史上最高の数字を記録した。

しかし、直接投資受入れ額(金融分野を除く)を、国・地域別にみると、高い伸び率を示したのは香港と主要なタックスヘイブン(英領バージン諸島、ケイマン諸島、サモア、モーリシャス)で、中国政府が外資導入の質を向上させるための一環として誘致に力を入れている日米欧先進国からの投資はむしろ大幅に減少した。

うち香港からの投資は前年比30%増の277億ドル、英領バージン諸島、ケイマン諸島、サモア、モーリシャスといったタックスヘイブンからのそれは合計で約37%増の226億ドル、上記の5地域からの投資だけで全体の約7割を占めている。これに対して、日米欧企業の対中投資はいずれも大幅減を示している。

タックスヘイブンからの投資の急増は1990年代後半以降のことで、その背景には香港や台湾をはじめ諸外国・地域企業のうち、タックスへイブン経由で税金軽減を狙う企業が増えていることのほか、国有企業を含む一部の中国企業は外資企業優遇措置に目を付け、タックスへイブンでの企業登録を通じて、「外資企業」に変身したケースも少なくない。

中国商務省の調査によると、2005年におけるバージン諸島、ケイマン諸島と西サモアの対中投資(実行金額)のうち、香港と台湾の資本はそれぞれ49%と34%、中国大陸の資本は約5%を占めている。

昨年まで中国の企業所得税の税率は国内企業が33%だったのに対し、外資企業の多くは10%台の優遇税率の適用を受けてきたが、今年から国内企業・外資企業を問わず、25%に統一されるため、昨年のタックスへイブンからの投資において、中国国内企業が優遇税率を狙う駆け込み的な迂回投資が占める割合は一層高まったとみられる。また香港からの投資の中にも中国本土企業の迂回投資が多く含まれているとの観測もある。

 

対外直接投資の伸び率は低下、国際観光は高成長

2000年以降、中国政府が「走出去」(海外進出)戦略を打ち出したこともあって、中国の対外直接投資は急増しているが、昨年には前年比伸び率が大幅に低下したという「異変」が生じた。中国商務省によると、昨年中国の対外直接投資額(金融類を除く)は、商務省の予測(200億ドル)を下回った187.2億ドルと、前年比伸び率では6.2%増にとどまっている(2006年のそれは43.8%増)。

中国政府が人民元切り上げの圧力を緩和すべく、対外直接投資を奨励する姿勢を強めているなか、中国の対外直接投資が伸び悩みを示した理由はまだ不明ではあるが、対外直接投資のリスクの増大や、中国国内の株式市場と不動産市場の好況とは無関係ではないようである。

他方、昨年の対外工事請負完成金額と労務輸出完成金額はいずれも前年より大幅な伸びをみせた。前者は前年比35.3%増の406億ドル、後者は26%増の67.7億ドルとなっている(中国商務省)。新規契約金額では、前者は17.6%増の776億ドル、後者は28.1%増の67億ドルに達している。

日本でも関心の高い中国人の出国観光者数は、昨年に前年比18.6%増の延べ4095万人に達し、中国がアジア最大の出国観光国の地位を保っている(中国国家観光局)。一方、昨年中国への観光者数は前年比5.5%増の延べ1.32億人、うち宿泊を伴う入国者数は同9.6%増の延べ5472万人、国際観光収入は23.5%増の419億ドルに達している。

中国国家観光局は、北京五輪開催の2008年には宿泊を伴う入国者数は延べ5900万人(前年比8%増)、国際観光外貨収入は460億ドル(同10%増)、出国観光者数は延べ4500万人(同10%増)に達すると予測している。(2008年1月記・4,168字)

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